24話:偽装水路への侵入
「ここから偽装地下水道へと入れます」
そう言ってガウナが案内してくれたのは、まぁまぁ大きな人工物だった。
「なんで林の中にこんな石造りの通路あるの?」
「設定としてはぁ、街の排水をここから流す水道を作ってんだけど、工事の途中で魔物が住みついちゃって封鎖したってことになってる」
ラスバブ、今設定って言った?
アルフは作りかけの水路の上を飛び回る。
「つまり、封鎖してあるっていう態の王族の避難路なんだな?」
「そういうことでーす」
僕はグライフと一緒に、施錠された扉の前に立つガウナを見ていた。
ガウナは小さな体で封鎖された扉の前に立ち、一つ指を鳴らす。
たったそれだけで、鍵は音を立てて外れた。
「うわ、何それ? 魔法?」
「違います。目に見えない手を動かすようなものです」
あ、前にアルフがやってた超能力的な? そう言えばガウナの手、光ってたな。
ん? つまり妖精って、泥棒し放題なんじゃ…………。
僕がそんなことを考えている内に、ガウナはまた手を使わずに扉を開けた。
なんか、山の中のインフラ設備を管理するためだけに作られた、コンクリートの小屋みたいって、前世の知識が囁く。
中にはちょっとした配管と管理弁があるだけで、埃さえ積もっていない。人間が長居したことのない無機質な静けさがあった。
「ここから、地下水路に入れます」
ガウナは奥にある鉄格子を開けて言った。
水の気配はとても遠い。僕たちから見える範囲には、水があった形跡すらなかった。
まぁ、封鎖予定だったなら水路としてちゃんと作る必要もないだろうし。
「狭い!」
グライフは狭いと言いながら、グリフォン姿で羽根を広げる。
うん、グライフの羽根の先が壁にこすれた。
「グライフ、残っててもいいよ。ガウナとラスバブも残って服作るって言ってるし」
「そうだな。確認だけだし、俺とフォーレンいれば十分だ」
「ふん、却下だ」
「でも僕と並んで歩くこともできないし、何かあった時には僕一人のほうがアルフ乗せて走るだけでどうにでもなるし」
人化したら身体能力落ちるから、無理して一緒に行くより残ったほうが理に適ってる。
というつもりで言ったら、すっごい唸られた。
なんで不機嫌?
「大きさが問題だと言うなら、お前が小さくなれ、仔馬」
「えー、無理だよ」
「無理なものか。ユニコーンは山羊から山まで大きさを変えられる」
「え、そうなの!?」
山って、盛りすぎじゃない?
いや、この仔馬の大きさから山羊もずいぶんだけどさ。
「幻象種ならできるものなの?」
「俺は二回りほど大きくなる程度だ。だが、ユニコーンは顕著に体格を変えられる種だ」
「あー、聞いたことあるな。ユニコーンは乙女の膝に乗るために小さくなるって」
僕の背中に飛び乗って来たアルフがそんなことを言った。
どれだけ乙女に弱いのさ、ユニコーン。
そしてアルフの言葉を聞いてできそうだと思えちゃうのが嫌だなぁ。
人化の術より、できるっていう確信が無駄にある。
人化の術がブリッジ状態から立ち上がれ! 並に訳わからなかったのに、小さくなるのって一から十まで指を順に折っていけ! 並にわかりやすい気がする。
「フォーレン、できないならグライフ置いて行けばいいって。さっと走ってさっと戻ればさ」
「できそう、だと思う。小さく、小さく、邪魔にならないくらい、小さく」
僕は自分に言い聞かせるように念じた。
すると、視界が数秒霞む。
「わわ! うわ!?」
アルフの声がいつもより大きくて近い?
振り返ると、人間サイズのアルフが…………。
いや、僕がアルフサイズに小さくなったんだ。
「「おぉー」」
僕はアルフの蜂蜜色の瞳と見つめ合って感嘆の声を上げた。
グライフ山羊って言ってたけど、僕、今犬並みになってる。
「ふむ、いい大きさだ」
言うや、グライフは僕のマントを咥えた。
コボルトに貰ったものをそのまま着てたんだけど、振り子のように振って背中に乗せられる。
「うぐ、マントの使い方違うって。あと、羽根って滑る」
「俺の背をありがたがらず文句を言うとはいい度胸よ」
勝手に乗せておいてなんで睨むんだよ。
「おい、俺を振り落とすな!」
僕の背中から落ちたアルフが、蝶の翅を必死に動かして床への落下を免れていた。
「よし、行くか」
「え、ちょっと! アルフが!」
「あ、この野郎! 置いてくって言ったの根に持ってるな!」
突然走り出したグライフに、アルフが理由を察して叫んだ。
今のサイズでは大きすぎる僕のマントの端を掴んで、アルフは居残りを阻止する。
「待って、これ、僕も、落ちる! グライフ、ちょっと待って!」
「うるさいな。ユニコーンなら少しは根性を見せろ、仔馬」
「ないから! ユニコーンとしての根性なんてあったら、グライフと一緒にいないし!」
「それもそうか」
何を納得したのか、グライフは速度を落としてくれた。
お蔭でアルフもマントを伝ってまた僕の背中に乗る。
「ラスバブに聞いたけど、この先に魔物がいるのは本当らしいぜ」
「え、そうなの?」
「仔馬、その耳と鼻は飾りか。魔物の気配はずっとしているぞ」
グライフに言われて耳を澄ますと、確かに何かが這いずる音や、呼吸音が聞こえた。
鼻には大きな生き物の匂いがある。臭いで大きさわかるのって、前世の人間の感覚からしたら不思議だけど、なんかわかる。
「魔物は侵入者避けで放ったんだそうだ。王族が逃げ出す時には魔物避けの道具を使うらしいぜ」
「そんなのあるんだ」
狭いだけで水はないから、グライフは軽快に進んでいく。
途中に隔壁があったり、横道っぽい行き止まりはあったけど、ガウナが真っ直ぐ進むよう言っていたから、僕たちはひたすら真っ直ぐ進んだ。
「さすがにこのままではいかんようだな」
「魔物っていうのが寄って来てるね」
「そうか、フォーレン魔物初めて見るのか」
アルフがそんなことを言った途端、横道に潜んでいた鰐が襲いかかって来た。
大きな口を開けて突進する鰐に、グライフは羽根を一打ちして飛び上がると、鉤爪の足で一裂きして走り続ける。
「え、今の何? 魔物? 魔物なの?」
鰐じゃなくて?
「魔力持ってる獣は大抵魔物って呼ばれるんだよ。あの蜥蜴も、魔力なきゃあそこまで大きくならねぇし」
「蜥蜴、なんだ?」
なんか、アルフの説明に釈然としないものを感じる。
「えーと、幻象種も魔物って呼ばれるんだよね?」
僕がそんな質問をしている内に、グライフは這いずって来る鰐を次々引き裂いて走り続けていた。
「知能が低いと幻象種でも魔物扱いだな。ま、それで言えば妖精も悪性が強いと魔物呼ばわりだ。前にも言ったけど、人間が勝手に言ってることだから、あんまり気にしなくてもいいぜ?」
「無駄口はそこまでだ。上は任せるぞ」
グライフに言われて、天井を這う魔物の存在に気づいた。
見れば、髑髏顔の蜘蛛が両開きの顎を動かしていた。
「うっわ!?」
糸を垂らして落下して来た蜘蛛を僕は後ろ足で蹴り上げた。
耐久なかったみたいで、壁に当たって潰れる。見なきゃ良かった。
「これ、ずっと続くの!?」
六匹目の蜘蛛を蹴り飛ばして、僕は叫んだ。
大きすぎるマントが地味に邪魔なんですけど。
アルフがマント抱え込んで手伝ってくれてるけどさー。
「ならば、威圧でもしてみろ」
「お前やらないのかよ?」
アルフを振り返りもせず、グライフは馬鹿にしたように答えた。
「俺の威圧は咆哮だ。こんな所でできるか」
あー、こんな狭いところでやったら、耳痛くなるよね。
僕今、人間より耳いいし。
ちなみに人化しても耳は馬みたいに動かせたから、王都では念のため髪の中に隠してた。
「よーし、フォーレン! このグリフォンが鳥肌立てるくらいの一発かましてやれ!」
「いや、やり方わからないって。威圧って何するの?」
「林で、俺が首を触っていた時にやったであろう?」
噛みつくところ調べられて、イラッとして振り払った時?
何かしたっけ?
「ふむ、警告かと思ったが、ただの偶然か。…………下郎が触れるなとでも思って意識を広げてみろ」
「いや、何その上から目線。そんなことできるのグライフだからでしょ」
とは言え、幻象種のことはアルフじゃ教えられないらしいし。
僕は言われたとおりの気持ちを作ろうと目を閉じる。
瞬間、耳に蜘蛛の蠢く音が聞こえた。
次には角に蜘蛛の糸をかけられ引っ張られる。
「!? …………やめろ!」
言った途端、目に見えない波が僕を中心に広がったような感覚があった。
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