216話:異種族売買
エイアーナで聞いた闇組織…………聖騎士でした。
碌でもないなぁ。
僕の後ろから階段降りるディートマールがちょっと不安そうに言った。
「本当に聖騎士が幻象種を売ってたのかよ?」
「そう言ってたよ。ここがその商品を隠す地下倉庫だって」
一緒にいたのにこうして聞くのは、ちょっと魔学生たちには見せられないことをして聞き出したから。
うん、ちょっとお薬をね。
子供には刺激の強い状態に陥っちゃうから、建物の裏に引き摺って行って一滴飲ませただけなんだけど。
いらないと思ってたのに使う場面あるなんてなぁ。
一列になって階段を下りるディートマールの後ろから、マルセルが確認してくる。
「つまり幻象種売買を前司祭も一緒にやってたのが怪しいお金の流れだったってこと?」
「そういうこと。そしてやってたのはどうやら前国王かららしいよ。幻象種に限らず異種族の健康に効く素材が欲しかったんだって。で、教会に指令が行って、教会からこの聖騎士団に話しが回って、こういうふうに隠してたんだ」
行きついた扉を開くと暗い地下牢が並んでいた。
ここは宿舎から少し離れた小屋の地下。
細い空気穴が天井近くに空いている以外の灯りはない。
魔学生たちはそれぞれ灯りを魔法で出す。
すると牢屋の中で光っていた目の持ち主たちの姿が露わになった。
「うわ、ヴィーヴルやハルピュイアがいるよ!?」
知らない名前を叫ぶテオの視線の先を見ると、顔だけなら女性の幻象種がいた。
突然のことに捕まってる幻象種は怯えるようだ。
こちらが見るように牢屋の中から僕たちを観察する幾つもの目がある。
アルフの知識でヴィーヴルは下半身が蛇、上半身が女で背中には蝙蝠の羽根が生えていてる幻象種だとわかる。
改めて見ると額にはダイヤが光っていた。
そしてハルピュイアは上半身が女で下半身と腕が鳥の幻象種。
薄汚れているけどどちらも顔は美人だ。
「あの、私の言葉がわかりますか? ドワーフさんよね?」
「あ、あぁ、わかるぞ。お前さんらあの聖騎士の仲間ではなさそうだな?」
ミアが声をかけたドワーフが恐る恐る答える。
捕まった経緯などを話してる声を聞く限り、大体が討伐や保護の名目で連れて来られたそうだ。
そして騙されて抵抗できないようにされた上でここに入れられ、買い手がつくと引きずり出されて戻ってこないのだとか。
僕は聞きながら地下牢を奥に進む。
そして牢屋の間に吊るされてる香炉を回収して回った。
「これ捨てて来てくれる?」
実は街からずっとブラウニーがついて来てる。
茶色い髪に茶色い肌茶色い帽子を被った小人だ。
ブラウニーは嫌な臭いがすると騒ぎながら香炉を外へと運び出して行った。
「カーバンクルなんて初めて見たぜ!?」
「う、うわぁ! キマイラがいる!?」
「あなたは、人間じゃないの?」
「私は夢魔。あちらにはナーガが、こちらにはケルピーが、一緒に入れられているのはケンタウロスよ」
魔学生たちが敵ではないと認識した幻象種たちの中で、人間と意思疎通のできる者たちが答えている。
「やれやれ香を捨ててくれて助かったよ」
僕は近い牢の中から声かけられる。
見れば下半身山羊?
「あれ、サテュロスまでいるの?」
「失敬だな君は! 私があんな品性下劣な妖精に見えるかね! 撤回を要求する! 私はフォーンだ!」
「あ、うん。ごめん。幻象種なんだね」
確かによく見るとサテュロスと違って小奇麗な顔の青年で、動物の足も鹿っぽい。
アルフの知識にはサテュロスに似てるけど気品があるってはっきり書いてある。
けど妖精もいるようだ。
僕が妖精を詰め込んだ牢屋を見ると、真っ黒な馬と目があった。
けど馬じゃないな、この妖精。
なんか本能的にそうわかる。
「君は誰? 鍵を開けるけど、できれば出ても悪戯しないでね」
改心した聖騎士から鍵は取得済みだ。
ちゃんと鍵で開ければ、牢にかけられていた封印が解けると聞いた。
そして中にいた妖精は男女色々だけど、みんな顔がいい。
で、全員が僕の首から下げたアルフの木彫りを見てる。
「王の加護厚き方。感謝いたします。…………これは失礼、リャナンシーの対象でしたか」
顔のいい男の妖精は僕の手を取ってお礼を言ったと思ったら謝って来た。
恋の妖精♂って知識に出てくるってことは、そういうことなんだろう。
「妖精の守護者って称号貰ったしね。助けられて良かった」
他の幻象種の牢も開けると、それぞれ封じられていた能力の戻り具合を確かめ始めた。
うん、こっちはほぼアルフの気配に気づかない。
ただケルピーだけが挙動不審になってるのは、同じ馬だから何か感じるものがあるのかもしれない。
森のケルピーみたいにいきってないならいいや。
「おし、怪我人はいないみたいだな」
「売るつもりで集めてるんだし、傷はつけないって」
ディートマールを笑うテオに、ミアは嫌そうな顔をした。
「ひどいわ。こんなことをするなんて」
「そうだよ。幻象種だって話通じるのに」
「ケンタウロス討伐したことのある君たちが言っても」
つい突っ込んだら、魔学生が重い雰囲気になってしまった。
居合わせたケンタウロスも困り顔だ。
どうやら賢者のほうのケンタウロスらしい。
「お、お前だって群れをやったって」
「そりゃ、手を出そうとしてきたし。自衛くらいはするよ。ちゃんと群れの顔役出て来て謝罪は貰ったし」
「そちらの、嬢ちゃん? は幻象種かい?」
「うん、まぁね」
ドワーフに聞かれ、フード少し上げて顔を見せる。
途端に暗い中でも目の効くナーガとヴィーヴルが反応した。
「その耳、フードの皺の寄り方、まさか」
「ひ、どうしてそのような姿を」
「あ、わかるならこれで」
僕は口に人差し指を立てる。
「君たちには何もしないよ。この子たちの付き添いみたいなものだから」
「俺たちが街に慣れてないフォーの面倒見てやってんだぜ!」
「ディートマールはさっき聖騎士に踏みつけられて助けられたじゃん」
「ここの場所聞き出したのもフォーだったよね」
「でも、流行り病を見過ごせない仲間よ」
魔学生の軽口に、わかってる幻象種も妖精も僕の反応を見る。
そんな恐々窺わなくても怒ってないって。
「それはそれで怖い」
今呟いたの誰?
「まぁ、いいか。今はともかくここから逃げよう」
言った途端背後で階段の軋みが鳴った。
すると香炉を捨てて戻って来たブラウニーが叫ぶ。
「聖騎士が来た!」
言ってブラウニーは明り取りから逃げ出して行った。
「逃げられるひとは逃げて!」
言いながら僕は魔学生たちを背後に庇う。
妖精は形を変えて明り取りに向かい、夢魔は溶けるように消える。
けれどほとんどの幻象種は残るしかなく、何故か妖精のはずの黒い馬は残った。
「ち、やってくれたな」
現われた聖騎士は一目で状況を把握して僕と魔学生を睨む。
聖騎士のほとんどはヴァーンジーンが呼び出して不在だった。
一人戻って来たってことは他もその内戻って来る可能性が高い。
「ここ、他に出口とかない?」
「残念だが俺の後ろだけだな」
聖騎士は冷静に僕たちを見る。
「弱った幻象種を庇ってどれだけ戦えると思っている?」
「そうだね。ここは狭いから魔法を放つなんて自殺行為だ」
背後の魔学生たちを牽制しておく。
本当にやめてね?
生き埋めになっちゃうよ。
「つまり、お前を殺せば後はただのガキか」
聖騎士は僕に狙いを定めたようだ。
さっきの聖騎士とは違い武装してる。
騎士だから武装が標準なんだよね。
司祭に呼び出されてかしこまった格好すると武装って、この状態の聖騎士が多くなると困るなぁ。
「一人で殺せるものか」
背後からそんな呟きが聞こえた。
この声はさっき怒ってたフォーンだね。
僕の正体気づいたのか、妖精の反応で何か察したのか。
うん、他のひとたちも頷くのが気配でわかる。
無駄に聖騎士を刺激しないでほしかったなぁ。
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