312話:空中戦
「もうこの街の道が大きいのって、大グリフォンが暴れるためだよね」
僕は大グリフォンの前足を避けて屋根の上へと駆け上がる。
途端に今度は嘴が襲って来た。
「大グリフォンの顔の高さに屋根揃えられてるとか、絶対そうだ!」
「基本的に大グリフォンの高さを越える建造物は禁止されているぞ」
「そういうのいいから! っていうかなんでグライフ狙わないの!?」
大グリフォンは僕狙いで襲ってきてる。
今までの大きな相手って色々喋ってたのに、大グリフォンはひたすら攻撃しかしない。
それが逆に怖い。
「貴様の気配が癪に障る」
「喋ったと思ったら八つ当たり!?」
やっぱりグライフの親だ!
僕は屋根の上を走ったり跳んだりして逃げる。
するとグライフ以外にも囃し立てるグリフォンたちがいた。
「いいぞ、仔馬。本気で走ってみろ」
「やれー! そこだー! 嘴で、あー! 惜しい!」
「へいへい、どうした? ユニコーンのくせに逃げるだけか?」
大グリフォンの嘴が追ってくるのは傍目から見たらゲームみたいなのかもしれないけど、他人ごとだと思って!
っていうか大グリフォンもちょっと楽しくなってない!?
しかもこれ逃げ果せたらグライフみたいに腹立てるんでしょ!
「もう! 話聞いてよ!」
魔法で大グリフォンの足元を隆起させてみるけど、気にせず踏み砕いて追って来る。
大きさが卑怯だ。魔法使ってみたけど、大きくて効いてない。
火の玉当てても火花程度だし、妖精もいないから数で押すこともできない。
「ふん、風とはこう使うのだ」
「うわ!?」
突然の上昇気流は、僕が他のグリフォンを倒した方法を再現してる。
僕が色々手順を踏んだのに対して、大グリフォンはほとんど何もせず上昇気流を発生させた。
「って、僕以外も吹き飛んでるけど!?」
吹き飛ばされて街の上空に舞い上がってしまったのは、僕だけじゃなかった。
上空で見物してたグリフォンたちも錐揉み状態で翻弄されてる。
グライフは直前で風の範囲から逃げ果せてるし、大グリフォンは気にしない。
上昇気流が消えると羽根がある者は体勢を立て直して離れ、僕だけが落下を始めた。
「うーん、ワイアームと違ってここ外だしな」
まともにやって勝てるわけない。
それになんだかリッチのヴィドランドルが住んでた地下に似てる。
たぶんここは大グリフォンの縄張りだ。
大グリフォンに対して何かしらの強化要素があるように感じる。
「あ、このまま落ちたら家壊しちゃうな」
たぶんこの高さでも僕は死なない。
そんな確信がある。
けど無駄な破壊はしたくない。
死にはしないって安心感から、目を閉じて念じることで羽根を生やす。
そのまま僕は飛ばされたグリフォンたちの真似をして体勢を整えた。
「小癪な」
「それグライフにも言われた」
「仔馬、来い」
文句を言う大グリフォンの向こうでグライフが呼ぶ。
「何?」
飛んでいった瞬間、グライフが悪い笑顔を浮かべた。
気づいた時には大グリフォンの上を飛んでた。
「あ! グライフ騙したね!」
「呼んだだけだ! はははは!」
「その喧嘩、買ってやろう!」
「売ってないから!」
案の定、大グリフォンが怒って大きな羽根を広げる。
瞬間辺りの風が大グリフォンを中心に渦巻き始めた。
たぶん縄張りの効果だ。
「うわわ!? 巻き込まれる!?」
飛ぶこと自体慣れていない僕は、大グリフォンの近くに行くと引き寄せられる。
無理に羽根を動かそうとすると折れてしまいそうだ。
そこに、前世の知識で気流というものについて浮かぶ。
飛行機が生む気流とかバードクラッシュとか、天候による飛行機事故とか。
つまり、大グリフォンにぶつかると危ないことだけはわかった!
「なんか雲まで渦巻いてるけど!? この風、空まで届いてるの!?」
「嵐の精霊の加護だ。食いではないが供物にしてやる」
「嬉しくない!」
とか言ってる間に嘴に吸い込まれてる!?
僕は迫る大グリフォンの嘴を前足で蹴って無理矢理体勢を変える。
さらに角で嘴に一撃を入れて大グリフォンの口を閉じさせることができた。
「傷をつけたことは褒めてやろう」
まるで傷がつかないのが普通みたいに言わないでよ。
けど角なら傷はつく。だったらできることはある。
「何を遊んでいる、仔馬? 妖精がいないとそんなものか? 馬のくせに羽根を生やす意味もないではないか」
傍観のグライフが僕を煽りに来た。
乗らないからね!
僕は大グリフォンの周りで角でチクチクと刺していく。
うわ、羽根にも刺さらない。
大きさが違いすぎることと、ドラゴンと違って羽毛と体表に距離がありすぎるんだ。
「おっきくなれたらまだましなのに!」
「させるわけがなかろう」
どうやら大グリフォンはわかってて僕に隙をくれないらしい。
距離を取ろうとすると風を盛大に吹かせて追ってくる。
顔の近くは嘴、体のほうに行くと気流で、尻尾も太いから後ろにも回れない。
だいたい足は前も後ろも爪があるし、下に回り込むのもなしだ。
大きくなる隙をくれないまま、僕はなかなか届かない大グリフォンに角を刺す。
「食む前に確認をするが」
「食べる前提捨ててくれない!?」
「その腰の妙な袋に魔王石を入れてることはあるまいな?」
「あぁ、僕と一緒に丸のみなんてごめんだって? 入ってないよ! けど丸呑みもお断り!」
口や前足に捕まらないよう飛び回りながら、羽根や背中、腹にも角を突きさす。
けど何処も目に見える傷にはならない。
まず深く刺すことができないし、気流を纏ってるからすぐに僕が流される。
「まるで羽虫ではないか、仔馬! つまらんぞ!」
「逃げるばかりで恥ずかしくないのか!? 一発玉砕しろ!」
グライフといつの間にかその横に並んだフォンダルフうるさい!
なんで仲良く隣り合って野次飛ばしてるの!?
他にも僕たちに倒されたグリフォンが風が吹き荒れる空から街の屋上に避難して騒いでる。
「見世物ではないぞ。そろそろ終わらせるか」
大グリフォンがそう言うと、突然空が暗くなった。
雲が垂れこめると同時に雷の音が辺りに響く。
派手に光り轟く雷鳴が何故か自己主張しているように感じた。
「貴様の健闘に嵐の精霊がやる気になったようだ」
「嬉しくないなぁ」
雲はどんどん増えて行き、大グリフォンの街全体を覆うほどになる。
風もさらに強くなって不穏な空気は疑いようがない。
僕が構えを整える前に、大グリフォンは羽根を広げて急上昇から急降下をした。
「雷槍」
瞬間、大グリフォンの動きに合わせて雷が落ちる。
落ちる先には僕。
考えている暇もなく、魔法を発動した。
「雷霆!」
発動すると僕にではなく大グリフォンに電気が立った。
「何!?」
途端に大グリフォンに向かって雷が枝分かれして落ちる。
「う…………!? 耳、が…………」
すぐ側の落雷に耳がやられた。
あと光りも目を瞑ったくらいじゃどうにもならないし。
ただ雷の直撃は、大グリフォンにそれたことで免れた。
けど羽根をやられて僕は飛んでいられなくなる。
「わ、っと…………」
何とか着陸しようと四苦八苦してると、地鳴りのような音が響いた。
見ると地面に墜落した大グリフォンがいる。
高く飛んでいたせいか、街の上に落ちることはなかったようだ。
「ってわー、生きてる」
「ぐ…………何故、嵐の精霊の…………?」
大グリフォンがわかりやすく混乱していた。
どうやら魔法では劣っても科学なら前世のほうが勝っていたようだ。
よし、ここが攻め時だね。
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