209話:人のふり見て
母馬の角を探してやって来たビーンセイズで、妙な出会いがあった。
そのせいで今、魔学生という少年少女からユニコーンの角を見る方法を聞かれている。
普通に忍び込む気だったとか言えないしなぁ。
「…………好事家と聞いたから興味を持ちそうな物を提示しようかと」
「「「「なるほど」」」」
あ、納得してくれた。
良かった。
けどなんだったら興味持ってくれるんだろう?
「で、何持ってんだ?」
ディートマールが興味に輝く目で率直に聞いてくる。
他の魔学生たちも同じ目だ。
ま、眩しい。
混じりっ気なしの好奇心と純真で向けられる視線から僕は目を逸らした。
「て、手の内をそう簡単に明かすわけにはいかないよ」
「それもそうか。何を持ってるんだろう?」
「自分が思うに、あの紫の人魚の鱗よりもっと貴重なものだね」
「つまりジッテルライヒでも手に入らないようなすごいもの?」
ちょっとハードル上げないで。
人魚の鱗はそんなに希少な物だとは思わなかったんだよ。
あと僕が持ってる物って魔女の里の不用品とメディサたちが持たせてくれた服くらい?
あ、アルフが適当に作った薬も確かあったな。
改心薬までもう使わないからって、妖精の背嚢に入れられた。
そんなの僕も使わないよ、アルフ。
「よし! じゃ、さっそく領主の家に行こうぜ! 今度は門前払いされないだろ」
ディートマールに腕を掴まれる。
「ちょ、僕一緒に行くとは…………」
「そう言えば、フォーは何処から来たんだい?」
「確かに。あの人魚の鱗は何処の人魚なんだ?」
ディートマールは素なんだろうけど、否定させないようにマルセルとテオが小賢しく話を振って来る。
絶対僕のほうが年下なのに、なんかこう、子供っぽすぎて魂胆を指摘するのも大人げない気がしてしまう。
「もしかして南のエルフの国から魔の山を越えて来たの?」
「魔の山? え? 南の山脈そんな風に呼ばれてるの?」
ミアの言葉につい乗ってしまった。
僕は否定する機会を失い、そのまま連れだって冒険者組合を出ることになる。
あー…………。
首から下げた木彫りからアルフが笑う気配がする。
困ってる僕を覗き見してたな。
「あの妖精の森から来たの? エルフも住んでたのね」
「危険な場所だから少ないけどね」
僕は諦め気味にミアへと適当に答える。
ダークエルフを名乗るスヴァルトたちを抜いても今はブラウウェルがいるから嘘じゃないし。
「森の奥には番人が守る宝があるって本当?」
「マルセル、番人って誰のこと? 宝と呼ばれるような物はあるけど」
金羊毛も言ってたからたぶん魔王石も宝扱いでいいよね?
あれ、そうなると番人はアルフ?
うーん、戦わないほうがいいと思うな。
変な薬使われるだけだから。
「宝はあるんだ!? ふっふっふ。これでまた魔法の腕を磨く理由が増えた」
「聞いて、テオ。森はとても危険だから、争いを起こす前提で入っちゃ駄目だって」
その年で欲に目が眩んでどうするの。
「おいおい、俺たちを甘く見るなよ! これでも冒険者としてやってんだぜ。ダークエルフなんて怖かねぇよ」
勇ましいディートマールだけど、ダークエルフは森では優しいほうだから。いっそ無害だから。
知らなかった。
無知ってこんなに怖いんだ。
危なっかしくて見てられないよ。
もしかして僕を見てたひとたちみんなこんな気分だったのかな?
それはちょっと申し訳ないし恥ずかしい。
「フォー、私たちちゃんと国境を越えてもいいって学園から許可を貰えるくらいの腕はあるの」
「僕たち、ビーンセイズに入ってから山賊退治の依頼もこなしたんだよ」
ミアとマルセルも自信があるらしく全く僕の忠告を真に受けてくれない。
不安がっているとアルフの知識が開いた。
山賊は武装した農民が主体で、税を払えなくて畑を捨てて山に入った人たちなんだそうだ。
本当に山賊として強くなると国から討伐されるから冒険者にはそこまで強い山賊討伐の依頼なんて回ってこない。
なるほど。アルフまだ覗き見してるね。
「ディートマール、ドラゴン退治とか言っていたけどドラゴンに会ったことは?」
「あるわけないだろ」
「えぇ? だったら何処のドラゴンを退治する気なの?」
「そんなのマ・オシェの悪竜だ!」
マ・オシェは南の山脈地下にあると言うドワーフの国だ。
そこのドラゴンと言えば魔王石持ちで住処から出られなくなっていると聞いた怪物。
動けない相手を悪竜と言って退治するって、どっちが悪かわからないな。
「ちなみに聞くけど、どうやって倒すつもり?」
「そんなの鍛えて強力な魔法で一発だぜ!」
「ふふん、魔法なら僕のほうが上なんだけどね。なんて言ったって大魔法使いだからね」
マルセルも入って来るし、見ればテオも乗り気の顔をしていた。
「ドラゴンはいい。何せ捨てる所がない。血の一滴まで高値がつくんだ」
…………もしかしてこのテオ、守銭奴かな?
「怪物はやめておいたほうがいいよ」
「怪物? 魔物のこと?」
ミアの様子からして、色々わかってないみたいだ。
これは、うん。
そう言えばグライフが出会った当初に説明してくれたな。
人間は混同しがちだと。
今思うとグライフってそうとう親切に説明してくれてたんだな。
色々教えてくれたし、帰ったらちょっとくらい優しく…………やっぱりいいや。
僕を食べようとしたんだし、あれアルフと張り合ってのことだったし。
「人間以外を相手にしてからもう一度考えてみたほうがいいかもね」
アドバイスをしてみたけど変な顔をされる。
「討伐記録のないフォーに言われてもな」
ディートマールはそう言って笑った。
あ、そうか。プレートに書いてあるんだ。
強い魔物を倒したか、高難度の依頼を達成したかがプレートには記されるんだけど、僕は真っ新のまま。
冒険者組合の人には符丁がわかっても、知らない人から見れば僕は駆け出しだ。
確認すると魔学生は十段階評価の五。
金羊毛は八だった。
えーと、これは魔学生が歳の割にすごい、のかな?
「フォーは倒した中で一番強いのは?」
「それよく聞かれるけど決まり文句なの?」
質問して来たテオに確認するとマルセルが頷く。
「量より質だからね」
「私たちも魔物を倒したことはあるのよ。ケンタウロスよ」
あ、倒しちゃうんだー。
「群れを相手に?」
「まさか! はぐれ者が畑を荒らしたんだよ」
「それでも強かったね。ま、僕の魔法が炸裂したけど」
「突進攻撃は厄介だったと自分は思うよ」
「群れだと知っているなら、フォーも倒したことがあるの?」
「うーん、追いかけ回したかな」
また変な顔された。
ちょっとあのことは思い出したくない。
鳥肌立ちそうだ。
あ、サテュロスも思い出しちゃった。
思いついて背嚢の中身を確かめると、角笛入ってるよ。
誰、入れたの?
「どうしたんだよ、フォー?」
「なんでもないよ。ちょっと、ケンタウロスを討伐って申請しておけば良かったと思って」
群れじゃなかったらたぶん人狼より弱いし。
魔学生がケンタウロスを倒せたのは人数の優位と魔法という遠距離攻撃のお蔭だろう。
捕まったらたぶん力でこの子たちは負ける。
そう考えると戦い方って重要だね。
「見えて来た。あれが領主の館だ」
「収集品守るために窓に格子なんてつけちゃってさ」
ディートマールとテオが行く手に目的地が見えたことを教えてくれた。
「集めるなら見せてくれてもいいじゃないか」
「領主の人にも私たち会わせてもらえなくて」
マルセルとミアは以前門前払いされたことを思い出したのか気落ちする。
向かう先は塀のある屋敷。
入り口には門番の詰め所があって、窓に格子が入れられてる。
僕の感想としては、なんだか刑務所みたいな場所だった。
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