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242話:また悪魔

 城のベランダには羽の生えた男がいた。

 人間のような姿で服装は貴族の従僕のようにも見える。

 ただ背中に生えた燃えるように赤い羽根が人間ではないことを物語っていた。


 そして何故か僕に満面の笑み?


「あぁ! 遅参申し訳ございません、ご主人さま!」

「え…………?」


 芝居じみた仕草で羽根をばっさばっさしながら寄って来る。


 と思ったら僕の前に悪魔たちが立ちはだかった。


「なんであんたが目をつけるのよ! お呼びじゃないわ!」

「えーい、寄るな! 貴様には勿体ないわ!」

「我が友に近づくな!」


 叫ぶだけじゃなく、悪魔たちは攻撃を仕掛けた。

 アシュトルは爪を伸ばして切り裂き、ペオルは骨のつき出した拳で殴る。

 コーニッシュに至っては何処からか取り出した片手鍋を脳天に叩きつけた。


 全て致命傷を狙う一撃だぁ。


「…………え、え? 何これ? じゃなくて、誰?」

「おーい、俺にもわかるように説明してくれー」


 声だけのアルフがそう言うけど、なんて説明すべきなの?


「えーと、赤い羽根の生えた人間じゃない従僕みたいなひとを悪魔たちが殺した? あ、いきなり死体が燃え出したよ」

「あー、そいつウェベンっていう悪魔だな。死んでも気にしなくていいぞ」


 悪魔の行動にドン引きしていたエルフや獣人、魔女は知ってるらしいアルフの声に恐々燃える死体を見る。


 いきなり殺されて燃えたウェベンという悪魔は、灰になると突然灰が動いた。

 そして明らかに無傷のウェベンが何ごともなかったかのように灰から立ち上がる。


「これだけの悪魔を魅了するとは! さすがわたくしの見込んだご主人さま!」


 しかも大喜びだ。

 今殺されたよね?


「ウェベンは死から復活する悪魔なんだよ。だから殺しても無駄。直接悪魔のわだかまる闇に送り返す以外消えてくれねぇんだ」

「えーと、アルフがそんなに詳しいってことはもしかして森に棲んでた?」

「はい、そのとおりでございます!」


 攻撃の意味がないらしく、ウェベンは元気に答える。

 僕、アルフに聞いてるんだけどなぁ。

 悪魔たちに邪魔されるウェベンは、右に左に忙しく動きながら僕に近寄ろうとしてる。


「やや? もしやそちらの矮小で薄汚く造形にも難がある木彫りが妖精王でございましょうか?」

「丁寧な口調だと思ったけど、実は口悪いの?」

「いや、あいつ主人と認めた相手以外には雑なんだよ」

「なんで僕認められてるの?」


 しつこくしたせいで、ウェベンはまた悪魔たちに致命傷を負わされた。

 ちょうど灰になって答えられない隙に聞いてみる。


 すると今度はグライフが答えた。


「あれだけ血の池を作ったのだ。悪魔が惹かれても不思議はなかろう。その上こやつは無節操だ。憤怒に塗れたユニコーンを選ぶなど馬鹿さは変わっていないようだな」

「あれ、グライフこのウェベンって知ってるの?」


 僕の疑問に今度はアルフが答える。


「ほら、このグリフォン前に面倒な悪魔に付きまとわれたって言ってただろ? あれたぶんウェベンのことだよ」

「おや、そちらにいらっしゃるのはかつてのご主人さま?」


 灰から立ち上がったウェベンの遅すぎる確認に、グライフは不機嫌そうに嘴を鳴らす。


「殺しても殺してもついてくる。そのくせ離れる時には後ろ足で砂をかけるような真似をしおって。不愉快極まりない」


 吐き捨てて横を向くのは、殺しても死なないとわかってるからだろう。


「ご主人さま、それはいつのことですか?」

「ユウェルは知らないの?」


 僕が聞くとウェベンが嬉々として答える。

 うーん、どうしても僕の質問に答えたいって意気込みがすごい。


「二、三百年前のことにございます」


 なのに振れ幅大きすぎいない?

 雑ってそういうこと?


「…………ご主人さまが一度だけ私を良い下僕だと言ったことがあるんですが、こういうことだったんですね」


 ユウェルはウェベンを眺めてそんなことを言った。


 その割にユウェルは買い食いのため逃げ出していたはずだけど、グライフとしては追い駆ける楽しみがあったからいいのかな?


「えっと、このウェベンは追い出したほうがいい?」

「うーん、ひたすら尽して尽す相手を腐らせて堕落させる悪魔だから、フォーレンが禁止すればこっちに敵対はしないはずだぜ」

「だがある日いきなり掌を返すぞ」


 危機感のないアルフに、グライフが忠告をしてくれた。


「それよりも気にかけるべきことがあろう、羽虫」

「なんだよ?」

「何故こやつはここに侵入できたのだ」

「あ、本当だ! アルフ、この城の結界壊れたの?」


 言われてみればなんでウェベンはここにいるんだろう?


 目を向けると聞いてほしそうな顔で僕を見てる…………。

 かまってちゃんすぎない?


「えーと、どうやって入ったの?」

「ご主人さまに忠実なわたくしがお答えしましょう。妖精王が以前森に所属していた悪魔を特に除外していなかったからでございます」

「羽虫ぃ!」

「やっべ! 忘れてた!」


 グライフが怒るとアルフも慌てて何かしようとした。


「あ、駄目だ! フォーレン、ちょっと封印に触れて俺と近くなってくれ」


 繋がり弱くて結界への介入が難しいようだ。

 言われたとおり封印に触ると、僕を媒介してアルフの力が発されるのがわかる。


「ご主人さまは妖精王とどのようなご関係で?」


 ウェベンに答えようとすると、また悪魔たちが立ちはだかった。


「あんたは知らなくていいの。見てわかりなさい、忙しいのよ」

「妖精王よ、結界を調整してこいつを弾き出せ」

「我が友の味覚に悪影響が出たらどうしてくれる!?」


 うん、コーニッシュは何を心配してるんだろう。


「ふふ、わたくしとご主人さまの邪魔などなんと無粋なことを」

「あんたとフォーレンの間にはなんの関係もないでしょ」

「よし、わしが摘まみ出そう。その間に拒否すればいい」

「我が友。あんな悪魔に頼るくらいなら一皿食すごとに二つ僕が知る限り答えよう」


 コーニッシュもちょっと違う気がするなぁ。

 ウェベンもこれだけ邪険にされながらコーニッシュを笑った。


「料理以外に芸のないあなたが何をおっしゃるのやら。ご主人さまのどのような疑問にもわたくしなら完璧にお答えしてみせますとも」

「完璧に…………それはちょっと気になるな」


 僕の反応に悪魔たちがショックを受けたような顔をする。

 別に答えてくれるなら誰でもいいんだけど。


 僕は一応悪魔たちを見回しながら聞いた。

 けどウェベンが先に言葉を差しはさむ。


「どうぞ、なんなりとお聞きください」

「…………ま、いいか。知ってるなら教えてほしいんだけど、怒りの抑え方ってどうするの?」

「は…………?」


 予想外だったのか自信満々だったウェベンが答えに詰まる。

 けれどすぐに立て直してとうとうと語り始めた。


「怒りとは生き物の持つ原初の感情の一つに数えられます。怒りを覚える原因はさまざまでしょうが、危険にさらされたという他害による防衛本能に起因するものとも言われます。これは身体的外傷以外にも精神的な要因も作用し」

「そういうことじゃなくて、単にイライラした時の対処法を知りたいんだけど?」

「…………怒りの要因となった事象を取り除くべきかと」

「違うってば。そんな乱暴なことじゃなくて、僕だけで対処できる方法を知らない?」

「…………深呼吸を行ってはどうでしょう?」


 完璧と言うには苦しい助言に僕はそれ以上聞く気を失くした。


 すると耐え切れない様子で悪魔たちが大笑いし始める。


「ちょっとぉ! フォーレン、そいつにその質問は酷よぉ!」

「くく、体系化された知識系統と詩文についてならば完璧な答えを持っているぞ」

「感情なんていう体系化なんてできないものは専門外だよ。もちろん美味を味わうことに関する歓喜なんかもね」

「あ、そうなんだ。悪魔にもやっぱり得意不得意ってあるものなんだね」


 何故か僕が答えただけでも声を放って悪魔たちは笑う。

 正直、悪役笑いで怖い。


 見るとウェベンは大人しくなってる。

 そしてそんな悪魔の様子にグライフが鳥の顔なのにすごく驚いた表情を浮かべた。


「なん、だと…………。湧き水の如く殺す以外で黙らなかった悪魔が、黙った?」

「石化させても石が割れてしまえば復活する面倒な悪魔が?」

「水に沈めても喋り続けて死なない気色の悪い悪魔が?」

「ね、姉さま?」


 森にいた頃を語るスティナとエウリアをメディサが宥めるように呼ぶ。


 けど、うん。

 グライフが嫌がってた理由はわかった。

 小妖精たちとは違った煩わしさなんだ。

 グライフって本当にうるさいの嫌いだよね。


隔日更新

次回:オブシディアンの行方

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