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183話:コカトリスの足取り

他視点入り

「メディサ? そんなところで何をしているの?」


 姉のスティナが吹き抜けから一階を見下ろす私に声をかけて来た。


 仔馬の館の二階には、応接間からフォーレンと金羊毛の会話がここまで聞こえる。


「今度はフォーレン、悪魔の所へ行くの?」

「そうじゃなくて。流浪の民が戦争を起こす狙いについてよ」


 二階の露台から羽根の音がして振り返ると、エウリアが降り立つところだった。


「悪魔を使う狙いなんて、森に騒擾を起こすことではないの?」


 悪魔召喚を警戒する状況を説明すると、姉さまたちは考え込む。


「魔王石はエフェンデルラントにないのね。流浪の民が持っているのかしら?」

「結局魔王復活を謳っても本当に復活はできないんでしょう?」

「それでも狙っているのは確かなのだから、妖精王さまは危険にさらされているわ」


 だから戦争を止めようとするフォーレンは正しいと私は思う。


「私にも何かできれば…………」


 呟いた途端、エウリアが睨む気配があった。


「駄目よ」

「姉さま…………」


 救いを求めて視線を向けたスティナも渋い顔だ。


「何をするつもりか教えて、メディサ?」


 聞いてくれるけど、この様子ではスティナもたぶん賛同はしてくれない。


「フォーレンが止めるために戦場に立つなら、一緒に私も行こうと思う」

「駄目だと言ってるでしょう」


 エウリアは答えがわかっていたように即応した。

 怒りは心配の表れだとわかっているからこそ、私も言葉に迷う。


「そう…………。メディサが自分から言うなんて。いい変化だと私は思うわ」

「姉さま!?」


 思わぬスティナの賛同に、エウリアの髪の蛇がざわめいた。


「でもフォーレンには妖精王さまがついていらっしゃるのよ。あなたにできることがある?」


 なるほど、結局は反対に変わりはないのね。


「この怪物の目なら、場合によっては妖精王さまより早く敵を止められるわ」

「それで? また首を斬られて死ぬ気?」

「エウリア…………」


 スティナが窘めてもエウリアは横を向いて前言の撤回はない。

 私は嫌な汗を感じつつ、まだ繋がっている首を触った。


 私は死んだことがある。

 何度も、何度も。

 この首を狩られたことも幾度かあるそうだ。


「私になる前の私は、首を奪われたのだったかしら?」

「そうね。魔王を倒そうとする人間たちが、あなたの首を武器にするべく狙って来たわ」


 スティナは当時を思い出したのか、悲しげに顔を伏せた。

 けれど私はわからない。知らない。


 私は私。ゴーゴンのメディサ。

 死んでもまた生じる怪物。

 けれど一度死ぬと、ゴーゴンとなった日から私は生まれ直す。

 死ねば、それまで生きた記憶は継承されない。


 不死の姉たちと違って、この五百年を生きた私は死ぬ。


「なら、きっと今回は大丈夫よ。だって、私は一人じゃないもの」

「馬鹿を言わないの。死んだらあなたは終わりなのよ」

「けれど一つだけ残せるものがあるわ」


 記憶は継承されない。けれど思いは一つだけ次の私に残せる。

 今の私に残されたのは、恐怖だった。

 そして目覚めた時姉たちはおらず、再会しても自我を失った怪物となっていて、私の中の恐怖は五百年色あせることはないまま。


「今なら、自ら戦う勇気を持てる気がするの。誰かのために行動する慈しみを抱ける気がするのよ」

「まぁ、あなたの口からそんな前向きな言葉が聞けるなんて」

「姉さま! そんなことに感動している場合ではないでしょう」

「怒らないで、エウリア。私も心配する気持ちは一緒よ」

「だったらどうしてメディサを危険にさらすようなことを言うの? 人間なんかの手にかかる可能性があるのに!」


 エウリアは、ひたすら怯える私を知ってるからこそここまで過保護になってしまったのだろう。

 怪物から戻れなくなっていた姉さまたちは、私を一人にしたことを気に病んでいた。


 そして次に死んだ時、私は世界の何処で生まれるのか。

 その時一人であることは悲しいし寂しい。

 それでも、今を生きる私はこの命の使い方を決めた。


「大丈夫よ、エウリア。メディサは一人じゃないんですもの」

「姉さま…………何か考えがあるの?」

「ケルベロスも連れて行きましょうね」

「え…………? ス、スティナ姉さま?」

「だったら帰らない悪魔もフォーレンを友と呼ぶんですから引き摺って行きましょう」

「エウリアお姉さま!」

「声をかければコボルトたちとシュティフィーも来てくれるんじゃないかしら」

「ボリスとニーナとネーナ、あとロミーを呼べば人魚の長も来るかもしれないわね」


 待ってほしい。

 どんどん話が大きくなっていく。

 確かに一人ではないと言ったのは私だけど。


「で、でもこれでフォーレンも安全になる、わよね…………。姉さまたちも私を心配してのことだし…………」


 止めるべき?

 手伝うべき?

 エウリアの頑なな反対の姿勢を考えれば、どちらも碌なことにならないのはわかる。


 私は予想外に姉の賛同は得たものの、頭を抱える羽目になってしまった。







 応接間で話し合っていると、からの洗濯籠を持った姫騎士が戻る。


「エフェンデルラントの冒険者、一つお聞きしたいのですが」

「お、なんだい?」


 すでに顔見知りとなったシアナスに、エックハルトは応じる。


「エフェンデルラントにいたコカトリスの発生原因はわかったのでしょうか?」

「発生?」


 僕が首を傾げるとブランカが得意げに教えてくれた。


「コカトリスは繁殖もするけど、突然鶏の卵から生まれることもあるんだよ」

「へー。あんなに大きいのに?」

「あら、それって迷信じゃなかったの?」


 ウラの疑問に、シアナスが真面目な顔で首を横に振った。


「以前、ジッテルライヒで鶏の奇形が生まれたと報告があり確かめに行きました」

「それがなんと、コカトリスの幼体で。生まれて三日で近くの飼い犬まで食い殺す大変な食欲だったの」


 どうやら姫騎士は以前、被害拡大前にコカトリス討伐をしていたらしい。


「大食漢であの大きさか…………」

「鶏から生まれるなら、最初ヒヨコなんっすよね?」

「いや、あのコカトリスはコカトリスから生まれた奴だぜ」

「断言するの、アルフ?」

「鶏の卵から生まれると蛇っぽくなるんだ。あのコカトリスは鶏っぽかっただろ」


 ややこしい。

 そしてどういう生態なら鶏から生まれるの?


「えーと、だったらあのコカトリスは西から来たんだね?」

「あ、そうそう。それで妖精王さまにお聞きしたいことあったんですよ。ファザスの言いつけで」


 雇い主の言いつけなのにエックハルトは雑に話し出した。


「なんか妖精があの鉱山近くとは違う場所でコカトリス見たって騒いでるそうですよ」

「お、マジか。エフェンデルラントの妖精か? 王都にいるのか?」

「そう見たいですよ。けど、西から人間が連れて来たとか言ってたらしいんです」


 捕捉するウラに、アルフは悩む様子で考え込んだ。


「…………できないとは言わない」

「なんと…………」

「えー!? 無理ですって! あんな化け物どうやって操るんっすか!?」

「自分餌に昼夜逃げまくる」


 断言するアルフに、みんな沈黙した。

 無理って視線が言ってる気がする。

 あ、でも交代制ならありなのかな?


「後は何かの術で行動を操るくらいだな」

「ほう? コカトリスほどのものを人間如きが操れると言うのか、羽虫?」

「まぁ、実例はいるな。魔王っていう怪物や幻象種を操りまくった奴が」


 あ、メディサたちか。つまり何かの術って話術でもいいわけだ。

 あれ? コカトリスは幻象種だからダークエルフのスヴァルトたちのほうが近いのかな?


「コカトリスが人間の話など聞くものか。まず視線を向けられただけで死ぬわ」

「見えない距離から、声だけ届けて、コカトリスが乗るような話を振る?」

「アルフ、自分で言ってて無理だと思うなら言わなくてもいいんじゃない?」

「だからできないとは言わないって言っただろ。だいたい、あの人間が妖精から聞いたって話であってだな」


 素直な妖精が言うなら本当の可能性は高い。

 となると人為的にコカトリスはエフェンデルラントに配置されたのだろう。

 そしてそうなるとその狙いは何かって話になる。


 どうやらこの件について、サンデル=ファザスに詳しく話聞く必要性が出て来たみたいだ。

 うーん、どんどんやることが増えるなぁ。


毎日更新

次回:姫騎士の報告書

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