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204話:悪人で学ぶ

「そう言えば、ちょっとやりたいことあるんだけど。市場に戻っていい?」


 お昼を終えて、僕はブランカとシアナスに声をかける。


「何をするの、フォーレン?」

「エフェンデルラントで金羊毛に換金について教えてもらったから、それの実践」

「なるほど。良いと思います」


 シアナスも賛同してくれて、僕たちは市場に戻る。

 屋台みたいなものが広場で列をなす中、用心棒が立ってる店を見つけた。

 そこが換金所で、換金するための通貨があるから用心棒は必須らしい。


「エフェンデルラントの通貨をビーンセイズのお金と換金できる?」

「エフェンデルラントかい? うーん、ビーンセイズの通貨は今この辺りにも流れて来なくなってるからな」


 換金商は渋い顔だ。

 森を挟んだ向こうの国のお金なんてあっても困るから当たり前だろう。


 頼み込んでようやく換金が成立した。

 ちょっとこの顔を使ったのは、エフェンデルラントに行った時、ウラから男をいい気分にさせる手管というのを教わってエノメナと練習した成果だ。


「換金できただけ良いほうですね」

「あ、やっぱり?」

「そうですか? 銀貨が半分以下の値段ですよ、先輩」

「ブランカ、三分の一だよ」


 百円を換金して三十五円になったようなものだ。


「あなたは計算もできるんですね」

「フォーレン、それも妖精王さまの知識? いいなぁ」


 僕は笑ってごまかして、別の方向を指差した。


「もう一つ行きたい場所あるけど、一緒に来る? 市場を見て回っててもいいよ」

「いいえ。あなたから学ぶこともありますので」

「可愛い子は一人で歩かせちゃいけないんだよ、フォーレン」


 そう言われると複雑だけど、いいか。


「来るならいいけど、騒がないでね」


 忠告にわからない顔をする二人に背を向け、僕は市場から逸れて細道に入る。

 できる限り薄暗い方向に向かって進むと、細道を遮るように人が現われた。


「おいおい、こんな所になんの用だ?」


 風体のよろしくない男がにやにや話しかけてくる。


「換金所を探してるんだ」

「へへ、そうかい。だったらこっちにあるぜ」

「ありがとう」


 僕が素直について行くと、後ろのブランカとシアナスは警戒ぎみに足運びを変えた。

 戦闘態勢を整えながらも、騒がない約束は守るらしい。


 看板も窓もない店に案内され、僕はらしすぎていっそ感心してしまう。


「おう、換金か?」


 大きな声でそう声をかけられると同時に、入って来た扉に鍵がかけられる。

 カウンターの奥から強そうな大柄な男が現われた。


 ここまでらしいといっそ驚くなぁ。


「さすがに五分の一なんて換金する意味がありません」

「先輩、あの…………」


 僕と大柄な男の会話を見守っていたシアナスが、さすがに黙っていられなくなって口を挟んだ。

 止めるブランカも気持ちは同じらしく、あんまり効果はない。


「おいおい、文句があるって言うのか? こっちはいらん銀貨を引き取ってやろうってんだ。手数料貰ってもいいくらいだぜ」

「いらないとは言ってないんだけどね」

「はぁ? ビーンセイズなんかここよりも低率だぜ。今の内だ。こっちも善意で」

「善意が聞いて呆れます。これは立派な詐欺です」


 さすがにブランカも大柄な男の一方的な言い分に声を上げる。

 すると後輩の怒りにシアナスのほうは冷静になったようだ。


「話になりません。戻りましょう」

「おっと、ただで帰すわけないだろ」

「女三人ばっかりで馬鹿な奴らだ」

「こっから先は通行料だな」

「お前たちならそんな銀貨以上に十分稼げるぜ」


 商談は終わりとばかりに男たちがぞろぞろ現れた。


「計算もできない低能に馬鹿呼ばわりされる謂れはありません」

「騙せないとわかった途端力尽くなんて、最低です」


 姫騎士はやる気だ

 僕は目の前の大柄な男を見上げる。


「君、この中で一番強いよね? もっと強い人いる?」

「何!? この辺り一番は俺だ!」

「それが吹かしじゃないと嬉しいんだけど」

「余裕ぶってられるのも今の内だ! たっぷり可愛がってやるよ!」


 その声を合図に、姫騎士二人は背中合わせになる。

 シアナスが抜刀すると同時に、ブランカは魔法を放った。

 体勢の崩れた者からシアナスが撫で斬りにして、ブランカがさらに息を合わせて魔法を放つ。

 二人は囲まれても立ち位置を上手く入れ変えて応戦していた。


「ち、武装は伊達じゃなかったか」

「うん、あの二人は自衛ならできるからいいかなと思って」

「だったらお前はどうだ?」


 無遠慮に掴んで来ようとする大柄な男に、僕はまず腕を避けた。

 そのまま跳んでカウンターに跳び乗り、膝蹴りを顎に見舞う。


「あ…………今の避けないの?」


 大柄な男は一撃で真後ろに倒れて動かない。


「今の早さを避けられる者はそういません」

「あと、その高さの台にいきなり跳び乗れる人もいないよ」


 姫騎士二人の指摘に振り返ると、他の悪人たちも茫然とカウンターの上の僕を見てる。


「でも、小手調べの一撃でこれって弱くない?」

「なんだとこらー!」


 動きの止まってた悪人たちが馬鹿にされたと思ったのか動きだす。

 ので、僕は火の玉を魔法で作って投げた。

 途端に数人が火だるまで床を転がる。


「あ、強すぎた。じゃ、これは?」


 手近な相手に水の玉を叩きつけた。

 するとその場から吹き飛んで、柱に頭を打って気絶してしまう。


「えっと、こっちは? これは? こうかな? それともこう?」


 森で覚えた魔法を次々と放って、僕は調整を繰り返した。


「うーん、やっぱり一番弱いのが風なんだね」

「弱い…………? 梁まで大の大人を吹き飛ばしておいて、弱い?」

「先輩、森には翼のある方たち、何人もいましたから」


 換金所とは名ばかりの室内には、死屍累々。

 いや、全員生きてるけどね。


「それで、フォーレンは何がしたかったの?」

「金羊毛はいったいあなたに何を吹き込んだんですか?」

「えっと、僕が自分の力量わかってないから、一度試したらいいって言われたんだ」


 人間とユニコーンだと差がありすぎて力加減が難しい。

 だからって人に向けて魔法を放つのも危ない。

 それはわかってるけど加減できるだけの経験もないのが僕だ。


「だからわかりやすい悪人だったら、試すのも罪悪感ないだろうって。そういう人たちが溜まる場所の特徴教えてもらったんだ」

「そうだね、練習は大事だね」

「ブランカ、そこで納得してはいけないわ」


 話してると最初にノックアウトした大柄な男が起きる。


「金羊毛? 確か、オイセン一の冒険者の?」

「そうなの? ちょっと縁があっただけだから、怨むなら僕にしてね。いつでも練習相手は歓迎だよ」


 大柄な男はすごく嫌そうな顔をすると、店の中を見回す。

 そして首を横に振った。


「お断りだ。お前、人間じゃないだろ」

「あれ、よくわかったね」

「…………世間知らずの無法者に災いあれ。お前はその内痛い目を見るぞ」


 出て行けと言わんばかりに手を振られる。

 けどそんなこと言われたら気になるよね?


「いったい何があるのかな? 世間知らずなのは否定しないし、僕は好奇心強いほうなんだ」

「え? おい、おいおいおい! 今のはそういう流れじゃないだろ!?」


 逆に近づく僕に、大柄な男は慌てて引く。

 けどカウンターの奥は壁だ。

 室内の奥にある扉は伸びた別の男が塞いでいて逃げ場はない。


「ねぇ、痛い目って何? 僕が人間じゃないとどんな目に遭うの?」

「ちょ、ちょっと強がってみただけだから! く、来るな!」


 絶対嘘だね。

 僕が酷い目に遭うと思ったから簡単に追い払おうとしたんでしょ?


 窺うと姫騎士たちも疑うように大柄な男を見てる。

 止められないし、もう少し時間使ってもいいかな。


「教えてくれるなら一つ昔の人のありがたい言葉教えてあげるよ。口は災いの門、舌は災いの根ってね」

「ひぃ」


 まだ何もしてないのに怯えないでよ。


 まぁ、その後はちゃんと喋ってくれるまで風の魔法で天井と床を往復してもらうことになったんだけど。


毎日更新(変更)

次回:譲れないもの

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