210話:ここでも信じてもらえない
結果。
門前払いでした。
「偽物ではないんだけどなぁ」
僕たちはまず門番に用件を話した。
もちろん門前払いだ。
なので妖精の背嚢から人魚の鱗を出して見た。
「私は本物だとわかるわ」
ミアは門番の嘲笑を思い出したのか憤慨しながら僕に訴える。
変な色の人魚の鱗は偽物と相手にされなかったのだ。
「けど魔女の惚れ薬とか妖精の変身薬とか嘘くさいしね」
テオがそんなことを言う。
本物なんだけどなぁ。
アルフの余った薬には恋の秘薬もあった。
でもさすがに劇薬売りつけるのは気が引ける。そう思って効果一日限定の魔女の惚れ薬にしたんだけど。
ちなみにアルフ謹製の変身薬は一晩だけ動物になれる。ただし僕には効かない。
本当になんでこんな物入れたんだよ。
「あとフォーの場合、その腰の剣がまず嘘くさいもんな」
ディートマールが悪気なく貶すと、マルセルまで笑う。
「すごく見栄張ってる感じだもんね」
「ノームが作った剣だから、いい物ではあるんだよ」
「「「「嘘だー!」」」」
魔学生にまで笑われた。全然本気にしてくれない。
そう言えばローズも驚いていたんだっけ。
森から離れた国ではノームの鍛冶屋自体お伽噺なのかな?
「色々難しいなぁ」
僕たちは領主の館が見える路地で立ち話をしていた。
こうなったら直接領主に話しをしようということになったんだ。
領主が今外出中だということは門番から唯一聞き出せた情報だった。
信じてない感じの魔学生だけど僕の案に乗るしかないからこうして一緒に待ってる。
「他にもっといいもんないのかよ、フォー」
「すっごい宝石とか、人魚より珍しい魔物の素材とか」
「もうその剣をノームが作った伝説の剣って売り込めばいいんじゃないか?」
好き勝手言っちゃって。
男子はうるさいなー、もー。
「マルセル、人魚を魔物と呼ぶのは失礼よ」
ミアは人魚に思い入れでもあるのかな?
それを言うならケンタウロスも魔物って呼ばないであげてほしいんだけど。
「あ! そう言えば値打ちのしそうな飾り頭に着けてただろ。あれは?」
ディートマールが他人ごとだと思ってそんなことを言う。
テオも何故か本人が手に入れたそうな顔をして頷いた。
「確かにあれなら美術品としても通ると自分は思う」
「いや、これは…………」
実はフードの下に角を隠すサークレットをつけている。
もちろんこれ、悪魔ペオルがくれた物だ。
目立つし争いの原因になりそうだから置いて行こうとしたんだけど、ペオルがすっごい抵抗したんだよね。
着け外しが使いにくいと言ったらつけたままでも消える効果のオンオフ可能にして、なんだかそのまま押し切られた。
「きっと由来がある物なのよ。そんなに簡単に手放せないでしょ」
「そうだよ。魔法使いにとってはすごい装身具は家より大事って言うしね」
ミアとマルセルが庇ってくれるけど、違うんだよなぁ。
由来なんてないくらい最近のものだし、あっても悪魔という因縁付きだ。
あと僕は魔法使いじゃないし、生態的に家いらないし。
「こういう時は向こうから声かけて欲しいけど、そのためにはやっぱり知り合える伝手かぁ」
魔学生がやる気だから張ってるけど、上手くいく気はしない。
すると知った気配が現われた。
何処からか花の香りが漂ってくるような感じだ。所在ははっきりしないのに、いるって確信できる。
けど僕はビーンセイズに知り合いいないはずなんだけど。
「どうした、フォー?」
「大したことじゃないけど、近くに誰か」
そうディートマールに答えると、声をかけられた。
「あの、すみません」
見ると身なりのいい少年だ。
「あなた方も万病薬を求めていらっしゃったのですか?」
「君は…………」
「僕はここの領主どのの居候で、シーリオといいます」
名前を聞いたわけじゃないんだけど。
名乗られたことで魔学生たちは元気に自己紹介を始めた。
その間、僕はシーリオの背後に目が釘付けになる。
「お久しぶりです、フォーレン」
泣きすぎて枯れたような掠れ声。
少年シーリオの背後には、バンシーのカウィーナが立っていた。
「どうしてビーンセイズに? エイアーナで何かあったの?」
「え? どうして僕がエイアーナの者だと?」
シーリオが戸惑うと魔学生も僕を見る。
「フォー? 何を見てるの?」
「あ、妖精じゃない?」
「こいつ妖精が見えるんだよ」
見る限りカウィーナはシーリオに憑いてる。
「エイアーナにいた親族たちは死に絶えてしまいました」
「ビーンセイズの王都にいたって言う親族は?」
「この子と妹、そしてその母親です。王都から離れてこちらに移っておりました」
「そうだったんだ。血の繋がりで言えば母親のほうが濃いんじゃないの? どうしてこの子に?」
カウィーナは不安げにシーリオを見下ろした。
「どうか、力を貸してください、フォーレン。深入りしないよう忠告をしてほしいのです」
「忠告?」
「あの、もしかしてバンシーが見えるんですか?」
シーリオが何も見えない僕の視線の先を確かめてそう聞いて来た。
「知ってるの? 君に忠告を伝えてほしいって」
「はい、母方の父の実家にバンシーがいると聞いてます。最近、エイアーナの親族の訃報を母に報せたそうです」
シーリオは言いながらカウィーナが見えないかときょろきょろする。
うん、見えてないね。
「でも、どうして僕に?」
「この子は今、領主にユニコーンの角で作れる万能薬を、流行り病の村々に配るよう言っているのです」
「君、流行り病をどうにかしたいんだね」
「は、はい! 僕はエイアーナから亡命してきて、その道中、あの村の人たちは大変だったろうって優しくしてくれたんです。自分たちも流行り病の身内を抱えて大変な時に…………」
その時は通りすぎて王都へ向かった。
けれどその王都でも騒動が起きてと話すシーリオに、ちょっと申し訳ない気分になる。
その王都の騒動って、やっぱりダイヤを奪還した時の、だよね?
ってことは王都からこっちに移ることを余儀なくしたのは僕だ。
「父の伝手でこちらに身を落ち着けて。村ではユニコーン狩りで命を落とした人々のことを聞き、流行り病のこともその時に初めて知ったのです」
流行り病が身内に起きた信徒を募ってユニコーン狩りが行われた。
しかもユニコーン狩りが成功しても、老王のために得た物は誰にも使わせず流行り病に罹った者は死に続け。
さらには老王が失脚した後、ここの領主が手に入れ直し込んだため、結局万能薬は配られず今も流行り病に苦しむ者がいる。
「なんだそれ!? 酷い話じゃねぇか!」
「あんまりだよ! 命がけで家族を救おうとしたんでしょ!?」
「それって最初から使わせる気なんてなかったんじゃないか」
「そんなことが起きていて、誰も領主に言わないの?」
魔学生たちは素直に怒って口々に同情する。
シーリオは大きく首を横に振って訴えた。
「言いました! けど、聞き入れてはもらえず。しかも教会のほうも領主の味方で、教会に訴えた村民は一家ごと破門されて生活が苦しくなってしまったと」
碌でもないなー。
それなのに領主へ訴え続けるらしいシーリオ。
カウィーナが忠告してほしいってもしかして、やめさせろってこと?
見ればカウィーナは一つ頷いて見せる。
「このままではこの子の一家も路頭に迷うことになります。弱れば流行り病にかかるでしょう」
「シーリオ、バンシーはこのままだと君が流行り病に倒れると言ってる。領主への言い方はもう少し考えたほうがいいかもね」
「遠回しに言っても聞き入れてはくれないんです!」
シーリオは必死だった。
「一番良くしてくれた家の娘さんは、ユニコーン狩りの乙女としてユニコーンの前に出てまで万能薬を求めたのに!」
思わずじっとシーリオを見ると、カウィーナに不安そうな声をかけられた。
「フォーレン?」
「あ、ごめんごめん」
ユニコーン狩りの乙女、か。
さて、どうしたものかな。
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