172話:追いつ追われつ
「グリフォンだー! グリフォンが襲って来たぞー!」
「あの傷は森に住む凶悪なグリフォンではないか!?」
エフェンデルラントの城は大騒ぎになっていた。
僕は恐慌状態の人の間を小さくなって走る。
「どうして僕たちがここにいるってわかったんだろう?」
「森に残った奴らには城に来てるなんて言ってないしなぁ」
アルフと不思議がると、後ろのほうで流浪の民の声が聞こえた。
「くそ! 妖精は何処だ!?」
「今はそんなもの放っておけ!」
「しかし森との関連があるやも!」
将軍は目の前の危機に対処するため僕らを探す余裕はない。
「アルフ、このまま城を出よう」
「そうだな。あの人間と落ち合うほうが面倒なことになりそうだ」
僕たちはサンデル=ファザスを放置することで意見が一致する。
城を飛び回るグライフは僕を呼んでて、完全にこっちが狙いだ。
「グライフ、仲間外れにされてこんなに怒るなんて思わなかったよ…………」
「ぶは! な、仲間外れって、あははは!」
アルフは僕の上で仰け反るほど笑う。
「面白いことするなって釘差されてたんだよね。別に面白くてやってるわけじゃないけど」
「あいつ魔王石なんていらないって言う割に寂しんぼ、ぶふ」
自分で言って、自分で笑うアルフ。
それ本人に言わないでよ?
これ以上怒るとアルフに狙い行くんだからね。
そんな僕の心配が伝わったみたいだけど、やっぱりアルフは軽かった。
「そんな心配しなくても、あのグリフォンに後れを取るようなことはないって」
「アルフ、今小さいんだよ?」
「あ…………」
忘れないでよ。そのままだと強力な魔法も使えないでしょ?
「よし、こっそり逃げよう。あっちだ」
アルフは魔法を使って城内を把握すると、城から抜ける道案内を始めた。
グライフの目を避けて城から抜け出すと、街との間に九十九折の坂が続いている。
城から出て走り出すと、頭上から風が吹きつけた。
「逃げられると思うな!」
「うわ!? なんでわかったの!?」
「フォーレン、妖精だ! こいつニーナとネーナ捕まえてる!」
グライフの前足に見慣れたシルフが二人掴まれていた。
「ごめんなさい、妖精王さま!」
「捜すの手伝えと脅されてしまって」
「この乱暴者! なんてことすんだよ!」
「ふん、もう用なしだ」
怒るアルフを睨み下ろして、グライフはニーナとネーナを解放する。
そして空いた前足で僕たちに襲いかかってきた。
「「うわー!」」
僕はアルフの魔法で補助されながら、足を止めずに急激な方向転換をする。
見つかってるから、僕は元の大きさに戻って歩幅を稼いだ。
「なんか前もこんなことあったよね!?」
「あったなー!」
「逃げるな、仔馬!」
嫌だよ! 絶対その前足で掴まれたら痛いもん!
逃げるに決まってるけど、行く先には街があった。
「どうしよう!? 大混乱になるよ!?」
「あのグリフォン見てる時点で逃げてるって! そのまま突っ込め!」
僕はアルフに言われて街に走り込む。
一度振り返ると傷だらけのグライフは迷わず追って来ていた。
あの傷って、たぶんコカトリスとやり合った時のだよね?
館でコカトリスの毒を消してそのまま来たの?
「なんであの状態で来るかな!?」
「よっぽど寂しかったんだろ、ぷぷ」
アルフ、この状況で笑ってないでよ。
周りは悲鳴の坩堝と化して、室内に逃げ込む人間たちが動き回っている。
残された荷物や靴を蹴り飛ばし、僕はグライフに捕まらないよう走った。
街の人たちごめーん!
「げ! あいつ街の中でもお構いなしか!」
グライフは真っ直ぐな道を選んで滑空する。
魔法で風を纏うと、人間たちを吹き飛ばしながら襲いかかって来た。
「もう! こんな所で暴れないで!」
僕は吹き飛ばされないよう踏ん張るために止まる。
ただ止まってもやられるから、振り返って角を構えた。
「アルフ! 補助お願い!」
「うわ、こういう時本当に思い切りいいよな!?」
狙ってくるグライフに向けて僕は走る。
僕の角を前に、すでに傷を負ってるグライフは警戒で滑空の勢いを鈍らせた。
速度を緩めて角から逃れようと体勢を崩したところで、僕はアルフに叫んだ。
「アルフ、飛ばして!」
「おうよ!」
高さを取るグライフを追って屋根の上に跳んだ僕は、さらに優位な距離を取ろうと離れるグライフを追う。
「小賢しい! 俺を追おうなどと!」
上手く空中旋回され、また僕は背後を取られた。
「わー! フォーレン、逃げろ逃げろ!」
「逃がすか!」
障害物のある道に降りてまた追い駆けっこを繰り返す。
「フォーさん!?」
通りすぎる路地に金羊毛がいた。
答える暇もなく逃げると、巻き上がる風に金羊毛たちも動きを止める。
グライフは暴風になって街を荒らし回った。
「アルフ、このままじゃ駄目だ!」
「お、あのグリフォン倒すか?」
「倒さないよ!?」
アルフ何言ってるの!?
「グライフ! 落ち着いて!」
「ふん! 落ち着かせてみろ! 力尽くでな!」
話が通じない!
それとも幻象種的には話をするために相手を物理的に黙らせるしかないの!?
「うっわ、乱暴」
「さっきアルフも同じようなこと言ってたでしょ!」
僕はグライフの滑空を避けるついでに、近くの物を蹴り上げる。
グライフが飛んで来た物を避ける隙に、走る方向を変えた。
途端に暴風で進路を邪魔され、僕は方向転換を余儀なくされる。
「さっきから回り込まれて街から出られない!」
「あ、もしかしてあいつあれで落ち着いて喧嘩売ってるのか?」
何それ怖い。
けど確かに傷を気にして動いてるし、もしかして僕を追い立てて腹癒せしてる?
「大人げないなぁ」
「何か言ったか、仔馬!?」
「わー! 聞こえてた!」
グライフ地獄耳だった!
かまいたちみたいな攻撃を放たれて避ければ、近くの民家の壁が崩壊する。
「む、しまった」
土埃が立って視界が悪くなり、グライフの攻勢が弱まった。
今までこの攻撃してこなかったってことは、やっぱり怒って見境なくなってるわけじゃないんだ。
「もう! だったら本気で追わせて森まで戻ろう!」
「よし来た!」
アルフが妙に乗り気な返事をする。
「俺が守るから突っ込め、フォーレン!」
「わ、わかった」
角を構えてグライフのほうに走ると、魔法の補助と周りの瓦礫を巻き込んで、アルフが防壁を作り出す。
防壁のためにまだ家の形をしていた建材も一緒に引っぺがして大変なことになってた。
蹄の音で僕の接近に気づいたグライフは、風で一時的に土煙を追い払う。
さすがに僕と違って現われた瓦礫の防壁に突っ込む愚は侵さない。
けどその隙に、防壁に隠れて駆け抜けた。
気づいたグライフの苛立った声が降る。
「おのれ!? 小賢しい真似を!」
そのまま街へ出る道をひた走る僕に、グライフは回り込もうと自由に空を飛ぶ。
その度にアルフが瓦礫の防壁から石礫をグライフに向かって魔法で飛ばした。
グライフが苛立つ中、アルフが大声を上げる。
「追いつけないからってひらひら飛ぶだけかよ! 寂しんぼのグリフォンめ!」
「アルフ!?」
「羽虫、貴様ー!? その舌の根引きちぎってくれるわ!」
ちょっと、何やってるの!?
グライフ、本気で怒って追って来たよ!?
怒りの鳴き声を上げるグライフに追われ、僕も本気で森に逃げ込むことになってしまった。
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