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32話:お留守番決定

「まず人間大の侵入は不可能かと。王都は妖精への対処もですが、異種族の侵入にも目を光らせておりました」


 僕は人化した膝にアルフを乗せてカウィーナの話を聞いていた。

 ちなみにガウナとラスバブは、グリフォン姿のグライフの毛繕いをしてる。

 お仕事してないと落ち着かない妖精なんだって。


「バンシーの能力は憑いた家族に及ぶから、王都の中にいる人間を基点に力の範囲内として侵入したんだ。コボルトも同じことできるんだが、ガウナとラスバブはこっちの王都に縄張り持ってないからなぁ」

「へー」


 アルフが言うには、カウィーナが王都の中に入れたのはバンシーだから。僕たちの侵入は不可能ということらしい。


「だったらどうするの? ダイヤも探せないってことでしょ?」

「入るだけならできるんだよ。単にあの王都の壁を登って超えるだけなんだけどな」


 僕に答えながら、アルフは派手な翅を動かして飛ぶと、壁を越えるジェスチャーをした。

 うん、見張りに見つかるよね、アルフ。

 あといきなり飛ばないで。アルフの上昇する先に、僕の角突き出してるんだから。

 角刺さりそうでちょっと焦ったよ。


 なんてやってると、カウィーナがまた一つ初耳のことを聞かせてくれた。


「どうやら、この国の教会は妖精の排除に乗り気なようでした」


 アルフの知識によると、人間たちの信仰してる唯一神は、神殿と呼ばれる大事な建物に祭られているらしい。

 ただ、神殿は複数ある。建てた人は違うけど、全員が使徒という唯一神の移し身、らしい。

 で、教会は唯一神を信仰する人間が集まる場所であり、祭壇を設けて礼拝するための場所なんだって。


「教会が、か。派遣元はヘイリンペリアムでも、布教の仕方は任された奴のやり方次第だからな。権力側と足並み揃える奴が司祭なんだろ」


 えーと、ヘイリンペリアムが神殿を持つ国で、宗教国。

 教会を運営する司祭は、そこから派遣される、らしい。


「…………見間違い、かもしれませんが。流浪の民が王都に出入りしたようです」


 カウィーナの言葉に、グライフを毛繕いしていたガウナとラスバブが反応した。


「えー? 流浪の民の信仰は悪いって、教会言ってなかったー?」

「妖精を敵視するのは、森に接してる国のほうが激しいイメージでしたが?」


 どういうこと? 妖精と距離が近いほうが、妖精を敵視してるの?

 妖精が住む森に接してる分、厄介さを知ってること? やっぱり妖精って…………。


「フォーレン、待て! 必ず俺たちのほうが何かやらかしたせいじゃないんだからな!」


 僕と目が合ったアルフが、慌てて知識を送って来る。

 どうやら、森の資源を欲しがる人間と森を守ろうとする妖精の間で、ここ数年諍いが起きているということらしい。

 人間としては豊富な資源を使いたい。妖精としては勝手に資源扱いしないでほしいというところのようだ。


「妖精と仲が悪い人もいるっていうのはわかったけど、流浪の民って、何?」


 知らない単語の上に、なんかファンタジーっぽい言葉が出て来たんだけど。

 僕の問いにアルフは膝に戻って説明する。


「そのまんま、流浪する民だよ。国に所属できない者たちが主で、家畜と移動し続ける奴らもいれば、芸を売って外貨を稼ぐ奴らもいる。…………大本は、元魔王の民を名乗った人間たちだ」

「え? 魔王ってあの五百年前に倒されたっていう?」

「魔王はこの東の地に最も大きな統一国家を樹立した覇者であったと聞く。従う者がいなければ国など作れぬだろう? 故に流浪の民はその功績の大なるを神聖視し、魔王崇拝を行う者たちでもある」


 グライフ曰く、流浪の民は魔王が倒されるまで従った生き残りで、東の農耕に適さない台地で今も暮らしているそうだ。


「国に所属できないって、だったらこの国が流浪の民っていう人を受け入れるのはなんで? 今も魔王崇拝してるなら、宗教的な敵じゃないの?」

「うん? 何を言っているのだ、仔馬?」

「あれ? 教会って、神さま奉ってて…………」


 あ、アルフの知識が開いた。

 流浪の民についてだ。

 まず僕が間違っていたのは、魔王はちゃんと為政者だったらしいということ。

 千年くらい国を維持してた。すごいな。十代遡っても同じ国、同じ統治者を戴いてるなら、愛国心を今も持ち続ける人間がいてもいいのかもしれない。

 そして、流浪の民は魔王が倒された後、魔王以外の統治を受け入れないことを体現するため、流浪するようになった。

 ただ、この流浪するってのが、今の統治者たちにとって厄介。自分たちの決まりに従わないっていうのに、うろうろされたら嫌だよね。


 つまり、流浪の民を受け入れらないのは国であって教会ではないってこと?

 そう言えば、魔王も一神教だったって聞いたんだった。

 前世の知識のせいで、魔王と神は対立するものだと思い込んでた。


「グリフォンの旦那さん、ユニコーンさんは何かおかしなこと言いました?」


 僕が結論付けた途端、ラスバブがグライフを下から窺う。

 あれ? 僕が前世の知識で曲解してたんじゃないの?


「敵は言いすぎにしても、魔王崇拝者とは教会に従わず、不仲なのではないですか?」

「私のおぼろげな記憶には、五百年ほど前に魔王崇拝が教会によって禁止されていたような…………?」


 ガウナもラスバブの意見を指示する。さらにはカウィーナもなんか違うことぶっこんで来た。

 え? 何が正しいのかわかんなくなってきたよ。


「ふむ…………。コボルトどもは短命の妖精か?」

「はい、幻象種に比べれば。二百年くらいでしょうか」

「僕とガウナは百年くらいしか生きてませんよー」


 わー、感覚が違いすぎるー。それ短命って言わない。


「コボルトは代替わりする妖精なんだよ。動物に近い感じの妖精なら、繁殖もする。珍しいけどな」

「えー、アルフさまがそう仰るのは」

「そうですね。他にいませんから」


 ガウナとラスバブが反対の声を上げると、カウィーナも一つ頷く。

 珍しさで言えばアルフのほうが上らしい。


「仔馬、使徒はわかるのだったな。魔王は使徒だ」

「「「へ?」」」


 雑なグライフの振りに、僕はもちろんガウナとラスバブも驚きの声を上げた。

 カウィーナは記憶を手繰るように赤い目を閉じる。

 僕たちの疑問に対して、グライフはまた雑に説明した。


「使徒として人間たちの統一を成そうとしたが失敗し、この東に新たな統一国を作り出したが、西との軋轢は止まず、五百年前に倒され、この東は人間たちの国となった」

「えー? 使徒ってつまり、神さま側でしょ? なんで魔王なんて呼ばれるようになってるの?」

「知らん」


 グライフは興味なさげに言って、アルフのほうを見る。

 そう言えばアルフは、魔王を直接知っているような言動をしていた。


「アルフ、どういうこと?」

「うーん、いや、まぁ、ね? 確かに魔王は使徒だったぜ? ただ、当時の妖精女王も危険だって思うくらいに暴走を始めてさ」


 妖精女王は最初の使徒だったとか言ってたね。

 どうやら使徒同士で対立してしまったようだ。


「つまり、負けたから魔王って呼ばれて悪いひと扱いなの?」

「いや、魔王は『魔を打ち払う王』って意味で、当時の国民が尊称として呼んでたんだよ」


 当時の人的には、魔とは誘惑や悪心のことで、ひいては魔王が作った宝冠を欲しがって争った西の人々のことだったらしい。

 で、魔と呼ばれた西の人たちからすれば、自分たちを倒すと称する王だから、まぁ、敵だよね。


「あぁ、ずいぶん昔のことなので思い出すのに時間がかかりました。魔王が倒された後、魔王が使徒であったことは、教会によって秘匿されたようです。使徒は人々を救いに現れると言っていたことから、人と争った魔王の存在を疎んじたのでしょう」


 カウィーナは悲しげに言った。

 人間と違って、妖精に忘れるということはないらしい。ただ、あまりにも昔すぎると思い出せないことはあるようだ。


「つまり、人間の暮らしに近すぎたコボルトどもは、人間の考えに染まっていたということか」

「幻象種では魔王は使徒ってこと、言い伝えられてるのか?」


 アルフの問いにグライフは首を横に振った。


「さして興味がなければ伝えはせんし、使徒であることを隠しもせん。俺が知っているのは西まで旅したためだな。向こうではこちら側ほど教会の力は強くない。と言うか、魔王との争いの中で使徒の遺産はほぼなくなっているからな。使徒に対する期待値がこちらより低い」

「えー? なんだよそれ。妖精女王は?」

「お前と同じヒキコモリだ」

「ヒキコモリ言うな!」


 同じ神を戴いていても、西と東で信仰の度合いが違うようだ。

 ただこの大陸の東では、魔王が使徒であることは五百年前に隠蔽され、魔王崇拝をする流浪の民は妖精よりも排斥される存在らしい。


「流浪の民は、魔王を崇拝してどうするの? 魔王復活狙ったり?」

「わお、過激な発言! さすがは恐れ知らずのユニコーン!」


 なんでかラスバブに驚かれた。


「流浪の民は魔王の滅びと共に失伝した技術や物品を秘匿していると聞く。それらの遺物をもって、自らが東の覇者の後継であると自負している節はあるらしい。人間たちが魔王を隠蔽したために、己の正統性に執着しているのではないか?」

「そうですか。でしたら、この国の王がそうした秘匿物の中に延命法を探して呼び出した可能性はありませんか?」


 ガウナの指摘にアルフは考え込む姿勢を見せた。


「あり得るし、そうなると流浪の民がわざわざ王都まで入ったのって、魔王石目当てかもな。うわー、面倒臭い!」

「貴様の不始末であろう、羽虫」

「グライフ、それは言いすぎだよ。流浪の民の動きはアルフ関係ないでしょ。それでアルフ、やっぱり王都に入ってみる? 夜どうにかして王都の壁超えるくらいならいけるんじゃない?」


 僕の提案に、アルフは小さな手を突き出した。


「不確定要素が多すぎるから、王都で情報収集はする。でも、フォーレンはここで待っててくれ」

「なんで?」

「この国の王はユニコーンの角欲しがってたんだろ? 妖精なら追い出されるだけで済むけど、フォーレンが見つかったら危険すぎる」


 どうやら僕を心配してのことらしい。


「あと、そこのグリフォン一人で置いて行くのが不安だろ。見張っといてくれよ。で、カウィーナは情報集めに協力してくれないか?」

「ご命令とあらば。ただ、私の行動範囲は王都に住まう庇護者の周辺のみとなります」


 こうして、せっかく服まで用意したのに、僕はお留守番することになった。


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次回:真・乙女トラップ

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