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251話:ガルーダ遭遇

 僕はジッテルライヒという人間の国に隠された魔王石を探してまた旅に出た。

 ケイスマルクという森の北の国からビーンセイズへ入り、道が見つかるまで北上している。

 僕を魔物と呼ぶかもしれない姫騎士のことがあるから、エイアーナは避けてちょっと行き当たりばったりに進んでた。


「北のケイスマルクの草原を越えたらビーンセイズだからって言われたけど、もうここはビーンセイズってことでいいのかな?」


 アルフに聞いたところ、周辺国を征服したビーンセイズもいらなかった草原がケイスマルクに押しつけられてる状態だそうだ。

 まぁ、悪妖精の住処だから不人気なんだろう。


「結局ケイスマルクってどんな国かわからなかったね」

「村の一つもないままビーンセイズに入れば当たり前なのよ」


 同行者のクローテリアが僕の肩から頭に伸びあがった。


「ところでその頭の飾り良く見せるのよ。前のと造りが違うのよ?」

「あ、ちょっと。フード引っ張らないで」


 まだ草原を抜けてビーンセイズに入ったばかりで周りに人はいない。

 僕は仕方なくフードを降ろしてその下に着けたサークレットを露わにする。


「…………質が落ちてるのよ」

「ペオルも弱ってるんだからしょうがないよ」


 角を隠すサークレットは、目が赤くなった時に外し損ねて壊した。

 正直いつからなかったのか覚えてない。

 邪魔だったからマントや剣は置いて行ったんだけど、サークレットはつけたままだったんだよね。


 忘れ去られていたことを悔しがったペオルがまた作成したんだけど、前と違って繊細さが少なくなったのは僕の目にもわかる。


「これならあの小人の作った爪のほうがいい出来なのよ」

「あぁ、グライフにあげてたやつ?」


 最初にグライフに金装飾をあげようとしていたのは、コボルトであるガウナとラスバブだった。

 エフェンデルラントに金を取りに行った時のお礼の品だ。

 手に入れた金で腕輪を造っていたらしい。


 けれどアルフの封印なんかの時、森を守って僕を迎えに行ったグライフの行動に妖精たちは感謝した。

 だからノームも金を出して腕輪を改造し、金でできた爪を作ったそうだ。


「あれって武器? 爪に被せる感じの装飾?」

「金はそこまで強くないからあくまで装飾なのよ。しかもあのグリフォンは飛行の邪魔になるならつけないのよ。見た目と軽量化に拘った逸品と見たのよ」


 なるほど、そう言われると凝った物だったように思う。

 人化すると爪を腕輪にずらして固定できる造りで、どんな姿でも邪魔にならないようにデザインされていた。

 グライフも気に入っていたように見える。


「お前は腕輪つけないのよ?」

「ウェベンがくれたやつ? いるならあげるけど」

「絶対変な呪いかかってるからいらないのよ!」


 じゃあ僕につけないかなんて聞かないでよ。

 押しかけ悪魔のウェベンは、ペオルが僕にサークレットを与えるのを見て腕輪をくれた。

 けど明らかに禍々しい気配がするんだよね。


「まぁ、アシュトルが言うにはウェベンを即時召喚して肉盾にする道具だって言ってたけど」

「おいおい、こりゃ上玉だぜ。エルフが一人でこんな所歩いてるなんてよぉ」

「いつもは妖精王に聞くのよ?」

「そうなんだけど、今は見えもしないから無理だったらしいよ」

「へっへっへ。いい稼ぎになるだろうな。それにいいお楽しみだなぁ」

「その割には新しい木彫り作ってたのよ」

「これね、シュティフィーたちが協力して作ってくれたらしいよ」

「聞けこらー!」


 なんだか知らない人に怒鳴られた。

 見ると山賊っぽい人たちが僕たちの横に並んで歩いてる。


 まぁ、さっきから言ってる内容考えるとろくな用事じゃないから止まる気はないけど。

 と思ったら目の前に刃物を出された。これは止まるしかない。


「どうするのよ? 殺すのよ?」

「それは困るな。この国を通る間は穏便に行きたいし」

「面倒だから走るなのよ?」

「うーん、立ち止まったからには見ないふりも駄目じゃない?」


 というわけで、適当に捕まえた。

 うん、蹴り入れたらどうにかなったね。


「うぅ…………、エルフがこんなに強いなんて…………」

「くそ、覚えてろよ…………いてぇ」


 山賊が持っていた縄で縛り上げ、僕は総勢六人を近くの町に引き摺って行く。


「困るなぁ。暴力沙汰を起こすなんて」

「うん?」


 役人に突き出したらなんかおかしい。

 山賊の顔を確かめて話し込んでたのは見た。

 それで、僕のほうに来たらこれだ。


「街道から外れた君を見つけて声をかけただけだそうじゃないか」

「明らかに山賊だけど?」

「見た目で判断するなんていけないな。君には暴行の容疑で聴取させてもらうよ」


 ふーん。


「次に何かしたら即時逮捕もあり得るからね」


 真面目に仕事をしているふりをする役人の後ろで、まだ縛られたままの山賊がニヤニヤしてる。


「大きな銀貨一枚で買収か」

「え、その金どうして? あ、ない!? 返せ!」


 僕が銀貨を目の前に掲げると、役人は慌てて取り返そうとする。

 何を話してたかは妖精から聞いたし、この銀貨も妖精が持ってきたんだけど。


「いったいいつ誰から貰って君のものになった銀貨なの?」

「う、うるさい! いいから寄越せ!」


 手を伸ばしてくるのを避けると唾を飛ばして怒鳴られた。


「もっと西のほうでは聖騎士が幻象種を売買してたけど、こっちは役人がやってるんだね」

「ぶ、侮辱だ! 我々への侮辱として貴様には鞭打ちをくれてやる!」

「…………そう。僕を攻撃するなら君は敵だね」

「馬鹿なのよ」


 クローテリアが呟く間に、僕は役人の目の前で跳び上がって顔に蹴りを入れた。

 頬に当たって歯が飛んで行く。


 吹き飛んで来た役人が一撃で伸びている姿に山賊は声を上ずらせて騒ぎ始めた。


「こ、こんなことして許されると思ってんのか!?」

「国を敵に回してただで済むわけないだろ、馬鹿め!」

「何か勘違いしてない? 僕たちは国なんて括り必要ないんだ。山野で生きていけない君たち人間が必要とするだけで、関わりのない僕にとってはただの名称でしかないんだよ?」


 なんで狂人を見るような目をするのかなぁ。

 気にしてもしょうがないから、僕は追って来られないように山賊の適当な骨を一本ずつ折ってその部屋を出た。


 すると外に他の役人が青い顔している。けど誰も僕を止めない。


「ずいぶん幻象種らしくなったのよ」

「そうかな? グライフやアーディだったら息の根止めてたと思うけど?」

「だったら言い換えるのよ。乱暴者になったなのよ」

「その言い方は嫌だなぁ」


 けど確かにシィグダムを襲ってから何かの箍が外れてる気はする。

 人間相手にやりすぎないよう気をつけよう。


 町を出ようとすると敵意の視線を感じた。


「何かいる!?」


 身構える僕に周りの人間は不思議そうな顔をして通りすぎる。


 僕の忠告に反応したのはクローテリアだけだった。


「上なのよ!」


 見上げると雲の合間を動く黒い影を見つけた。


「鳥…………? けど、大きい」


 以前見た悪魔の使い魔の巨大な鳥と同じくらいありそうだ。

 つまり、ただの鳥じゃない。

 あの距離で確実に僕を見てる。


「まずいのよ! あれは駄目なのよ!」


 クローテリアが騒ぐ。

 言葉はわからなくてもドラゴンの声に周りの人間も上を見始めた。


「まさかあれは、ガルーダ!?」


 知ってる人がいたらしく、そんな声が聞こえる。

 町の人間はガルーダという名前に騒ぎ出した。


 アルフの知識には巨大な鳥であり、獰猛で岸壁に住む怪鳥だとある。

 そして主食は飛竜の幻象種だそうだ。


「もしかして、クローテリアも?」

「あれは怪物のドラゴンも襲うのよ!」


 まるで狙い定めたようにガルーダが滑空してくる。


「うわ!? やっぱり見つかってるの!? すごい視力だね!」

「感心してる場合じゃないのよ! あたしを守れなのよ!」


 狙いがクローテリアみたいだし、僕は走って町を出ることにした。

 その間に人間たちは大混乱で右往左往し始める。


 滑空したガルーダは風圧で幾つもの屋根を吹き飛ばし、伸ばした足で煙突をへし折って行った。


「うわ、追って来た!」

「もうユニコーンに戻るのよ! 逃げるのよー!」


 クローテリアが恐慌の叫びを上げると、滑空をし直したガルーダが頭上を掠める。

 するとガルーダの声が聞こえた。


「久しぶりの竜肉だー!」

「それにしては小さすぎない!?」

「小さくとも慰みにはなる! そのドラゴンを差し出せエルフ!」


 うーん、言葉は通じるけど話は通じなさそうな相手だ。

 けど幻象種なら手加減とか考えなくていいよね?

 僕はともかく町から離れるように走り続けた。


隔日更新

次回:冒険者組合からの呼び出し

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