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27話:地下での邂逅

「神父さま! 侵入者避けの魔物に、四足の大型獣はいないと言っていたな?」

「そ、そのはずです! 水棲の蜥蜴と虫の魔物を住みつかせたと!」


 ツインドリル団長の確認に、怯えた神父が答えてる。

 ストレート赤毛の美人さんが、鼻で笑ったのが聞こえた。


「蜥蜴を食らう獣にしては、ずいぶんな覇気の籠った唸りだったわね。聞く限り、グリフォンの声に似てたと思うけれど?」

「ローズに同意だ。だが、何故空の覇者が地下にいる?」

「わかりません、そ、そんなこと。王都の地下に、グリフォン!?」


 姫騎士団怖い!

 狼狽える神父の声と比較して、落ち着いてるのが余計に怖い!

 唸り声だけでグリフォンってわかるってことは、グリフォン相手に戦ったことあるってことでしょ?

 綺麗な顔して猛者ぞろいなの!?


「…………まさか、エイアーナ国内で目撃されていたグリフォンでしょうか?」


 栗色の短髪従者の声には、緊張があった。どうやら全員が全員、戦い慣れてるわけじゃないみたい。


「あり得るな。グリフォンはドラゴンと争うこともあれば、ユニコーンを襲うこともある。どちらかにやられて、地下に身を隠したのかもしれない」

「…………ぷ」

「羽ぁ虫ぃ!?」

「ちょっと、グライフ! 唸っちゃ駄目だって!」


 ツインドリル団長の推測に、アルフが噴き出してグライフが怒った。

 もちろん姫騎士団にも聞こえてて、壁の向こうで緊張感が高まってる。


「最悪ね。こっちの言葉わかる知能があるわ。それなりに生き抜いてる固体ね」

「ち、知能ですか?」

「神父さまは、梯子を登って城へと避難してください。幻象種はただの魔物よりも厄介です。中には人間を試すような行いをする輩もいます」

「に、逃げるのでしたら、皆さまも! 本当にグリフォンであるなら、団員全員でかかるべきでしょう?」

「ふふ、今は好機なんですよ。どういう理由か飛びにくい地下に籠ってるなら、こちらもやり方はあります」

「ローズの言うとおりです。何より、グリフォンを王都に放つわけにはいかない。ここで討ちます!」


 殺る気満々! アマゾネスだったー!

 やだー、やっぱり姫騎士団とはお近づきになりたくないー。


「フォーレン、お前には幻術かけて見えなくするから。嘶くなよ?」

「羽虫、どうせなら俺にもかけろ」

「もう補足されてるから遅いし、お前羽ばたいたら一発で場所割れるから無駄じゃん」

「ちっ、ならばこの音くらいはお前が対処しろ」


 吐き捨てるように命じて、グライフは全身に力を込めた。


「アルフ、音遮って!」

「うぉ、そういうことか!」


 僕たちが対処するのも確認せず、グライフは地下道に向かって咆哮を放った。


「ぎゃ…………!?」

「ひぎぃ…………!?」

「く…………」


 広くもない地下道で響く咆哮。

 鼓膜破れたんじゃない? 大丈夫かなぁ?


「よし、行くぞ」

「えー?」

「フォーレン、ここで同情しちまうのか?」

「だって、耳痛そうじゃない?」

「仔馬、貴様あとでその軟弱な考え改めさせるからな」

「え、なんで!?」


 僕の抗議を聞かず、グライフは元来た道を走り出した。

 振り返ると同時に、隠し扉が吹き飛ばされる。


「グリフォンを確認! 動ける者は私に続け! 奴の足を止めるぞ!」

「二番、三番隊は残れ! 他は副団長の指示に従え!」


 ストレート赤毛さんは副団長らしい。

 殺気に満ちた目をして、姫騎士団の先頭を走って来る。


「一番隊、水だ!」

「「「「水障壁ウォータウォール!」」」」


 騎士団四人が胸のブローチを握り締めて叫ぶと、魔法が発動した。

 グライフの行く手に水の壁がせり上がり始める。


「笑止」


 けれどグライフも風の魔法を発動して翼を打ち、水が進路を塞ぐ前に加速した。


「副団長、風魔法の使用を確認!」

「四番隊、風を乱せ!」

「「「風乱流ウィンドブレイク!」」」

「おっと、させねぇよ」


 アルフが指を鳴らすと、それだけで姫騎士団の風は掻き消えた。


「やっぱ人間相手のほうが、魔法の乗っ取りは簡単だなぁ」

火乱舞ファイアボム!」

「うわ!?」


 アルフが余裕でいたら、赤毛の副団長が単体で火球を乱れ打ってきた。

 グライフとアルフが二人がかりで火球を逸らしたり打ち消したりして対処する。

 その間に速度が緩まると、また水の壁で行く手を阻もうとして来た。


 戦い慣れてるって本当に怖い!

 気を抜く暇をくれない。一回や二回失敗しても次の手をすぐに打って来る。

 僕はグライフの背中に乗ってるだけだけど、姫騎士団のヤバさを肌で感じた。


「グライフ、右に避けて!」


 僕は投げられた縄に警告をする。

 グライフは縄と見て避けた後に不満の唸りを上げた。

 けど、縄は落ちた途端、床を縛ろうとするように独りでに丸まって硬く締め付ける。


「魔法道具か。良くわかったな、仔馬」

「いや、この状況でただの縄投げないだろうし」

「おいおい、まだまだ魔法の縄持ってるみたいだぜ!」


 姫騎士団は縄を投げる者、魔法で縄を操る者に別れた。


「第一射、放て! …………第二射用意、放て!」

聖封縄ホーリーバインド!」


 副団長の掛け声に合わせて、縄同士がこんがらがらない数を調整して嗾けられた。

 そして縄の回収をする間、副団長を中心に、魔法が放たれながら足を鈍らされる。


「距離は詰められないけど、これってヤバいな」

「いっそ、ここを崩落させて奴らを埋めるか」

「駄目だよ、グライフ! 最初の偽装水路に戻って。あそこ、追っ手を止めるための隔壁あったから!」

「目端の利くことだな」

「僕、視界は広いからね」


 広すぎて遠近感は、人間の目よりあやふやだけど。


 今、絶賛襲われてるけどさ、姫騎士団的には悪いことしてるわけじゃないんだよね。

 僕たちの種族が危険だから、倒そうとしてるわけで。

 いや、僕個人を指して危険だ! なんて言われたらちょっと怒るよ? 知らないくせにいきなりかって。

 けど、グライフはねぇ。

 僕を問答無用で襲った前科があるから。

 今でこそ話通じるけど、上から目線で他人の話聞かないところ残ってるし。

 そりゃ、ただの人間だったら命の危機覚えるよ。うん、わかる。

 だから、今は逃げる。

 戦えば勝てるだろうけど、戦う意味もなければ、怪我するリスクを負う価値もない。


「ちょっと、あいつらの魔法のノリがわかって来た」

「アルフ?」


 なんだか楽しそうな声を出したアルフは、僕の背中で大きく両腕を開いた。


「地は厳然と、水は流麗に、火は激烈で、風は奔放!」


 まるで呪文でも唱えるように言葉を並べたアルフは、魔法を放つ。

 姫騎士団は一人一属性の魔法を使っていたのに、アルフは一気に四つの属性の魔法を放ってみせた。


「伏せろ!」


 副団長の号令で、姫騎士団は走る勢いのまま伏せて身を護る。

 風が吹き荒れ、炎が爆ぜる。巻き起こった水に打たれ、被った泥が一瞬で固まった。


「く…………!? ただの泥だ! 追跡続行!」

「副団長! 四属性を操るグリフォンなど、聞いたことがありません!」

「あれは特殊個体なのでは!?」


 あ、そうか。

 妖精のアルフって人間には見えないんだっけ?

 全部グライフがやったと思ってるみたいだ。


 懸念を口にしながらも、赤毛副団長の命令に従って追跡を続行してくる姫騎士団。

 奉職意識高くない? ちょっとは躊躇おう?


「うーん、これで怯まないかぁ」

「姫騎士団と言えばそこらの二男三男で作られた騎士団より、よほど有能だと聞こえるほどだぞ」


 騎士団って、家を継げない貴族子弟が入るのが普通なんだって。

 アルフのくれた知識にもある。

 国によっては、騎士団は儀仗兵的なお飾りの意味合いが強い場合もあって、ゴリゴリの実践重視な姫騎士団は騎士団の中でも特殊らしい。


 なんで初めて出会う騎士団がよりによって…………。

 強敵と書いて友と読む、なんて聞くけど、絶対嘘だ。

 こんな命の危機しか感じない相手と、僕はお友達にはなれない!


「…………なんか、フォーレン今、このグリフォン否定すること考えてねぇ?」

「え、姫騎士団について考えてたよ?」

「よし、仔馬。内容如何によっては今度は俺がお前に乗って使ってやるぞ」

「全裸で!? やだ!」

「男が乗るの嫌とかじゃないんだな、フォーレン」


 ユニコーンとしてはそこなんだろうけど、僕は全裸の男に乗られるのが嫌! 絵面が嫌! 乗るならせめてグリフォンの姿で乗ってよ?


「ふ、俺の予想をことごとく外してくるとは。本当に飽きぬ奴め」


 グライフが強く足を蹴った途端、僕は逃せない匂いを感知した。


「グライフ止まって! 残りの姫騎士に回り込まれてる!」


 グライフが大きく羽根で空を打って止まると同時に、嘴の先を白銀の光が一閃する。

 潜んでいたツインドリル団長が、白く光る剣でグライフの首を狙った攻撃だった。


毎日更新

次回:地下での攻防

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