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201話:一人旅予定

 母角の在り処を聞いて、僕はビーンセイズ行きを決意した。


「なぁ、やっぱり俺もついて行こうか?」

「今君が森を離れちゃ駄目だよ、アルフ」


 心配そうなアルフに僕は何度も繰り返した返事を返した。

 森の境まで見送りに来たアルフはそれでもまだ悩むように唸る。


 エルフの国の時には動けない事情があってアルフはついてこなかった。

 でも今回は違う。自由に動ける状態だ。

 だからって森を出るのはやっぱり駄目だよ。


「アルフが狙われてるんだから」

「それな、フォーレンだってそうだと思うんだよ」

「僕はこうして変装してるから大丈夫」


 人化して角も隠してるから、族長の息子だというトラウエンに見つからなければユニコーンとはまずばれない。

 それに今回はフードも被ってる。


 着てるマントはエイアーナで出会った時にガウナとラスバブにもらった物。

 それに縫い足してもらったフードには、角を通す穴があってそこに魔法がかかってる。

 穴がペオルから貰ったサークレットと同じ効果がある上に、フードがあればこの目立つ顔も隠せる一石二鳥の逸品だ。


「フォーレン、足りない物はない?」

「大丈夫だよ、メディサ」


 あ、他にも心配性な保護者がいたんだった。


「着替えで二組ずつのほうが良くはない?」

「いつも着てる服が二つあるだけで十分だよ、スティナ」

「普段着と普段着の替え、エルフ風に妖精風、それと女装用。もう一枚くらい女装用いる?」

「エウリアは意地悪で言ってるんだよね? いらないよ」


 旅に出るとなって用意された服はありがたく持って行くよ。

 持って行くけどさ、僕を女装させようとするのはなんで?

 この機会だからって持たされてしまったんだけど、なんの機会なの? なんで女装用の服に花嫁のような立派なヴェールセットにしたの?

 オイセンで女のふりした時も碌な目に遭わなかった気がするんだけど?


「すごくこだわって作ってたの見ちゃったから断りにくいし持って行くけどね。着るかどうかはわからないからね」


 どうせ荷物は背嚢一つで済むから、僕は用意された服は受け取っている。


 アルフが使う妖精の小道のような異空間が固定された背嚢は、裏返すと辺りの物飲み込んで消失するというちょっと危ない代物。


「フォーレン、やっぱりさぁ」

「くどいぞ、羽虫」


 またついて行くと言いそうなアルフに、グライフが喝を入れた。

 実はこの一人旅を後押ししてくれたのはこのグライフだ。

 珍しいこともあると驚いた。


 怪我は治ってるし、自分も行くと言うかと思ったんだけど。


「お前心配じゃないのかよ。フォーレンまだ子供なんだぜ」

「ほざけ。独り立ちの邪魔をするな」

「まだ早いって」

「それを決めるのは貴様ではないわ」


 うーん、グライフのほうが今回はまともそう。

 幻象種は望んだ時になんでもするものらしい。

 魔法もそういうものだとグライフは言っていた。


 だから僕が一人で行くと決めたならそれが必要な時期なんだって。

 グライフ流なのか幻象種的なものの考え方かはわからない。


「アルフ、これは僕の問題なんだ」

「水臭いこと言うなよ」

「でも、アルフにも会う前のことだし、やっぱり僕は一人で行くよ」

「その調子でこいつを拒絶しろ、仔馬」

「それはちょっと」


 変に煽らないでよ、グライフ。


「ともかく、自力でどうにかすべき問題だと思うんだ」


 だから一人旅を選んだ。

 僕はビーンセイズで母角を確認する。


 確認してどうするかは決めてないし、見た時に何を感じるかも未知数だ。

 僕はユニコーンだけど同時に人間の気持ちもある。

 この自分を産んでくれた相手の死に感情がほとんど動かないのは、ユニコーンだからか人間だからか。その辺りも区別をつけておきたい。


「ちゃんとこの子機は持っていくから。心配しないで、アルフ」


 僕はエルフの国でも持っていた木彫りを首から下げている。

 これで僕のことは確認できるから、アルフは心配し過ぎと言える。


「仔馬、そんな物は道中で捨てろ」

「おいこら、このグリフォン! さっきからなんなんだお前!」

「喧嘩しないでよ。帰ってきたら館が半壊してたとか嫌だよ」


 僕の予想にニーナとネーナ、ボリスが頷き合う。


「うわー、ありそうだな」

「せっかく壁画ができたのに!」

「完成したばかりで勿体ないわねぇ」

「また作り直せばいいじゃない。今度はお城作るんだし」


 そこにロミーが楽観的な言葉を差し込む。

 アーディも付き添いでいるけど、木々の影から出てこない。


「余計な手出しをする馬鹿の目を逸らしておくにはいい案だ」

「アーディ、それ俺のことか? 余計な手出しってなんのことだよ」

「自覚があるようで何よりだ」

「アーディ、妖精王さまはあなたの助言を入れたのだから、もう少し」


 見送りにはスヴァルトもいて、こっちも木陰からは出てこないでいる。

 ゴーゴンはもちろん隠れてるし、なんか隠れてるひと多くない?


 えーと、それでアーディの助言でアルフがしたことってなんだろう?

 あ、壁か扉を作れってところからか。


「遅くなりました!」

「申し訳ない」


 馬を牽く姫騎士が旅装を整えてやって来た。

 ブランカとシアナスは僕と途中まで一緒に行く予定だ。


「シュティフィーにお別れ言えた?」

「うん、魔女さんたちからのお土産を貰ったよ」

「あまり役に立てなかったのに恐縮です」


 僕が獣人の国に関わっている間、二人には妖精の守護者の手伝いとして助けてもらった。

 魔女から手助けを依頼するものもあって、ブランカとシアナスはそのお礼を貰ったようだ。


「お礼の気持ちは素直に喜んで、反省は次に活かせばいいよ」

「そう、ですね…………」

「フォーレン、また私の後ろに乗る?」

「うん、お願いブランカ」


 ブランカが荷物を避けてスペースを作ってくれる。

 甘い匂いがするのは、たぶんお菓子や保存食。あとたぶんドルイドの蜜酒もあるな。


「それでは妖精王さま、お世話になりました」

「おう。用があったらまた来い」


 シアナスが丁寧な分、アルフの軽さが際立つ気がする。


 ブランカとシアナスは一度エイアーナの姫騎士団の下へ戻る。

 終わった獣人の戦争の報告と誤配の伝書を届けるために。

 エルフのブラウウェルから早めに伝えたほうがいいと助言を受けたからだ。


「早ければ冬を前に今一度お尋ねするかもしれません」

「その時は城をお披露目してやるよ」

「そっか、もう地盤工事終わってるんですよね」


 城造りが決まったのは獣人の戦争が終わってからすぐ。

 そこから暇な妖精たちが面白がって集まるし、木々は自分で移動するし、いい地盤はノームがいればわかるし、掘るのも得意だし。

 いい石も妖精がわかって、木材も妖精が話し合って提供して、ガウナやラスバブのような物作り妖精もオイセンからの引き上げでいっぱいいる状態だ。


「妖精というのは統率が取れれば面倒よな」

「全くだ。そしてその統率を取れる権能を持つ王が喜んで羽虫に身をやつすと言うのが」

「お前ら仲良しか!?」


 グライフとアーディの文句にアルフが怒った。

 スヴァルトは深くフードを被ったまま、ちょっと顔を逸らしてる気がする。

 妹のティーナはもちろん工事現場のほうにいるんだけど、そのせいかな?


 ティーナが率先してるけど、ダークエルフたちも楽しんで城造りに参加してる。

 五百年前は温泉レジャーが流行だったって言うし、実はダークエルフたち娯楽に飢えてたのかもしれない。


「そうだ、グライフ。暇ならエルフの国の様子見考えてね」

「ふん、俺が使い走りなどするか」

「違うとも言えないけど、スヴァルトの呼び出し頻繁なのも問題だって言うしさ」


 すでにダイヤとオイセンのことで二回スヴァルトはエルフ王に呼び出されている。

 ウンディーネ伝いに森のことを報せることはできるけど、妖精は適当なところがあるので結局スヴァルトに直接聞くほうが確実だと呼ばれるんだとか。

 でもそんなに何回も呼ばれるとエルフのほうが不安がるんだって。


 だったら確実に情報を届けられるグライフにひとっ跳びしてもらうほうが早いと思うんだけど。

 ブラウウェルも国のこと気にしてるし、様子見くらいと思ってしまう。


「まぁ、俺が面白いと思うことがあればついでに伝えないこともないがな」

「うーん、エルフのところで働くロベロ? あ、そう言えばユウェルのことも襲ってたんだよね? 結局自分が襲った相手の下で働いてる状態ってこと?」

「…………面白そうなことを言うではないか。それを伝えた時、あの蜥蜴はいったいどんな反応をするだろうな?」

「あ、やっぱり今のなし。グライフ、ユウェルの邪魔しかしなさそう」


 下僕と呼ぶエルフのユウェルは、グライフのやることには諦め気味だ。

 やっぱり止める誰かがいないと危ないか。

 グライフのお遣いは期待しないでおこう。


「それじゃ、行ってくるね!」


 僕はブランカの後ろに乗って手を振る。

 ぐだぐだな別れを終えて、エイアーナに向けて森を出た。


隔日更新

次回:神殿の研究

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