281話:宝物庫荒らし
兵士に囲まれたグライフと落ち合ったら、ドワーフのお城に呼び出されました。
いや、連行かな?
ともかく、その一室に兵士を並べて軟禁されることになった。
たぶん比較的強そうなドワーフが揃ってるんじゃないかな。
僕の連れとして魔学生とエルフ先生も室内にいて、ロークも身元を保証したとして一緒に来てくれた。
「無理」
一番強そうなドワーフが僕の目を見つめて一言そう言ったのはなんだったんだろう?
「つまり何かね? 一旦君のほうはジッテルライヒに、グリフォンはエルフの国に別れたから、間にあるこの国で落ち合う約束をしただけだったと?」
「うん」
「ふ、ざ、け、る、な。と言いたいところだが、本当にそれ以外何もしていないのだな?」
「だって着いたの昨日だし」
「うぅむ、このグリフォンが我が国で行った蛮行については?」
「通りすぎただけって聞いてた。けど、反撃って言ってるからには君たちのほうも手を出したんでしょう? グライフって黄金に縁がないみたいだから自分から襲うなんてしないし、痛」
目の前の白い髭のドワーフに答えてたらグライフに足を突かれた。
面倒がって僕に丸投げして椅子の足元に寝転がってるくせに。
「そのグリフォンがつけてる黄金の爪は何処からか盗んだ物ではないのかね?」
「ふん、貴様の目は節穴か。何者が作ったかもわからぬのなら黙っていろ」
「グライフ、煽らないでってば。これは妖精王を助けたお礼に妖精たちから貰ったんだよ」
「うむ、確かにそうした意匠に見える」
僕から話を聞く白髭のドワーフは、どうやらグライフの煽りに反応しないようだ。
ってことはあえて間違った指摘でこっちの動揺を誘ったのか。
「あれって悪いグリフォンじゃなかったのか?」
「確かに僕たちが魔法撃ってから襲って来たよね」
「いや、ドワーフを食べる機会を窺ってるだけかも」
「まだ私たちの出番はあるかしら?」
「やめて」
魔学生のヒソヒソに思わず僕は声をかけた。
なんで不満そうなのさ?
全員漏れなく宙吊りジェットコースターやりたいの?
「俺に勝てるとでも思っているのか。仔馬、しっかり躾けろ」
「それ僕の役目じゃないよ。エルフ先生」
「待ってくれ。色々処理しきれない…………」
「諦めが肝心ですよ。驚くことも恐れることも無駄だと悟れば心穏やかにいられます」
どうやらユウェルは悟りの境地らしい。
「ふーむ、入管の報告とも矛盾はせんな。かといって、危険生物を引き入れた過失は重大」
グライフとの待ち合わせ過失扱いなんだ?
「妖精王の使者というのはまぁ、妖精たちが口を揃えている。しかも善悪問わず。エルフ王からの書状もあった。まだ中身は確認中だが」
僕に動揺がないかをじろっと見る白髭のドワーフは、何故か眉間を険しくした。
ユウェルが持ってきた書状は評議会という所に持っていかれた。
今いるのは南の城で、評議会は中央の城にあるらしい。
他にも北や東、西にも城があって、ロークが言ったようにそれぞれに色分けがされてるんだって。
ここは城の屋根が黄色で黄派のドワーフが管理してる城ということになるらしい。
「面倒だ。仔馬、もう力を見せて従わせろ」
「グライフはすぐ力で解決しようとする」
「それをどうして従えているのか聞きたいところなのだがね」
僕たちのやり取りに白髭のドワーフが口を挟んだ。
グライフは面倒そうに顔の傷を指す。
僕は見なかったことにして大きく視線を逸らした。
グライフもドワーフやエルフ先生の反応なんて気にしない。
「仔馬、こいつらは突くといろいろ出て来て面白いぞ」
「グライフが面白いって言うとろくなものじゃない気がする」
「俺が砲台型を見たのはここだ」
「え!? なんで魔王の兵器があるの!?」
驚く僕に白髭のドワーフが大きく咳払いをした。
「ごほん! 聞きの悪いことを言うな。あれは元より我らドワーフの技術を元に作られた。魔王めが勝手に改造して、いや改悪をしたのだ」
「ふん、勝利の時にはその魔王が強化した技術を持ち込んで喜び勇み解体したというのは有名な話ではないか」
「歴史に残った数字が全て事実とは思わぬが、それでも多くの犠牲を出したのは確か。作ったからこそ、その改悪を精査し、二度と悪用されぬように調べるのもまた我らドワーフの役目」
「無駄に繕うな。貴様らがエルフよりもましなのはその欲への素直さではないか」
グライフの煽りとも取れる言葉に白髭のドワーフは眉間を揉んで言葉を返すことをやめる。
そう言えば魔王と戦った数少ない幻象種にドワーフがいた。
ドワーフが参戦した理由はドワーフの技術を悪用されたから?
そう言えばエルフ王も魔王石を作った魔王の術はエルフが教えたって言ってたな。
「ねぇ、グライフ。僕が壊したのはこういう細長くて一番上に目玉みたいなのがついてたけど、あれって流浪の民が改造してたのかな?」
「む? 俺が見たのはドワーフの指のような形をしていたぞ」
「玉はそれこそ魔王時代の物だ。いったい何処で見た?」
白髭のドワーフが興味を持った。
「流浪の民が持ってたよ」
「ほう? 忘れやすく伝えにくい人間にしては物持ちがいい」
白髭のドワーフは変なところで感心した。
「そしてそれを壊したと言ったな? どれほどの戦力だ?」
「妖精に手伝ってもらったよ」
「嘘をつけ。あれは妖精を寄せ付けぬ音を出す」
「そうなの? ドライアドだったけど」
「あぁ、なるほど。衝撃ほどの音を出さねばそう怯まぬ妖精か。しかしドライアドのいるような場所でだと?」
あ、なんか世間話のふりして情報引き出されてる。
そういえばドライアドって暗踞の森以外で見たことないや。
「のう、先生さんや。わし、もう通訳嫌になったんじゃが」
「なんでだよ! フォーまで知らない言葉で話しだして俺たちわからないのに」
ぼやくロークにディートマールが食ってかかる。
ロークはぼやかして話すことに疲れたようだ。
たぶんそのまま言うともっと騒がしくなるからだろうけど。
「ねぇ、すっごい兵器ってどれだけ強いの?」
「魔王の兵器って今もあるのかな?」
「私妖精さんの話しを聞きたいわ」
魔学生は自由だ。
エルフ先生は僕たちの話に頭を抱えてる。
ロークもなんか遠い目で投げ出したいって空気を醸し出してる。
そんな大人たちに向かって、ユウェルはわかると言いたげに頷いてた。
「うむ、ロークよ。この先はわしが訳を禁じたとでも言って子供たちには聞かせずにいればよい。それで、どうやって倒した?」
「魔力の集中する目玉っぽい砲身の下を壊したよ」
「何度も同じことを言うのは芸がないが、嘘じゃろ」
「思ったより魔力多くて動けなくなっちゃって。ドライアドに引き離してもらったんだ」
「いや、そんなことをすれば魔力暴走の末に大爆発をするわ。その口ぶりからして自ら破壊したのだろ。だったらなおのこと五体満足であるはずがない。ドライアドなど爆炎には無力」
「そこは火の精に助けてもらったんだよ」
「あんな小妖精に何ができる」
「爆炎すべて吸い取って自分の力にした」
「…………グリフォン、このエルフは何を言っている?」
「これは賢しく喋るが幼く経験が少ない。説明ごとには不向きよ。だが何一つ嘘は話しておらんぞ」
グライフにそんな風に思われてたんだぁ。
確かに上手く通じないこと多いけど、それは僕の理解の基準になってる人間の知識のせいな気もする。
あ、結局僕自身の幻象種としての経験が足りないせいか。
グライフが合ってたよ。
「し、しし、し、失礼いたします!」
「慌てるな見苦しい」
なんか大慌ての兵が駆け込んで来た。
白髭のドワーフの叱責を受けても、兵士は室内を突っ切って書状を押しつける。
「なんだいったい…………いやいや、待て待て。老いが目に来たか? …………嘘じゃろ?」
「いや、僕を見られても」
「貴様の種族についてでもあのエルフ王が書いていたのではないか」
「あ、なるほど。そこの子供たち怖がるから言わないでね」
「ほ、本当にユニコーンなのか? あれだけ普通に話しておいて?」
「うん、僕はユニコーンのフォーレン。グライフも僕のこと仔馬って呼んでたでしょ。本能薄いほうだから怒らせないでいてくれるなら話し合いには応じるから安心して」
「…………はぁ!? え? き、聞き間違いか?」
あ、ロークも知らないんだった。
エルフ先生は知ってたはずなのになんで耳塞いでるの?
あんまり悲壮な顔してるから魔学生たちが心配してるよ。
なんかこうやってみるとユウェル驚いたけど持ち直すの早かったな。
グライフで慣らされてたのかな?
「そちらも一大事ですが、こ、こちらも」
兵士が白髭のドワーフに書状の一部を指差して教えた。
読んでいた白髭のドワーフに怒りの表情が浮かぶ。
「エルフ王の宝物庫荒らしは貴様らかー!」
「「「なにー!?」」」
部屋にいた兵士たちも白髭のドワーフの声に大声を上げた。
しかもロークまで一緒になって。
「あれは宝物庫に入った賊を捕まえようとしただけで」
「先に投げつけて来たのはダムピールよ」
「ならば身を挺して庇わんかー!」
白髭のドワーフ叱責に、魔学生たちは言葉もわからないのに背筋を伸ばす。
他のドワーフたちも喧々囂々で僕とグライフに文句を言って、今度はユウェルも耳を塞ぐ騒ぎになった。
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