表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
260/474

253話:目立ちすぎた

 ジッテルライヒについて、僕は徒歩で魔法学園のある街を目指していた。


「まだ先みたいだね。思ったより町少ないし地図貰えて良かった」

「説明書きまで加えてあるなんて、よっぽどガルーダがいい取引だったのよ」


 ビーンセイズの冒険者組合でもらった地図を眺める僕に、クローテリアがそんな邪推をする。

 けどまぁ、わからなくもない。

 地図には主要都市の説明書きと一緒に、お勧め宿屋や食事処まで書かれていて、地図の裏までその説明書きは及んでいた。

 僕が文字を読めると知って、冒険者組合のおじさんと女性職員が言い合いながら書いた結果だ。


 ガルーダを売った時に融通してもらった馬車は、ジッテルライヒに入ってすぐの街まで送ってくれた。

 そこから馬車の案内もあったけど、正直僕が乗ると馬の調子が悪くなるから乗り心地良くないんだよね。


「ジッテルライヒって、思ったよりビーンセイズと変わらないね。エイアーナからビーンセイズに行った時のほうが建物に違いがあったよ」


 主観だけど、ビーンセイズ内を移動したほうが変化はあった気もする。


「人間は住む環境によって同じ様式で暮らすのよ。体によって暮らし方の違うあたしたちとは根本的に違うなのよ」


 なるほど、言われてみればクローテリアの言うこともわかる。

 人間なら寒冷地での暮らし方、熱帯地方での暮らし方があるけど僕なんかは体に合った場所でしか暮らせない。

 というかユニコーンが森にいることも驚かれるくらいだから、僕を例にするのは特殊すぎるかな?


「エイアーナとビーンセイズは環境、つまり文化が違うんだね。けど、ジッテルライヒはそんなに変わらない文化圏ってこと?」


 そんなことを考察しながら、僕は飛んで来た矢を避ける。


「殺るのよ?」

「一応言い分聞いてみようかな。ということで、適当に無力化して連れて来て」


 近くの妖精に声かける間も、僕を狙って矢が飛ぶ。


 小さな妖精たち話し合って飛んでいった。

 あれ? 矢を射てる人間とは別方向だ。


「逃げたのよ!」

「うーん、楽しそうにしてたからたぶん…………」


 突然地面が揺れて、僕は言葉を切った。

 見ると悪魔のペオルくらいの大きさがある岩でできた大男が立ち上がっている。


 アルフの知識では岩男と呼ばれる存在で、岩の妖精らしい。


「うぎゃー!? なんでこんな! に、逃げろ!」


 拳を振り下ろすだけで木々が潰れる岩男の攻撃に、隠れていた射手が五人、蜘蛛の子散らすように走り出す。


 こっちに来た一人を蹴りで制圧する間に、他二人は岩男の両手に捕まる。

 残り二人は大笑いする小さな妖精たちによって沼に誘い込まれて動けなくなっていた。


「それで、君たちもドラゴン連れのエルフって噂聞いて来たの? 前に襲って来た人にも言ったけど、こんな小さなドラゴン倒したって竜殺し名乗るなんて恥ずかしいからね」

「失礼なのよ! あたしは立派なドラゴンなのよ!?」


 僕の前で正座させた人間たちには通じないから、鳴き騒ぐだけのクローテリアは放っておく。


「一度は警告してあげるよ。でも、次はないからね? 僕は手加減下手で敵対するなら確実に殺しちゃうんだから」


 言い聞かせていると、襲撃者の一人が呟いた。


「手加減…………?」


 そして五人揃って岩男を見上げる。


 何か文句ある?

 岩男にもたぶん角刺さるよ?

 刺されたいの?


「「「「「すみませんでしたー!」」」」」


 僕が本気とわかって襲撃者は謝ってきたけど、本当にやめてほしい。


 ジッテルライヒに入ってから襲われ続けているんだ。

 どうもビーンセイズで噂になって、僕が移動するより早く噂がジッテルライヒで広まってしまっていたらしい。


「たまに手ごわい人がいるのが困るよね」

「こんなか弱いあたしを襲うなんて許せないのよ!」


 クローテリアは僕を盾にしてるから何もしてないんだけどね。

 まぁ、強くても金羊毛レベルの人間だし、ブレスを吐けば怖がってくれると思うんだけど。


 また魔法学園のある副都へ向けて移動を再開する。

 そこにクローテリアは魔王石カーネリアンを隠したそうだ。


「そう言えば、なんで副都に隠したの? この国で二番目に重要な都市なんだよね? 人通りも多いだろうし魔法使いも多いんじゃない?」

「だからこそ、ちょっとくらい怪しい気配あっても紛れるなのよ。それに精神汚染に対する防御もしてる人間多かったのよ。だからすぐには魔王石を見つける奴はいないと思ったのよ」


 実際ジッテルライヒに異変はないようだ。

 クローテリアが持ち運ぶ間は本体のドラゴンが施した一時的な封印が効いていた。

 今はもう封印は解けているはずで、何も起きていないなら誰も見つけていない証拠なのだとか。


「…………でも」

「何?」

「ユニコーンが来襲すること自体が魔王石の呼び寄せた災厄だとしたら、あたしはもう知らないのよ」

「えー?」


 僕が悪いの、それ?


「そこな子供! 貴様が最近噂に昇る竜を連れたエルフか!?」


 いきなり誰何の声をかけられた。

 こういう相手は腕に自信があるんだよね。


「顔に面倒臭いって書いてあるのよ」

「もう君が相手にしない? クローテリアをご指名なんだからさ」

「いいからさっさと倒すのよ!」


 まぁ、結局相手が話通じないって判断して襲って来たから撃退した。

 話を聞くと、こっちはドラゴンを育成して使い魔にしたいって人だった。


「だってよ、クローテリア」

「お断りなのよ。あたしは誰のためにも働かないのよ」

「嫌だって言ってるから諦めてね」

「く、すでに名づけ済みか」


 名づけて従わせてると思われた?

 名前の重要性はアルフに会った時に聞いたし、ロベロも抵抗できなくされていたみたいだからそういうものなのかな。

 ただ僕はなんの条件も付けてないからクローテリア的には自我を強化する以外の意味はないらしい。


「ねぇ、一つ聞いていい?」


 本当に諦めたみたいで敵意がなくなったので質問をしてみた。


「僕は人間より身体能力の高い幻象種なのに襲われるのって、やっぱり子供だから?」


 クローテリアを倒して竜殺し名乗りたい人は明らかに実力不足を自覚してる。

 けどこの人は腕には自信があって正面から来たのなら、勝算があったんだろう。


「いや、身体能力が高いと言ってもエルフは戦いに適さない種族であろう? ダークエルフなら話は違うのやも知れないが」

「うーん、けどたぶん僕が本気で蹴ると君の顎砕けるよ?」

「それくらいなら武辺の者なら誰でもできる」


 あ、通じてない。

 しょうがないから僕は手近な木を何げなく蹴りつけて実演した。

 幹が裂けて大きな揺れで枝も折れる。


 元が脚力の強いユニコーンだから人化してもこれくらいできる。

 っていうか成長期なのか力は強くなる一方なんだよね、今の僕。

 振り返るとクローテリアを使い魔にしたがった人は顎が外れたような顔をしていた。


「できる?」

「無理無理無理無理無理無理! 御見それしましたー!」


 で聞いたらこの国の人のエルフのイメージが偏っていたようだ。


「魔法学園にいるエルフの先生? 冒険者やってる僕がそんな手に職持った文化人と同じなわけないでしょ」

「…………ごもっとも」


 ジッテルライヒの冒険者組合に甘く見ないよう報告を入れると約束して、その人とは別れた。


「見えたのよ。魔法の覆いがついた街、あれなのよ」


 木々の上にいたクローテリアが、何かに気づいて矢のように僕に飛んでくる。


「新手なのよ!」

「街が近いせいか多いねぇ」


 派手な足音で僕もやって来る方向がわかるから、今度は実力のない相手だろう。


 街道を見下ろす小高い崖の上に昇って行ってるみたいだ。

 距離があっても可能な攻撃手段を持ってるのかもしれない。


「よーし! 待ちに待った竜退治だー!」

「人々を苦しめる邪悪な竜使いめ!」

「ここで君の悪行もおしまいだよ!」


 元気な子供の声に、僕は早くも脱力した。

 そして遅れて女の子が叫ぶ。


「待ってみんな! あのフード…………ディート!?」


 ミアが止めた時にはもうディートマールが僕に向かって火球を放ってた。

 遅れて気づいたテオとマルセルが何か言ってるけどもう攻撃魔法使った後だよ。


 僕は魔法で土壁作って対処し、壁を地面に戻しながらフードを取った。


「君たち、ちゃんと相手を見てから行動を起こすべきだよ」

「「「「フォー!」」」」


 魔法学園を前に襲ってきたのは、顔見知りの魔学生たちだった。


隔日更新

次回:エルフ先生は頭が固い

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ