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342話:逃亡エルフ

 モッペルと一緒に声を辿って適当に街の中を進む。

 声はもう何を言っているのかはっきりわかる距離だ。


「おい、いたぞ! 回り込め!」

「くそ、くそ! 誰か!」


 指示を出してる声はジェルガエの言葉。

 泣きそうな声で悔しがってるのはエルフの言葉だった。


 声の方向から追い詰められてくるだろう道で僕は足を止める。

 すると狙いどおり小道から一人のエルフが飛び出してきた。


「くそ、僕は逃げるんだ…………! え? あ! 妖精王の使者!」


 僕に気づいてエルフがそんな声を上げる。


「もしかしてニーオストのエルフ? あ、ブラウウェルと一緒にいた?」


 エルフの国でユウェルの家を出た時に会った、取り巻きの一人だ。

 こんな所で何してるんだろ?


「頼む助けてくれ! 森に行く途中で!」

「おい!? もう一人エルフが逃げ出してたのか!?」


 ニーオストのエルフを追い駆けて来たのはジェルガエの兵のようだ。

 革の額当てと革の胸当て、革の脛当てという揃いの恰好をした男たちが三人、僕の姿に目を瞠る。


「このエルフは何か悪いことをしたの?」


 ジェルガエの言葉で聞くと兵士たちは驚いた。


「言葉が通じるのか? 捕まえたエルフにこんな小さい奴はいないはずだが」

「僕は冒険者で、ここでのお祭を見に来たんだ。…………君何か悪いことしたの?」


 エルフの言葉で聞くと、逃げていたエルフは顔を真っ赤にして怒鳴った。


「何もしていない! ディルヴェティカから森に向かう途中、突然襲われたんだ!」

「でもこの人たちたぶん国の兵士だよ?」

「そんな馬鹿な!? 僕たちを捕まえた相手もこいつらもあまり変わった恰好はしていなかった!」


 ちなみに兵士たちは僕の質問に答えずヒソヒソしてる。

 あんまりいい会話の内容じゃないのは聞こえていた。


「ほ、他の仲間も捕まっているんだ! 僕だけ逃がしてくれて、助けを呼ばないと! このままじゃ、なぶりものにされて殺される!」

「穏やかじゃないね。…………ねぇ、事情を何か知ってるなら教えてほしいんだけど。問題起こしたくもないし」


 僕は斜め後ろの小道に隠れた人物に声をかけた。

 エルフは気づいていなくて驚く。


 隠れてたアイベルクスの商人の見張りもびくついた。

 ジェルガエに入ってからもずっと隠れてついて来てたの知ってたんだけどね。


「…………そこの兵たちはコロッセオの警備を主にやっている者たちだ。闘技大会のために幻象種を捕まえることもある」

「うわぁ」

「なんだ!? 誰だ!?」


 姿の見えない人物の声に、コロッセオの警備は辺りを見回す。

 見張りは教えるだけ教えると捕まらないよう離れて行った。


「おい、その罪人を匿うならお前も同罪だ。痛い目を見ない内に縛につけ!」

「それって捕まえた他のエルフと一緒の場所に連れて行くってこと? だったらいいよ」


 僕が頷くと、やる気だった警備はびっくりする。


 そんな反応気にせず、僕はニーオストのエルフに声をかけた。


「エルフ王に森に行くエルフいるからよろしくって言われてたし。残りのひとたち助けてくるから、ちょっと僕と一緒に行動してる人間たちの所に隠れてて。モッペル、案内お願い」

「わかった~。こっちだよ」


 モッペルが四足で走り出すと、エルフは追う前に僕を見た。


「あ、ありがとう!」

「おい! 待て!」


 追おうとするコロッセオ警備の足を引っかけて転ばせる。

 途端に他の二人が僕に襲いかかった。


 頭上を跳んで一人の肩を踏み、残り一人の背中を蹴りつける。

 僕が着地して、三人仲良く地面に転んでいる内にモッペルたちは去って行った。


「ほら、行こう?」

「「「ふざけやがって!」」」


 警備三人が大人しく僕を案内してくれるまでに、体中打ち身だらけになっていた。


 連れて来られたのはコロッセオ。

 地下は牢屋のような空間が幾つもあるみたいだった。


「さっさと入れ!」

「懲りないなぁ」


 牢に入ろうと前屈みになった僕の背中を蹴ろうとする。

 身を翻して横をすり抜け、また転ばせると、兵士は頭から牢に入った。


「あ、そうか。僕入る必要ないじゃん」


 他の二人は散々僕に敵わなかったから見てるだけ。

 牢屋の中で呻く仲間に手を貸そうともしない。

 すると牢の一つから声がかけられた。


「妖精王の、使者どの?」

「あ、いたいた。逃がしたブラウウェルの友達見つけて助けに来たよ。森に来ないからどうしたのかと思ってたんだ。ちょっと離れてて」


 牢は三方が石壁でできていて、扉のある部分はは太く頑丈な木の格子を金属で繋いでる。

 扉には横長い錠で鍵がかけられていた。


 そこに僕は足を振り上げる。

 格闘技の技とか知らないからただただ蹴るだけ。


「…………あ、思ったより硬い」

「ひぃー!? ろ、牢が歪んだ!?」


 見ていた警備が悲鳴を上げる。

 他の牢に入ってる人間たちも騒ぎ始めた。


 これはちょっと音を立てすぎたかな?


「何をしている?」


 僕の背後に突然巨大な黒い影が立ちのぼった。


「あ、悪魔だ! 宝物庫の悪魔が現われた!?」


 二人の兵士は自ら僕を入れるはずの牢の中へ逃げ込む。


「森に来る予定のエルフが捕まってたから助けに来たんだよ」


 気にせず話しかけると、黒い影が恐ろしい形相の悪魔になった。


 オパールを見張ってもらってたペオルだ。

 簡単にここに来ることになった顛末を説明すると、上機嫌に笑い出す。


「ふあっはっはっはっは! 自ら厄を招くとは! 度し難い不徳!」


 大笑いするペオルは姿の恐ろしさもあって魔王みたいだ。

 牢にいる人間たちも息を殺して震え始める。


「どうだ? このまま闘技大会に参加しないか? そして命を娯楽に消費しようとする驕慢の徒に恐怖と後悔を植え付けるのは?」

「優勝賞品欲しかったし、別に参加してもいいけど、あ、そうだ」


 ペオルが上機嫌に僕の言葉を待つ。


「このエルフと先に逃げたエルフ、全員を無事に森の南に住むケンタウロスに引き渡してくれない?」

「ふむ、罪人は闘技大会の前座。その中でもエルフは目玉扱いのようだな。であれば、今から行って戻るまでには前座に間に合うかどうかといったところか」


 牢の中の兵士に目を向けるだけで情報を読み取ったペオルが呟く。

 情報を抜かれたほうは、ペオルと目の合っただけで白目をむいて気絶してしまった。


「面白い。いいだろう。だが、オパールのことはいいのか? ずいぶん様子を窺う者たちがいたが?」


 試すように聞いてくるのが悪魔だね。


「ペオルさ、ウーリとモッペルに先を越されて悔しがってたでしょ? それで僕が見張りをお願いしたら、このコロッセオの守りを壊すことなく侵入した。それってさ、今回不手際で手に入れられなかった時、今度こそ一番に見つけられるようにオパールに目印つけてたんじゃない?」


 妖精と悪魔のような精神体は招かれないと入れない。

 けれどペオルは厳重警戒らしいここに難なく入れた。

 入れる仕込みがあった可能性があるのは、魔王石くらいじゃないのかな?


「ふあっはっは。実に良い。実に愉快。これは見逃さぬよう疾く終えねば!」


 ペオルは無造作に歪んだ牢の扉を掴む。

 そのまま扉を引き千切って今度はエルフを掴んだ。


「痛くはなさそうだね。四人で全員?」

「は、はい!」

「じゃ、ブラウウェルの友達は金羊毛と一緒にいるはずだから」

「あぁ、わかった」


 僕に頷くとペオルは黒い影になって姿を崩す。

 エルフは黒い影に巻かれたまま飛んでいった。

 牢屋の中の人間たちがきょろきょろしてるから、たぶん姿を見えなくしたんだろう。


 僕は見送って改めて牢屋に向き直る。


「さて、そこ僕の牢なんでしょ? いつまで入ってるの?」


 警備たちを見ると、一人は気絶、二人は抱き合ってぶるぶる震えてた。

 怖がり過ぎじゃない?

 それとも悪魔に付け入られる悪事をしてる自覚があるのかな?


 警備が動かないので仕方なく、僕はエルフたちがいた牢に入ることにした。


隔日更新

次回:前座と茶番

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