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267話:やりすぎた反省

他視点入り

 混迷のシィグダムからエイアーナに戻り、森へ向かおうとしていたところでシアナスとブランカが戻って来た。


「無事だったか!」

「「ご無事で!」」


 戻った従者たちはランシェリスと同じことを言う。

 これは森で異変と同時にシィグダムでのことを聞いたのかもしれない。


「二人とも、悪いけれど旅装を解く前に話を聞かせなさい」


 私は安堵するランシェリスの代わりに、他の者にも準備を整えたまま待機を命じた。

 一度指令室として借りてる教会の一室に戻り、森で得た情報を話すよう促す。


「シィグダムが悪魔を擁していた、か」

「その上その悪魔を召喚したのは流浪の民の可能性が高いなんて、よくやるものね」


 シアナスとブランカはあのユニコーンから情報を貰っていた。


 さらにはアイベルクス軍も動いていたことを考えると、もし成功していれば森の南半分を大道で分断できただろう。

 妖精王も危ない状態だったため、妖精には混乱が起きていたという。


「ユニコーンどのは団長方にお会いしたものの、戦闘にはいたらなかったと」

「あぁ、あまりの変わりようにフォーレンだと信じられないほどだった」

「あの、本当に目が赤くなって、誰も生かさなかったのですか?」

「ブランカ? それはつまりあのユニコーンさんの目の色は戻っていたということ?」


 ユニコーン討伐の際、相手は必ず赤目になる。

 そしてそのまま倒すと赤目のままで戻らないのだ。

 戦った後青い目に戻るかどうかを私たちは知らない。


 シアナスとブランカは顔を見合わせて困った様子を見せた。


「それが、赤から戻る途中なのか、紫色をしていました」

「でも、喋ってる様子は普段どおりだったんです」


 紫の目のユニコーンなんて聞いたことがないけれど、正気には戻っているらしい。


 襲ってくることはないと考えていいかしら?

 そんな楽観を抱いていたけれど、シアナスがまだ何か報告があるようだった。


「どうしたの、シアナス? まだ気にかかることがあるならおっしゃい」

「…………実は」


 そして聞かされたのは、魔女の里でのやり取り。


 シアナスは潔癖とも言える理由でフォーレンを拒否した。

 対して仔馬のユニコーンのほうが大人の対応をし、魔女たちもそれに従ってくれたという。


「私は、狭量だったでしょうか? 今さらになって、あの時もっと滞在して森の様子を観察すべきだったかと、己の浅慮に気づき…………」


 判断を間違えたかもしれないとシアナスは悩んでいる。


 確かにその場合、私やランシェリスなら許したふりをして近くで本当に正気であるかを検分する。

 同時に他の危険な生物もいる森から妖精王がいなくなった際の危険を計ろうとするだろう。


「そんなことはない。自らを律するべきと心得る清さは確かに我々姫騎士に必要不可欠だ。

ただ、戦い命を奪うこともまた我々姫騎士に課せられた使命。人間の命を奪った、人間ではなかった。そうして善悪を計るのは間違いだろう」

「今回のことで言えば確かにあのユニコーンさんは殺戮を行ったわ。けれど元を正せばシィグダムが先に禁を犯した。使徒である妖精王との約定を暴力的に覆したシィグダム側に正義はないわね」


 教会や神殿の理屈で言えば、先に手を出したシィグダムが悪い。

 よってやりすぎではあるものの、妖精王に属するユニコーンをすぐさま悪と断じて討伐はしないだろう。


 さらに生臭い話をすると、単体で悪魔を追って蹴散らしたユニコーンに勝てる見込みがなければ神殿は動かない。

 使徒の聖遺物を抱える神殿からしても、魔王石のある城に入り込んで全員を殺すなんてでたらめもいいところだ。

 そんなユニコーンを倒すとなれば犠牲が出ることを覚悟しなければならず、森から得られるものなどないと諦めなければならない。

 だったら介入するだけ損ということになる。


「私たちにフォーレンの討伐命令は出ないと思っていいんでしょうか?」

「ブランカ、ないとは言わない。シィグダムから要請があれば検討はされるだろう。ただし、まずはシィグダムの妖精王に対する侵略行為についての弁明が先だ」

「シィグダムも神殿が使徒と定義する妖精王の住む森に手を出して正当化はできない。だから教会には何も言わず軍事行動を起こしたのでしょうね」

「それで首尾よく森を切り取れたとして、ことが露見すれば神殿から問責を受けるのでは?」


 シアナスは本当に真面目だ。

 信仰を第一に置けばそう動く。

 けれどヘイリンペリアムの欲深い聖職者たちは懐を潤すことを考えるだろう。


 離れたヘイリンペリアムに森の利権は関係ない。

 だったら利権を有する国から森の資源を金に換えて寄進と銘打って回してもらうことを選ぶのだ。


「神殿騎士団はシィグダムには常駐していない。オイセンでもそうだったが、南の国々は北の神殿の顔色を窺うことに意義を見出していないのだろう。同時にその信仰のあり方は神殿とは異なる」


 神殿内部ではなくシィグダム側から語るランシェリスの心中は、まだシアナスに話すには早いということか。


 けれどこの状況を放っておくこともできない。

 エイアーナ、ビーンセイズ、オイセン、エフェンデルラントに続いてシィグダムにアイベルクスだ。

 私たちも神殿の顔色を窺うべきだろう。


「ランシェリス、やはりジッテルライヒに人を回してもらうべきよ」

「そうだな。できれば私も一度森の様子をこの目で見たい」


 ランシェリスも適材適所を考えてくれているようだ。


「シィグダムに半数を置いて来たが、まずジッテルライヒに誰をやろうか」

「私が行くわ」

「ローズ?」

「シアナス、あなたも来なさい」

「は、はい!」

「ローズ、直接行く理由を聞いても?」

「私とシアナスがいれば直接知っている者が話すことになる。ちまちまやり取りしている時間はないわ」


 私の言葉にランシェリスは考え頷く。


「わかった。頼む。なるべく早く戻ってくれ」

「えぇ、わかっているわ」


 私もあまり離れていたくない。

 たぶんランシェリスは私の帰りを待たず一度森へ行ってしまうだろうから。






「僕もやりすぎたと思ってるんだよ」


 貴族の魔学生に捕まった僕を、クローテリアが助けに来てくれたんだけど…………。

 穴から出て小さいまま、僕はそんな言い訳をクローテリアに向けた。


 暗い穴から出て外の明るさに目を細めた僕に、クローテリアはまだ尻尾を激しく降ってる。


「どれのことなのよ? あの地下の骨魔術師なら温いくらいなのよ」

「あれで温いの? 長年住み慣れた場所を追い出されるんだよ?」

「力量を読み間違った相手を呼び込んだ骨魔術師の過誤なのよ。その上あたしを差し出せなんて舐めてるのよ!」

「それは別に」


 いい素材だし。

 って言ったら煩いから黙っておこう。


 あれ?

 もしかしてクローテリア手に入れたら干物にするつもりだったのかな?

 たぶん素材、だよね?

 干物のクローテリアは…………見たくないなぁ。


「失礼なこと考えてるのよ!」

「よくわかったね」

「結局あのグリフォンと同じ四足の幻象種なのよ!」

「違うとは言わないけどちょっと複雑だな。これでも争わない方向に持って行きたいのに」

「ふん! …………それで、何がやりすぎだったって言うのよ」

「シィグダムだよ。さすがに皆殺しはまずかったなって」


 赤目で暴走した僕の行動について、シアナスに言われて気づいた。

 証言者まで殺してしまったせいで、僕もライレフの居場所を聞けずにいる。


「やっぱりこいつ変なのよ。四足の幻象種のくせに」

「え、反省って大事だと思うんだけど?」


 言われてみればグライフって悔しがることはあっても反省しないな。

 もしかして四足の幻象種って反省しないのかな?

 言われてみれば人狼も、それに飛竜のロベロもあれは反省じゃないし。


「うん、やっぱりよく考えて行動したほうがいいと思う」

「なんで今それを言うのよ。あそこ見るのよ。うっかりあんたを捜しに来てその姿見たエルフが地面にめり込むほど後悔してるのよ」

「反省と後悔は違うって」


 とはいうものの。

 確かに倉庫近くの木立の中でエルフ先生が四つん這いになってる。


「見ちゃった…………」


 エルフじゃないし、もっとヤバいとわかってたはずなのに。

 けどやっぱりユニコーンなんて想定してなかったみたいだ。


「エルフ先生は害がなければそのままでいいよ。僕が言いたいのはあっち」


 言いながら人化して指を差すのは倉庫の向こう。

 出入り口の前にいる見張りの魔学生だ。


「今回一人は確実に確保して証言が欲しいなって話」

「え? あ!? ど、どうやって外に!?」


 人化したことで意味のわかる言葉を喋った僕に、魔学生が驚く。

 けど魔学生が気づいた時にはもう、僕の手には薬が握られている。


 笑いかけると魔学生の顔が引きつっていた。


隔日更新

次回:手加減失敗

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[一言] 可哀想な大人が多いなあw
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