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276話:怪物ワイアーム

「く、黒いドラゴン? まさか…………奴か?」

「消えたと思ったら、小さくなっていたのか?」


 クローテリアを見つめてドワーフは戸惑いの声を漏らす。


 徐々に驚きが引くと、その目には敵意が湧き上がるようだった。


「クローテリア、これって…………」


 クローテリアは答えず僕の背中に隠れる。


 この山脈の中で身動きが取れなくなっていたはずのドラゴンが消えた。

 それをドワーフは知ってる。

 もちろん何処にいるのかを捜していただろう。


 もしかしてクローテリア小さいだけで、元のドラゴンとそっくりなのかもしれない。

 ドワーフたちは完全にクローテリアを山脈の怪物と同じだとみなしていた。


「おい、エルフ。そのドラゴンを今なんと呼んだ?」

「クローテリアだよ。僕が名付けたんだ」

「名づけた?」


 答えた途端、ドワーフの間に流れていた緊張感が薄れる。


「うん、ノームの宝を奪っていたから捕まえたんだ」

「…………そりゃいつのことだ?」

「いつだろ? 秋の前だったはずだよ」


 そう言えば僕あんまりこの世界の時間の流れがわからない。

 日にち数えてないし、寒くなって来たなってくらいで、たぶん今は冬が近いくらいしか。


 実際何カ月経ってるかなんて考えてなかった。

 考えなくても生活できるユニコーンだからということもあるけど、時間の経過を日常的に語る相手が近くにいないこともあると思う。


「別人、いや、別ドラゴンか?」

「少し見えただけとはいえ良く似ていたがな」

「森にいたのなら別の怪物かもしれんし」


 あ、ドワーフはこれで納得してくれるの?

 けどなんか雰囲気が妙だ。


 すごくこっち見てる。


「あれだけ小さい内なら調教できるんじゃないか?」

「いや、育てて竜装備を造るべきだ」

「あの大きさなら俺たちでも殺せる」

「きゃー! なのよ!」

「クローテリアも売らないし献上もしないから!」


 ドワーフでもそういう考えなの!?

 なんでそんな聞き間違いみたいな顔してるの!?


「渡さないって言ってるんだよ! だいたい、ここには別にドラゴンいるんだからそっち狙ってよ!」


 言ったらやれやれと言わんばかりに首を振られた。


「できてたらそんな小さいのを狙いはせん」

「偉そうに言わないでよ」


 武装した偉いらしい城のドワーフなのに。


「そんなに強いの、そのドラゴン?」

「なんだ、知らんのか? ふむ、エルフの子供だろうが、いったい幾つだ」

「君たちが考えるより若いと思うよ」


 濁して答えるとドワーフは聞いておいてあんまり気にしないみたいだ。


「剣かドラゴンのどっちかを…………」

「どっちも駄目!」


 これだけ拒否してるんだから諦めてよ。


「いやドラゴンにぶつけるなら」

「この剣あったらドラゴンに勝てるの? 違うでしょ。クローテリアも育てる気ないなら適当なこと言わないでよ」


 ノームの剣はたぶんすごい。

 けど大きさは人間用でドワーフが持ったって使いづらいだけだ。

 単に工芸品として欲しがってる、もしくはノームの技術を学ぶためかもしれない。


 そしてクローテリアは育てたとしても素材にしかしないのがわかる。


「ふん、ドラゴンのように貪欲なことは己が身の不幸を招くぞ」

「僕からすれば他人の物をしつこく欲しがる君たちのほうが貪欲に映るけど?」

「なんだと!? わしらがドラゴンのように貪欲だと!? 撤回しろ!」


 そんなに怒るようなことだったの?

 それを僕に言った自覚ないのかな?


「知らないよ。今僕の目の前にいる君たちが貪欲だって話で、僕はここのドラゴン知らないんだから」

「いいか! あのドラゴンの名前はワイアーム。他人と宝を分かち合うことを拒んで呪われた強欲の怪物だ!」

「へー、ワイアームっていうんだ? みんなドワーフの所のドラゴンって言うから初めて知ったよ」

「あれは元妖精の怪物だ!」


 え、そうなの?

 それは驚きだ。

 怪物って妖精もなるんだ。


 思いついてクローテリアを見ると、なんか目を逸らされた。


「あ…………僕に名づけって、そういうこと?」

「ふん、なのよ」


 クローテリアはある日突然僕に名づけを強請った。

 あれはシュティフィーやロミーを名づけに似た形で別の妖精にした後のこと。

 確かその時、クローテリアは僕なら名づけができるかもしれないと言っていた。


 そして僕の名づけは妖精か負かした相手にしか今のところ効いてない。

 クローテリアは負かしたからだと思ってたけどもしかして。


「妖精だったんだ?」

「ふん、ワイアームは今や怪物だ」


 ドワーフが不機嫌そうに鼻を鳴らす。

 僕はアルフの知識で詳しく調べてみた。


 ワイアームが妖精だった頃、仲の良い妖精三人で変身をして遊んでいた。

 狐になって遊んでいたところを天使が狩猟に来て仲間の一人を射殺し、ワイアームと残った仲間は怒り悲しみ天使を捕らえて賠償を要求したそうだ。

 天使は神への報告を恐れて殺した狐の皮の中に肉の代わりに黄金を入れて返した。


「うん? なんかワイアーム一方的に被害者なような」

「そんなことはあるか! 中途半端に知っておって。いいか? 仲間の毛皮に入れられた黄金を、ワイアームは独り占めしたのだ!」

「救いようがないのは、その黄金は天使によってドワーフから強奪された物だと言われてることなのよ」


 クローテリアまでそんなふうに捕捉した。


 なんか、ワイアームとドワーフが魔王時代から簡単に争い合わされる理由わかったかも。

 あと、そんなだから天使も悪魔になってるんだなぁ。


「ふふん! 我らの何処かの祖は賢かった。天使に奪われる黄金の中に持ち主に不幸をもたらす呪いを込めた腕輪を紛れ込ませたのだ」

「あ、だからワイアームに魔王石を紛れ込ませた宝を奪わせるなんて作戦考えたんだね」

「あやつめ学習をせんものよ」


 ドワーフは意気揚々と語る。


 それはいいんだけど、クローテリアは僕に爪立てないで。


「ふーん、それで独り占めしたワイアームはどうしてドラゴンになったの?」

「変身が得意な妖精であり、仲間に黄金を渡さぬため、自らドラゴンに変身して地中に潜ると黄金を抱え込んだ。しかし天使の悪事もろとも神に露見し、ワイアームはドラゴンの姿から戻れぬようにされ、怪物のドラゴンとなったらしい」

「らしい、なんだ?」

「わしらは神など知らん。奉るのは大地の深淵に住まう精霊のみよ」


 良くわからないけど、宗教関係なら突っ込まないでおこう。


「あれ? ってことはワイアームの宝の中に不幸になる腕輪があるんだ?」

「そうだ。だからワイアームを退治する人間はいても狙いは宝ではなくその不老の血。もしくは強靭なドラゴンの肉体だ」

「昔話にはなぁ、伝承の忠告を無視して宝を全て己が物にした人間がおったそうじゃ。そ奴は人間の王となるほどの功績を立てたが、最後には愛した女の策謀で殺されたらしい」


 こっちもらしいなんだ。

 戒めみたいだしそんなものかな。

 色んな生き物がいるこの世界でも、アルフのように知識を引き継ぐことのほうが珍しいんだろう。


「さて、ドラゴンの恐ろしさがわかったならその小さいのを献上しろ」

「だからなんでそうなるの。嫌だって」


 まだ諦めてなかった。

 いい加減僕も本気出そうかな?

 ドワーフに囲まれた状態で本当にクローテリアを奪われたら守れるかわからないし。

 先にドワーフを蹴散らして…………。


 僕が危険思想に流されかけた時、知った声が部屋の外から聞こえた。


「通してくれよ! こっちにフォーいるんだろ!?」

「おーい! フォー、無事だよねー?」


 ディートマールとマルセルだ。

 どうやら無事だったらしい。


「ちょ、いったいどれだけドワーフいるのさ!?」

「お願いですから通してください」

「もう跨ぎ越して先に行かせてもらうぞ」


 テオとミア、エルフ先生の声も聞こえる。

 そしてエルフ先生が一番に入り口に姿を見せた。

 本当にドワーフの頭の上跨いできてる。


 って、腕にドワーフ抱えてる?


「おうおう! 本当にあの時の子じゃないか! そのエルフの子はこのロークが身元を保証する! すぐに不当な拘束を解いて入国させるべきだぞ!」

「ロークだと? ふん、ちょっと大通りに店を持っているからとただの鍛冶屋が何を言う」


 城のドワーフが毛深い眉を顰めた。

 ロークと名乗ったドワーフは、ビーンセイズで助けたドワーフのようだ。


「見栄っ張りの城者が、良く聞け! その子はな、妖精王の使者だ!」


 ロークの宣言にドワーフがざわつくと、今までの押しの強さが波のように引く。

 どうやらアルフの権威を使えば早かったようだ。

 話し合いって難しいなぁ。


隔日更新

次回:悪魔の食堂

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