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336話:無名の金羊毛

「金羊毛? 聞いたこともないな。本当にそんな魔物がいるのか?」


 ジェルガエの冒険者組合で、妙なことになってしまった。


「これがその魔物の毛だって言ってんだろうが…………!」

「でかい羊で毛の色が珍しいってだけだろ?」

「牛より、熊よりもでかい上に空まで飛ぶ羊が珍しいですんで堪るもんか!」


 エックハルトとウラが魔物であることを訴えるけれど、冒険者組合の職員は胡散臭そうな表情を隠そうともしない。


 オイセンとは距離もあるし、ジェルガエで金羊毛は無名だった。

 けど実績として一番大きい金羊毛退治を疑われるとは思わなかったみたいだ。


「何処で発生する魔物なんだよ? 全国冒険者組合魔物辞典にもそんなのいやしないぞ」


 組合職員は分厚くて大きな本を捲りながら疑い続ける。


「…………西の海を渡って現れる」

「海渡った上に山越えて来たんっすよ」

「金羊毛という名がわかったのも退治し、ヘイリンペリアムに問い合わせてようやくだそうです」


 金羊毛たちが口々に説明するけれど、やっぱり疑いは晴れず冒険者組合職員は僕たちを眺め回す。


「だいたい、そんな大変な魔物だって言う割に、女子供連れて倒せる程度なんだろ? いるんだよなぁ。大したことない奴相手に苦戦した自分たちの未熟さ棚に上げて誇大に実績盛ろうとする奴」

「金羊毛が現われた時、オイセンでは大変な騒ぎになりました。被害拡大を恐れて隣国のエフェンデルラントでさえも傭兵の貸し出しを打診してきたほどですよ」


 エノメナも当時のことを訴えるけれど、ジェルガエではオイセンとエフェンデルラントの不仲さえ伝わっていないようだ。


「うーん、頭から信用してくれないってビーンセイズのこれも疑ってるのかな?」


 ガルーダを倒した時の印が僕の冒険者証には入っている。

 するとニコルが耳うちで教えてくれた。


「大国と言っても遠すぎるんで、影響力がないんですよ」

「っていうか、ここあれだ。アイベルクス以外の国に興味がなさすぎる」


 エックハルトも傭兵で関係があるエフェンデルラントの事情すら知らない状況にぼやく。


「これならアイベルクスのあの大旦那に紹介状でも貰っとくんだったね」

「…………後悔先に立たず」


 ウラとジモンも諦めぎみに言い合った。


「いつまでも居座られても困るんだけど?」

「いや、だったらどうすれば闘技大会の参加登録できるんすか。さっさとそこのとこ教えろってもんっすよ」


 エルマーがつい本音を漏らすと、職員は不機嫌と同時に疑いの色を強くした。


 するとエックハルトも止める。


「お前は俺らが名を上げて入ったから知らんだろうが、こういう時はここで依頼受けて実績にするしかねぇんだよ」


 もう職員はこっちも見ずに邪魔そうに手を振る。


「それって時間かかるもの?」

「そういうわけじゃないけど、等級があるから初心者向け依頼以外受けられない可能性があるね」


 対応の悪い職員を横目にウラが教えてくれた。


 そう言えば冒険者組合には等級があるというのはビーンセイズでも聞いた気がする。

 そして闘技大会では参加登録しても決められた等級以上の腕試しには参加できないらしい。

 等級が高いほど商品は良くなるのに、それでは金羊毛も来た意味がない。


「今から昇格試験を受けるにも、一回は依頼受けないといけませんね」

「…………計二回。それでも低級」


 一つ上がっても大したことがないとニコルとジモンが難しい顔になる。


「この周辺のことも詳しくないので、内容が簡単でも日数がかかりますしね」


 エノメナは依頼が張り出された壁を眺めて困り顔だ。

 討伐依頼だとしてもまず場所探しから魔物の特徴などを調べることも必要になるから、倒して終わりとかじゃないらしい。


「うーん、森に関する依頼があればそれが一番楽なんだけどね。でもこの国森に接してないし」

「あー、いや。それありだな。これだけの人間集まってるなら薬草欲しがってる奴らいるだろ」


 エックハルトが手を打つけど、職員は鼻で笑う。


「そんなのアイベルクスの商人連中の専売だ。馬鹿なこと考えないで地道に実力に見合ったことだけしてろ」


 完全に初心者扱いで見下す相手に、ウラが拳を作って指を鳴らす。


「ちょっとそこの机握り潰してやろうじゃないか」

「…………組合内での破壊行為は禁止だ」


 ジモンが止めるとエルマーが遅れて手を打った。


「あ! フォーさんが一緒なら面倒な妖精避けとか必要ないっすもんね」

「妖精避けどころか、妖精が率先して手伝ってくれる方なんですから」


 遅い理解にニコルが呆れる。


「森は、淀みの妖精を起こしてしまうことを考えるとどうしても慎重にならなければいけないもの。フォーさまがいてくだされば心強いのは確かね」


 淀みの妖精?


 エノメナの言葉に疑問を覚えると、アルフの知識が開いた。

 暗く人の立ち入らない場所で眠ってる妖精で、病気や不幸を招くそうだ。

 見えないために不用意に森に入って起こしてしまう人間はいるらしい。


「…………お前ら、妖精に詳しいのか?」


 職員が今までと違う声色で聞いた。

 見れば目の色が違う。


 答えようとした僕をエックハルトが止めた。


「これでもオイセンでは森専門でやってたもんでな。ここまで来るのにも妖精の助けを借りては来たが…………」


 思わせぶりに言葉を切って反応を見る。


「妖精の使役ができるのか!? それだけ妖精についての知識があるってことだな?」


 食いついた。

 途端にウラが冷淡に言い放つ。


「さてね。本当にいるかもわからない魔物の名前を冠する冒険者だからどんなもんだろうねぇ?」


 嫌みに職員は目を泳がせながら話を続ける。


「お、お前たちの名前で指名依頼にしてやってもいいんだぞ?」

「…………厄介ごとだな」


 変わり身の早さにジモンが言い切ると、エルマーとニコルが意見を言い合う。


「だったらいっそ闘技大会本選に参加して賞金貰ったほうが良くないっすか?」

「考えてもみれば、アイベルクスの商会から紹介状書いてくれそうな方を融通してもらったほうが安全で速いですよ」


 話を聞かず離れてたエノメナが戻ってきて、僕に声をかけた。


「フォーさま、森ではないのですが妖精に関するアイテムを求める依頼がありましたよ」

「わぁ、エノメナ文字読めるようになったんだ?」

「いえ、依頼を仲間のために読み上げている方がいたので」


 恥ずかしげに言いながら、エノメナは微笑んだ。


「妖精に関するアイテムって何を求めてるの? いくつかあるけど」

「いくつもあるのか!?」


 職員が反応して机から身を乗り出してきた。

 悪感情もありもう金羊毛は関わりたくなさそうだけど。


「指名依頼にしてもいいって相当能力が必要か厄介な分、色つけるってことだろ? そんなの内容も聞かずに引き受けるわけないだろ」


 ウラの拒否に職員は打って変わってしたてに出る。


「いや、そこまで知ってるってことは指名依頼を受けるくらいの名うて。だったらわかるでしょう? 受けると言ってもらわなきゃこっちもやすやすとは漏らせないもんで」

「…………それはおかしい。命かかる分明示してもらわなければ」


 ジモンも突っ込むけれど、職員は言わない。

 エックハルトは溜め息を吐いて僕を見る。


「フォーさん、お願いします。ファザスの度肝抜いたアレを」


 あれって? …………あ、もしかして妖精のこと?

 エフェンデルラントでファザスにやったみたいに妖精を使って調べろって?

 そんな都合よく事情知ってる妖精いるとは限らないよ?


 僕はなんとなく天井を見上げた。

 すると暗い梁の上にどんぐり眼がこちらを見下ろしてる。

 うん、たぶんコボルトだ。

 僕たちに当たった職員の態度は悪かったけど、全体で見るとこの冒険者組合は真面目に働く人たちが多いみたい。


「ねぇ、妖精が何か困ったことをしているの?」


 声をかけるとどんぐり眼が勇んで答えた。


「お城の王子さまとお姫さまが妖精に憑かれたんだ。けけ、今王さまは大慌て。だーれも恋を治す薬なんて持ってやしないのにそんなの探してる。恋の妖精に使うために」

「恋の妖精?」


 僕の声しか聞こえてない職員は大袈裟なほど驚く。

 どうやら依頼内容は恋の妖精をどうにかすることらしい。


 うーん、話を聞いてくれるならどうにかできないこともない、かな?


隔日更新

次回:向こうから来た

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