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333話:妖精との取引

 猫と犬の姿をして喋るウーリとモッペルは、妖精としては話しが通じる部類らしい。


 そんな二人を金羊毛のウラが見つめていた。


「どうしたの? 優しく撫でるなら引っ掻いたりしないよ?」

「え? あぁ、そうじゃないんだよ」


 ウラはウーリとモッペルから目を逸らすけど、意識は妖精から逸らせないようだ。

 そんな反応にエックハルトとジモン、さらにエノメナが何か気づいた様子になる。


 世代が若いエルマーとニコルは普段との違いには気づいて顔を見合わせてた。


「なんでしょうやね、この雰囲気。じめったくていけねぇ。言いたいことがあるなら言っておくんなせぇ」


 ウーリが耳を掻きながらウラを急かす。

 答えないウラに変わって反応したのはジモンだった。

 こっちも思いつめたような顔してる。


「…………名前も知らない妖精を、見つけることはできるだろうか?」

「ちょっと、ジモン! 余計なこと言うんじゃないよ」


 ウラは止めるけど、マイペースなモッペルは気にせず答える。


「それって森にいる妖精? 捜して見つからないんだったらもう消えてる可能性もあるけど」

「いや、それはねぇはずだ」


 エックハルトが即座に否定する。

 ウーリとモッペルも気になるみたいだし、僕は水を向けることにした。


「何か事情があるの?」

「フォーさま、このウラは森で事故に遭い、そこで妖精に助けられたことがあるんです」

「ほほう? 命の恩人捜しってことでさぁね。そりゃ、やりがいもあらぁ」

「…………違う」


 ジモン悔しさの滲む声でウーリの言葉を否定した。

 エノメナの言葉でエルマーとニコルも何か察したみたいで、邪魔しないよう静かにしている。


「ねぇ、聞きたいなら話してよ。妖精捜して何する気?」


 話そうとするエックハルトを当事者らしいウラが止めた。


「いいよ。あたしが話す。半分諦めてたから、言う気はなかったけど」


 諦めてたと言う割に、ウラの視線は強かった。

 諦めなきゃいけないと言い聞かせてたってところじゃないのかな?


「十の頃にあたしは親に売り物になる薬草摘んで来いって森にやられたんだ。その頃のあたしが入れそうな大きさの背負い籠持たされてね。いっぱいにするためにどんどん奥へと入って行った」

「…………森に入るウラを見つけて、ついて行った」


 ジモンも一緒だったらしい。


「さすがに日の光りも差しにくい奥まで行っちまって、こりゃまずいって子供ながらに気づいてね。急いで戻るために安全な道じゃなくてちょっと倒木なんかがあるほうの森の中を突っ切ることにしたんだ」


 そう言えば金羊毛は森に入る冒険者。

 比較的安全というか、危険な生き物のいない場所を小さい頃から知っていのかもしれない。


 よく考えたら北のほうって大道周辺より危険生物少ないし、子供でも入って帰ってこれるような認識だったのかな?


「そこで馬鹿なことに、地面が水で流された木の下なんか通っちまってね。倒れて来た木を避けようにも行く先には倒木があるし、戻るって考えもなくて横に走って…………大きな枝に腰を挟まれちまった」

「ウラは自分を助けようとした」


 ジモンがはっきりと当時を語ると、ウラはうるさそうに手を振る。


 どうやら勝手について来たジモン助けるためにウラは事故に遭ったようだ。

 無言の攻防をするウラとジモンに代わってエックハルトが続けた。


「俺も後から聞いて二人を追ったんだが、見つけた時にはウラは明らかに尋常じゃない苦しみようだったんだ。妖精の言葉を借りれば、内臓が破裂していたらしい」

「うわ、それでよく助かったね。あ、妖精が来て助けてくれたんだ?」


 内臓破裂なんて日本の医学でも死者が出る重傷だ。

 それで生きていられたならラッキーだろう。


 とは思ったんだけど、どうもウラたちは妖精に助けられたという言葉に頷けないようだ。


「あたしを見つけた妖精がね、取引を持ちかけて来たんだ。破裂した私の内臓と、一対になってるもう一つ、それと連なる一塊の臓器をくれるなら、命を助けると同時に女では得られない怪力を与えるってね」

「えーと、一塊の臓器って?」


 困ったように笑うウラはへその下辺りを撫でる。


「子供を産むための部分だって言ってた」

「あ、一対一塊って…………」


 子宮と卵巣?

 ってことはウラって…………そうか。

 だから冒険者してるのか。


「なんだい、これだけでわかるなんて。妖精に限らず人間以外は子供を産む内臓を良く知ってるのかい?」

「そういうわけじゃないけど、何を取引したのかはわかったよ。そしてそれを取り戻したいと思っていることも」


 うーん、気軽に聞いたけど結構重い話だった。

 僕の手にはあまりそう。


「っていうか、そういう話アルフの前じゃしなかったよね? 妖精王なんだから聞けば早かったのに」


 言ったらアルフを知る金羊毛が嫌そうな顔をした。


「あんなケルベロスとゴーゴン引き連れて現れるようなお方にそんなこと言えるかよ」

「聞けばフォーさんが他と違うのも妖精王さまの加護だって言うじゃないか」

「…………直言さえ憚られる」

「っていうか、フォーさんに寄りかかったり背中に乗ったり怖いっすよ」


 エルマーがいうのはユニコーン姿のこと。

 なんだけど、知らないニコルだけはすっごい奇妙なことを聞いたような顔になってた。


 エノメナは金羊毛の気持ちがわかるらしく頷く。


「妖精の取引を承諾し、恩恵を受けた後に気に食わないから破棄だなんて、そんなのは人間の間でも通じることではありませんし」


 そう言えば村で虐げられていたエノメナは、最初からウラには案外心許してた。

 ウラの事情を知っていたから、一人で生きていたエノメナは共感するところがあったのかもしれない。


「僕は妖精との取引に詳しくないんだけど、ウーリとモッペルは何かわかる?」

「正直申しやして、その妖精を見つけたとしても望む結果は得られんでしょうな」

「取引を白紙に戻すなら、破裂した臓器がお腹に戻るから死んじゃうよ?」


 難しい顔のウーリの後に、モッペルははっきりと結果を告げる。

 金羊毛たちは顔を顰めるけれど、ウラだけは笑った。


「そんなことだろうと思ってたよ」


 諦めてた理由はこれらしい。


 そして諦めきれない仲間を見回して、ウラは肩を竦めた。


「妖精との取引があるからあたしはこの怪力で冒険者やれてんだ。今さらあたしが抜けて稼げなくなっても困るのはあんたたちだろ」

「あいや、早合点はいけねぇ」


 諦めムードのウラに、ウーリが肉球を掲げるように上げて止める。


「取引した妖精見つけるだけじゃあ死ぬことになるのは変わらねぇんでさ。けど、妖精王さまに願いを認められれば、延命と怪力の両方もお願いすることはできるって話で」

「けどそれだけのことを望むなら、それ相応の貢献を妖精王さまに認められないといけないよ。自らの足で妖精王さまを訪れることはしてるから、贈り物? お手伝い? なんだろ?」


 どうやら何かしらの条件があるようだ。


「助けたって言うなら、獣人とエフェンデルラントの戦争の時手伝ってくれたこととか? でもあれは金羊毛を先にアルフが助けた見返りってなるのかな?」

「で、できるのかい? あたし、子を産めるのかい?」

「あ、えーと、こっちの出産って命がけだったりする?」


 震えるほど期待してしまったウラを宥めて、僕は金羊毛を見回す。

 すると一番人生経験の長いエノメナが答えた。


「産後どう体調が変化するかは人それぞれで。どんなに産前丈夫だった人でも死んでしまう時には死んでしまいます。それに、私が見てきた中では高い年齢で産むほど、死は近く…………」

「あたし三十三だけど、駄目、かな?」


 正直難しいと思う。

 けどそこは妖精王というチートがいる。


「一つ叶えてもらう願いが増えることになると思うけど」


 そう言って僕はエノメナを指した。

 途端にウラの目に希望が溢れ出す。

 年齢が問題なら若返らせればいいだけだ。


「妖精王さまに認められるにはどうすれば!?」


 そこでジモンが食いついて来た。

 責任感じちゃってたんだなぁ。


「ちょっと待って、アルフに頼むにはまず取引した妖精捜しでしょ。その後に延命と怪力と若返り。四つ分かぁ」


 頼めば二つ返事してくれそうだけど。


 そんなことを考える僕にウーリとモッペルが耳うちしてきた。


「こりゃ、自責の念や失意から試練を欲してるってところでさぁ」

「ちゃんと見返りって形にしたほうがいいと思うな~」

「うん、わかった。森に戻ったらアルフに相談してみるよ。ただ今は流浪の民のことがあってすぐには動けないんだけど」

「「「全然かまわない!」」」


 ウラはもちろん、エックハルトとジモンもやる気で返事をする。

 残りの金羊毛も手伝う気満々なのは顔を見てわかった。



隔日更新

次回:見張り見張られ

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