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207話:ジッテルライヒの魔学生

 僕に声をかけて来たのは、お揃いのマントに同じ羽の形のピンをつけた少年少女だった。

 持ってるかばんも同じで紋章のような物が入っている。


「おい、魔学生ども。まだ話の途中だ引っ込んでろ」

「なんでだよ!? 今ユニコーンの角って言っただろ!」


 注意するおじさんにつんつんした黒髪の少年が我の強さを発揮して言い返した。


「ね、君もユニコーンの角に興味があるんでしょ?」

「奇遇なことに自分たちも本物のユニコーンの角をひと目見ようとここに来たんだ」


 モノクルをかけた少年と、糸目の少年がおじさんに気づかれないよう下から近寄って来た。


「物事には順番ってもんがあんだよ。散れ散れ!」

「もう、三人ともいきなりは失礼よ。お話が終わるのを待ちましょう」


 くりっとした目の美少女が止めると、ようやく魔学生と呼ばれた三人は渋々従って僕から離れた。


「また後でな!」


 黒髪つんつん少年は屈託なく笑って手を振る。


「魔学生って何?」

「ジッテルライヒに魔法学園ってのがあるんだが、そこの生徒のことだ。今は収穫期の長期休暇で、あーして見聞広めるって名目でうろついてんだよ」

「もしかして僕、同じくらいの年頃だと思われたのかな?」

「あぁ、まぁ、顔見えなきゃそう思うだろうな。さて、さっき言いかけてたことだが、何か支払いになる珍しいもんでも持ってるのか?」


 案外乗り気らしいおじさんから水を向けて来た。

 なので、僕は珍しいだろうアイテムを取り出す。


「人魚の鱗だよ」

「うぉ!? なんだこの色? 紫だと?」

「色? 森にいた人魚はこういう色だったけど。もしかして場所によって色が違うの?」

「いや、俺もジッテルライヒから流れてきた鱗しか見たことないからな。あっちは白い」


 エフェンデルラントの人間を釣る餌としてダークエルフから分けてもらった鱗なんだけど。

 今回はちゃんとアーディに了解も得て人間に売ることを目的に持ってきてる。


「これ一つか?」

「路銀にしていいっていくつかもらったから、紫が珍しいならこれとこれとこれ。大きさがいいなら、こっちとこれかな?」


 僕が鱗を六枚並べると、おじさんは何か機械のようなものを取り出す。

 鱗にプラグのようなものつけると、通電でもしたかのように機械の針が振れた。


「魔力も通ってる。本物だな。しかも質もいいし傷も少ない。…………これ、今後定期的に持ってくるとかしないか?」

「人間嫌いだから無理だと思うよ」

「森の人魚っていや、そうか。よし、この六つは全てもらおう。情報料差し引いて、人魚の鱗の買い取り価格がこれくらいで、この質なら色つけたとしてって、あんた計算はできるか?」

「大丈夫。この価格の上下は大きさ? 色?」


 おじさんは聞けばちゃんと説明してくれた。

 どうやら珍しさと初回ということで適正価格より色を付けて買ってもらえるようだ。


「国内なら金券ってので金を商人組合が現金化してくれる。また人魚の鱗売りたくなったら冒険者組合から俺に連絡くれ。金券送るからそっちは鱗を送ってくれればいい」

「機会があったらね」

「おう。それと、あの魔学生な。腕はそれなりだがやっぱり子供で言うことは聞かん。だが、お前さんならあの目立つ奴らといたほうが安全かもしれん」


 後半、おじさんは声を潜めて僕に忠告をしてくれた。


「それって、幻象種なんかを売る闇組織?」

「知ってたのか。魔学生なら種族明かしても問題はないし、手を出せば魔法学園が動くから裏の奴らも面倒がって手出しはしないんだ」

「そっか…………。ありがとう。話を聞いてみるよ」


 お礼を言っておじさんと別れると、僕が立つのを待ってた魔学生がさっそく寄って来る。


「おい、魔学生ども! 騒ぐならあっちの部屋使え!」

「うるさいな! まだ何も言ってないだろ!」


 言い返す黒髪つんつん少年。たぶんおじさんは好意で言ってるんだけどな。

 僕が頷いておじさんが指す部屋へ向かうと、なんだかんだ言いながら魔学生ついてきた。


 部屋には話合いができるように机と椅子が幾つも置いてある。

 僕は適当な椅子に座り、扉を閉めるのを確かめて声をかけた。


「話を聞く前に、まず自己紹介をしてほしいな。僕は冒険者のフォー」


 一番に答えたのは、やっぱり黒髪つんつん少年だった。


「俺はディートマールだ。いずれドラゴン退治で名を馳せる英雄だぜ!」


 続いてモノクルと糸目の少年が張り合うように答える。


「ジッテルライヒでも期待の大魔法使いとは、この僕マルセルのことさ」

「二人ともなってないね。冒険者は仕事でやってるんだ。売り出すならどう利益を生むかを語らなきゃ。あ、自分はテオだよ」


 最後に女の子が落ち着いた様子で自己紹介をした。


「私はミア・シュピーラー。私たち、魔法学園の生徒で、今は学園が長期休暇だから見聞を広めるためにビーンセイズに来てるの」


 うーん、まともそうなのは糸目のテオとミアかな?


「あの、それで、ユニコーンの角のこともなんだけど、さっき冒険者組合に売っていたの、人魚の鱗よね?」


 おっと、どうやらミアは僕とおじさんの商談を覗き見していたようだ。


「ミアは人魚の里を探す夢があるんだよ」


 まだ僕が何も言ってないのにディートマールが庇うように口を挟んだ。


「自分も見たけど色が違ったよ。偽物かもしれない」

「え、冒険者組合に偽物売ったの!?」


 テオの言葉を信じるマルセルが人聞きの悪いことを言う。


「はぁ、人魚の鱗がどうしたっていうの?」

「できれば売ってくれないかしら?」

「人魚の鱗の値段知ってる?」


 僕はさっき売った値段を教える。

 人間たちと関わって知った金銭感覚からすると、一月の食事代くらいにはなると思う。

 子供には大金だろう。


「実は、そこまでお金なくて。物々交換じゃだめかな?」

「そうなると物によるとしか言えないよ」

「だったら俺はジッテルライヒに帰るまでフォーの護衛してやるよ」


 ディートマールが何か言いだした。

 するとマルセルも慌てて手を上げる。


「それなら僕はすごい魔法見せてあげる!」

「偽物だと思ってたんじゃないの?」


 僕の突っ込みに言い出しっぺのテオが愛想笑いをした。


「本物かどうかを調べるのも魔法使いの技能。それなら自分はこの魔力結晶の入った珍しい鉱石を対価に出そう」

「え、テオそんな珍しい物を? 私は、これくらいしか。妖精の砂よ」


 うーわー。

 なんて言えばいいか、うーわー。


 僕には妖精たちの声が聞こえる。

 そして妖精たちは近くにいる人間の心の声が聞こえてる。


「この妖精の砂、この子の親が持たせてくれたお守りだって」

「これ魔力結晶なんかじゃないよ。うっそぴょーんって思ってる」

「賢くてごめんねごめんねーだって」


 うん、護衛だとか魔法だとかはまず交渉として論外だけど、テオも駄目だ。

 まともなのはミアだけかー。


 そして妖精の砂は眠りの妖精が持つ砂だった。

 これを相手の目に入れると強制睡眠に陥らせるという効果がある。


「ミアとは交換するよ」

「あ、ありがとう」

「なんでだよ!?」

「可愛いからって贔屓だ!」

「気持ちはわかるけど!」


 うるさいなー。


「まず、僕より弱い人に護衛なんてさせられないし、すごい魔法も間に合ってる。そして、僕に嘘は通用しないと思って」

「う…………」


 真っ直ぐ見つめるとテオは目を逸らす。

 誤魔化したり取り繕うほどの世間ずれはしてないようだ。


「おい、何やってんだよ。卑怯な真似するなよ」

「テオ、嘘なの?」

「あ、いや、その…………ほ、本物かどうかを、調べるのも、技能であって、ね…………」


 ディートマールとミアに詰め寄られ、しどろもどろになるテオ。

 用意していた言い訳も、仲間からの非難に上手く出てこないようだ。


 そんなテオを横目に、マルセルが僕に疑問を向けた。


「どうして嘘だってわかったの?」


 説明するなら見せたほうがいいかな。


 僕はフードに手をかける。

 角が貫通してるから脱ぐ時は角の辺りの留め具を外す必要があるけど、片手で簡単に外せる工夫がされている。

 コボルトたちって本当に器用だなぁ。


「僕は妖精が見えるから、妖精が嘘吐きを教えてくれるんだ」

「エルフ!? うわ、子供のエルフか!?」

「ちょっと待ってよ。目の色がおかしいよ」

「あ、よく見ると耳の形も違うんじゃないか?」

「もしかして、妖精さん?」

「…………君たち、エルフを見たことがあるの?」


 妖精ではないけど、すぐばれるなんて驚いた。


毎日更新

次回:変わったエルフ

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