288話:魔王石兵器
ドワーフが対ドラゴン兵器を引っ張り出して来たら、ワイアームは僕を盾にした。
「尻尾巻きつけないで! あいた!?」
またお尻に砲撃が当たる。
体が大きくても痛いなんてどんな威力なんだ。
森で見た砲台型も砲撃をそのまま受けたら危ない感じがしたのに、それが大きくなった今も痛いって相当な兵器だと言える。
「あれほどの出力をどのように出しているのだ? ドワーフどもは魔法に劣るはずだが」
「冷静に観察しないで! いい加減離れてよ!」
僕はワイアームが考えごとをしてる隙に、鱗に覆われた尻尾を踏みつける。
さすがに痛かったのかワイアームが距離を取った。
けど僕を盾にする位置取りを外さない。
これ完全に射線読んでる。
僕という盾がいなくても、あの砲撃を当てるのは無理なんじゃない?
「どんどん魔力を充填しろ! 計算上はまだ半分も威力は出ておらんぞ!」
ドワーフが不穏なこと叫んでる!
まだ毛が焦げるだけで済んでるのに、倍の威力が出たらさすがに怪我をする。
「いつまでけつを掘る気じゃ!? しゃんとせい! 腹、もしくは首を狙うんじゃ!」
「動き回る奴らを相手に無茶を言うな! お前がちょっと行ってあのユニコーンを横向きにさせい!」
待って、完全に狙い僕なの!?
あ、ワイアームも無理に攻めて来なくなった。
近寄ると砲撃の巻き添え食うからだ。
「あーもー! 僕の声が聞こえるなら、あの砲台から魔学生とエルフ、ドワーフのロークを引き離して!」
僕は妖精に力いっぱいお願いした。
すると地面の下から岩の妖精が起き上がる。
「うわ!? 岩男だ!」
「は、放せ! 何するんだ!?」
「ひぃ!? 何処へ連れてくんだよー!」
「こ、攻撃をするつもりはない、みたいよ?」
「わ、私もですか!?」
「待て! わしは同朋の横暴を!」
「うぅ、もうどうにでもしてくれ」
あ、エルフ先生が諦めてる。
顔色悪いのは怪我してるせいもあるんだろうけど、胃の辺りから手を放さないなぁ。
僕は妖精に確保された魔学生たちが離れるのを待って、対ドラゴン兵器に向き直る。
「よし! 邪魔者はいなくなった! 充填の具合はどうだ!?」
「倍とは行きませんが溜まっています!」
「ならば撃てー!」
もうこのドワーフたち撃ちたくてしょうがないだけじゃないか。
大きな相手に効く攻撃開発した喜びが爆発してるからって僕を的にしないでよ!
「…………あ!」
砲台に光が収束し始めた瞬間、僕にしか聞こえない嘆きの声が響いた。
これは当たるとまずい。
いや、当たり所が悪くなりそうなのかな?
角を砲台に向けると、嘆きの声が止まる。
うん、これで命の危機を回避できるならもう迷う必要はない。
「もう、こうなったら容赦しないからね!」
背後でワイアームが動く気配があったけど、速さは僕のほうが上だ。
ワイアームを気にせず駆け出した。
行く先には砲身の中を光らせる砲台。
「よ、避けろー!」
「無理です! 逃げます!」
一直線に走る僕の姿に、ドワーフが砲台から転げ落ちて逃げる。
射手がいなくなっても砲台の光りはまだ強くなってる。
ここで止まるわけにはいかず、僕は一点を狙って突っ込んだ。
「それだけ魔力放って光ってれば、核の場所なんてすぐわかるよ!」
砲台の塔のような形をした部分の上部に核があるのは二度砲撃を受けた時からわかってた。
それとは別にロケットのような形した後付け部分にも強い魔力を感じてる。
たぶん異様な威力を出すための魔力の充填装置なんだろう。
それだけわかれば十分だ。
僕は狙いを定めて核と充填装置を一直線に貫く。
「しゅ、主要部の回収を!」
「無理です!」
ドワーフが叫ぶけど、すでに僕は貫いた後だ。
勢いのままぶつかって砲台は大破。
破片が飛び散って落下する中、本体も吹っ飛ぶ。
主要部どころの話じゃない。
「あー! 超巨大可動砲改良型熱線機銃がー!?」
すごい名前ついてた。
けどそれは僕に貫かれて破片になって落ちる。
中の配線なんかは僕の角や首に絡まって次々千切れた。
「これも歯車みたいな奴か」
割れて飛ぶ核を確認して、ビーンセイズで見た歩兵型なんかを思い出す。
森で見た砲台型は暴発したから核を見てなかったんだ。
対ドラゴン兵器の核は、歯車の三分の一が欠けているだけでおおよその形は残っている。
流浪の民が修繕しないように核は完全破壊しなきゃ。
そう思ったのが隙だった。
「大変だ! 動力炉の暴発が!?」
「いえ! 動力炉は完全破壊!」
「動力源が露出しました!」
騒ぐドワーフの声に僕は改めて辺りを見た。
爆発する動力源?
走り抜けながら、目だけでは見えない背後に首を回して見る。
すると僕に絡まった配線が後ろに靡いてた。
その先に赤く輝く石が揺れている。
「…………小さい? いや、今は僕が大きくてって、あれは!?」
「魔王石が抜き取られました!」
わー! まずい!
赤く光る宝石は配線の繋がった箱の中にあった。
一部割れて中の赤い宝石が見えてるんだ。
「魔王石のルビーを動力にしてるなんて何考えてるの!?」
角や首に絡んだ配線が取れない。
思わず振り落とそうとした途端、魔王石のルビーが体に触れた。
(アルフ!)
今は繋がり希薄だけれど、前はアルフのお蔭ですぐ戻れた。
今の状況で動けないのはまずいから、咄嗟に僕はアルフを呼んだ。
そして予想したとおり視界は暗転。
体の感覚がなくなる。
「…………やっちゃたなぁ」
すぐ戻らなきゃ。
そう思って周り見て、ようやく僕は異変に気づいた。
「え?」
差し込む白い光はまるで自然光。
木の根が突き出る石の壁は長い年月を物語るようだった。
大きな窓からは枝葉が入り込んで涼しげな木陰を作ってる。
石造りの建物は人工物のはずなのに、木々と不思議なほど調和していた。
そして自然光のような光とは別に燐光を発する魔法陣がある。
鈴のような音、鐘のような音、歯車のような音がするけれど、騒音ではなく何かの演奏のようにも聞こえる。
その中に一人、座り込む人物の背中があった。
「…………アルフ?」
妖精王姿のアルフだ。
次々に魔法陣を作り出して浮かべては、考え込むように首を捻ってまた魔法陣を作り出す。
熱中して考え込んでるみたいだ。
近づいてみると僕はユニコーン姿であることに気づく。
けれど大きさは普段どおりみたい。
「アルフ、ねぇ、アルフだよね?」
「へ?」
後ろに立って首伸ばして聞くと、間抜けな声を出して振り返ったのはやっぱりアルフだった。
そして目を見開いて僕を上から下まで見る。
「…………フォーレン?」
「うん、ここってアルフの心象風景だよね? なんで僕ここにいるの?」
「は…………はぁ!? え、どういうこと!? どうなってんだ!?」
「それ、僕が聞いたんだけど」
「待て待て待て! …………え? 俺もしかして精神繋ぎ直そうとして混線させた?」
「あのね、僕今ワイアームっていうドラゴンとドワーフと戦ってたんだけど」
「ちょっと待って。ワイアームの奴? その上ドワーフ? えっと、何しに行ったんだっけ?」
「いらないのに魔王石惜しがるワイアームと、魔王石を動力に新兵器作って僕を的にしたドワーフと争うことになっちゃったんだ」
「なるほどわからん。けど、それでフォーレンの精神が俺の所に来ちゃってるのって、相当まずいだろ」
わからないなりにアルフは渋い顔になってしまった。
うん、やっぱりまずいよね。
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