292話:ドワーフへの反撃
「何ごとだー!? 何故忌々しいドラゴンが死にかけている!? いやいや、これほどの好機見逃せるものか!」
「待てい! ここは我が赤派の出番よ! ユニコーンがいると聞いたがまずは憎き宝物泥棒のそっ首落としてやろう!」
せっかくワイアームが大人しくなったのに、なんかドワーフの軍が増えた。
最初にいたのは黄色で、新しく来たのは黒と赤だ。
ロークに聞いたことを考えると、別勢力と思うべきだろう。
「もう、大人しくしててよ。一番偉いひと誰ー?」
そう聞く僕に答えたのは妖精のコブラナイだった。
「はい、こちら! 赤派将軍、ズワリ!」
「こっちにいるのが黒派将軍、タンサー!」
「「貴様ら!?」」
将軍っぽいドワーフ二人が驚く間に、僕はユニコーン姿に戻って周りの兵を蹴散らす。
うん、ドワーフって頑丈でいいな。
蹴っても生きてるから気にせずいられる。
「は、放せ! はな、うわー!?」
「いだだだ!? わしを踏むとは何ごとかー!」
将軍ドワーフの一人は角に引っ掛けて吊るし、もう一人は前足で押さえつけ捕まえることができた。
将軍を押さえられた軍は停止し、騒ぐことはなくなったようだ。
すると、ワイアームの攻撃で避難していたウンディーネたちが怒った表情でやって来る。
「ひどーい! せっかく綺麗にしたのに!」
「もう一度洗うわよ! 今度こそ!」
「もういっそ煤だらけのドワーフごと洗ってやるわ!」
そんなことを言ったウンディーネたちは、僕に水をかけるだけじゃなく、辺りのドワーフを追い駆けて水を放射し始めた。
「やめろ! やめるんだ! あー!? 炉が、炉がー!」
ちょっとした悪戯程度と思ってたら、なんだかドワーフ軍に限らない大騒ぎに発展した。
ウンディーネは水脈から他の水関係の妖精呼び寄せて、大量に水を放射。
そのせいで辺りは水浸しになった上に、許容を越えた排水が溢れ、離れた場所で被害が広がってしまったらしい。
「あー、ウンディーネたち、それ余計に汚れるだけだよ」
僕が声をかけるとこっちを見る。
ウンディーネに協力していた水の妖精たちも動きを止めた。
方向性を変えようと思って辺りを見回すと、不機嫌に唸るワイアームがいる。
ワイアームは自分で掘り返したせいもあり、水が流れ込んだ窪みで泥だらけだ。
「ほら、水が溜まって逆に汚れちゃってるでしょ。あそこの水を抜くことはできない?」
「そなた、我を…………!」
「「「はーい!」」」
元気に返事をしたウンディーネは、他の妖精も引き連れてワイアーム周辺の水を抜き始めてくれた。
「炉が…………火が…………」
赤派の将軍が白く上がる煙を見て茫然と呟く。
「なんという、こと、だ…………」
黒派の将軍も涙目だ。
どっちも解放したけど戦意喪失してしまっている。
「なんだ。最初からこうしておけばドワーフは大人しくなったんだね」
人化して着替え始めると、ロークが複雑そうな顔をしているのが見えた。
ロークの所とは遠いから水行ってないと思うんだけど、同じドワーフとして同情してるのかな?
「なんたる、なんたる…………全く! わしが評議会へ行っている間にこれか!?」
「あ、白髭のドワーフ。ワイアームに城が壊されてから何処か走って行ってたけど戻って来たの?」
「評議会からの命令書を持ってきたのだ! すでに遅かったがな!」
とは言え、白髭のドワーフが持ってきた命令書のお蔭で、さらに増えた緑色の軍は大人しく帰って行った。
「ともかくここはわしが取りまとめる。お主らは中央の城へ同行してもらうぞ」
「けど放っておいたらワイアーム、ドワーフに鱗毟られそうなんだけど」
ウンディーネたちに囲まれて嫌そうな顔のワイアームは、僕の言葉に歯ぎしりをし始める。
「怒る元気はあるみたいだけど、やっぱりワイアーム残していくのは不安だな。ワイアームに死なれても困るし」
「その心は?」
白髭のドワーフがなんだか大喜利みたいな聞き方してきた。
「クローテリアのこともあるけど、魔王石のカーネリアン返す当てがなくなるから」
「い…………! うぬぅ…………」
反射的に拒否しようとしたワイアーム。
けれどやっぱり惜しいのか、勝手に苦しむように悩み始める。
面倒な性格だなぁ。
「うーむ、お主どうやら妖精の動向を操れはしても制御はできぬ様子。城に連れて行ってまた壊されても困るか」
白髭のドワーフもどうやら僕の行動に不安を覚えたようだ。
「もういっそ壊される物が何もないここで話し合うしかないか。そのために準備をするが、ともかくお主らはひとまとまりになって動くでない。何かあればわしを呼べ。良いな!」
白髭のドワーフは忙しそうに離れていった。
そしてほどなく、僕の前には色とりどりのドワーフが並んだ。
髭が長く、とんがり帽子を被っていて、いっそ魔法使いみたいだ。
「この度は失礼つかまつりました」
「知らぬこととは言え、どうかご寛恕を」
「我ら妖精王とことを構えるつもりはないのです」
「ましてや邪竜をこのように打ち据えるあなたさまとは」
「平に平にご容赦をいただきたく」
赤、青、緑、黄色、黒の服を着た評議員が口々に言う。
「わしは元評議員で長老と呼ばれる役職でな。実権のない名誉職じゃが…………」
白髭のドワーフは呆れたように謝ったドワーフたちを見る。
顔の半分髭で隠れてるけど、真剣そうな表情を浮かべてた。
まぁ、目が笑ってる気がするし、その笑いはいい感情じゃないことは見てわかる。
これ、僕が舐められてるってことだよね?
「これだけしてまだそういう態度に出られるほうが驚きなんだけど」
「ドワーフは頭が固い。一度思い込むと痛い目を見なければ改善はせん」
グライフもわかってるみたいでそんなことを教えてくれた。
「えーと、攻める時には勇猛果敢で、守る時には質実堅固と言われる種族でして」
「つまりは攻めると決めたら攻める以外しないのよ。守ると決めたら馬鹿みたいに動かないのよ」
クローテリアがユウェルの説明に酷い意訳をつける。
けどそういうことなんだろうなぁ。
となると、さっきの将軍たちの反応からしてわかりやすく言ったほうがいいんだろう。
「僕ね、怒ると見境がなくなるんだけど、たぶん敵って思ってる相手がいるとその相手を集中的に攻撃するんだ」
「なるほど、なんとも知啓にとんだユニコーンでいらっしゃる」
褒めてるつもりなのかな? それとも怒ったユニコーンってそんなに見境ないの?
まぁ、心はあまり籠ってないように感じる。
「だから、次にここで怒った時には何を狙うか目標を決めておこうと思う」
「は? 目標? 何故?」
「あ、前に怒った時もグライフいたし、できれば僕が怒った時にはグライフを呼んで」
「い、いや、しかしそのグリフォンは」
「目立つし君たちは建物の下敷きになっても死なないみたいだから、君たちのいる場所、何処かのお城を壊すね」
「な、なな!? 何を言っておられる!?」
「次に僕を怒らせるようなことがあったら、この国の城を潰すって言ってるんだよ」
しっかり伝えると、評議員は黙ってしまった。
これでも駄目なら他に狙えそうなのは…………。
「それとも宝物庫がいい?」
「「「「「おやめください!」」」」」
反応早いな。
そう言えばエルフの国でのこと知ってるんだっけ?
少しは本気が伝わったかな?
と思ったら評議員のドワーフはこそこそ言い合い始めた。
「おい、お前さんが損害賠償について言え」
「妖精を使役しているのなら隠し財宝でも捜させるか?」
「それならワイアームの宝を戦利品として」
「そうじゃ、その中から賠償をさせればいい」
「おい、この地区はわしの持ち場じゃ。勝手に決めるな。取り分はわしが一番多く貰うぞ」
懲りてないなぁ。
グライフがいっそ面白がって、ワイアームの苦々しい顔を見てる。
戦闘になったら絶対あの偉そうなドワーフ突き回してワイアームのほうに追い立てる気だぁ。
「もう、そんなこと言うなら次にここに来た時にはもっと価値のある物を選んで壊すことにするよ?」
「「「「「口が過ぎました! ごめんなさい!」」」」」
うわぁ、一斉に頭を下げた。
いっそ丸まってるみたいに見える。
これは本気で嫌がってるっていうことはわかった。
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