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19話:大きいか小さいか

「え、小さすぎない?」


 さすがに僕も、あまりの慎ましさに怒りを忘れて冷静になる。

 前世の記憶が顔さえ思い出せない薄さだけど、なんか、なんとなく、男しては小さすぎるように感じる。

 手足は長くてそれなりなのに、なんで足の間のそれはそんなに大きさも長さも慎ましいの?


 そう例えるなら、前世の有名彫刻のダビデ像のようだ。

 あそこまで今の僕の体ムキムキじゃないけど、なんか体にそぐわない。


「少なくとも、仔馬状態のほうが質量はあろうな」


 グライフも僕の物を見つめて頷く。


 そう言えば、ユニコーンだったから、常に見える状態で歩いてたんだ。

 あ、ちょっと恥ずかしい気がしてきた。こういう時、前世の記憶って邪魔だな。


「体は年相応だと思うんだけどなぁ」

「いや、どちらかと言えば細身ではないか?」

「あぁ、顔とのバランスは考えたから」

「なれば、そのバランスの補正であれも女寄りになったのではないか?」

「いや、そんなことは、ないと…………」


 やめて!

 話振ったのは僕だけど、そんな真剣な顔して見ないで!

 思わず手で隠すと、アルフとグライフは赤くなった僕の顔に気づいた。


「あんまり、じろじろ見られると、恥ずかしい」

「幻象種って、そういう羞恥心あるのか? いつでも大解放なのに?」

「必要以上に注目するのは、はしたなくはあるな」


 あ、良かった。

 そこら辺の羞恥心はあるんだ?


「うーん、まさか俺の契約の影響で、生殖機能が…………」

「あ、そうか。僕、そういう欲求なくなってるんだっけ?」


 欲求がないから、それに使うブツも使えないものになったとか?

 いや、それはそれで悲しい気も…………、あんまりしないな。

 ただ単に、見てくれが気になる!

 あんまり小さすぎるっていうか、あれだ。前世の小便小僧並みしかないって、ちょっと心許ない気分になる。


「単に子供であるからではないのか。人間の生殖器に明るいわけではないが」

「これ完全に子供の状態で、生殖器としては使用不能だぜ」


 だから、そんな真剣な顔して他人の股間を観察しないでよ。


「あれ? 人化したせいでこうなったとかないの? 幻象種は人化すると不能になるとか」

「さて、仮説とも言い難いが…………。いいだろう。俺が人化の術を使ってやろう」


 グライフ簡単に言ってるけど、本当にやろうと思えば魔法なんでも使えちゃうの?

 アルフを見るけど、アルフも幻象種の魔法についてはきちんとわかってないみたいで首を横に振る。

 僕とアルフが顔を見合わせてる間に、グライフはこともなげに術を発動した。


 あ、違う。なんとなく、感覚でわかる。

 アルフに手伝ってもらって発動した人化の術と、グライフが今行ってる術は違う。

 まず、発動後が目に見えて違った。


 僕は金色の光に包まれて姿が変わったけど、グライフは煙のようなものが発生して、繭状に包んでしまった。

 きっと、幻象種としてはこっちが本来の力の使い方なんだろう。

 そうして、今度は繭の一本一本がほぐれて開き、煙となって消えると、そこには一人の男性がしっかりと二本の足で立っていた。


 金褐色の短髪だけど、側面は野性味を感じさせる刈り上げ。琥珀色の瞳は鋭く、獲物を狙う獰猛さを秘めている。

 全体的に品のある顔立ちなのに、髪型や目の印象、他を見下す口元の笑みが勇猛さを物語っていた。

 そして何よりアウトローのような強さを感じさせるのが、鼻を横切って顔に走る真一文字の傷。

 鷲の羽根とライオンの尻尾を持つ男性は、間違いなくグライフだった。

 腹立つ。


「ふむ、やはり翼も尾も消せぬか。…………なるほど、人間の声になると俺はこうなるのか? さて、顔は…………?」


 僕と同じようにせせらぎを覗き込んだグライフは、目立つ顔の傷を一撫でして笑った。

 傷があることを悔しがるでもなく自嘲するでもなく、全体から漂う男の余裕。

 腹立つ。


「僕もあんな風が良かったー!」

「いやー、あれはグライフの性格反映してるから、フォーレンがあんな顔になっても、あーはならないって」

「せめて、一目で男ってわかるくらいがいい!」

「あー、うん。それはごめん。一目で惚れるくらいの顔にしちゃって」

「アールーフー!」


 両手でアルフを掴んで見下ろしていると、ふと、疑問に思った。


「人間になっても僕、アルフ見えるんだね」

「あ、そりゃ人間の姿を真似してるだけで、本質がユニコーンなのは変わってないからな」

「触れるのもそういうこと?」

「そういうこと。人間のふりしてても、人間しか通れないような結界あったら、フォーレンは通れない。結界の精度によっちゃ、その場で人化の術が解けることもある」


 魔法とは便利で不可思議なものだ。

 仔馬とは言え、僕はすでに人間よりも大きい。なのに、人間に化けると子供の大きさになる。

 本来の姿と人間の姿の間には、明らかな質量差が存在する。

 なのに、こうして人間になったり、ユニコーンになったりといった変化で、体を動かす感覚以外に支障がない。


「ところでフォーレン、あれいいのか?」

「あれ?」


 僕に捕まれたまま、アルフが横を向く。

 そこには僕たちのやり取りを眺めて笑っていたグライフ。

 アルフの視線の先は、その足の間。


「う…………、こんな所も立派な大人…………」


 っていうか、逆にグライフは大きすぎない?

 野生で生きてるから、体が引き締まったアスリート体型なのはいいとしても、そこが立派になる理由って何?


 僕たちに見られていることに気づいたグライフは、羽根を広げ、腰に手を当てて見せつけるように立つ。

 いや、そこまでしなくてもいいから。

 僕、そんなの見て喜ぶ趣味ないから。


「やはり小さいな、仔馬」

「いちいち言わなくていいよ!」

「なーんか、反応が初々しくてからかいたくなるなぁ」

「アールーフー? 本当に僕がこんな姿になったことに罪悪感ある?」

「あるある! 本当に悪かった! だから手に力籠めないで!」


 自由になる足をばたつかせるアルフは、いまいち信用できない。

 というのも、大袈裟に苦しんで見せているのが、精神の繋がりでわかるからだ。

 妖精のアルフは呼吸の必要がないらしい。だから、締めつけても苦しくはない。

 その上、僕は半精神体で手に籠める力は物質体の能力。精神体のアルフに直接的なダメージはないと思われる。


「本当に反省してよね」

「待て、仔馬。掴んでおけ」

「グライフ?」


 アルフを解放しようとした途端、グライフが制止する。

 見ていると、僕に近寄りアルフの背後に手を伸ばした。


 あ、爪は鳥みたいに鉤状になってる。

 そんなこと考えている内に、グライフの指がアルフの服の裾を摘まんだ。

 ペロン、となんのためらいもなくグラフは捲り上げる。

 すると、膝上丈のアルフの裾は腹までずり上がった。


「「は?」」


 僕からは、アルフのブツが丸見え状態。

 グライフは覗き込んでやはりブツを確認する。

 いや、っていうかアルフノーパンなの?


「ふむ、仔馬が小さいのは、こやつの影響の可能性が高いな」

「ちょっと待てーい!」


 グライフの一言に本気で暴れたアルフは、僕の拘束を振りほどいた。


「こ、れ、は! 仮の姿なの! 姿に合わせた大きさなの! わかる!?」

「つまり、それがお前の大きさであろう?」

「ちっがーう!」


 アルフの物は、子供の姿に見合うもの。

 っていうか、確かに僕のによく似たものがあった。

 うーん、これはアルフが人化させたから、僕も…………。

 僕は心密かに幻象種の魔法を覚えて、自ら人化する方法を身に着けようと決意した。


「こら、フォーレン。何考えてるか大体わかるけど、今はそれよりももっと大事な問題あるだろ」

「何? 責任転嫁?」

「違うって。…………人化できたとして、だ。人間だったら、服着ようぜ」

「あ…………」


 アルフ以外、僕とグライフは真っ裸で林の中。

 今人来たらどうなるんだろう? 全裸の男と、全裸の美少女顔男子?

 うん、グライフがヤバい。前世でこういうの、事案って言うんだ。


 そんな思いでグライフを見ると、妙に自信満々の笑みを浮かべた。

 鳥の顔より感情が出るな。きっと僕もそんな感じなんだろうけど。


「服とは、このような物か?」


 瞬く間に、グライフはアラジンが着てそうな服になった。

 身に着けてるてのは風船みたいに膨らんだズボンに、片方の肩から胴に巻いた布。

 いい体してるから、半裸なそんな恰好も全く違和感がない。

 僕よりも肌の色が日に焼けてる風なせいもあると思う。


「今のも魔法…………、あれ? なんか、服がどんどん透け、て?」


 待って、見る間に服が透けて、元の全裸に戻った。

 え、何今の?


「ふむ、やはり穢れなき眼には幻術など効かぬか」

「え、今の幻術?」

「まだ術解いてないから、他から見れば全裸はフォーレンだけだぜ」

「そんな、なんかずるい!」


 僕にはグライフも全裸にしか見えないのに!

 僕だけ裸って、ここに人間来たら事案は僕だけじゃん!


 急募、服!


毎日更新

次回:妖精と追いかけっこ

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