280話:グライフの再来
「つまり悪いグリフォンがドワーフを困らせてるんだな!?」
「よーし! だったら僕が魔法で撃ち落としてやる!」
「飛空兵ってエルフが手懐けたグリフォンでしょ! 手に入るなら大儲けだ!」
「三人とも待って! 私も手伝うわ!」
「「「「グリフォンを倒そー!」」」」
止める間もなく魔学生が飛び出していく。
エルフ先生は遅れて動いた。
「う、うわー!? 待ちなさい!」
「大変だ! 奴はこの国の精兵でも地面に引きずり下ろすことのできなかった猛者だぞ!?」
ロークも慌てて飛び込んだ扉から外へと出て行こうとした。
「大丈夫だよ。弱ければ相手にしないから」
「あ、あんた何言って…………?」
僕の言葉に奥さんが戸惑った声を向けた。
僕が笑いかけると焦っていたエルフ先生とロークも動きを止める。
「それに魔学生にはプーカの加護がついてるから死ぬことはないはずだよ。まぁ、追い駆けたほうがいいとは思うけど」
「あ、あぁ、そうだな。では私が追う」
「わしも行こう。お前は治療できる準備をしておいてくれ!」
「あいよ!」
僕たちは奥さんを残して魔学生を追うことになった。
「エルフの国に通じる関所のほうからやってきてな、止めようとしたらしいがすぐさま関所の兵は吹き飛ばされたらしい」
「かつて襲った時もそこから出て行ったのか?」
経緯を説明するロークにエルフ先生が確認を取る。
「いや、その時にはディルヴェティカのほうに去って行ったらしい」
「え、そうなの? なんでエルフの国のほうに行かなかったんだろう?」
ユウェルがニーオストに行くため通ったはずなのに。
というかエルフ連れってことはまだユウェル一緒なんだね。
「エルフの国への関所は他と違って小さいし城もない。だから辺りに詳しくない奴は知らないんだ」
「そのグリフォンはいったいなんのためにここへ? グリフォンはもっと浅く外へ開けた洞穴に住むものと聞いていたが」
「ここらのグリフォンは東のほうの大グリフォンの街の奴らだが、黄金の匂いにでもつられたんじゃないのか?」
「それはないんだけどね」
会話をしていたエルフ先生とロークが僕を見る。
「…………お前さん」
ロークが言いかけるけど、行く先の怒号に掻き消された。
見ると聞こえた先ではドワーフの兵が何かを囲んでいる。
大砲のような物も並んで物々しい雰囲気だ。
「おぎゃー!?」
「「「ディートマール!」」」
泣き叫ぶ声は不規則に移動しながら、それでも上のほうから聞こえる。
見上げると、グリフォンがディートマールを掴んでジェットコースターのような動きを繰り返していた。
あ、これ…………殺す気はないけどトラウマ植え付ける気満々だぁ。
「くそ、嬲り殺すつもりか!? いっそ一緒に網をかけて!」
「危険すぎる! おい、そこのエルフ! なんて非道な真似を!」
「わ、私が指示してるんじゃないんですー!」
あ、ユウェルいた。
「ご主人さまは私の言うことなんか聞いてくれないんですー!」
僕は仕方なくドワーフを掻き分けて囲みの真ん中に出る。
「グライフ、やめて! ディートマールが可哀想じゃないか!」
「む? なんだもう来ていたのか、仔馬」
声をかけた僕に気づいたグライフは、遊ぶのをやめて素直に降りてきた。
ただ途中でディートマールを放り出すのはひどい。
「だから、危ないことしちゃ駄目だって」
魔法で風を吹かせて落下を和らげると、その間にエルフ先生が落下地点に走ってディートマールをキャッチしてくれる。
「もう、あの子たちから手を出したんだろうけど。ドワーフたちにも何かしたのかもしれないけど、前通っただけって絶対嘘じゃないか」
「ふん、反撃をしたまでよ。身のほども知らずに俺を打ち落とそうなどとするからだ」
「地面の下嫌いなんだと思ってたんだけど、グライフって飛べない場所が嫌いなだけだったんだね」
「今頃気づいたのよ?」
「なんだ、まだいたのかモグラ」
「違うのよ! この乱暴者は暴れられない所が嫌いなのよ!」
威勢がいいのはいいけどクローテリア、僕を盾にしないで。
そしてグライフも僕を巻き込んで羽根で叩かないで。
「暴れないでったら。ユウェルは大丈夫?」
「はい、私は何も。ただ、ドワーフの槍は十本ほどへし折られたようです」
ユウェルは眼鏡を直しつつ近寄って来ると、ドワーフのほうを見る。
確かに折れた槍や壊れた鎧、兜が落ちてた。
そしてそんなドワーフたちの中でロークと目が合う。
「えー? お前さん、グリフォンを従えてるのか?」
「従えてるっていうか、ここで待ち合わせしてた相手だよ」
「俺は俺のしたいようにしかせんわ。雑魚などどうでもいい。仔馬、首尾は?」
ドワーフに囲まれてても気にしないグライフ。
大砲みたいなのでも平気だと思ってるのかな?
まぁ、速射性はなさそうだから避ける余裕はあるかも。
けどこの状況、どう考えてもグライフのせいなんだけどな。
「こっちは順調に手に入れたよ。そっちはどう、ユウェル?」
「エルフ王にも承諾していただきました」
「スヴァルトのことは?」
「それもご納得いただき、またフォーレンさんが種族変異を成した魔術師を紹介してくださると言うのでお礼をと」
リッチのこともちゃんとアルフから伝わっているようだ。
「だが受け渡しは貴様にしか応じぬそうだ。また貴様を城へ招くとは懲りぬ奴よ」
「なんで楽しそうなの、グライフ? 何もしないよ。今度はお城を荒らすようなことがないようにする…………つもり」
宝物庫のことは正直申し訳ない。
でも魔王石のサファイアを借りられそうで良かった。
僕指定ってことは悪影響ないようにかな?
「貴様! 妖精王の使者を名乗るエルフ!」
角の生えた兜のドワーフが前に出て来た。
「何故そのような狂獣を招き入れ我が国に騒擾を招いた!? ことと次第によってはただでは済まんぞ!」
「これとことを構えるのであれば、ただで済まぬのは貴様らだ」
「なにぃー!?」
「グライフ、煽らないで」
なんで僕のせいになってるの?
「まずこの包囲解いてもらえないかな? そちらが手を出すとグライフは喜んでやり返す口実にするからさ」
「そんな危険なグリフォン野放しにできるか!」
「本当に何したのさ、グライフ。…………えーと、だったらこのグライフは僕が抑えるから安心して」
「できるのか!?」
「相変わらず矜持もない愚か者どもだな。何を相手にしているのかも気づけぬ鈍さはエルフにもあるが。物事の状態を見通す目がさらに鈍っていると来る」
そう言えばエルフは自分から襲ってくることはなかった。
あれってお上品だからじゃないの?
いや、グライフが僕と対話してることを見て力関係を理解してたんだ。
グライフもその辺りのことを言ってるんだろう。
「だからって煽らないでよ。ほら、またやる気になってるじゃないか」
「ふん、蹴散らせ」
「しないよ。僕血を見るのは嫌いなんだ。それに子供もいるのに乱暴なことはできない」
グライフは思い出したように魔学生を見る。
「あぁ、ビーンセイズで会ったと言っていたな。あれらか。あのエルフはなんだ?」
「先生なんだって。そんなに強くないけど物知りだよ。子供たちのお守りだから気にしなくていいと思う」
「…………できれば気にして説明をしてほしい」
エルフ先生が勇気を出して前に出ると、ユウェルが微笑みを向けた。
「知らないほうが心安らかにいられますよ?」
「では聞かなかったことにしてくれ」
エルフ先生、掌返し早いよ。
魔学生たちはディートマールの介抱に忙しくて聞いてないみたいだ。
「僕たち用があってここに来たんだ。争いに来たんじゃないんだよ」
角兜のドワーフは胡散臭そうな顔をする。
「あ、そうです。フォーレンさん、エルフ王からこちらの書状を」
「書状? わざわざ?」
ユウェルが差し出すのは、なんだから上質な紙に重々しい封印と革のリボンが撒かれた書状だった。
これたぶん僕宛じゃないよね。
「ドワーフ評議会への紹介状です」
「あ、もしかして話を通しやすくしてくれたの? ありがとう」
「単に己の犯した間違いをドワーフのほうでも犯さぬようにであろう」
グライフ、どちらかというと間違ったの僕だとも思うんだけど。
いや、どっちもお互いの認識不足でエルフ王とは初対面が大変なことになったんだよね。
うん、今回は下手なことにならないよう気をつけよう。
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