225話:夢か記憶か
夜寝る時はユニコーン姿に戻って寝た。
こうすると動物に襲われることない、人間なら音や匂いでわかるから。
「…………で、寝てたはずなんだけど」
気づいたらまた心象風景のワンルームだ。
そう言えばお風呂で寝ちゃった時も心象風景に入り込んでいたし、もしかして寝るとたまに来ちゃうのかな?
「うん、この間と変わりなし。天井なくて、夜空で、床は芝生で、間接照明ばっかり」
というかもうワンルームって呼んでいいのかわからない状態だ。
寝た時にはユニコーンに戻ってたのに、手を見れば人化してる。
「まぁ、仔馬だとこの部屋床に物が多いから動きにくいし、こっちのほうがいいんだろうけど。間接照明何処か飾れるところないのかな? ローテーブルの上の蝋燭降ろすのも危ない気がするし、パソコンデスクはデスクトップでいっぱいか。…………このパソコンが違和感だなぁ」
よく考えると僕、このパソコン触ったことなかった気がする。
「…………まさかのデスクトップ、アプリも含めてただの壁紙とか」
マウスを使ってクリックしても開かないデスクトップは、よくある初期設定の並び。
なのにどれもアプリとして機能してないようだ。
「スタートボタンまでは…………さすがに飾りじゃないか。自分が誰かもわからないのにこういう操作は覚えてるんだなぁ」
僕は迷わず操作して開くファイルを探す。
すると見慣れたアイコンに見慣れない名前の検索エンジンが見つかる。
「アルフってまんまじゃん。きっとこれがアルフの知識だね。そして、検索エンジンもアルフの知識にある物以外は検索結果なしか」
キーボードを使って「神」と検索してみるけど、アルフが開示する以上の知識は出てこない。
いっそ僕の前世の検索エンジンもあればいいのに見つからないなぁ。
「あ、ダウンロードが開く。入ってるのは…………動画?」
特にタイトルはない。
カーソルを合わせると反応したので再生してみる。
瞬間辺りが一変した。
「え!? ここ何処!?」
白い壁のワンルームだったはずが、僕はいつの間にか暗雲の立ち込める荒野に建っていた。
そして眼前に突き立つ岩山に、鳥の影。
「違う…………あれは、ゴーゴン?」
岩山の上から、三姉妹がまるで怪鳥のように叫んでいる。
普段のおしとやかさとはかけ離れたその狂気じみた反応はまさに怪物だった。
「眼帯もない!? これっていったい…………!」
目を閉じようとして僕はようやく体が動かないことに気づいた。
その間にゴーゴンは青銅の腕を振り上げて襲ってくる。
呼んでも反応はなく、身構えることもできないでいると、誰かが僕の前に出た。
顔見えないけど数人の、まるで冒険者か兵士のような恰好の人間たちだ。
「や、やめて!」
どちらを止めたいのかわからないまま声を上げる中、人間はゴーゴンたちと戦い始め、激しい争いを繰り広げた。
「止めて! 止めてよ!」
思わず叫ぶとまた周囲が一変する。
息を詰めて変化に身構える僕の目の前には、真っ暗なメディアの再生画面。
「…………え? 今の、何?」
画面に浮かぶ再生ボタン。
予想はできたけど、もうそれを押す気にはなれなかった。
マウスから手を離した途端、視界が狭まる。
これは何度か経験した目覚めの前兆だ。
目が覚めることに息を吐いた時、もう暗転してしまった心象風景の中、誰かがクリックする音がした気がした。
「朝…………?」
目を開けると昨日寝た場所で、日が昇り始めている。
あれは変な夢だと思っていいのかな?
「あ、メディサの首を見たからとか? でもあそこは心象風景だったはず…………それも夢? それにしてはリアルだったような気がするけど」
あと考えられるあの再生メディアで見た光景の意味は。
「僕の心象風景にあったなら、僕の記憶だったり?」
そんなはずはない。
…………とも言い切れないくらい前世はあやふやなんだよね。
でも日本人のはずだ。
その自覚は思い出した最初からあるから、あんなファンタジーな戦闘身に覚えがない、はず!
「あ、でもそうか。これが初めての転生とは限らないんだ」
僕が実は日本人からすでに何度か生まれ変わっていたら?
その中で転生物のお決まりのように名声を得るために戦う人生があった?
「うーん、想像できない」
性格は違うんだろうけど、今の僕では考えもしない人生だ。
しかもゴーゴンたちと戦うなんて今の僕なら全力で逃げる。
「やっぱり森に帰ろうかな」
なんだか無性にメディサの顔が見たい。
首を見たせいか、夢を見たせいか落ち着かない気分だった。
僕はともかく頭をはっきりさせるため、ユニコーン姿で立ち上がって広い場所へ移動する。
辺りの安全を確認するために見回すと、動く地面を見つけた。
「モグラ?」
地面が線状に隆起しながら僕に向かってくる。
「…………あれ? この匂い、クローテリア?」
「当たりなのよ!」
モグラのようにして地面から顔を出す小さな黒いドラゴン。
土を振るい落として飛び上がる姿は自称怪物の威厳なんてない。
「どうしてここいるの? 森で何かあった?」
「もっと喜んでもいいのよ。あたしが寄り道につき合ってやるのよ」
どうやらアルフから僕が遠回りをすると聞いて来たらしい。
「毎日毎日うるさいのよ。獣人まで騒がしいのが集まった上に、ダークエルフも増えてるのよ! 冬籠りの準備忘れてるのよ!」
館での話し合いはグライフもうるさがるレベルだとは聞いてたけど。
どうやらクローテリアも僕がすぐには戻らないと聞いて逃げて来たらしい。
「クローテリア、一人でここまで来たの? よく僕の居場所がわかったね」
「本当なのよ。どうしてこんな道のない場所歩いてるのよ」
なんだかクローテリアに会ったら森に戻ろうかという気持ちも薄れた。
僕は人化してまたエイアーナの王都に向けて歩き出す。
「前に王都に行った時に通ったんだ。あの時は人化できなかったから人目を避けててこういう所を歩いたんだよ」
「無駄なことしてないで道に行くのよ。あっちなのよ」
「え、わかるの?」
「前に通ったことのある国だから大きな道は把握してるなのよ」
予想外にクローテリアは周辺の地理を把握していた。
「クローテリアって旅慣れてるの?」
「えっへん、なのよ!」
クローテリアは得意げに鼻先を上げて僕の頭の高さを飛ぶ。
「それに居場所がわかったのは名付け親だからなのよ。地面を歩いてる限り大体の位置がわかるのよ」
「え、そうなの? 適当につけた名前なのにそんな繋がりできるんだ?」
「なかなかにいい思いつきなのよ。褒めてあげるのよ」
どうやら僕的には犬っぽいと思う名前をよほど気に入っているらしい。
これは犬っぽいって絶対言っちゃいけないな。
「ところでこれが母馬の角なのよ?」
僕の肩に着地して、クローテリアは剣と一緒に差してる角に尻尾を向けた。
「これ持ち帰ってどうするのよ?」
「うーん、どうしよう? お墓を作るのが順当かな? 作るべきだよね、たぶん」
「知らないのよ。怪物は消えるだけなのよ」
クローテリアの一言に、僕はまたメディサを思い出す。
「クローテリアも消えちゃうの?」
「…………わからないのよ」
呟くような答えは、ずいぶんとか細い響きだ。
「だいたい、どうして墓を作るのかわからないのよ。時間はかかるけどみんな土になって消えるのよ」
「まぁ、そうなんだけど。えっと、そのひとが生きていたことをできるだけ長く覚えておくための目印っていうか。遺されたほうが死んだひとを忘れないためじゃないかな」
墓は家の記念碑なんて言葉が浮かぶ。
これは前世の記憶かな?
僕の肩で考え込むようにクローテリアは羽根を動かす。
「だったらあたしも墓が欲しいのよ。あたしはいたと示したいのよ」
クローテリアの声からは切実な思いが伝わってきた。
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