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252話:冒険者組合からの呼び出し

 ちょっと面倒なことはありつつも、僕とクローテリアは順調にビーンセイズ王国を突っ切る形でジッテルライヒに向かって北上中だ。

 けれど立ち寄った街の門番に突然止められた。


「エルフで冒険者のフォーだな。冒険者組合から何処にも立ち寄らずすぐに来るように連絡が入っているぞ」

「え、なんだろう? 特に依頼は受けてないよ」

「エルフの知識が必要な案件でも舞い込んできたのかもな」


 門番に悪感情はないらしく、気さくに答えてくれた。

 僕をエルフだと思っているらしく、冒険者組合の場所も丁寧に教えてくれる。


「あ、そうだ。一応耳を確認させてくれ」

「はい、どうぞ」


 フードを捲ってみせたんだけど、耳じゃなくて顔見てない?


「…………もういい?」

「あ、あぁ! あー、えーと、み、南のほうでガルーダの目撃情報もあったから、生態を聞きたいのかもしれないぞ!」


 言い訳するように声を大きくした門番に、僕はお礼を言ってから離れる。

 すると詰め所らしい建物の中らから別の門番が顔を出した。


「大きな声出してどうした?」

「今! エルフの美少女! 耳確認するって顔見た!」

「お、お前頭いいな! 酒場の踊り子とどっちが美人だ?」


 本当に頭いい人はそんなこと大声で言わないよ。

 悪意はないみたいだったから、僕はそのまま冒険者組合へ向かう。


 初めて来た街の冒険者組合では、三階の個室に通された。

 椅子と机が幾つもあるこれは、会議室かな?

 職員と向かい合って座るとなんだか面接みたいだ。


「…………その、ドラゴンは、いったい?」

「暗踞の森のノームの住処に潜り込んでたよ」


 僕の懐で眠りこけていたクローテリアは、座った震動で顔を出していた。

 興味を失くしてまた寝直すクローテリアの姿に、冒険者組合の運営に携わるらしい女性の職員が驚いている。


 気を取り直すと、紙に何か書いて外にいる職員に渡す。

 ほどなく聞こえてくる足音からすると、武装した人間が外に並んだようだ。

 クローテリアは危険じゃないのになぁ。


「それでは、いくつか質問をさせていただきます」


 本当に面接が始まった。

 けど話す内容は冒険者登録した時のような確認ばかりでさすがに僕も気づく。


 これは単なる足止めだ。


「どうして僕は呼び出されたの? 先を急ぐから用がないならすぐこの街離れるよ」


 街に寄ったのは食料を求めてのことで、ここじゃなきゃいけない理由はない。

 僕は道の草を食べれば足りる、けどクローテリアは自力で狩りができない大きさだ。

 とはいえ、僕たちは食べなくてもすぐには死なないから、何もせず街を出ても問題はない。


 僕の本気に女性職員は別の紙を取り出した。


「あなたがとある町で役人に暴行を働いたと訴えが上がっています」

「それで?」

「居合わせた市民にも目撃者がおり…………」

「だから?」

「…………ガルーダに、追われていたという、情報もあります」

「うん、見てわかるとおり狙われる子を連れてるからね」


 僕の気を引こうとして失敗した女性職員は黙る。

 そして冒険者組合に来てすぐ渡した僕の冒険者証を見る。

 たぶん、取扱注意の印を見てるんだろうな。


 話の持って行き方考えてるのかな?

 アルフのためにも時間を無駄にするのは嫌なんだけど。


「それ全部認めたら捕まったりする?」

「もう…………それが答えでは?」

「僕にも言い分があるけど聞いてくれそうにないし」

「いえ、まず話してください。その上で暴行を働いた罪の償いを」

「じゃ、逃げる」


 言ってすぐさま窓に向かった。


 大抵の人間は僕の動きに反応できない。

 けれどこの女性職員ただ者じゃなかったらしい。

 窓桟に足をかけた僕にタックルを決めて止めた。


「な、なな!? 何をする気ですか!?」

「この高さなら怪我しないから大丈夫だよ」

「そういう問題ではありません! お願いですから話を聞いてください!」

「面倒そうなんだもん」

「大丈夫です! こっちも荒事には慣れてます! あなたを悪いようにはしませんからー!」


 外で待機してた人たちが反応する足音がした。

 騒がれて数で押されると、部屋を壊して逃げることになる。

 それはそれで面倒そうだ。


 僕が悩んでると扉が乱暴に開かれた。


「やっと追いついたぞ、この野郎!」

「あれ、おじさん?」


 入って来たのは魔学生と出会った街で冒険者組合にいたおじさんだった。


「…………なんだ、この状況?」


 おじさんは窓から出ようとする僕にしがみつく女性職員を見下ろして呟く。

 しょうがなく僕はまた椅子に戻った。


 聞いてみるとどうやら僕が役人から脅されたことも、ガルーダに襲われたこともわかってたらしい。

 というかおじさんからの情報で僕が人種売買組織を潰したことも伝わってたそうで、どう話を切り出すか迷っていたんだとか。


「お前さん、もう少し落ち着いて話しを聞け」

「ごめん。先を急いでたから」

「何処行くんだ? こっちとしても冒険者組合に所属してる奴がドラゴン連れ回して移動中なんて知りませんでしたじゃ通らねぇんだよ」

「ジッテルライヒだよ。本当にこの国には通りがかっただけなんだ」


 聞けば、ドラゴン連れのエルフの子供がいると情報が裏で回っていたそうだ。

 おじさんはその情報で僕だとわかって捜してくれたらしい。


「あとお前、鼠退治の依頼達成報告してないだろ。別組扱いだったんだから、あの魔学生どもとは別に報告必要なんだよ」


 わざわざ書類持ってきてくれたんだ?

 さすがにこれは面倒とか言ったら申し訳ない。

 僕は言われたとおりに書いて、おじさんは報告書を受領した。


 待ってくれていた女性職員が咳払いをして話し出す。


「こちらも名目だけは罰を与えたと言える状況が必要なんです。同時に、あなたに文句の言えない実績を与えることで他所から文句を言われないようにします」

「うーん、帰りに通る気はなかったんだけど、戻って来てからじゃ駄目?」

「やって欲しいのはガルーダ退治です。あなたは聖騎士を相手に無傷で制圧し、またガルーダからこうして無事に逃げ果せている。その実力を評価してのことです」


 ようは冒険者組合で討伐隊を作るから参加してほしいということだった。


「なんだ、そんなことでいいんだ」


 僕の答えに女性職員は唖然として、おじさんは苦笑いをする。


「だったらちょうど良かった。お土産に森に持って帰ろうと思ったんだけど、よく考えたらまた面白いことしてって文句言われそうだって気づいたんだよね」


 僕は言いながら妖精の背嚢を開けた。

 グライフに知られると厄介そうだから何処かで処分するか、こっそり森で誰かにお土産として渡そうと思っていたんだ。


 起き出すクローテリアが僕の手元を覗いた。


「何するのよ?」

「うん、素材を買ってもらおうと思って」

「ふーん、肉は残すのよ」

「筋張ってて不味いって言ったじゃないか」

「ふふん、たまの珍味には食べられるのよ」

「うーん、だったら羽根と爪かな? 嘴はコボルトほどうまく取れなかったんだよね」


 おじさんと女性職員は顔を見合わせる。

 おじさんのほうが代表して僕に聞いた。


「な、なんの話だ? もしかしてそのドラゴンと喋ってるのか?」

「うん、喋ってる。あんまり気にしないで。それでこれが」


 妖精の背嚢から中身を取り出すと、ゴムのように口が大きく伸びる。

 出てきたのは僕と同じくらい大きな羽根、僕の腕より太い爪だった。


「ガルーダの素材なんだけど、買ってくれない?」


 沈黙が流れる。


 あれ?


「「はぁ!?」」

「うわ、びっくりした」

「おま、お前さん!? ガルーダどうした!?」

「え? 追いかけて来たから倒したよ」

「たお、倒した!? まさか一人で倒したとでも言うの!?」

「うん。狙いが小さいからその分地上近くまで降りて来てくれて。案外簡単に攻撃当てられたんだ」


 空高くに居座られたらどうしようもなかった。


「羽根どれくらいいる? 何処がいいのかわからないから適当に毟ったんだけど。あ、それとも買い取れない?」

「い、いや! もちろん買い取らせてもらう!」

「待ちなさい! ここは私の管轄よ! 嘴もあるのよね!?」


 争うようにおじさんと女性職員は僕に身を乗り出す。

 倒したガルーダの死体の場所も聞かれた。

 軽くて丈夫な骨を取るらしい。


 その後僕は丁重に馬車を用意してもらってジッテルライヒまで送ってもらった。

 お金が多すぎても困ると言ったらすごく微妙な顔をされたけど、ビーンセイズ王国も悪い人間ばかりではないということがわかった。


隔日更新

次回:目立ちすぎた

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