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302話:猫の情報網

 森の城にはアーディとロミー、コボルトたちに続いてシルフのニーナとネーナもやって来た。


「ギリ! ギリギリのギリで!」

「血の臭いばかり嫌ね」


 ドラゴンの血でもシルフたちは嫌がったけど、すぐ洗い流したのが良かったらしい。


「さすがに服の消費が早くて困りましたね。まだ白い布地はあったでしょうか?」

「けどエルフ風の服似合うね。ユニコーンに戻ったら破れちゃうんだろうけど」

「えぇ、用意しておいて良かった。次は魔女風にしてみましょうか?」


 残念がるわりに笑顔のガウナと、人化した僕の髪をツインテールにするラスバブ。

 そこに花を挿していくメディサが楽しげに話す。


 そんなところにリスの獣人ルイユがやって来た。


「あれ、ベルントはこないの?」

「将軍は冬眠を早くして春前に起きるか、遅くして春間近に寝るかでヴォルフィ将軍とけん…………言い争いになっており」


 今喧嘩って言おうとした?


「ベルントいないなら獣王来るかと思ったけどあいつはどうしたんだ?」


 アルフの質問にもルイユは困り顔で眼鏡を押し上げた。


「こっそり貯えの獣脂を舐めているところを見つかり、当分外出禁止でして」


 盗み食いする王さま…………まぁ、あの獣王ならやりそうだ。


「む、額飾りはどうした?」


 今度は悪魔のペオルが来たんだけど、肩にウーリとモッペルを乗せてる。


 そして貰った額飾りがないことに顔顰めてるせいですごく怖い顔になってた。


「ドワーフの所のドラゴンとやり合うために巨大化して引き千切っていたぞ」


 グライフの言い方が酷いけど、角に通してたから見た目はそんな感じに壊れたんだろう。


「うぬ、まさかこんなに早く壊すとは。わしの力もまだ回復しておらん。ここはノームに譲るしかないか」

「どういうこと?」


 聞いたらノームのフリューゲルもペオルの肩に乗っていた。

 ペオル大きいし綿ぼこりに見えたよ。


「はい! 馬具を元に装飾品作ってみたんです。もちろん角を見えなくする術のかかった」


 そう言ってフリューゲルが出すのは、金具でつなぎ合わされた房や紐の集合体。


「ごめん、つけ方わからないや」

「ではお手伝いしましょう。実はケルベロスの毛を使って作った紐を使用しています」

「僕たちも作るの手伝ったんだよ! 人狼避けには効果絶大!」


 コボルトたちも一緒になってフリューゲルと僕に登る。


面繋おもがいを額に、辻金具で後頭部に回して」


 フリューゲルの指示でガウナとラスバブが装着してくれた。


「あら、今までと違う雰囲気でありじゃない?」


 アシュトルが鏡のような物を空中に作り出して、新しい飾りを見せてくれる。


 うん、なんか民族調? 前世の知識的にはお祭りの神馬がこんなのつけてたな。

 まぁ、角が見えなくなるならいいか。


「ありがとうって、ペオルどうしたの? 顔怖いままだけどジェルガエで何かあった?」

「にゃふふ、それはあっしからお話しやしょう」


 得意げなウーリに続いてモッペルが声を上げる。


「おいらたちもジェルガエ行ったんだ。それでどっちが先にオパールの持ち主見つけ出すかって二人が勝負したんだよ」

「何してるの? あ、オパールの持ち主変わって行方がわからなくなってたとか?」

「そうでさぁ。そこであっしの同胞たちの活躍。猫による猫のための猫の情報網を駆使し!」

「たまたま持ち主が猫を飼っておったのだ。すでに近い親族は死に絶え、本人はつつましく暮らしていた。周辺を探ったがすぐさまの命の危険はなかったぞ」


 結局ペオルが説明したけれどウーリは胸を張り続けている。


「ということでして、ジェルガエへ行く際にはあっしがご案内しましょう」

「そういう決まりだ」


 言う割にペオルは不服そうだ。

 どうやら先に見つけたほうがジェルガエに行く時に案内役をする約束だったらしい。


「ジェルガエに行くにはアイベルクス抜けるから冬の内がいいよぉ」


 そう教えてくれるモッペルにアルフが頷く。


「そうそう。今はまだ落ち着いてないから森からも行けるだろうけど、滅茶苦茶ビビってるからその内大道閉鎖しそうだぜ」

「そうなんだ。ケイスマルクのほうに行ってたコーニッシュは?」

「今は館で魚卵にかかりきりだったぞ。まぁ、あちらの祭はまだ時間がある。コーニッシュが聞いて回ったところ、持ち出した者の話は聞かないということだった」


 祭の賞品として持ち出すため、何を持ちだしたかは祭の一環で大々的に発表するそうだ。


 そこでルイユがさらに情報を投げかけた。


「エフェンデルラントのほうでも動きがあるのです。森への攻勢ではないようですが、なにやら武器の流通が増えています」

「え? オイセンと戦うの?」


 驚く僕にアーディが鼻で笑う。


「館のエルフが言うには、オイセンが早く妖精王と事の解決にあたりたいという焦りが見えて来たそうだが」


 仲の悪いオイセンとエフェンデルラントはどっちも森に喧嘩を売って負けた。

 敗者同士でまた戦争なんて不毛だなぁ。


「後ですね、ジェルガエは冬の初めの祭があるんで、その頃なら外からアイベルクス通って入り込みやすいと思いまさぁ」

「そうなの? ケイスマルクもお祭だし、それぞれお祭の日までに入っておかなきゃね」


 ケイスマルクの冬至よりジェルガエの祭のほうが先なら、ジェルガエに行ってからでもケイスマルクには間に合う。


「であれば、その前に山を越えよ」


 僕がウーリに頷くと、いきなりグライフが命令して来た。


「山って?」

「山に雪が降れば南には行けなくなるぞ」

「あ、大グリフォン?」


 そっちには魔王石のオブシディアンがある。


「そう言えばエルフ王からサファイアは直接取りに来るよう言われてたんだった」


 ドワーフの所から行けば良かったな。あ、でも魔王石三つはさすがに危ないかな?


「だったらエルフ王から魔王石借りるついでに様子だけ見てくればいいんじゃないか、フォーレン? ちょうどいい道先案内人がやる気みたいだし」


 アルフは見えないなりにグライフが行く気であることがわかったようだ。

 けれど見ると鳥の顔で不穏に笑ってることまでは気づいていない。


「碌なこと待ってないんだろうなぁ」

「さてな」


 グライフは楽しそうにはぐらかした


「ねぇ、そろそろフォーレンがどんな冒険をしてきたか聞きたいわ」


 ロミーが待ちきれない様子で僕の目の前に座る。

 みんなが来てから話すと待ってもらっていたんだ。


「被害者が増えただけなのよ」


 クローテリアが言うのは誰のことだろ?


 そう言えばウィスク大丈夫かな?

 話し終えたら後で館を見に行こう。


「あ、そう言えばアーディ。ジッテルライヒ沖の海で人魚に会って、これを預かって来たよ」


 僕はアーディに白い人魚の鱗を差し出す。

 するとロミーが目を輝かせて、アーディは渋面になってしまった。


「これが何かわからずに持ってきたな。くそ、鱗を渡す時に教えておくべきだった」

「え、何かまずかった? アーディから貰った鱗、渡しちゃったんだけど?」

「フォーレン! これ、人魚の仲人よ! 鱗を交わした族からお互い誇れる一族の者を出し合うの!」

「しかも向こうから仲人を用意した形だ。我が一族から人魚を出さねばならん」


 え? え!?


「そ、そんなこと聞いてないけど? アーディが嫌なら断ってくるよ?」

「すでに鱗を交わしてしまった時点で断っては不履行だ。そうなった場合、仲人は自らの手で結婚相手を攫ってくる義務が生じる」

「それ、やらないって選択肢は?」

「…………向こうはユニコーンだと知ってのことか?」

「え、ううん。知らないと思うよ。人化してるのはわかってたみたいだけど」


 アーディが人の悪い笑みを浮かべた。


「ならば獣に仲人など務まらんとこちらから突っぱねることもできる。他に海で向こうの人魚を戦かせることはしなかったか?」

「したのよ。海馬とアハイシュケを追い払ったり船を引く馬にしたり。シーサーペンは倒して、海の妖精から加護を受けたのよ」


 クローテリアの答えにアーディは喉を鳴らして笑い始める。

 なんでグライフは不満そうに嘴鳴らすの。別に楽しいことじゃないってば。


「それだけやらかしているのであれば、向こうも仲人の履行を強いてはくるまい。余計なことはしたがいい働きをするじゃないか」

「えー、それって褒められてる?」


 アーディは笑いながら頷くけど、ロミーは不服そうに頬を膨らませる。

 なんだか余計なことに巻き込まれて、化かし合いの片棒を担がされた気分だ。

 幻象種に限らず、異文化交流って難しいな。


毎日更新

次回:賢者の暗室

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