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300話:小さな変化

「うーん、やっぱり美味しいですね」

「これを全て悪魔が?」


 エルフの国でも食べたユウェルが嬉々として堪能している横で、エルフ先生は恐々食べているものの、手は止まらない。


「食道楽の悪魔、もっと強いのを持ってこい」

「度数が強いだけの安物出したら承知しないのよ」


 そしてグライフとクローテリアに至ってはお酒お代わりしてた。


 ドワーフの城の食堂には僕たちだけが食事してる。

 評議員と白髭のドワーフは壊した街の復旧のこととか色々忙しく話し合いしてるそうだ。


「一泊したら帰っていいのかな?」

「えー、フォーもう帰るのかよ」

「っていうか何処に帰るの?」


 ディートマールとマルセルが炎魚と茸のパイ包みを食べながら聞く。


「森だよ。暗踞の森。妖精王が待ってるんだ」

「フォーは妖精王と仲良しなの?」

「うん、友達だよ」

「つまり、魔王石も妖精王が欲しがってるんだ?」


 子供らしいミアに対してテオは鋭いね。

 ちょっと違うけど。


「うーん、魔王石を集めることに色々意味はあるんだ。基本的に争いの話になるけど…………聞く?」


 エルフ先生に顔を向けると食べていた物をすごい音を立てて飲み込んだ。


「結構だ。我々も明日にはこの国を出てジッテルライヒに帰る。この状況では学習どころではないからな」


 そう言えばそういう名目だったね。

 そして予定を聞いた魔学生は顔を見合わせた。


「へへ、本物のドラゴン見れたし楽しかったぜ」

「どうせなら自分はドラゴンの宝も見たかったな」

「それは僕たちが自力でドラゴンに辿り着かないと」

「そうよ、美味しい物も食べられていい旅行だったじゃない」


 魔学生の感想にエルフ先生は傷を押さえて呻く。


 魔学生にとってはこれも楽しい修学旅行か。なるほど。


「あ、あと妖精の加護ってすごいな、フォー!」

「そうそう、瓦礫飛んで来ても僕たちを避けるんだ!」

「ドワーフの兵士の攻撃も当たらないしね」

「フォーが兵器を壊した時も巻き添えにはならなかったの」


 パシリカの加護で魔学生は加護を越えない限り命を落とさない。

 それってつまり今日一日でずいぶんな致命傷の可能性があったってことじゃないの?

 本人たちが気に入ってるならいいのかもしれないけど。


「またパシリカに会えたら言ってあげて。喜ぶから」

「「「「はーい」」」」


 元気な魔学生を見ていたグライフたちがエルフ先生を見る。


「危機を得て学ぶことは二度とないというわけだな」

「妖精は本当に碌なことしないなのよ」

「あの、気を付けて帰ってくださいね」

「う、うぅ…………。せ、せめて加護の解き方を教えてはくれないか、妖精の守護者」


 あ、そうか。

 四人は加護で平気だけど、無茶をすることになり続けるし、失敗から学ぶことができない。

 その上四人以外の側にいる他人には被害が行くことになる。


 これは一緒にいるエルフ先生が大変だ。

 えーと、アルフの知識には…………。


「あ、加護を与えた妖精本人が消えるか解いてもらうしかないって」

「…………プーカなど望んで出会える妖精ではないじゃないか」


 エルフ先生はがっくりと項垂れた。

 プーカは人の暮らしの側にいるけれど、街にはいないし、ここに行けば見つかると言うこともない。

 運よく出会う以外にない妖精だ。


「名前はわかってるんだし、妖精たちに地道に聞いて行くしかないと思うよ」


 デザートに夢中な魔学生は聞いてないけど、エルフ先生は力なく頷いたのだった。


 そんな一夜を過ごした翌日、僕たちは魔学生とエルフ先生をマ・オシェから見送る。

 僕たちが暴れたせいで人間たちは昨日の内にエルフの国を発ってしまっていて、馬車を用意するのに時間がかかった。

 責任は感じたから、ちゃんと無事に出発する姿くらいは確認することにしたのだ。


「さて、こちらも出立しようか」

「まさかもう来るとは思わなかったよ。いいの、街の中大変なのに」


 白髭のドワーフ、ウィスクは森に帰る僕たちと一緒にドワーフの国を出るという。

 見送りのロークも困り顔だ。


「何、老い先短いわしにはすぐに動かなければな。それに口うるさい長老が一人減るだけ評議員どもはもろ手を上げて喜ぶだけじゃ」

「しかしユワリー老、あなたの不在にきっと困ったことになります。破壊された地区の賠償を諦めてませんよ、評議員は」


 もしかしてそれ、ワイアームに請求するつもり?

 新たな火種撒くだけじゃないの?


「そうだろうな。まぁ、決戦兵器も壊れたことじゃ。今年の冬は評議員の喧嘩だけで終わるじゃろうて。そこからどう復興させるかは評議員、ひいては国の者たちの努力じゃよ」


 不安そうなロークにいっそウィスクは愉快そうに髭を揺らした。


「気になる性分でほうぼうを補助して回ったが、結局結果のみを重視する同朋はわしを評価せなんだ。そんな奴らが困るのならばいっそ愉快じゃと思うてな」

「ユワリー老!?」

「まぁ、そんなわしを賢者と呼ぶ者が魔王石を持って何をするのか、見届けるのも一つ役目ではないかと思っておる」


 うーん、半分私怨と見た。

 そして後片付けもう嫌だってことか。

 感謝もされないならそう思っても仕方ない気はする。


「ローク、お前さんも気をつけろ。エルフの国、シィグダム王国、そして我らの国とまだ何か起こる気がしてならん。わかることがあれば連絡は入れる」


 本当に賢者だなぁ。


 連絡を待っているというロークに見送られて、僕たちもドワーフの国を発った。

 ユニコーン姿の僕の背にはウィスク、クローテリア、コーニッシュが乗る。

 グライフは上を飛んでた。


 そうそう、ユウェルはドワーフの国での顛末をエルフ王に報せに帰ってすでにいない。


「…………は…………はひぃ…………」


 森に着いた時にはウィスクは息も絶え絶えだった。

 クローテリアが落ちないように噛んでたから怪我はないんだけど。


「お帰りなさい、フォーレン…………そのドワーフは、ティーナが言っていた? 生きてはいるのかしら?」

「メディサ、ただいま。そうなんだけど、大丈夫かな? おーい?」

「短い脚では貴様の腹を押さえることもできまい。落ちないだけましだったと思え」


 グライフはそんなことを言いながら森の縁に降りて来た。


「フォーレンはすぐに妖精王さまの下へということだけれど。そちらのドワーフを連れて行くのは困るわね」


 アルフが封印されているのは秘密のほうがいいと、メディサは言葉にせず伝えて来る。


「じゃあ、クローテリア。そのまま咥えて館に連れて行ってあげて」

「面倒ひゃひょよ!」

「それなら自分が運ぼう、我が友よ。塩売りの妖精が何処にいるか教えてほしい」

「ウーリとモッペルのこと? あ、ドワーフから持った炎魚の卵塩蔵するのか」


 って言ったら、当の猫と犬が自分から来た。


「おやおや~、新しい商機でやすね? へへ、塩蔵となると樽いっぱいくらいでしょうか?」

「ちょうどヴァナラの所にいたんだよ~。塩はね、アイベルクスの岩塩を手に入れたよ」


 近くにいたらしいウーリとモッペルは、ウィスクを連れて行ってくれるコーニッシュと館へ向かう。


「グライフとクローテリアはどうする?」

「貴様が精神だけが逃げたなどと妙なことを言っていたからな。それを羽虫にも聞かねばならん」

「顎が疲れたのよ。このままあたしを運ぶのよ!」


 グライフとクローテリアは僕と城へ向かうことになった。


 あ、少し見ない間に城の建物増えてる。

 確か建物増えると守りも強化されるとかだったからたぶんいい変化だ。


「よう、フォーレン。無事に体に戻れたみたいだな」


 相変わらず広間に鎮座する鉛色の卵。

 そしてその前に据えられた木彫りからアルフの声がした。


「ただいま、アルフ。やっぱりあれ夢じゃないよね」

「うん? どうした?」

「本当に精神部分だけで貴様と会っていたのか、羽虫? どういう理屈だ、全く」


 グライフが怒ったように説明を求めたら、アルフは唸るように困った。


「いや、俺もそういう状態なんじゃないかなって思っただけで。確かに言われてみればどうやったんだ? 体が勝手に動いてたってのはおかしいな。ちょっと近づいてくれ。うーん、あれ? なんか変わったか、フォーレン?」

「何かって言われても、目が赤いくらいだよ。それとも、精神だけ抜け出したって状態になった後遺症?」

「それかな? うーん、この状態だとフォーレンの精神が今どうなってるのかよくわからないんだよな。フォーレン何か変な感じとか不調あるか?」

「ないね」

「じゃ、大丈夫だろ。顔合わせた時特に変化なかったし!」


 うん、軽い。

 けどこれがアルフって気がする。

 そんな僕たちに対してグライフが不服そうに嘴鳴らしてるのもいつものことだ。


 なんか戻って来たって感じがした。


毎日更新

次回:悪魔の椅子

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