256話:魔法学園に引きずり込まれる
「ごっふぅ!?」
副都の門で止められた。
それはいいんだけど、兵と一緒に出て来た魔法使いおじいさんが僕を見て変な声を出した。
「そそそそ、そ、そそ、そ、そそそそそそ…………」
「え、大丈夫? すごく小刻みに震えてるけど」
「フォー、何したんだよ」
ディートマールやめて、門番が僕を疑ってきてるじゃないか。
「おい、お前」
「待てぇい!」
僕を詰問しようとした門番を止めたのは魔法使いのおじいさんだった。
「ちょっとこっちこい! いいから! …………お前さん、大金貨五枚はくだらない剣を無造作に帯びてるエルフを相手に賠償できるか? マントにも相当な魔法が織り込まれている上にマントの下からする金属音が装身具であるなら剣と並ぶ逸品かもしれん」
「ごっふぅ!? 俺が人生三回やり直しても無理っす!」
魔学生には聞こえてないみたいだけど、魔法使いと門番のやり取りは人間より耳のいい僕には聞こえた。
そして妙に丁重に門を通らせてもらえる。
なんか門番の顔にそんなのつけてる奴の気が知れないって書いてある気がした。
「わ、すごいね。見たことのない店ばかりだ」
「なんと! ここから向こうに見える時計台まで全部魔法関連の店なんだ!」
「細い柱が道沿いに並んでるのはなんでだかわかるか? わからないだろうなー」
自慢げなマルセルに続いてテオがわからないって言ってほしそうに聞いてくる。
「あ、街灯があるんだね。魔力が流れる感覚あるから魔法で灯りが点くんだ?」
「テオ、有名なんだからフォーだって聞いたことくらいあるわよ」
ふてくされるテオにミアが呆れて笑った。
僕としては馬車が通るために歩道が作られてるほうが目を引く。
まんま車道だし、他の王都にも馬車道はあったけど段差付きで歩道が作られてるのは初めて見た。
「ちらほら幻象種もいるし妖精も多いんだね。これならクローテリアも出て来て平気じゃない?」
「嫌なのよ!」
マントの下に隠れてしまってるクローテリアは断固拒否する。
ここに来るまでに魔学生がドラゴンを退治して手に入れられる素材の話をしたせいだ。
この国の魔法関連の店には退治されたドラゴンの部位が入るらしい。
「フォー、そのドラゴンあんまり見せないほうがいいと思うぞ」
ディートマールが注意すると、他の魔学生も頷く。
「小さくて取るところ少なすぎるけど、ドラゴンってそれだけじゃないしね」
「小さいからこそ欲しがる奴を、自分は知ってるよ」
「幼体から慣れさせて使い魔にって魔法使いは多いと思うわ」
そういうものらしい。
でも気になることがある。
「クローテリア、君ってこれ以上大きくなるの?」
「…………わからないのよ」
「僕と会ってから大きくなってないよね?」
「元から育つようなドラゴンじゃないのよ。だから本体だけが死んであたしだけが残るならその時はあたしが怪物としての大きさになるかもしれないのよ」
「それ、クローテリア平気なの? 元がいなくなって平気?」
「…………わからないのよ」
うーん、クローテリアもわからないのかぁ。
前例がないならアルフやグライフに聞いてもわからないかな?
メディサも経年で心持ちは変わっても、姿は変わってなかった。
怪物になった時から外見は変わらないとしたら、クローテリアに成長はないんだろう。
「クローテリア、ずっと小さいままかもね」
「そうなのか? なんかがっかりだな」
「黙れなのよ! あたしの恐ろしさを知っても同じこと言えるなのよ!?」
「ちょっと、クローテリア。出て来ちゃ駄目だって」
僕は激しく尻尾を振るクローテリアをマントで包んで、ディートマールに向かわないように脇に抱えた。
「ディートマール、ドラゴンさんが怒ってるわ。虐めちゃ可哀想よ」
「でもがっかりする気持ちはわかるって。ドラゴンなのにさぁ」
「ドラゴンって強くて怖いけどかっこいいはずなのにね」
ミアが窘めたのにテオとマルセルが油を注ぐ。
「ふざけんななのよ!」
騒ぐクローテリアに振り返る人がいるけど、どうやら幻象種のようだ。
「さ、先を急ごう!」
さすがに怪物がいることにまで気づかれるとまた役人に捕まるかもしれない。
僕は人通りの多い道を速足で進んだ。
もう少し魔法のお店、見たかったな。
「…………それで、ここは何処?」
「なんだい、フォーはジッテルライヒの言葉がわからないの?」
テオが今度こそ答えを言おうと得意げに聞いて来た。
でもディートマールのほうが早い。
「ジッテルライヒ魔法学園って書いてあんだよ」
「こっちこっち! 僕らの教室があるんだ」
「いや、読めるんだけどって、え、教室? 入るの?」
「私たちが魔法を学ぶ場所のことよ」
「そ、そうじゃなくて」
僕は魔学生に引っ張られて魔法学園の敷地に足を踏み入れる。
テオからは八つ当たりぎみに背中を押された。
部外者が入っていいの? なんて言えずに教室へと連行される。
しかもそのまま魔学生に囲まれて動けなくなってしまった。
「本当にドラゴン! すごい、初めて見た! かっこいい!」
「綺麗な黒! 羽根もしっかりついてる! わわ、牙もすごい!」
「もっとあたしを褒め称えろなのよー」
クローテリア、あんなに怯えてたのに。
小さいから魔学生も怖がらず、珍しさもあってちやほやされたのが嬉しかったようだ。
森ではなかった扱いに上機嫌なのが良くわかる。
「クローテリア、ほら爪が引っかかってる。破いちゃ可哀想だよ」
「む、人間の服は弱すぎるのよ」
クローテリアの爪で穴が空いてしまった魔学生がいたけれど、それでもドラゴンに触れらたことで気にしないと言ってくれる。
それどころか小さなドラゴンが触らせてくれると他の教室からも生徒が押し寄せて来た。
「あの四人何処? さすがに生徒が集まりすぎじゃない?」
「ふふん、あたしの人気を見たなのよ?」
小さいからクローテリアは気にしないんだろうけど、あまり近づかれると僕は角が危ないんだよ。
と思っていたら突然魔学生が引く。
見ると入り口に身なりのいい生徒がいて、取り巻きらしい他の生徒が僕の周りから他の魔学生をどかしていた。
身なりのいい生徒は自分が偉いことを確信してる自信に満ちた顔だ。
もしかしてあれは貴族なのかな?
「おい、そのドラゴンを寄越せ」
「面倒そうなのが来たのよ」
取り巻きを連れた魔学生にそんなことを言って、クローテリアは避難するように僕の肩に乗る。
「君をご指名みたいだけど?」
「面倒な奴は嫌なのよ」
僕もそうなんだけどなぁ。
貴族らしい魔学生な慣れた様子で指を鳴らす。
すると取り巻きが金属音のする袋を持ってきた。
「これは手付金で大金貨五枚分の金貨だ。その竜を売れ」
「嫌だよ」
「口の利き方を知らないのか?」
「君は交渉の仕方が下手すぎるね」
「なんだと!? 父上に言いつけられてもいいのか! いや、僕が誰かわからない田舎者だな?」
「田舎って何処を中心にして言ってるの? 僕この国の者じゃないよ」
「それでも国にいられなくさせられるほどの権力者だと言えば、僕に逆らうことのまずさがわかるだろう」
「わからないよ。それの何が困るの? それとも国ってこの国以外も入るの?」
どっちにしても森には関係がない。
いられないようにされるなら見つからないように動けばいいだけだし。
と思ったら、机の上に乗るディートマールが声を上げた。
うん、魔学生に押されたのかだいぶ離れてたみたいだ。
「上級生で貴族だからってそんな我儘通るかよ!」
マルセルとテオも机に登る。
行儀の悪いこと真似しちゃ駄目だよ。
「そうだそうだ! 冒険者にそんな脅し通じるわけないよ!」
「大金貨五枚なんて、フォーが持ってる剣より安いじゃないか!」
門番と魔法使いのお爺さんの声は聞こえてなかったはずだけど、テオ自分で目算したの?
「大変! 先生が来ちゃった!」
教室の外にいたらしいミアが入り口でそう言った。
言った時にはもう背後に大人が立ってるんだけど。
「ここか。勝手に部外者を入れて騒いでるのは」
静かだけど叱りつけるような雰囲気の声だ。
教室の入り口を見ると、相手は金髪碧眼で耳の尖ったエルフだった。
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