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193話:砲台型

 突如地鳴りが森に響く。

 金属のように硬い者が激しく小刻みにぶつかり、ガスを噴き出すような音がする。

 まるでエンジンでも始動したかのように。


 木々の向こうで魔力が膨れ上がるのがわかる。

 まるでエンジンが熱を帯びて行くように、安定した轟音と共に魔力が増幅されていた。


「トラウエンさま! 準備ができました!」


 叫ぶように報せる流浪の民に、トラウエンは僕から視線を外して振り返る。


「退避!」


 トラウエンが号令を叫ぶと、流浪の民は左右へ割れるように動いた。


 どちらを狙うかは迷わない。トラウエンが重要人物でメディサに刺さった矢のことを確実に知っている。

 トラウエンを追おうとした途端、嘆きの声が鳴り響いた。

 瞬間真っ白な線が走る。

 それは光だった。


「早い!?」


 光線が駆け抜けるのはなんとか視認で来たけど、僕でも避けきれない。


 怪我を覚悟して足に力を籠める。

 怪我を耐えてトラウエンを追おうと身構えた時、光線の軌道上に太い蔦が生えた。

 ビームは蔦を焼き焦がしながら、僕から逸れる。


「これって、シュティフィー?」


 振り返るとシュティフィーがゆっくり根を伸ばしながら近づいて来ていた。

 その間も僕を守るように蔦は動いている。


「遅くなってごめんなさい、フォーレン。どうか私も戦わせてほしいの」

「シュティフィー…………」

「友の仇よ」


 メディサと仲の良かったシュティフィーは悔しさを滲ませながらもはっきりと言った。


 シュティフィーにしては来るのが早い。

 メディサが死ぬもっと前に動いていたんだろう。

 もしかしたらメディサが戦場に出ると聞いていたから駆けつけようとしたのかもしれない。

 でも、間に合わなかった。


「…………うん」


 申し訳なさを飲み込んで、僕は光線が放たれたほうへ向き直る。

 聞こえる駆動音は、光線で焼き払った木々の向こうに見える機械からしていた。


「あれって、もしかして」


 塔のように細長い建造物にも見えるけど、頂点には丸い何かが鎮座している。

 形としてはチェスにあるポーンの駒のようだ。

 頂点の球体は中心部が光っていて目玉にも見える。

 そこからは強い魔力の波動を感じた。


「フォーレン! そいつは魔導兵の砲台型だ!」


 後方でアルフが警告の声を上げる。

 ビーンセイズでブラオンが使っていた魔王の遺産。

 確か砲台型はグライフも知っていて、アルフは広い場所で使うべきと言っていたものだ。


 また目玉のような球が白熱し、光線を放つ。

 今度は予兆を察して避けることができた。

 僕が避けた後ろにいたアルフは、魔法を展開して光線を阻む。


「うお!? これも知らない魔法組み込まれてやがるな」


 魔法の盾を三枚出したアルフは焦りの声を上げる。

 ビームを受けて盾が一枚割れ、光の粒子になって崩れ去っていた。

 二枚目の盾にはひびが入り、ビームとは別に舞い散るような光がひびから溢れる。


「けど、防げないわけじゃない。獣人は俺の後ろにいろ! 魔法に耐性ないとひとたまりもないぞ!」


 魔法の使えない獣人をアルフは庇う。

 どうやらビームは魔法攻撃のようだ。

 けどビームと同じで当たると高温で焼けるんだろう。

 シュティフィーが僕を守るために出してくれた蔦がそうだった。

 森の木々もビームに焼かれて炭化している。


 これはかすっても命が危ない。

 そう考えたところで、もう一度目玉が白熱して光線を放つ。


「真っ直ぐ飛ぶだけの高魔力なんて、当たらなければ意味がないんだよ!」


 僕が避けて、アルフがまた防ぐ。

 魔法を調整したのか、今度は盾も壊れない。


 砲台型のビームの威力も恐ろしいけれど、今の短い時間で対応してみせたアルフにも獣人たちは畏怖の目を向けていた。


「シュティフィー、距離を詰めよう。あの砲台型が動かないよう固定して」

「わかったわ」


 僕はシュティフィーと一緒に砲台型へと近づく。

 砲台型はまた光線を出すけど、アルフが言うとおり直線的な攻撃は発射の方向さえわかれば当たらない。


 目玉のような頂点の玉が動いて狙いをつけ、何故か僕たちから目を逸らすような形になる。

 不思議に思って見ると、狙う先にはエフェンデルラント軍が固まっていた。


「仲間じゃないの!? そうか、狙いは悪魔の召喚だから」


 死者が出ればいいし、死の理由が理不尽なだけ怨嗟は溜まる。

 この状況でより多くを殺せば、悪魔召喚の場が整う。


「フォーレン、こちらは任せて!」

「スティナ、エウリア!?」

「私たちは不死だから気にしないで!」


 飛ぶゴーゴンがエフェンデルラント軍に向かう。

 怪物の接近に兵は逃げ出し、散ったことで砲台型が一度に狙える数を減らした。


「急いで止めよう!」

「えぇ!」


 僕はさらにシュティフィーと近寄った。

 砲台型からはアラームが鳴り出す。

 どうやら敵の接近を感知したようだ。


 エフェンデルラント軍を狙っていた光線が、また僕たちに向けられた。

 シュティフィーが蔦の壁を生み出すけれど、すぐさま焼けて弾ける。

 僕は焼け落ちる蔦の後ろから駆け出して、続く光線を避けながら足を止めない。


「精神体の私も検知するのね」

「となると二手に別れよう。陽動をお願い」

「わかったわ」


 一度に飛ぶ光線は一本だ。

 二手に分かれて標的を迷わせる。


「将軍型より火力強いけど、守りはどうかな?」


 シュティフィーに砲台が向いた瞬間、僕は側を駆け抜ける。

 駆ける勢いのまま、塔のような部分を角で削った。


「硬さは将軍型並みか」


 削れはするけど時間かかる。


(アルフ! 核の場所わかる?)

(悪い、こいつ将軍型より魔法の防御が厚いんだ! 魔力の集中する箇所が絞り切れねぇ!)


 アルフもわからないんだったら、狙うは一つ。


「シュティフィー! 僕が気を引くから、その間に上への道を作って!」

「何かするのね。わかったわ!」


 意外と器用な砲台型は、光線を絞ってすぐ近くの僕を狙う。


 目玉の光り具合で発射までの間隔がわかるようになった。

 僕は刺すように放たれる短い光線を、駆け抜けながら立て続けに避ける。

 隙を見つけて砲台型の側面に後ろ蹴りを入れると不穏な軋みを上げた。


「あ、揺れた。行けるかな?」


 目玉を支える塔のような部分が揺れ、狙いが定まらないのか光線は放たれずに光が収束する。


 これはチャンスかもしれない。


「シュティフィー! お願い!」

「これでどう!?」


 シュティフィーの魔法で塔に太い蔦巻きつく。

 それでもう一度揺れて、砲台型は照準を合わせられなかったのか光線は出でなかった。


 僕は隙を見て蔦を駆けあがる。

 目玉が追うように動いて、蔦が途中で焼き切られた。


 思い切り跳び上がった僕は、塔の頂点になんとか前足をかける。


「砲台なんでしょ? ジャムったらどうなるの?」


 近づいてようやく見える塔と目玉の接続部。

 僕は迷わず走り、低く角を構えた。

 そして接続部を狙って角を思い切り刺す。


「うぐ!?」


 電気が走るような感覚に動きを止めると、アルフの忠告が聞こえた。


(フォーレン! 魔力が暴走して流れ込んでる! すぐに離れろ!)

(待って、角が! でも、足に力が…………)


 電気のような感覚は魔力らしい。

 そのせいで上手く体が動かない。


「フォーレン! 痛いかもしれないけれど、ごめんなさい!」


 先に謝るシュティフィーは、僕の尻尾から後ろ足に蔦を絡ませる。

 そのまま力任せに引っ張られて、差し込んだ角を抜かれた。


(あ、やべ!)


 アルフの不穏な呟きを問い質す必要もない。

 何がヤバいか見ればわかる。

 角を抜いたところから、光となって膨大な魔力が膨れ上がっていた。


 光線になるはずの魔力がジャムった状態で溢れそうになっている。


「シュティフィー! 爆発するよ! 逃げて!」

「よっしゃ任せろ!」


 僕の叫びに現われたのは火の玉の形をしたボリス。

 その姿を見たと同時に、爆発が起こった。


 白く破裂した光を飲み込むように火炎が迫る。

 一瞬にして火に呑まれたボリスだったけど、火炎は僕に届く前に渦を巻いて動きを止めた。


「ふー! 無茶するぜ、フォーレン」

「…………君に、言われたくないよ、ボリス。ボリス、だよね?」


 炎が一つにまとまると、青年姿のボリスが僕に笑いかけていた。


隔日更新

次回:連なる縁

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