311話:大グリフォンの街の日常
結果、三十一体のグリフォンが道に落ちました。
「む、また動けなくしただけか仔馬。敗北を知らしめることも勝者の務めだぞ」
「それグリフォン的な決まりなの? だったら僕爪も牙もないから知らないよ」
無駄に血流すの嫌だし。
グライフは人化したままの姿で僕を睨んでくる。
「わかる形で勝敗を見せつければこれだけ寄ってこなかったのだ」
追加の十七体は血も流されてなかったから、僕を舐めて襲って来たらしい。
っていっても半数は途中でやる気になったグライフを襲って怪我してるし、これ以上の血は必要ない気がする。
「わかる形かぁ。だったら一番大きな羽根貰おうかな」
「なんだ、また飾るのか?」
「うーん、それでもいいけど別に羽根集めてるわけじゃないし。コボルトたちがまた何かに使うかなって」
「意味もなく妖精に下げ渡すな」
もう、グライフは文句が多いなぁ。
とは言え、何処が一番大きい羽根かを僕に教えてくれる。
近くのフォンダルフと名乗ったグリフォンで。
「あ、思ったよりおっきい。うーん、森ってあんまり暑くないけど羽扇でも作るかな?」
前世の知識で言えば諸葛亮のみたいなの。
けど茶色は見た目悪いかな?
うーん、見るからに猛禽の羽根だしそれはそれでかっこいい?
「仔馬、羽扇とはなんだ?」
「あれ、知らない? 団扇って言ってもわからないか。風を送るための道具だよ」
「あぁ、あれか?」
グライフが指すのは避難するひとのほう。
手には身長より高い棒を持ってる幻象種がいて、その先には丸い竹編みのような団扇がついてた。
うーん、あんなアラブの王さまを仰ぐようなものじゃないんだけどなぁ。
「用途は同じだよ。それを自分で仰げるような大きさで作るんだ。…………僕が倒したのは二十だから、作れる、かな?」
「全員毟れ。何ができるか見てやろう」
「えー? まぁ、いいか。お風呂上りに使えるかな?」
グライフと一緒に動けなくしたグリフォンから一番大きな羽根を一本ずつ抜いて回った。
なるほど、グライフがすぐに応じるわけだ。
一番大きな羽根取ると歯が欠けたみたいに目立つ。
これならわかりやすい形で勝敗が見分けられた。
「これは妖精の背嚢にしまって、作るのは森に帰ってからね。…………それで…………グライフ? あの大きな建物からこっち見てるグリフォンってさ?」
そのグリフォンがいるのは四角いピラミッド。
いつの間にかその頂上にグリフォンが座ってる。
遠目から見ても大きいピラミッドに、明らかに縮尺のおかしい大きなグリフォンが。
「大グリフォンだ。勝者が決まるのを待っていたのだろう」
「うわ、羽根広げただけで風が起こる。っていうか、偉大なグリフォンとかじゃなくて、普通にドラゴン並みに大きなグリフォンで大グリフォンなの?」
「嵐の精霊の加護もあり、年齢と共に大きくなった結果だ」
グリフォンって経年で大きくなるの?
え? グライフもまだ大きくなってるとか?
考えてる内に上空に大グリフォンがやって来た。
けどその目は僕じゃなくてグライフを見てる。
「戻ったか」
「違う」
短いを問いかけをすっぱり否定。
そして他の住民はひれ伏してるのにグライフは腕組んで見上げてる。
グライフはそのまま居丈高な性格だからだろうけど、住民がひれ伏してるの敬意じゃない。
安全面だ。近くでホバリングされると風が酷い。
広々とした道に露店も何もない理由が良くわかる。
「その手の物はなんだ」
大グリフォンは態度なんて気にせずグライフの金の爪に目を止めた。
よくその大きさで気づいたね。
「貴様には関係ない」
「ではなぜ戻った? 我が首でも取りに来たか」
殺伐としすぎじゃない?
なんだろう、この親子。
グライフ気にしてないし、グリフォンってこういうもの?
「用があるのはこいつだ」
そしてグライフが僕の背中を叩く。
そこでようやく大グリフォンが僕を見た。
けどすっごい馬鹿にした目をされた。
「穢れたユニコーンなど目障りだ。さっさと出て行け」
「え、まだドラゴンの血の気配する?」
穢れと言われて思いつくのはワイアームの血。
大グリフォンってシルフみたいに血が苦手なのかな?
あ、これ違うな。
何言ってんだこいつって気配する。
けどだったら穢れってなんのことだろう?
「…………やはりか」
「どういうこと、グライフ?」
グライフがユニコーン姿の僕を上から下まで見る。
「やはり魔王石の影響がないなどと言うことはないぞ、仔馬」
「え、そうなの? けどアルフ何もないって」
「それはあれが常より魔王石を身に着け封じる故の鈍感さよ。同じことがあの森の者たちにも言える。貴様の変化を妖精王の加護と思い違ったようだな」
「うん? つまり僕に何か影響があるけど、それはアルフも同じだからアルフの影響だって思ってるってこと? 僕どんな影響でてるの?」
というかグライフは一人気づいて森のみんなに聞いたんだ?
何処で気づいたんだろう?
あれ? 大グリフォンのいう穢れが魔王石の影響?
ってことはグライフがここに同行したのって、それを確かめるため?
「えー、いつからここに来ること考えてたの?」
「貴様が暴走した後だな。憤怒の影響かとも思ったが、新たに魔王石を得て影響が濃くなっていた。微々たる影響だが積もるようだ」
わー、そんなこと考えてたんだ。教えてくれればいいのに。
もしかしてユウェルとエルフの国に行ったのも、魔王石の影響関係でエルフ王を改めて見に?
「おい」
上から声が降りかかった。
同時に鉤爪のついた巨大な前足を降ろされる。
僕はグライフと左右に避けて、攻撃して来た大グリフォンを見上げた。
「一体なんの茶番だ?」
「ふん、同じ穢れを持つ者同士、少しは思うところがあるのではないか?」
「グライフ? 同じ穢れって、やっぱり大グリフォンの所に魔王石があるの?」
「黙れ」
嘴!? 大きすぎる!
見るからに機嫌が悪くなった大グリフォンが、道にクレーターのような嘴の跡を残す。
僕は道の上を逃げるしかできないのに、グライフは羽根で屋根の上へと避難した。
すっごい笑ってるけど、なんで僕が一人で大グリフォンの目の前に残されてるの!?
「うわ! また嘴って、あれ? 僕が狙われてるの!?」
「ふははは!」
「グライフ!? 笑いことじゃないよ!」
「よほど貴様の纏う穢れが癪に障ると見える」
グライフの言葉に大グリフォンが尻尾アタックをグライフに見舞う。
ライオンの尻尾だけど体に合わせて太く、しなる木の幹が高速で横振りされるような衝撃があった。
もちろんグライフは飛んで避けている。
「うわ、誰かの家が半壊」
「よそのことを気にしている場合ではないぞ、仔馬」
大グリフォンの前足が再び僕に向かって振り下ろされた。
「別に僕、争いに来たわけじゃないのに!」
「ふははは、戦え仔馬」
「グライフ!」
「うるさいぞ」
大グリフォンは苛々してる割に言葉は淡々と攻撃を続ける。
うん、やる気ではあるんだね。
もうそこはグライフの親だって諦めるよ。
けど、街のひとは誰か止めないの?
みんなすごい華麗に避難してる?
え、もしかしてこれがここの普通?
何この修羅の国!
「四足の幻象種が乱暴だとか話し合えないとか思われてるの、グリフォンのせいなんじゃないの!?」
「知ったことか。トカゲどもが来る前に終わらせろ、仔馬」
「変な嗾け方しないでよ!」
僕なら倒せるとグライフは言っていた。
今の言葉もそう言っているのと同じ。
もちろん聞いていた大グリフォンは、完全に前足の爪で僕を引き裂こうと攻撃性を強める。
僕は望まずとも、大グリフォンと戦う羽目になってしまった。
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