329話:エフェンデルラントの判断
大道で合流した金羊毛は、アイベルクスの商隊を護衛していた。
どうもシィグダムの資産を引き上げて来たそうだ。
妖精のウーリとモッペルは動物のふりで喋らずにいる。
ただ大荷物抱えて平然としてるから誰も無闇に近寄ろうとはしない。
「正直、何があったのか人間側で把握してる奴はほとんどいないんだよ」
森の中で野営する中、エックハルトがそう言った。
大道はそれなりに広くて長い。
森の一部を切り拓いて野営地が点在している。
僕の足なら一日で踏破可能だけど、商人や荷馬車を連れていると数日がかりの旅になるのは当たり前だそうだ。
「これはファザスが調べて来たことなんだけど。どうもアイベルクスからエフェンデルラントに出兵の要請があったそうなんだよ」
「…………へぇ?」
つまり森に侵攻しようとしたアイベルクス軍にエフェンデルラント軍もいたの?
獣人との戦争の後、謝って来たのはポーズだったのかな?
「フォーさま、エフェンデルラント上層は妖精王さまとの争いを避ける回答をしたそうです」
僕が敵認定しそうになっているとエノメナが教えてくれた。
不穏な空気を感じたのか、ジモンとエルマーもしっかり頷く。
「…………森を本気にさせる愚かさは、身をもって知っている」
「獣人相手に攻めきれなかったのに、森全体に喧嘩売るなんてしないっすよ」
「現実的に獣人相手で力を使い果たしていましたから、エフェンデルラントに出兵の余裕はありません」
ニコルにも言われて、僕は肩の力を抜いた。
どうやら獣人の戦争に首を突っ込んで良かったらしい。
獣人との戦争がぐだぐだなまま冬を理由に停戦していたら、これ幸いとエフェンデルラントが乗り出していたかもしれない。
「それで、実際何が起こったんだ?」
エックハルトが僕に身を乗り出す。
他の金羊毛も固唾を飲んで耳を澄ませた。
商隊とは離れた焚き火だし、そんなことしなくても声を小さくすれば聞こえなさそうだけど。
「流浪の民が悪魔を使って森に攻め込んで来た。表向きはシィグダムとアイベルクスの作戦だったから、流浪の民が裏にいること気づく前に…………ユニコーンがシィグダムの城に乗り込んだ」
正体を知らないニコルもいるから、僕と言わずに教える。
ちょっと歪曲に言っても理解した金羊毛たちは、何も言えなくなったようだ。
「ところでこの商隊はシィグダムの何処へ行ったの? お城大変なことになってたはずだけど」
「いや、王都のほうは大変な騒ぎで入れもしないってのは聞いたけど」
「…………突然の国王崩御による混乱だとばかり」
ウラとジモンが呟くように答える。
うん、その崩御ってたぶん僕のせいだよね。国王殺した記憶ないけど。
「僕ちょうど森の外にいて、異変があったことはわかってたからともかく犯人追ったんだよ。でもシィグダムに制裁を加えた後になって流浪の民がいることわかって。シィグダム側の関係者誰もいなくなったから倒した悪魔を呼び出して聞き出すくらいしかできてないんだ」
「ユニコーンが暴走してしまったのが痛手ですね」
ニコルの言葉に、そのユニコーンが僕だとわかってる金羊毛は身を引く。
「そ、そのユニコーンが人間を見境なく襲うなんてことは、ないっすよね?」
「怒りやすくはなったけど、まだユニコーンとしては変って言われるよ」
怖がってるのにはっきり聞いちゃうエルマーに、僕は笑って返す。
エックハルトは遠い目をして呟いた。
「俺たちが思うより、エフェンデルラントは賢明な国なのかもな」
「はは、当分根を下ろすことになったんだ。そのほうがいいよ」
乾いた笑いを漏らすウラの言葉に僕は首を傾げる。
「あれ? 一時的って言ってなかった?」
「…………ビーンセイズへ、行くつもりだった」
「オイセン側通れないんで、アイベルクスから大道通って北上するつもりだったんすよ」
「けれどシィグダムは混迷している上にエイアーナとの国境でも何かあったらしくて北上はできそうにないとなりました」
ジモン、エルマー、ニコルが困ったように答えた後、エノメナが笑顔で近況を話す。
「冬の間はサンデル=ファザスさまのお屋敷の使用人部屋をお借りすることになったんですよ」
「そうそう、宿代は浮いたんだ。さらに男女別でいい感じだよ」
ウラもその点は嬉しそうだ。
「そう言えばビーンセイズの冒険者組合の人が金羊毛の分裂に驚いてたよ」
「は? ビーンセイズ行ったのか? 冒険者組合ってことは金羊毛として行ったのかよ、フォーさん?」
「あー、そう言えばビーンセイズの冒険者組合のおじさんが金羊毛を知っててね。エックハルト、実は…………」
僕はビーンセイズでの母馬の角にまつわる話をした。
ニコルがいるからなんだか僕とユニコーンが一緒にビーンセイズ行ったみたいな話になったけど、通じるならいいか。
その後のガルーダのことも伝えると、エックハルトは硬く目を閉じた。
「おし…………今日はもう寝るぞ」
「「「「「異議なし」」」」」
聞くだけ聞くとエックハルトの号令でみんな難しい顔のまま寝てしまった。
金羊毛の名前で何してるんだって怒られなかったのはいいけど、これって現実逃避じゃない?
まぁ、いいか。
それからまた一日大道を進んで翌日にはアイベルクスへ入る辺りについた。
「俺らはアイベルクスに入るが、フォーさんもそのまま一緒でいいんだよな?」
「正直深く聞かなかったけど、アイベルクスに何しに行くんだい?」
「…………できれば穏便に」
「っていうか、俺らがエフェンデルラントに戻るまで待ってほしいっす」
エックハルトたちが口々に言うと、ニコルとエノメナは口を挟めず顔を見合わせる。
そして僕は答えようとした途端、近づく音に森へと顔を向けた。
「止まって」
金羊毛に声をかけて、僕は商隊の後ろのほうへ走った。
僕の動きに驚く商人たちを横目に、ちょうどいい荷車を足場に跳びあがる。
瞬間、森から飛び出して荷車を引く馬を狙った人狼を蹴りつけた。
「くそー!?」
「本当に懲りないね」
「覚えてろよー!」
「そんなに体力余ってるなら、ケルベロスの遊び相手してよー」
「ふざけんなー!」
遠ざかりながら文句を叫ぶ人狼が森の中に消えて行く。
ヴォルフィに蹴り飛ばされてから商隊を狙ってついて来てたんだよね。
ちゃんと森に飛んで行ったみたいだし大丈夫かな。
「エルフ…………怖…………」
商隊からそんな呟きが聞こえる。聞かないふりをしよう。
ブラウウェルにばれると風評被害とか文句言われそうだ。
「あー! 駄目だめ、そっちじゃないの!」
今度は慌てる声が近づいてくる。
高い位置から聞こえる声と蹄の音に、商隊はまた警戒態勢になった。
そして低く草を掻き分けて走る兎が大道に飛び出す。
追って現れたのはケルピーに乗ったウンディーネのロミーだった。
「あ、やべ。逃げるぞ、ロミー!」
「どうして? ちょっと離れちゃっただけで悪いことしてないわ」
「別に逃げなくてもいいけど、何してたの、ロミー?」
僕を見てすぐに逃げようとしないでよ、ケルピー。
兎が飛び込んだくらいじゃ人間も怪我しないし怒らないよ?
それに美しい馬に変身してるケルピーとそれに跨る美少女のロミーに、人間たちはいっそいいもの見れたと言わんばかりだ。
「狩りのお手伝いよ。でも上手く追い立てられなくて。ダークエルフたちは熊を仕留めたのに、私は兎一匹に逃げられたの」
商隊がざわつく。
戦く理由は熊かな? ダークエルフかな?
「おい、剣抜かれる前に逃げるぞ」
「あ、僕から逃げようとしてたんじゃなかったんだ」
「だ、れ、が、仔馬から逃げるか」
強気だけど前足蹴り上げて本気で喧嘩売ってくることはしない。
たぶんロミーが乗ってる限り僕が手を出さないとわかってるんだ。
「今日中に大道から出るから、それまでダークエルフたちに近寄らないよう言っておいて」
「わかったわ。そうそう、湖にそろそろ冬の妖精がきそうなの。氷の結晶が張って綺麗なのよ。一緒にみましょう。湖が凍る前に帰ってきてね」
「うん、わかった」
「よし、その時は凍った湖で競争だ」
「それ絶対僕が氷に滑るの期待してるでしょ。しないよ」
僕と約束をしてロミーは上機嫌で去る。
ケルピーは、うん。放っておこう。
見送る僕に金羊毛が寄って来た。
目は去っていくロミーとケルピーを見てる。
「あれ、もしかしてオイセンに住んでたウンディーネか? うわぁ、あれかぁ…………」
エックハルトが感嘆するような、怖がるような声で呟いたのが印象的だった。
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