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238話:魔王石のオニキス

 状況説明や木彫りのことは任せて、僕はお風呂に入るためユニコーン姿で仔馬の館へと走った。

 城から館周辺の森は無残に荒れてる。

 燃えてたり地形が変わってたり、人間技じゃない荒れようだ。


「「きゃー!」」


 館の玄関までくると悲鳴が上がった。

 見ればニーナとネーナが大騒ぎして無軌道に飛び回っている。

 シルフの二人の声にボリスやコボルト、ノームも姿を現した。


「「「「「真っ赤!?」」」」」

「返り血落としに来たんだよ」


 妖精たちはどうやら館にいたらしい。


「わー! フォーレン、酷い恰好ね! 水がいっぱい必要ね!」

「あ、ロミーもいたんだ」

「私もいるわよ、フォーレン。この周辺を守るよう言われていたの」


 シュティフィーは森の監視ができるジオラマが壊されないようにしていたそうだ。


「ごめんね、ガウナ、ラスバブ。服ボロボロになっっちゃった」

「こういう時、私はどのような顔をすればいいんでしょう?」

「妖精王さま無事で嬉しいけど服が破れて悲しいなら笑えばいいと思うよ」


 なんだかラスバブの答えに既視感があるなぁ。

 うん、今は血を落とそう。


 仔馬の館に入ろうとするとまた叫び声が上がった。

 見ればちょうどやって来たらしい獣人のルイユとベルントが妖精王の住処のほうにいる。


「守護者どの、目が…………」

「赤い…………です…………ね?」

「え、まだ赤いの? っていうかこれ元に戻るのかな? ずっとこのままだったりする?」


 メディサが褒めてくれた目だったのになぁ。


 目の色を気にする僕にベルントは肩の力を抜いたようだ。


「どうやら正気には戻ったようだね。飛び出したと聞いた時には戻らないかと思ったよ」

「僕の暴走聞いてたの?」


 ベルントが頷くと、ルイユが経緯を説明してくれる。


「アイベルクスという国の軍が森の東から攻めてきまして。ダークエルフと共に動ける獣人たちで防衛を行いました。すでに軍は退いています」


 ノームは地下の整備をするというので、館の前で別れた。

 他は一緒に仔馬の館の風呂場へと移動する。


 一緒に入って来た女性陣に獣人も気にしない。

 どころかルイユは眼鏡を直しつつ僕を洗う順序を決める。


「血はまず水で落とすべきですよ。お湯では固まりますからね」


 するとロミーがやる気を見せた。


「どれくらい必要? 浴槽一杯にする?」

「いやいや。流水のほうがいい。それに軽く見積もっても三回は洗わなきゃね」


 ベルントも慣れた様子で血まみれの僕の体を見回す。


「服は脱がせる必要もないですね。血で固まっているようでしたら引き裂きましょう」

「ボロボロだから直しようがないしね。あ、帯が絡んでるから服取れなかったんだー」


 ガウナとラスバブは手早く僕から服をはぎ取る。

 そんな僕の周りをボリスが飛び回った


「うわー、服の中まで体毛がまんべんなく赤い。っていうか、まだ乾いてないところもあるじゃねぇか」

「悪魔の飾りも真っ赤! しかも壊れてる!」

「あら? 角に引っかかってるこれは何かしら?」


 ネーナが何かに気づいて手を伸ばす。

 するとシュティフィーがネーナに蔦が絡みつかせて止めた。


「触れてはいけないわ。…………フォーレン、異変はないの?」

「何が? 頭? …………あれ? なんだろうこれ?」


 聞かれて、僕は頭の後ろで何かが揺れていることに気づく。

 振り落とすと硬い音を立てて床に落ちた。


「こっちも真っ赤だけど、なんだろう、この黒い石? ロミー、水かけてくれる?」

「はーい」


 ロミーは張り切りすぎて、黒い石が流れて行ってしまうほどの水を放出した。

 僕の頭の上から。


 洗うつもりだったからいいんだけどね。

 あ、ボリスは逃げちゃった。

 面白がってニーナが追って行ったらネーナも窓から飛んで行ってしまう。


「ふむ、ずいぶんと凝った作りの首飾りだね。重厚さから男性用の物だろう」

「確かあなたはシィグダム王国のほうに走っていたと聞きましたが」


 ベルントとルイユが言うように、たぶんシィグダム王国の誰かの物が引っかかったんだと思う。


 僕が鼻先で黒い石を流されない場所に移動させると、シュティフィーが教えてくれた。


「フォーレン、それは魔王石だと思うわ。フォーレンが平気ならいいのだけど」

「へぇ…………あ! オニキスってこれか!」


 おかしな心象風景で見た知識にあった。

 そう考えると心象風景に移ったのは僕がこれを引っ掛けたからなんだ。


「うわー、誰が持ってたんだろう? これって宝石だし返したほうがいいよね?」

「それだけの返り血を浴びることをしてきたんですよね?」

「行かないほうがいいと思うな。人間が怯えるだけだし」


 石鹸を持ってきたガウナとラスバブがもっともなことを言う。


 一度魔王石のことは置いておいて、僕は血を洗い落とすことにした。

 ルイユとベルントは慣れた手つきで僕の体を洗う手伝いをしてくれる。

 馬洗ったことあるのかな?


「これは専用のブラシが欲しいねぇ。被毛の根元までしっかりついてしまってる」

「では急ぎディロブディアへ戻って取ってきましょうか?」


 ベルントのぼやきにルイユが反応する。

 それってつまり、肌が洗いにくいってことなのかな?


「人化したほうがいい? 専用のブラシって鬣洗えるの?」

「というか鬣専用だよ。獣王さまが立派な鬣のある方だからね」

「体毛は少なくなるので人化したほうがいいかもしれません」


 ルイユに言われて人化すると、手持ち無沙汰のロミーに顔を覗き込まれる。


「やっぱり目は赤いままなのね。深い水のような青のほうが好きだったわ」

「あら、この瞳の色も花か実のようでいいじゃない」


 シュティフィーも反対側から僕の目を覗き込んで笑った。


 洗っては流し、流しては洗ってを繰り返す。


「シィグダム王国に起きた凄惨な被害を知ればアイベルクスも自重するだろう」


 洗う間に僕が何をしてきたかを聞いて、ベルントは乾いた笑いを発しながらそう言った。

 ルイユも僕が知らなかった森の状況を教えてくれる。


「調べたところ、大道のシィグダム側にも軍がいました。本来なら両面攻撃の手はずだったのでしょう」


 僕の暴走で目論見は外れた上に、突然の国王襲撃と死亡でシィグダムの軍は退くしかない状況に陥っている。

 いずれ王都でのできごとがアイベルクスにも伝わるだろう。

 そうなればアイベルクス軍も退くことを選ぶしかない。


 ガウナとラスバブが用意してくれた布で体を拭くと、シュティフィーとロミーが髪を乾かしてくれる。


「開、通、なのよー!」


 地下からそんな声が聞こえた。

 ガウナとラスバブが反応して風のように消える。


「服が来ましたね!」

「土で汚れてないかな!?」


 そんな声が聞こえると、ほどなくして騒ぎが近づいて来た。


「何するのよ!? あたしから持ち物を奪うなんて百年早いのよ!」

「これはユニコーンの旦那さんの物です」

「いいから口を開けさせてよー」


 コボルトが妖精の背嚢を引き摺って来ると、齧りつくように引き摺られるクローテリアがついて来た。


「あ、僕の荷物」

「戻ってたのよ!?」


 僕の声に気づいて妖精の背嚢を離すクローテリア。

 他にもマントや剣、角を持ってる。


「あっちとここの地下通路を侵入者避けに塞いだから、あたしが掘って城まで繋ぎ直してやったのよ。ついでにこの荷物は部屋に放り込むつもりで持ってきたのよ」

「そうだったんだ、ありがとう」


 わかったからノームの剣を離してくれないかなぁ。

 お風呂場の入り口で製作者のアングロスと孫のフリューゲルがすごい見てるから。


「こっちの服は無事でしたね」

「ロミー、マントが土だらけだから洗わせて!」


 コボルトは自由だ。

 着替えてるとクローテリアがおかしな悲鳴を上げた。


「ひぎぃ!?」

「どうしたの? あ、それ魔王石だよ。角に引っかかってて持ってきちゃったんだ」

「それをあたしに近づけるななのよ!」


 風呂場の隅に転がしていたオニキスにすごい拒否反応を示す。

 これも宝だと思うんだけど、クローテリアはそう言えば魔王石が嫌いだ。


 なんだか次から次に騒がしいけど、帰って来たって実感があって安心できた。


隔日更新

次回:封印の正体

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