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184話:姫騎士の報告書

 金羊毛が帰ると、アルフはエフェンデルラントの妖精から情報収集を始めた。

 グライフは寝てるけど、耳は立ってるからアルフの声を聞いてるようだ。


「姫騎士は…………二階にいるね」


 匂いを辿って僕が二階へ向かうと、クローテリアは当たり前のようについてきた。

 グライフの側にいたくないみたいだ。


「今いい? って、ブラウウェル?」

「なんだユニコーン」

「面倒なのがいるのよ」


 ブラウウェルが答えると、クローテリアは屋根の上へと飛んで行ってしまう。

 クローテリアが自称怪物であることをうるさく詮索するので、ブラウウェルは避けられていたりする。


「用があるのは姫騎士のほうなんだ。何してるの?」


 僕が姫騎士を探して覗き込んだのは、寝室ではなく庭に向けて壁のない二階広間。

 家具が少ないからブラウウェルと姫騎士の二人は絨毯の上に座り込んでいた。


 辺りには書類が広げられている。

 ブランカとシアナスは手にペンを持って足元の紙に視線を固定していた。


「少々お待ちください。報告書の作成中ですので」


 こっちにある書類は全て手書き。

 間違えたら書き直しが効かないから、一つの文章を書くことにも集中力が必要だった。


「ブラウウェルさんにエルフの国でのできごとも聞いてるの」


 シアナスとブランカは文字を書きつつ答え、ブラウウェルは二人を見守っていた。

 僕やグライフの側には必要以上に寄ってこないブラウウェルが、こうしてアルフに割り振られた仕事以外をしているなんて珍しいことのように思う。


「もしかして仲良くなってる?」

「お前たち四足の幻象種よりも話は通じるからな」

「やっぱりエルフって人間と似てるんだね」


 ブラウウェルはわからない顔で僕を見る。

 そう言えばエルフ王の前で言った時にはいなかったんだ。

 うん、たぶん怒るからこの話は深堀しないでおこう。


「人化しているあなたともそう変わらないかと思いますが」


 シアナスは一旦手を止めて、ペンの先で玉になったインクかすを拭きとる。

 獣人のことで落ち込んでいたんだけど、メディサの助言で仕事を振ったらすっかり回復したみたいだ。

 お風呂も好きみたいで魔女から入浴剤をもらって楽しんでいるとメディサに聞いた。


 対してブラウウェルは…………。


「なんか怒鳴らないだけであんまりエルフの国にいた時と変わらなくなった?」

「…………忘れろとは言わない。だが、嫌みで言うのでないならその話はやめてくれ」

「あ、うん」


 ブラウウェルにとって黒歴史扱いかな?

 なんかシアナスは平気そうになったのに、ブラウウェルのほうが落ち込んじゃった。


「大まかには聞きましたが、あなたがエルフの国で何をしたのか聞いてもいいでしょうか? グリフォンと一度エルフの王都を離れた辺りなどを」


 ブラウウェルが止める様子もないので、僕は思いつくところからシアナスに答える。


「僕、女の人を襲わなかったからユニコーンって信じてもらえなくて、あとグライフが賢者って呼ばれる人を下僕扱いしてたからブラウウェルからの好感度が最低になってた?」

「ま、間違ってはいないが、なんだその説明は!? もっと他に言うことがあるだろう!」

「あ、ブラウウェルの好きなユウェルをって言ったほうが」

「あー!? な、何を言うんだ! 違うと言っているだろう! 私は決して先生に対してそんな世俗的な感情を抱いているわけではない! これは敬愛だ! 尊崇だ! 勘違いするな!」


 すごく早口なブラウウェルの声が響き渡る。

 屋根の上から噴き出す声が聞こえたけど、ちょっと覗きに来ないでクローテリア。


 沈黙が広がると、ブラウウェルは頭を抱えて床に倒れた。

 尖った耳が真っ赤になってる。


「すごくわかりやすいね」

「ブランカ、ちょっと黙って。…………ブラウウェルさん、わかります。慕い仰ぐ崇高な思いを冷やかされてはお怒りになるのもごもっともです」


 シアナスが真面目にブラウウェルを慰め始めた。すっごい親身になってる?

 このブラウウェルの気持ちに当のユウェルが全く気付いてないってことを言ったら、二人はどんな反応をするんだろう? いや、言わないけどね。


「えっと、それでエルフの国のこともランシェリスたちに報告するの?」

「はい。一度今わかっている状況だけでも報告書を送ることになりました。魔女が配達を請け負ってくださったので」

「日に日に報告すること増えちゃって、って零したら若い魔女の飛行訓練になるって言ってくれたんだよ。一気に送るとすごい量になるから、獣人の国は後に回すんだけど、それでも…………」


 ブランカは腱鞘炎を気にするように手を振りながら、僕に書類の束を示した。

 もしかしてそれ、全部送るの?

 紙の質のせいもあって手紙という厚さでは収まらなさそうだ


「ブラウウェルさんには報告をまとめる手伝いをしてもらっています。私はまだこのような文章作成に慣れておらず、助かっています」


 ブランカに至っては文字を書くこと自体に慣れていないせいで、あまり手伝いにもならないらしい。

 それに比べてブラウウェルは姫騎士たちの使う文字こそ書けないものの、公式文章に乗せられる文言をすらすらと言えるんだって。


「ブラウウェルって、実は有能なんだね」

「実はってフォーレン、エルフの王さまに近侍していた方でしょう?」


 出会いから今までを思い出すと、ちょっと、うん、かなり残念なエルフだったけど、そう言えばそうか。


 まずユウェルに追い出されるし、妖精にアフロにされるし。

 部屋から真っ赤になって逃げ出すし、その後は敵に騙されて暴走したし。

 森に来るまでの間にふらふらで心折れてたし、今は面倒なオイセンとの折衝丸投げされてるし…………。


「なんだか碌なことになってないけど」

「…………お前とあのグリフォンの前に立てば、悪魔さえ路傍の石扱いだっただろう」

「あ、復活した」


 思ったことを言ったらブラウウェルに睨まれた。


「このユニコーン、南で洞窟のナーガと飛竜を傘下に収めたぞ」

「ナーガ!? あの知能の高い!?」

「飛竜は確かグリフォンと一、二を争う凶暴な空の魔物だよね。フォーレンすごい」

「傘下には収めてないよ。ちょっと縁があっただけで」

「被害者の会を作っていたと聞いてる。あれらはもうお前に歯向かわないだろう」

「「あー」」


 なんか姫騎士に納得されてしまった。

 ブラウウェルを見ると、睨むように見つめられている。


「えっと、ブラウウェルはどうして二人を手伝おうと思ったの?」

「聞かれたことに答えていただけだ。あとは私も確認すべきことがあった。…………ヴァシリッサのことだ。お前も見ただろう? あの僧形を」

「あ、そうか。教会の人だったんだっけ」


 ヴァシリッサの素性を知りたかったから、姫騎士に自分から話しかけたようだ。

 報告書にヴァシリッサの身元を問う文言を入れてもらう約束で手伝いをしているらしい。


「フォーレンがビーンセイズ王国で見たなら私も見てるはずなんだけど。ダムピールがいたなんて全然」


 ブランカは恥ずかしそうに下を向く。


「ダムピールは人間を堕落させたり血を求めて傷害事件を起こすので、本当に教会に所属していたなら身分を偽っていた可能性があります」


 シアナス曰く、どうやらダムピールは教会に所属できないらしい。

 つまりヴァシリッサというのも偽名かもしれないわけだ。


「迫害から逃れたとエルフの国を頼ったそうですが、私の知るダムピールの報告例は概ね戦闘に及んだというものばかりです。そうか弱い種族ではないはず」

「聞いた話だけど、人間との間に生まれた子たちを専門に養育する修道院があるんだって」

「じゃ、ヴァシリッサそこのひとなのかな?」

「いえ、その修道院から出ることはありません」

「私たちの所にも、逃げ出した子は探すようたまに依頼が来るんだ」


 姫騎士の説明にブラウウェルが嫌な顔をした。

 その反応にシアナスはあえて無表情を通し、ブランカは目を伏せる。


 これは逃げた子が人間を襲ってたら討伐とかありそう…………。

 うん、これも深掘りしない方向で行こう。


「あ、そうそう。僕の用件なんだけど、今から悪魔の所に行くけど見に行く?」


 誘った途端ブラウウェルにまで絶句されてしまった。


「あれ、なんで?」

「お前な! 悪魔は人間を狙って誘惑し堕落させるんだぞ!? そこに人間を、しかも悪魔を敵と認定する教会の者を連れて行くなんて、殺害予告に等しいからな!?」


 ブラウウェルに怒られたけど、言われてみればそうか。


「あ、ごめん。ちゃんと二人は守るよ。大丈夫」

「フォ、フォーレン? それってあのビーンセイズ王国にいた悪魔も?」

「アシュトル? いるよ。ビーンセイズで戦った時より強いんだ」

「遠慮させていただきます。自分の力量はわかっているつもりです」


 片手を上げて拒絶の姿勢を取るシアナスに断られた。


「ランシェリスが気にしてるかなって思ったんだけど」


 好意での誘いだと知り、ブラウウェルたちは脱力する。


「あの傲慢の化身の横暴さが、たまに正しいことのように映るから嫌だ」

「わかる気がします。確実に気遣いをしてくれるのはこのユニコーンのはずなのに」


 なんだかブラウウェルとシアナスがわかり合ってる。


「フォーレン、悪魔と言葉を交わすだけでも汚染されると言われることがあるの。悪魔は狡猾で、すぐに騙そうとするから、近づきすぎたら危ないよ」


 ブランカの忠告に、ブラウウェルとシアナスさらに脱力していた。


「ブランカ、毎晩食べてるごはん、悪魔のコーニッシュが作ってるんだけど?」

「あ!」


 ブランカは一声あげると赤くなって黙ってしまった。

 コーニッシュはパン釜で色々作るようになってる。

 放っておくと一日五食作って食べさせようとして来るので、今は晩御飯に限定していた。


「コーニッシュ、今日は食材調達に出かけてるんだ。悪魔の所へは僕一人で行くよ」

「き、気をつけてね」


 ばつの悪そうなブランカに見送られ、僕は館を出ることになった。


毎日更新

次回:悪魔に相談してみる

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