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29話:服は手に入ったけど

「酷い目に遭ったー」


 僕たちは偽装水路の隔壁を閉じて、王都の外にある林に帰って来ていた。


「お早いお戻りで。残念ながらまだ服はできていません」

「グリフォンの旦那さん! 金の飾り付けるから、羽根もっとちょうだい!」


 不機嫌に羽繕いしていたグライフは、ラスバブが差し出す金の鎖を見下ろして大きく羽根を振った。


「拾え」

「わーい!」


 舞い落ちる羽根を、ガウナも手伝って地面に落ちる前に拾い集めてしまう。

 コボルトって、意外となんでもできるなぁ。


「直ぐには追ってこれないだろうけど、長居はできないぜ。俺も手伝うから、服は日のある内に仕上げよう」


 そう言って、アルフはガウナとラスバブを連れて、何処かへ消えた。

 え、なんか木の中から気配がする。

 何これ?


「妖精の道と同じだ。結界の一種と考えろ。妖精でなければ入れない空間が作られているのだ」

「良く知ってるね、グライフ。それも旅した経験?」

「妖精を捕まえようとすると小癪にもそうした場所に逃げ込まれたことがあるだけよ」

「捕まえてどうするのさ。いじめちゃ可哀想だよ」


 グライフは再開していた羽繕いを止めて、じっと僕を見つめた。


「…………未熟とは言え、幻象種と繋げるだけの精神を妖精が持っていたことに、俺は驚いた。仔馬、お前はあれの精神に違和感を覚えはしなかったか?」

「いきなりどうしたの? って言われても、他人の精神なんてアルフ以外知らないし」


 比較対象がなければ違和感も何もわからない。


「あれは人形だぞ?」

「は?」


 いや、アルフでしょ。

 ちゃんと意志も感情もあるし。けど言われてみれば、グライフのアルフに対する辛辣さは、心ない物に対するような雑さがあった。


「…………神がどうのって、地下で言ってたことと関係あるの?」

「ふむ、やはり馬鹿ではないか。それで人形のふりに騙されるとも思えんが」

「グライフ、なんでアルフが人形なんてこと言い出したのか、最初から説明してよ」

「羽虫だけではない。妖精も人間も悪魔も、神が作った者たちは皆、神の人形よ」


 おっとー? 宗教争いに良くある、見解の相違的な? 俺の神さまに作られてない奴は人間じゃないぜ的な? …………わけないか。

 グライフの目の真剣さはそんな偏狭な物の見方で言ってるんじゃないとわかる。


「仔馬、この世界は神の作ったものとそれ以外でできている。それ以外、神の手を経ずして生まれたものを、奴らは一纏めに幻象種と呼んでいるのだ」


 えっと、大まかにこの世界には四種の知的生命がいるんだっけ。

 精神体、物質体、怪物、そして幻象種。

 グライフが言うには、幻象種だけが天の神ではなく、自然の海と大地によって生み出されたらしい。


「神は己の考えたとおりに世界を営もうとしている。そのための人形が人間であり、人間を導くのが妖精や怪物だ」

「良くわからな…………、うーん、アルフの知識で、妖精は人間を導くために生み出され、怪物や悪魔は人間を戒めるために生み出されたっていうのはあるね」


 今まで、寓意だと思ってたんだけど、どうやらそのままだったらしい。本当に、神によって直接作り出された存在が、この世界にはいる。

 つまり、生き物として不自然な存在だとグライフは言ってるみたいだ。

 進化論が当てはまらない、突然ぽっと生み出されたもの。それがアルフたち妖精らしい。

 確かに進化の過程がないのなら、人形を作って配置するごっこ遊びのような、生き物と呼ぶには神の意図が根深く見え隠れする存在だとは思う。


「でも、アルフはアルフだよ。考えても見てよ。人間のために生み出された人形っていうなら、なんで今僕と一緒にいるの? 途中で人間に会ったけど、ダイヤ回収のために利用するだけなら、僕から人間に乗り換えるでしょ?」

「お前の背に乗るのが気に入ったのではないか?」

「適当…………。けど、そう思うくらいにはアルフ自身に好みがあるのはわかってるんだよね。だったらアルフは生きてるよ。ガウナとラスバブも、靴職人から離れたくないくらいには感情があるんだ。妖精だから人形だなんて頭の固いこと言うなよ」


 そう言えば、靴職人のことを気に入っていることに、ガウナとラスバブは無自覚だった。アルフも自分が死ぬことを最初は他人事のように言っていた。

 思い返せば、確かに人形染みた生き物としての違和感はあったんだ。


「アルフも最初に比べれば変わったし、きっとダイヤを取り返すこの旅が終わる頃にはもっと変わってるよ」

「変わった…………? は、ふはははは! なるほど、精神を繋いで影響されたのは仔馬のみではなかったか! これは面白い。精神体への干渉が可能だったとは!」

「え、なんか物騒なこと言ってる? 別に影響与えるなんて、一緒に居たら当たり前のことじゃん。グライフだって、僕たちについて来るなんて、最初考えもしなかったんじゃないの?」


 グライフはまたいきなり止まる。

 大丈夫? なんかグライフのほうがネジの切れた自走おもちゃみたいなことになってるけど?

 琥珀色の猛禽の瞳が僕を凝視する。


「何? もうアルフを人形とか言わないでよ。僕の友達なんだから」

「仔馬、貴様はあの羽虫が森に帰った後はどうするつもりだ?」


 やっぱり、アルフって森に帰るのは絶対なんだ?

 一緒に行こうって前に言った時、反応微妙だったもんなぁ。たぶん、僕が知らない妖精の決まりがあるんだろう。


「…………一回、海を見に行くかな?」


 生きるために知っておくことは多いだろうけど、やっぱり何か目的って欲しいよね。

 海の後は山のほう行ってみようかな? で、いい感じに広い草原でも見つけてめいっぱい走ってみたい。あ、グライフについて黄金よりも尊い宝を探すのもいいかも。


「ふっはははは! ならば俺が特別に案内してやろう!」

「え、本当? 砂浜があるような海って知ってる?」

「ほぉ、砂浜か。断崖から吹き上げる潮風を感じさせてやろうと思ったが、初めて海を見るのならそれくらいが程よいか。いや、いっそ西の海沿いを旅するのもいい」


 どういう気紛れか、グライフは本当に海まで付き合ってくれるらしい。

 お願いしたらエルフの国とかも行き方教えてくれるかも? 楽しみだ。


 そんなこと考えてたら、突然アルフが僕たちの間に割って入って来た。


「こらー! 俺の友達を勝手に連れて行こうとするな!」

「黙れ羽虫。さっさと俺の服を作り上げろ」

「お前なんか、後だ後! フォーレン、服の着方教えてやるから人化してくれ」


 グライフとの視界を塞ぐように、アルフは僕に迫った。

 うーん、やっぱりこんな感情見せるアルフを、人形だとは思えないなぁ。


「マントは脱いだほうがいい?」

「そうだな。そのまま腕広げて立ってくれ。あ、右手でこれ、肩に止めといて」


 アルフは端を折った大きな布をぐるっと脇の下を通して巻いて来た。

 一枚の布だったんだけど、両肩の上で布を止めると、一見ワンピースに見える状態になる。ただ、右側は丸開き。いや、布が大きく余ってるから覗き込まなきゃ見えないけど。


「で、この帯の結び方覚えてくれよ。内側からの圧で広がるんだ」


 そう言って腰に帯を結んでくれると、うん、古代ローマ風衣装の袖なし裾長いバージョンになった。


「ほう?」


 グライフがまんざらでもない反応だから、この美少女顔には似合ってるんだろうな。

 試しにユニコーン姿になると、確かに帯は広がったし、端を長くとってあるから外れることもない。

 マントを着れば袖がないことも気にならなかった。


「はーい、グリフォンの旦那さんのもできたよー」

「どうぞ試着してください」


 また突然現れたガウナとラスバブは、グライフに服を差し出した。


 人化したグライフに用意されたのは、アラビアンな膨らんだズボン、僕のよりも太い帯、首にかける形のベスト。そのベストの裾には金の鎖が通されており、留め具代わりになっていた。

 首かけだから背中が開いていて翼の邪魔にもならない。襞の多いズボンには、尻尾用の穴があるらしく、目立たないけど尻尾を出せるようだ。


「良いな。少々風の抵抗は受けるだろうが、生地が軽い」

「用意できる中で一番薄いものをご用意しました」

「人化する時にはちゃんと帯締めてねー」


 そんなに縫製必要のない服だけど、今のさっきでこれ用意したって、妖精って本当になんでもありだ。


「なぁ、俺たちビーンセイズに向かうんだけど、向こうの王都で案内してくれそうな奴知らないか?」


 アルフの質問に、ガウナとラスバブは葡萄色の目を見合わせた。


「僭越ながら、私たちではどうでしょう? ここから移動しなければならないですし」

「ビーンセイズ行ったことないけど、一日あれば街の中を把握できるよ」

「うーん、情報収集のためにも住んでる奴がいいけど、向こうのコボルト紹介できないか?」

「あの国は、妖精嫌いです。まず住んでいる妖精がいるかどうか」

「今の王さまが昔、妖精に悪戯されたからって、お城には妖精避けが張られてるんです」


 ガウナとラスバブの答えに、アルフは苦笑して僕を振り返った。

 どうやら、ビーンセイズの城に入るには、妖精じゃない僕が必要みたいだ。


「服も人間の目に触れていいように用意したんだし。アルフは僕の角を見えなくするほうに集中してよ」

「その角なぁ。ユニコーンの象徴だけあって、見えなくするだけでも相当難しいんだぜ?」


 そんなことを言いながら、アルフは人化した僕の肩に乗った。


「ま、ここからはまたフォーレンの足頼りだ」

「え、全力で走っていいの?」

「王都から離れるまでな。その後は駆け足くらいにしてくれ。俺が持たない」

「ふん、軟弱者め!」

「お前だってフォーレンの足には追いつけなかっただろうが!」


 また喧嘩をし始める二人だけど、グライフがちょっと観察するような目でアルフを見てる気がする。

 アルフも気づいたようで、両腕を胸の前で交差させて身を捻った。


「な、なんだよ、その目は…………」

「気色悪い反応をするな」

「いや、本気で引くなよ。さすがに傷つくわ」


 と言いつつ、アルフはグライフの反応を面白がって、女性みたいに足を揃えてみせる。

 うん、女の人が胸隠して恥じらうみたいな恰好なんだけど、僕の肩でやらないで。

 そしてグライフも僕諸共視界に入れて、そんなサブいぼ立ったみたいな顔しないで。

 人化してるから滅茶苦茶顔に出てるって。


 …………っていうか、誰も言わないけどこの世界ってノーパンがデフォなのかなぁ?


毎日更新

次回:次の目的

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