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247話:ケンタウロスの避難

 僕を尋ねて来たのは南の山脈に住むケンタウロスだった。

 先頭に立つケンタウロスは見覚えのある目の形のネックレスをしている。


「あれ? 隣にいるのってビーンセイズにいたケンタウロス?」

「その節はお世話になりました」


 ビーンセイズで聖騎士に捕まっていたケンタウロスは、助けられたお礼がしたいと言うからお使いを頼んだ。


 そのケンタウロスの背中から飛び降りるのは猫と犬は妖精だ。


「いやー、大変なことが起こったようですなぁ」

「うわー、目の色が紫! 見たことないよ」


 ウーリとモッペルが元気に僕の四足の周りを臭いながら回り出す。


「そう言えばグライフとエルフの国に行ってたんだっけ」

「えぇ、そうでさぁ。やっぱりエルフっていうのは長命なだけあって付け入る隙、もとい、新規開拓がしにくいようでして」

「人間に狙われたってことで警戒が強くなってるみたいで、長居してもね~。だから森に行きたいって下僕のエルフと一緒に森に戻ろうとしてたんだ」


 下僕のエルフってユウェルのことだよね?


 どうやら戻る途中でグライフの木彫りが警告音を響かせ、音にケンタウロスが集まって来たそうだ。

 けれどグライフなので襲わずに事情を聞くにとどめたらしい。


「森に異変があったと仰り、身共にこの妖精たちを預けると自ら飛んで行かれました」


 ケンタウロスの賢者はどうやら置いて行かれたウーリとモッペルを届けに来てくれたようだ。


「己はこの群れで冬を越させてもらう約束だったのだが、妖精たちの様子がおかしくなったので様子を見に来ました」


 助けたケンタウロスはどうやら賢者たちと仲良くなれたようだ。


 お互い森の下草をならして座り込み、腰を落ち着けて悪魔の襲撃と悪魔の応戦で森が荒れたことを伝えた。

 アルフが封じられていることは言わない。

 何処から話が伝わるかわからないし、封印を知った人間が何かしてきても危ないから、妖精の混乱はアルフが攻撃されて危なかったせいだということになってる。


「この南のほうは大丈夫だけど、大道から北の森の真ん中がずいぶん焼けてしまったんだ」

「それは大変な時に…………」


 ケンタウロスの賢者は迷う様子で考え込む。


「僕を呼んだってことは何かあった?」

「は、これはご慧眼。…………実は山がおかしいのです」


 水を向けると南の山脈で小規模な揺れが続く異変が起きていると言う。

 他にも季節外れの花が咲いたり、水が突然流れを変えるなどが起こっているそうだ。


「あぁ、ドラゴンが動こうとしてるのよ」


 僕について来たクローテリアの一言にウーリとモッペルまで毛を逆立てて驚いた。


「なんと!? 賢者どのの予言はそのことであったか」


 助けたケンタウロス曰く、ケンタウロスの賢者は冬に備えて予言を行ったらしい。

 すると山が動くという災害としか思えない予言が下ったそうだ。


 つまりウーリとモッペルを送るほうがついでで、実際は災害に備えて相談に来ていたのだとか。


「山での越冬は危険と考え、こちらで春を待つ許可を得られないかと」

「妖精王さまは好きにしろとおっしゃられるでしょうがね」

「ユニコーンさんなら相談に乗ってくれるんじゃないかってぇ」


 つまり冬の間森に避難したいらしい。

 僕に相談して聖騎士に捕まっていた幻象種が森に一時避難したことから、山のケンタウロスも森に避難できないかと思ったようだ。


「僕もこっちにはあんまり来ないから、この辺りって誰が住んでるか知らないけど。ボリス、ここって誰か縄張りにしてる? 人間の国と接してる?」


 ここまで案内してくれたボリスに聞くと、僕たちの頭上を飛び回って答えてくれた。


「人間の国ならオ・ノーリアってとこだな。けど、ここよりもっと東のほうにある国で、この辺りに住んでる人間は国に属してない遊牧民だぜ」


 あ、そんな人いたんだ。

 ケンタウロスも知ってるみたいで頷いてる。

 今は森に簡単には入れないと南の山脈でも噂になっているそうだ。


「近くに人面樹の林があるのと、この辺で有名だったのはカバンダかな」

「カバンダ?」

「頭がなくて腹に口のある大きな人間っぽい幻象種でさ。南のほうから来てこの辺りに住みついてたんだ。人狼並みに打たれ強かったぜ」

「えぇ、その凶暴さは身共も伝え聞いております。しかし、有名だったということは?」


 ケンタウロスの賢者が察し良く先を促すとボリスは頷く。


「ヴァナラの王子が追放されて逃げ込んで来てさ。カバンダ倒してここら縄張りにして、家族呼んでもっと奥のほうに住んでるぜ」


 ヴァナラ? また知らない名前だ。

 僕の疑問に反応してアルフの知識が開く。

 どうやら猿に似た幻象種で、人間より小さく基本的に無邪気。

 冒険好きだったりするようで妖精とは相性がいいらしい。


「確かそこにフォーレンが助けたヴィーヴルとハルピュイアが間借りしてるはずだぜ」


 そう言えばそっちもいたんだ。あの悪魔の襲撃大丈夫だったのかな?

 アルフの封印で僕も色々忘れてたなぁ。


 と思ったら本人たちがやって来たのが臭いでわかる。

 うん、ヴィーヴルもハルピュイアも既婚者っぽい臭いがするんだよね。


「その節は、どうも…………」

「あ、そう言えばユニコーンの姿で会うの初めてだっけ。こっちのほうが話しやすい?」


 僕は森を移動するためにユニコーンの姿をしていたけど、恐々声をかけて来たヴィーヴルとハルピュイアのために人化した。


「本当にユニコーンなんですね」

「二人とも話聞いてたなら、ヴァナラの所に案内してくれない? この辺りにケンタウロスが避難していいか聞きたいんだ」

「はい、それはもちろん」


 うーん、やっぱり僕を怖がってる?


「えーと、二人は生活大丈夫? この森、一人だと大変でしょ?」

「えぇ、ですからハルピュイアと共に自らを鍛え直そうと日々鍛錬を」

「え?」

「今の私たちでは巣を作ったところで人間の魔の手から卵を守ることはできません」

「あ、うん。二人とも卵生なんだね」


 なんか燃えてる感じに拳を握りしめたけど、いいのかな?

 …………いいか、本人たちがやる気なら武者修行でも。

 何もこんな所でしなくてもとは思うけど、自衛は大事だしね。


「無理しないでね。それじゃ、ヴァナラの所に連れて行ってもらえる?」

「実はヴァナラの王子が妖精の守護者が近くに来ていると知り私たちを派遣したのです」

「お呼びするよう言われましたので、どうぞこちらに。ケンタウロスもどうぞ」


 実際会ってみるとヴァナラは猿にしては大きかったけど、猿の獣人より小さかった。

 そしてすごく知的な顔してる。

 知的さは王子がすごく顕著で、さらにはお上品な顔つきをしてた。


 話はすんなり通り、ケンタウロスの避難を承諾し、細かい決まりは当事者同士で話し合うことになる。


「あらー、こんな所にいたのね」

「アシュトル?」


 ヴァナラの集落に大蛇が現われると、下半身蛇っぽいヴィーヴルまで引く。

 知的なヴァナラだったのに、猿そのものの甲高い声を上げて一斉に木の上へと逃げ散った。

 王子だけは全身の毛を逆立てながらも残ったけど、ケンタウロスは腰の弓を握り締めてる。


「僕の知り合いだから攻撃しないで。何かしそうになったら僕が止めるから」


 全員が一目で悪魔とわかったみたいだけど、当の悪魔が全く気にしてない。


「あらぁ、だったらちょっと噛み付いてみようかしら? あん、そんなに見つめないで。冗談よフォーレン。今いいかしら?」

「大丈夫だよ。ケンタウロスのこと後は任せて大丈夫?」


 ヴァナラの王子とケンタウロスの賢者が激しく頷く。

 これは長居しないほうがよさそうだ。


「あっしにお任せくだせぇ。これからはこの森を拠点に一族の猫商人動かして仲買のための予行演習をする所存でさぁ」

「とか言って、旅して回るの好きだからその内森を離れると思うけどね~。当分はいるから森の中の集落の位置を把握したいな」


 悪魔も気にしない妖精のウーリとモッペルは、呑気に手を振って見送ってくれた。

 一族の猫商人ってちょっと気になるなぁ。


 僕はクローテリアだけを連れて森を這って移動するアシュトルと人化したまま歩く。


「私たちの住処まで来てくれるかしら?」

「いいけど、その姿ってライレフとの戦いで傷を負ったから?」

「回復に専念するために縄張りの外では消耗を抑えてるのぉ」


 そう言うアシュトルと大魔堂へ入ると、クローテリアが背中にくっついて離れない。

 コーニッシュは後ろから襲ってくるんだけどなぁ。


「何この魔法陣? 前来た時はなかったよね」


 大魔堂の中央に光を放つ魔法陣があった。

 よく見るとビーンセイズで戦ったブラオンがアシュトルを呼び出した魔法陣に似てる。


「これは私の配下を呼び出す魔法陣よ」


 女性の姿になったアシュトルは、魔法陣に手をかざして呼びかける。


「我が前においでなさい」


 魔法陣から黒煙が噴き出す。

 すぐさま散った煙の中には跪く輝く兜姿の悪魔がいた。


 あれ? なんかいきなり悪魔召喚の場に巻き込まれた?


「大公ご用命により馳せ参じました」


 えーと、何が始まるの?


連休につき毎日更新

次回:悪魔の面通し

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