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305話:狩りをするトカゲ

 僕は森を貫く大道を、人間がないことを確認して渡る。


 向かうのは森の南端。

 猿に似た幻象種が住む集落を目指した。


「妖精王さまのために大グリフォンの街へ…………」


 来た理由を説明すると、ヴァナラの王子はグライフを見る。

 納得の色があるってことは、グライフの素性を知ってるんだろうな。


「ヴァナラは大グリフォンの街より東から来たって聞いたよ」

「はい、私どもは月の川辺からこちらに」

「そこってユニコーンもいるんだよね。そう言えば最初から僕を怖がらなかったけど?」


 大蛇姿のアシュトルのほうを怖がっていたくらいだったなぁ。


「はい、ユニコーンはたまに見る幻象種でしたから。後ろに立たない限り襲ってきませんし、縄張りから出れば追っても来ませんし」


 ヴァナラの王子に危機感はなく、だいぶ今まで聞いた印象と違う。


「一撃で仕留め損なうとこっちも死ぬような怪我を負うが、争う必要のない猿には無害か」

「あ、なるほど。グライフは自分から襲いに行くんだ。ヴァナラも下草とか食べないなら争う必要ないし、出会ってすぐ命の危機って感じじゃないんだね」

「若いヴァナラが騒ぎすぎて、辺りの木々をへし折られるということはたまにありますが。近寄りさえしなければ害のない相手ですね」


 これは新発見。ユニコーンの生息地では必要以上には怖がられないようだ。

 まぁ、生息地ならユニコーンに合った生態系があるんだろう。


「もしかしてこっちで僕が怖がられるのって、珍しいから?」

「そうでしょうね。本来いないユニコーンですから、私どもが知っているやってはいけないことや対処などが確立していないのでしょう」

「それと貴様の角だな。殺す利点が大きすぎる」


 グライフが酷い、けどそういうことなんだろう。


「さすがに守護者のようにグリフォンと行動を共にするユニコーンは知りませんが」


 ヴァナラの王子が猿の顔で苦笑した。


 僕は生息地でも変わり種決定。

 まぁいいや。今回の目的は月の川辺じゃないし。


「大グリフォンの街に行くまでに気を付けることある? あと大グリフォンの街の様子わかる? エルフの国のグリフォンに聞いてもいいけど、寄り道になるから」


 ディルヴェティカから南に行くのは同じだけど、その先はエルフの国は西へ、大グリフォンの街は東へ行くことになる。

 西へ行って東になると時間がかかりそうだ。


 予定としては大グリフォンの街を偵察してから、エルフ王に魔王石を貸してもらって山を越えたい。


「三百年ほど前に大グリフォンの体調不良が噂として聞こえたことはありましたが」

「あ、それ魔王石らしいよ」

「なるほど…………そう考えると、そういうことでしたか」


 ヴァナラの王子が何かに気づいたようだ。


「推測になりますが、大グリフォンは何度か魔王石を他所へ捨てたのではないかと思われます」

「あぁ、だろうな。周辺で幾つか集落がなくなった。魔王石を捨てては手元に戻ったのだろう」


 うわ、迷惑。

 けどそうか、黄金を収集する大グリフォンにとっても魔王石ってそういうものなんだ。


「その影響かもしれませんが、私どもの国も政情不安に陥りまして。今までの住処に住めなくなった者が移動をしました。そして移動した先で縄張り争いが起き、さらにそれが激化して身内争いに…………」


 ヴァナラの王子の言葉に、周りで話を聞いていたヴァナラたちが苦しそうに溜め息を吐く。


「私どもの所では異種族に嫁を奪われる事件が起き、そこで何人も返り討ちに遭って溝が深まりました」

「えー?」

「結局異種族は撃滅したのですが、その時身内の中で諍いがあり、戦争後はその諍いを火種に新たな戦いへと」

「ふん、それで負けて逃げ延びたわけか?」


 グライフの率直で失礼な言葉にもヴァナラの王子は怒らなかった。


「私は愛する姫を戦争で亡くし、異種族も滅ぼしたのでもう戦う意味がなかったのです」


 このヴァナラの王子は身内争いの気配に、いち早く出奔したそうだ。

 そして王子が新天地を得たことを聞いた同族が頼って森にやって来ているらしい。


「我が一族は普段争いを好みません。ですが一度勝つと決めれば世代を渡って勝利を掴むために戦います。もしかしたら避難民が大グリフォンの元にいるかも知れません」

「うーん、そんなに簡単に行き来できる距離なの?」

「いえ、山脈の切れ間を通って荒野を渡り、種々の異種族の縄張りを渡る必要があります。ただ、山脈を渡れば月の川辺の動乱は遠のくので避難には適しているでしょう」


 ヴァナラの王子がそう説明すると、グライフが爪を構えて捕捉する。


「さらに西を目指すならば大グリフォンの街を通るしかない。他を行くならよほど腕に覚えのある者だ」

「あぁ、大グリフォンの目が届かない場所だとグリフォンに襲われるんだね?」


 なるほど危険だ。

 そして月の川辺って相当遠い。


「なんで僕の母馬こっちに来たんだろう?」

「恥ずかしながら、私どもの族の争いは十万単位の兵を動員しての戦いでしたから。少なからず月の川辺に住む者たちに被害を与えたことでしょう」


 多くない!?


 と思ったけどヴァナラって小さな猿のような幻象種だ。

 多いようで実は小規模だったり?


「確か周辺の幻象種共も巻き込んだ大戦であったと聞いたな。十万が純粋にヴァナラだけではないのだろう」

「えぇ、ユニコーンのような群れを作らない幻象種以外、国を形成している幻象種は大抵どちらかの軍に参加していましたね」


 怖!

 ヴァナラって優しげで賢いお猿さんだと思ってたのに!

 実はユニコーン並みに戦闘タイプだったの?


「貴様らは本当に極端な種族だな。数百年の安寧の時代もあれば数百年に及ぶ争いの時代を作り出す」

「そうですね。グリフォンに比べればずいぶんと規模の大きな変動をします。強き者をただ一人戴き続ける大グリフォンの街は大きな争いもなく平和を続けていますから」


 僕は目の前の会話にちょっと頭を抱えた。

 乱暴者のグライフのせいなのかな?

 なんだか認識の違いがひどい。

 実は大グリフォンは名君だったりするの?


 そんな疑問が引っかかりつつ、ヴァナラが知る情報をもらって僕は森を出た。


「真っ直ぐディルヴェティカに向かっていいよね?」

「ふん、何を気にしている?」


 強気に答えて僕の頭上を飛ぶグライフ。

 けど山から吹き下ろす風で羽根がしなってるよ。

 大丈夫かな?

 まぁ、できないことは言わないか。


 僕は宣言どおり、歩ける場所とか気にせず一直線にユニコーンの脚力を使って進む。

 身体能力高いスヴァルトと一緒でも登りに半月かかる。

 ただそれは二足の場合で、ユニコーン姿だとよっぽどの急斜面でない限り行ける。


「おー、三日でディルヴェティカ」

「重しを連れてもいないのに同じくらいかかったか」


 グライフ不満なようだ。

 重しって一緒にエルフの国まで行ったユウェルのこと?

 三日間吊るして飛んだことあるの?


「相変わらずここは待たされないし絡まれないしいいね」


 通り道になる国であるディルヴェティカは、流れ作業的に国内を通してくれる。


 逗留するとなると別の手続きが必要になるらしいけど、僕たちは前回と同じく通り抜けた。

 その途端、頭上で大爆発が起こる。

 どうやら今通って来た背後の砦からの砲撃があったらしい。


「二時の方向一体撃墜! 十一時の方向三体、三時の方向一体接近中!」

「捉えました! 飛竜が山羊を奪い合っています!」


 砦からそんな声が聞こえた。


 よく見ると三体一緒にいる飛竜の口から口へと何かが飛んでる。

 たぶん奪い合われてる山羊だ。


「ふむ、トカゲどもも冬籠りの支度か。人間の目を気にして狩りもできぬとは無様な」

「あー、打ち落とされた飛竜はディルヴェティカの飛んじゃ行けない所に入ったのか。それにしても遅くない? 獣人たちもっと早く準備始めてたよね?」

「ふん、だからこそあぁして小さな獲物を奪い合っているのだ」


 グライフが鳴き騒ぐ飛竜をせせら笑う。

 滅茶苦茶馬鹿にしてるなぁ。けど飛竜ってそういうものなのかな?

 僕を襲った飛竜のロベロもグライフから僕を横取りしようとしてたし。


 って、あれ?


「ねぇ、あっちで一匹飛んでる赤いの、ロベロだよね?」

「呼んで見ろ、仔馬」

「え? うん、おーい。ロベロー!」


 遠いけど聞こえたみたいにぎくっと赤い飛竜が揺れた。

 困ったように羽ばたいた末に、大きく迂回する動きで道の向こうに降り立つ。


 その上で動きにくそうに歩いてくる顔はすごい不服が現われていた。


「何してるの?」

「お前が呼んだんだろうが!?」

「グライフが呼べって言うから」

「この根性曲がりが! 下手に近づくと砲撃されるとわかっていて呼ばせたな!?」

「ふははは! トカゲらしく這いずる姿はなかなかに似合いの姿だったぞ?」


 上機嫌なグライフがとんでもないことを言う。

 どうやらただの嫌がらせだったようだ。


毎日更新

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