どうやら僕は憤怒の化身らしい～転生ユニコーンと癖の強い仲間たち～

獣人の国編

１７８話：戦う覚悟

　許してくれるようなので、僕は気になったことを獣王に聞いてみた。

「なんでこんな不利な場所で仕掛けてきたの？　逃げ場もないここでやるなんて」

「それは貴殿も同じだったはずだ。が、予想を上回る動きであった、がははは！」

　水瓶に向いていた僕は確かに不利だった。

　だからヴォルフィとベルントも僕が攻撃行動に出ると同時に盾になるべく動けたんだ。

「しかしユニコーンには初めて会ったが子供でこれか」

「これは特殊だ」

　グライフに断言された。

　否定したいけど、僕親以外のユニコーンに会ったことないんだよね。

「羽虫のせいで理性と本能の均衡がおかしい。思わぬところで予想外の動きをする」

「そう言えばグライフに傷つけた時も何も考えてなかったや」

「ただの仔馬ならあの場合本能的に逃げるぞ」

　確かにグリフォンとドラゴンなんて相手にしようとは思わないよね。

　けど何も考えてなかったのも本当だ。

　たぶん意識が攻撃に極振りしてたんだと思う。さっきもそうだ。

「それで仔馬、どうだ？」

「何が？」

「羽虫に主導権を握られていることを自覚したであろう？」

「あぁ…………別に？」

「あ？」

「なんでグライフが怒るの！？」

「貴様ここまでされてなおその腑抜け具合か！」

　ちょっと、さっき一歩も動かなかったのにここで襲って来ないでよ！

「これからも主導権を握られ続け、強制されるのだろうが！　貴様は危機感というものさえ妖精並みに衰えているのか！？」

「今までもしなかったし、アルフはよっぽどじゃないとしないって！」

「この頭の軽い羽虫がか！？」

「なんだとこのグリフォン！」

　ここでアルフまで入ってこないで！

　そして僕より先にグライフに捕まらないでよ！

「僕はアルフを信じてるからいいんだよ！　グライフ、放して！」

「フォーレン！」

　なんだか感動するアルフを助けようとしたら、グライフに羽根で打たれた。

　怪我してるのに元気だなぁ。

「なんでそう怒るの？　今のは止めてくれて良かったでしょ」

「だろー！　俺だってフォーレンのこと考えてるんだぜ！」

「碌な説明もせずに精神を繋いだ羽虫が何を言う！」

「あれは必要だったからって前にも言っただろうが！」

　結局アルフとグライフの喧嘩になっちゃった。

　僕に気が逸れて一度はアルフを離したグライフが、羽根で風を操ってアルフを叩き落とそうとする。

　身軽に飛び回って逃げるアルフだけど、室内に風が吹き荒れるせいで獣人たちが迷惑していた。

「ごめんね。その内飽きたら話に加わると思うから」

　僕は無視する状態になった獣王に謝って水を向ける。

「無罪放免でいいならちょっと話を聞いてほしいんだけど」

「ふむ」

　獣王は応諾の印に床へどっかりと座り込む。

　僕の前にはまた水瓶が来て、角を水に入れながらの話になった。

　内容は、人間側の開戦理由について。

「こちらでもその情報は掴んでおり、ヴォルフィと状況確認を行っておりました」

　ベルントが補足して、流浪の民の暗躍や魔王石のことも簡単に説明してくれた。

「だからこっちで調べる間大人しくしててくれないかな？　こうして病人を抱えることになったんだし、今は動かないでさ」

「ふむふむ、だが断る！」

「えー！？」

　頷いてたのに突然の拒絶。

　獣王は明るく言い放つ。

「欺瞞があるのならなおのこと退かぬ！　卑劣な手段に訴えたエフェンデルラントには我らが正義を下さねばならぬのだ！」

「そのとおりだ！」

　どうやらヴォルフィは獣王側で、穏健らしいベルントがこっそり溜め息をついてる。

「卑怯な横やりなど自らの力の無さを喧伝するも同じ！　その流浪の民という人間たちも何ほどの者か！」

「そのような者に私たちが引き下がる必要などない！」

　意気軒昂な獣王とヴォルフィは好戦的過ぎる。

　肉食系怖いな。

　ベルントは違うみたいだけど、さすがに獣王がこうだと口を挟めないみたいだ。

「噂は聞いている。守護者とて、森の有事を担うのならば我らに構う余裕もないだろう」

　獣王が目で示す先を見ると、アルフがグライフに捕まってた。

　僕はすぐさまグライフに体当たりでアルフを解放する。

　アルフは僕の鬣に隠れるように捕まって、そのまま獣王の前にやってきた。

「お前もうちょっと弱れ！　傲慢の化身め！」

「この程度の傷で動けなくなるならば遠に死んでおるわ！」

　それもどうなの？

　もしかしてグライフって体力お化けだったの？

「アルフ、こっちの話聞いてた？」

「うん？　あ、あぁ、もちろん！」

　今僕の心読んだでしょ？

　話が通じるならいいけどさ。

「まぁ、お前らが簡単に止まるとは思ってねぇよ。ただ口出し無用というなら、俺たちがやることにも文句は言うなよ？」

「介入するならそちらも敵だぞ」

　獣王はさっきの明るさを消して睨む。

　アルフというか妖精王には厳しいみたい。

「俺だって森のほうに被害が出たらさすがに手出すぜ？」

「それは貴様の権限だ。こちらも言うことはない」

　言いつつ睨むのは継続って、言うほど納得してないよね。

「が、やりすぎればわかっているだろうな？」

「まだ何もしてないだろ！」

「してからでは遅いと獣王になる者には伝承されている！」

　あぁ、旧悪のせいかぁ。

　アルフも目を泳がせて勢いを失くしてしまう。

　話が進まないし、ここはフォローしておこう。

「流浪の民は魔王石を狙ってるんだ。エフェンデルラントの裏に流浪の民がいるなら、率先してアルフを巻き込んでくるはずだよ」

「ふむ」

「ダイヤを盗まれた時にも他に興味を向けてる隙を突かれたでしょ？　それと同じことをするかもしれない」

「今回は我々だと？」

「可能性はあるでしょ？」

　僕の指摘を獣王は考える。

　その様子を見てベルントが僕に追従した。

「流浪の民という別勢力の対処だけでも妖精王さまにお任せしてはどうでしょう？　我らの主敵はエフェンデルラントなのですから」

「ベルント、それは自らが力不足であるというつもりか？」

　ヴォルフィが責めるように睨むのも気にせず、ベルントは頷く。

「少なくとも手が回らないのは確かだろう。根性論だけでどうにかなる問題じゃない」

「誇りの問題だ」

「それで死に絶えては意味がないよ」

「死を恐れて戦えるか。攻めなければ負ける、負ければ死ぬ。ならば勝つだけだ！」

　この二人、噛み合わない。

　三将軍の二人が言い合う間。獣王の耳は動きまくっていた。

「ふむ、では好きにするといい。流浪の民など知らん。戦場にいるなら殺すが、戦場にも出ずこそこそと動き回るなら誰が仕留めようと感知はせぬさ」

「今のところ裏で動いてるから、妖精と協力する僕たちのほうが動きは探りやすいと思うよ」

「では妖精らしくこそこそと探っていろ」

「フォーレンと俺に対しての違いがひどすぎないか？」

「自業自得だな」

　アルフの文句にグライフが嘲笑う。

　獣王はグライフにも厳しい目を向けた。

「貴殿はすでに我々の敵だ」

「戦場を荒らすからだ！」

　獣王はグライフの力を認めつつもはっきり宣言する。

　無反応なグライフに、ヴォルフィも噛みつくように言い放った。

　アルフ、こんなことで喜ばないでよ。

　グライフはちょっとくらい気にしてあげて。

　僕がもう幾つめかわからない水瓶から角を上げると、獣王は居住まいを正した。

「解毒への助力は、国民を代表して謝意を示させていただこう。森へ人間が攻撃を行うなら妖精王の介入もやむなしとは覚えておく。話は終わりだ。疾く去れ」

　そう告げて、獣王は出て行く。

　ヴォルフィが追従して、ベルントとその配下が残る。

「お呼び立てしておいてこのようなこととなり、こちらの連携不足だ。申し訳ない」

　ベルントはアルフに謝った。

「いいって。思ったより穏便に済んだし」

「これ以上険悪になる想定でついて来たの？」

「それはそれで面白そうだな」

　グライフの不穏な言葉に、獣人たちも呆れる。

「攻めようとする獣人の国が内部から瓦解した時、人間どもはどれほど慌てふためくだろうな」

「その騒動を上から眺めるって？　趣味悪いよ、グライフ」

「他種族の無駄な争いなど楽しむ以外に意味もないわ」

　グライフの基本行動は食べるから殺すであって、ただの殺し合いに意味はない。

　それが幻象種の考えなら確かに獣人とは違うと思う。

「このままってわけにはいかないだろうし、介入できるような方法考えるべきかな」

「お願いします」

　こうして僕は残ったベルントにお願いされてしまった。

「仔馬自ら戦場に立つか？」

「楽しそうにしないで、グライフ。けど、そうだね。そういう覚悟をしなきゃいけないね」

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