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21話:悪戯好きと天邪鬼

他視点入り

「よくぞ、よくぞおいでくださいました、シェーリエ姫騎士団方!」


 そう言って私、ランシェリス率いる騎士団を出迎えたのは、見るからに困窮した聖職者だった。


「神父さま、事前に申し上げておりますとおり」

「わかっております、わかってはいるのです。ですが、あまりにも…………今回のことは、悲惨極まる…………」


 エイアーナ王国の王都で一番大きな教会を任せられた神父は、声を詰まらせた。

 街に荒れた様子はほとんどなかった。だが、決定的に活気というものがない。

 敗戦して一月も経っていないので当たり前、とも思ったが、神父の様子から他に理由があると考えるべきだろう。


「どうやら、治療院に収まり切れなかった軽傷者たちが教会に預けられているようよ」

「教会の者は寝る間も惜しんで対応しているらしいです」


 私は副団長のローズと私の剣を持つ従者のブランカを伴って、応接室に向かう。

 他の姫騎士や随行者は、できる限り教会の者を手伝うよう指示を出した。


「ありがとうございます。皆さまの目的は別であるというのに」

「確かに、私たちは魔物を討伐すべくやってきました。ですが、もう一つ放っては置けない話を耳にしております」


 よほど手が足りずに疲弊していただろう神父だったが、私の言葉に表情が変わった。

 ローズが私に視線で許可を求めるので、一つ頷く。


「教会で世話をすることになった軽傷者ということでしたが、見たところ、傷を負っていない者もいたようですが?」

「…………いいえ、傷を負った者ばかりなのです。この街は、心に傷を負わされた者ばかりになってしまった」


 神父は大きく息を吐き出すと、自らの手を強く握る。


「私に、もっと力があれば…………。もっと早く、あれが持ち込まれたことに、気づいていれば…………」

「神父さま、あれ、とは?」


 私が先を促すと、神父は目的を察した様子で一つ頷いた。


「お察しのとおり魔王石が、持ち込まれたのです」


 とある宝石商によって持ち込まれた魔王石は、すでにその前に所持していた商人を殺した後だったという。


「ですから、宝石商は貴族たちに声をかけて回りました。曰くつきの宝石を、早く手放したかったのでしょう」


 その時すでにひと悶着があり、宝石商周辺には不穏な空気が漂っていたという。

 そして手に入れた貴族は、日に日に様子がおかしくなり、気が振れてしまった。酷い強迫観念に囚われ家族を痛めつけ、止める親族や友人をついには殺傷。


「貴族周辺は貴賤を問わず恐れおののきました。けれどまだ、魔王石の呪いとは誰も気づかず…………。支払いが終わっていなかったため、魔王石は宝石商の手に戻りましたが、今度は宝石商の妻が人が変わった様子で浮気と散財に走り、それを苦に宝石商は一家心中を」


 そうして語る神父の悲惨な話は続いた。魔王石は王都で、さらに別の貴族と商人、その周囲の人々を巻き込んで事件を起こす。

 痴情の縺れの末に衆人環視の前で殺された貴族、服毒して馬車を暴走させた末に周りを巻き込んで死んだ商人。

 異常事態に、王都では心を病む者が急増したそうだ。


「やるせないことですね。…………私たちは、魔王石はこの国の王が手に入れたものとばかり」

「はい、最初はどうも人の手を転々として王都に入ったようなのですが。魔王石とわかっていて、陛下は、呪われた宝石をお求めになったと聞いております」

「ちっ」


 神父の肯定に、ローズは舌打ちを漏らす。

 国王が手にした後は、他国に居ても聞こえる程に派手な動きがあった。

 悪政の末の、革命だ。

 そして革命を起こした者は、国を御し切れず処刑され、王家が復活。だが、王家への信頼は回復せず新たな王は暗殺され、次が立ったところをビーンセイズ王国に侵攻された。

 情勢不安どころではない。民衆は見えない猫に怯える鼠のように、震えながら暮らしているのだ。


 目の前の神父もその一人。けれど、これだけは確認しなければ、同情もできない。


「あなたは、魔王石であると知りながら、手を打たなかったのですか?」

「申し上げました。申し上げましたが、陛下は、聞き入れてはくださらなかった。私の言葉を受けて魔王石を排除しようと動いた貴族たちもおりましたが、ほとんどが、処刑、されてしまいました」


 神父はヘイリンペリアムから派遣された形であるため、国王の一存で処刑はできず、今も生き残ることができたらしい。

 後悔と無力に肩を震わせて俯いた神父。

 私は慰めの言葉をかけようとしたけれど、ローズのほうが早かった。


「それで、ビーンセイズは魔王石をどうしたのです?」

「ローズ」

「神父さまのご心痛、ごもっとも。けれど、魔王石が封印されていないなら、ここと同じ被害がまた繰り返されるだけでしょう」


 話を聞くのも確かに必要だけれど、それで目の前の傷ついた神父を見ないふりするのは違う。

 そう言おうとした私の目の前で、当の神父が己の頬を張った。

 スパーン、と乾いた音に、ローズも目を瞠る。


「…………思うよりも、魔王石の脅威に怖けづいていたようです。情けないところをお見せしました」


 見る間に赤くなる頬を気にすることなく、神父はしっかりと私たちを見据えてから頭を下げた。

 そこでようやく、王都の教会を預かる上位者の風采が垣間見える。


「ビーンセイズの軍はすぐに王城へと入りました。そして、すぐにほとんどが引き上げた。国の主導権以外の物が欲しくて攻めてきたとしか考えられません。しかし、私は魔王石の有無を明言できる立場にない」

「…………ブランカ、水を」

「は、はい」


 私たちは旅装を解かないままでいたため、ブランカの腰には給水用の木筒が下がっていた。私はハンカチを濡らすと神父に差し出す。

 受け取る神父の頬には、微かな笑みが浮かんだ。


「ありがとうございます。…………王城は残ったビーンセイズの軍によって閉鎖されております。正面から行ったところで、まともな対応はしてもらえないでしょう」

「国王陛下との面会を取りつける助力をお願いしたい」

「いえ、それよりも早く魔王石の所在を確認する術がございます。今は、一刻も早く世界の害となる魔王石に対処すべきであり、あなた方は己の仕事を全うなさるべきです」


 覚悟を決めた顔で告げる神父は、おもむろに足元を差した。


「城から脱出するための地下道がございます。そこから城へと潜り込み、魔王石をその目で確かめるべきです。私が危険性を訴えた折、宝物庫の最奥、壁に穴を空け金で装飾した頑丈な扉をつけ、三つの鍵をつけると陛下は約束されました」


 つまり、ビーンセイズに奪われている場合、その扉の中身は空。

 魔王石を納めるためだけに作った壁の穴は、中身を持ちだされているなら、鍵もかけられていないだろう、と。


 私はローズと目を見交わした。

 こちらの決定が下ったと見ると、神父はまだ赤い頬に笑みを浮かべる。


「ご案内、いたします」

「頼む」






「僕はラスバブ、悪戯好きさ。こっちはガウナ、天邪鬼なのさ」

「忙しいんですけど、服を作るくらいわけないですから、やってやらなくもないって言ってるだけです」


 さっきまでユニコーン怖がってたのに、ラスバブは元気に、ガウナは不機嫌そうに言った。

 このコボルトたち、人間に似てるけど明らかに顔の比率がおかしい。

 ワインレッドの瞳が顔の半分を占めていて、デフォルメされたみたいになってるし、手足も細い。

 そのまま人間サイズに直せそうな姿のアルフと違って、コボルトたちはそのまま大きくしても二足歩行の別の生き物になりそうだった。


「フォーレン、妖精ってのは生まれつきの性質が決まってて、この二人もそういう性質なんだよ。請け負うというなら請け負ってくれるから、後は条件次第だ」


 うーん、銀髪のガウナって天邪鬼より、ツンって言葉が浮かんじゃうなぁ。


「生まれつきの性質というなら、貴様の権能で条件など無視してしまえ、羽虫」

「妖精には妖精のやり方があんの! お前も服欲しかったら手伝えよ!」

「いらん! だいたい、人化のためだけに着る服など持ち歩くだけで邪魔ではないか」


 幻術全裸がなんか言ってるー。

 うーん、けど確かに人間のサイズの服着ても、ユニコーンに戻ったら服破けるよね?

 と思ったら、ガウナが腕組みして不機嫌そうに言った。


「破けないよう工夫するくらいわけないんですよ。必要ないというならそれでもいいですが。こちらとしては何も困りませんし」


 うーん?

 天邪鬼ってことは、言ってる言葉が本心とは限らないのかな?

 となると、難しいけど工夫すれば服はできる。困ってるからできれば条件を飲んでほしい、とか?


「あのね、僕たち今、あの街で靴職人の家にいるんだ。けど、最近靴職人が仕事をしなくなって、困ってるんだよ」


 あ、本当に困ってた。

 っていうか、靴屋で小人が仕事を手伝うって、本当に絵本みたいだな。

 とか思ってたら、アルフは難しい顔をして首を傾げた。


「職人が怠け者になったなら、さっさと見限って別の家を探せばいいだろ?」

「怠け者に、なったのかなぁ?」

「仕事もしないのは、怠けていると言っていいと思います」


 つまり、仕事してないけど、怠けてると言えないかもって?

 なんだかガウナは解釈が面倒だなぁ。


「ねぇ、ガウナ。別に天邪鬼の性質だからって、言葉を常に天邪鬼に言わなくてもいいんじゃない?」

「そしたらガウナ、やりたくないことやらなきゃいけなくなるよ?」


 むっとしたガウナに代わってラスバブが教えてくれた。


「何かを天邪鬼にしなきゃいけないんだったら、うーん、表情でもいいんじゃない?」


 俺の提案に、いきなりガウナは無表情になった。


「…………いけますね」

「お、マジか? フォーレン面白いこと考えるな」

「すごーい! あ、けど僕は悪戯好きだから、悪戯しないなんてこと受け入れないよ!」


 なんだか妖精同士で盛り上がってる。

 いや、ガウナだけはどんどん顔が険しくなってるけど、あれ、天邪鬼だとすると滅茶苦茶喜んでる?


 意見が聞きたくてグライフを見てみたけど、もう興味を失くしていたようで、地面に伏して寝の体勢に入っている。

 …………あの鳥とライオンの体の境い目って、どんな毛質してるんだろう?


毎日更新

次回:呑気に話し合う

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