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215話:チンピラ聖騎士

 僕は魔学生たちと領主館のある街で冒険者組合に向かった。


「では、こちらの依頼を受領いたしました」


 受付のお姉さんが事務的に受け答えをする。


「よし、行くぞ!」

「「「おー!」」」


 ディートマールに他の魔学生が追随する。

 そんな様子を見守っていると、人魚の鱗を売ったおじさんが僕に寄って来た。


「なんだ、腕試しか?」

「主任。こちらの方は、個人であの子たちの組と合同依頼をお受けになって」

「あぁ、配分気にして同一勧めたが断られたのか」


 受付のお姉さんの手元を見て、おじさんは事情を察したらしい。

 僕たちは同じパーティを組むよう勧められた。

 ちなみに僕は名目では金羊毛。

 だから僕をリーダーにして組めば報酬のランクが上がるらしい。


 なんかポイントカードを作られると今なら無料でお得ですよって勧められてる気分になったんだよね。


「乗り気じゃないなら無理にするなって。一人が好きな冒険者だっているんだ」


 おじさんは受付のお姉さんに言いながら、僕に手を振る。

 どうやら行っていいらしい。


「ありがとう」


 どちらへともなくそう声をかけて、すでに外へ出てしまった魔学生を追った。


「遅いよ、フォー! 早く早く」

「悪者の住処を突き止めに行くんだから、ぼうっとしないでくれよ」

「ヴァーンジーン司祭の代わりなんだもの、頑張りましょ」


 魔学生たちはやる気満々だ。


 僕たちの依頼は魔物化した鼠の駆除。

 元はただの鼠なんだけど魔法的な何かを食べてしまったらしい。


「場所はちゃんとわかってる?」

「聖騎士の宿舎は訓練場もあるから、街を出た広い所だそうよ」


 ミアが答え、みんなで街の外に出るため門へと向かう。


 実はこの依頼はヴァーンジーンの仕込みだ。

 本題は聖騎士の宿舎周辺を調べることにある。

 けど、魔法的な何かを食べた鼠って、どうやって用意したんだろう?


「聖騎士のくせに悪いことして金貯めるなんてひどい奴らだぜ」

「この国に染まっちゃったんだよ。ほら、前司祭も領主も酷いだろ?」


 素直に怒るディートマールに、知った風にテオが答えた。


 行く先は王都で姫騎士団と交代したのはとは別の聖騎士団の宿舎。

 ずっとこの国に派遣されている人たちなんだそうだ。

 前司祭がユニコーン狩りをしたことを報告せず、他にも何か犯罪を起こしているのではないかと怪しんだヴァーンジーンが調べたら、資金の流れがおかしいことに気づいた。

 聖騎士団の資金の流れも同じようにおかしなところがあり、今回この聖騎士団の汚職を疑ったらしい。


「聖騎士の宿舎には隠し財産があるのかな? フォーはどう思う?」

「前司祭は継続的に支給より多い出費がある上で所持金も多かったって言うから、悪いことをしてお金を稼いでいるんだと思うよ、マルセル」


 財産なら食い潰すだけだ。

 聖騎士団という集団が関与しているなら、継続的にできる悪い取引も可能だろう。


 実は魔学生とは別にそういう裏を疑っているとヴァーンジーンから聞いた。

 その上で逸る魔学生を止めるようにと無茶なことを言われてもいる。

 聖騎士団に侮ってぼろを出してほしいけれど、魔学生が無茶をして命を落とすことはさせたくないらしい。


「まずは鼠駆除をきちんとしよう。これは冒険者として受けた依頼でもあるんだから」

「そういうのは本職のフォーに任せるぜ」

「あ、ディートマール狡い!」

「じゃ、僕も!」

「もう、駄目よみんな!」


 僕草食だから鼠取りなんて本職じゃないんだけど。


 ともかく勝手に調べたがる男子に言い聞かせて、五人で鼠駆除を始めた。

 この聖騎士の宿舎は駆除薬使用不可だから手で捕まえるしかない。


「食らえ! 火炎球ファイアボール!」

「うわちち!? 酷いよ、ディートマール!」

「そんな小さな魔法使うから当たらないんだよ! 火乱舞ファイアボム!」

「駄目よそんな火力は! マルセル!」

「なんだっけ? えっと、水障壁ウォーターウォール?」


 姫騎士が使っていた魔法を唱えて、水の壁でマルセルの魔法を撃ち消す。


「おいおい、子供が何遊んでんだよ。うるせぇんだよ、人の虫の居所が悪い時によぉ」


 大騒ぎしながら鼠を追っていると、宿舎からがたいのいい男が現われた。

 たぶん聖騎士だけど柄が悪い。


 魔学生たちも嫌そうな顔でちょっと腰が引けている。


「みんな、鼠は向こうに逃げたし、移動しようか」

「おい、待てよ。聖騎士の俺がうるさいって言ってるんだ。地面に頭擦りつけて謝るのが筋だろうが」


 うわ…………。

 子供相手に何言ってるんだろう? チンピラかな?


「うるせーな。俺たちにかまうなよ」

「ディートマール、さすがに聖騎士にそれは駄目だよ」

「あ、謝ったほうがいいのかな?」

「私たちは何も悪いことはしてないわ、テオ」

「頭下げろって言ってんだ、よ!」


 聖騎士は苛立ちのまま頭に手を伸ばす。

 相手はミアだ。

 僕は手を引いてミアを聖騎士の軌道から外した。


 腕が空ぶった聖騎士は、僕を睨みつける。


「あ? なんだお前?」

「最初に女狙うなんて聖騎士のくせに騎士道がなってねぇな!」

「そうだそうだ!」

「恥知らずー!」


 ディートマールの啖呵を、マルセルとテオも今度は止めない。


「その恰好、魔学生か。魔法しか使えないくせに粋がりやがって」

「なんだと!?」


 あ、まずい。聖騎士の狙いはこれだ。

 ミアを狙って喧嘩を買わせるためだったんだ。


 虫の居所が悪いから子供相手に憂さ晴らしとか、本当に恥知らずの類だった。


「ぐぇ!?」

「さっきの威勢はどうした? あ?」


 聖騎士はディートマールの直線的な魔法を避けて前蹴りを繰り出した。

 倒れたディートマールをそのまま踏みつける聖騎士は性格の悪い笑みを隠そうともしない。


「そ、そんなぁ。自分たちの中で一番力強いのに」

「ディートマール!? この、ディートマールを離せ!」

「やりすぎよ! ディートマールに酷いことしないで!」


 聖騎士の実力を知って引くテオに対して、マルセルとミアは感情だけで挑みかかる。


 長生きしそうなのはやっぱりテオだね。

 でも、仲間を助けようとする勇気は評価しよう。


「勝負はついたでしょ。退いて」


 僕は魔法で周囲の土を聖騎士の顔に巻き上げる。

 突然の目潰しに、聖騎士は顔を庇って距離を取った。

 その間に魔学生たちはディートマールに駆け寄る。


 僕は背後に庇う形で聖騎士と対峙した。


「てめぇも痛い目見たいらしいな」

「しないよ。武器も持ってない相手を一方的に攻撃するなんて」

「舐めやがって。さっきの見てなかったのか? この拳が武器だよ!」


 殴りかかって来るけど遅い。

 ヴォルフィのように牙や爪を警戒しなくていい分余裕だし、やっぱり相手にならない。

 僕は足元がお留守なことに気づいて転ばせた。


 そしてさっきのディートマールにしていたのと同じように踏む。


「こんな軽い癖に、う…………!?」

「重さくらい、魔法でどうにでもなるよ?」


 やってるの僕じゃなくて妖精たちだけど。

 目に見えない石の妖精が聖騎士の上に並んで正座してる。


 相手は素手で一人なのに、こっちは複数でなんて卑怯だけど僕がやると殺しちゃいそうなんだよね。


「すげー! フォー、どうやってるんだ!?」

「魔法って、何も詠唱してないし杖もないのに!?」

「あ! そうか、あの派手な剣だよ! あれが杖の代わりなんだ!」

「魔法の触媒なのね!」


 勝手になんか言ってる。

 よくわからないから否定はしないでおこう。


 もがいて僕の足を掴む聖騎士だけど、その手は草の妖精たちが払いのける。

 紙で切ったような細かい傷がついたその手を、石の妖精が正座して動かないようにした。


「なんでだろう? あまり乱暴なこと好きじゃないはずなのに、君はこうしていても罪悪感がない」

「あ、が…………」


 まぁ、やりすぎも良くないから足はどける。

 そんな僕を見て、妖精たちも順次降りて行く。


 自由になるとわかって聖騎士は跳び起きて身構えた。

 その動きでどうしてこの聖騎士に嫌な感じがするのかがわかる。


「君、なんだか嫌な臭いがする」

「てめぇ、幻象種か!?」


 あれ、なんでわかったの?


毎日更新

次回:異種族売買

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