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168話:見える人

「よくやった金羊毛! コカトリス探索という困難な依頼に怯みもせず五体満足に帰ってくるとは私も鼻が高いものだ」


 振る舞い酒を飲んだ翌日、僕たちはサンデル=ファザスに呼び出された。

 上機嫌なサンデル=ファザスの前にいるのは金羊毛とエノメナ。あと僕の肩にはアルフもいる。


「こいつまぁまぁの貴族らしいし、国としてどう落とし前つけるか聞きたいな」


 アルフは上機嫌に褒め言葉を投げかけるサンデル=ファザスを見つめて言った。

 すると文句を言う金羊毛から視線を逸らして僕を見るサンデル=ファザス。


「エルフどの、コカトリスの解毒をなさったとか。もしや解毒剤をお持ちですか? それともエルフに伝わる薬術でしょうか?」


 サンデル=ファザスの笑みに隠れた観察する空気に、どう答えようか迷う。

 だって持ってるとも言えるし、持ってないとも言えるから。


「もうコカトリス死んだし、解毒剤あってもしょうがないだろ。肉の毒程度なら人間でもどうにかできるんだし、関わっても面倒だと思うぜ」


 アルフの助言に納得しつつ、僕はサンデル=ファザスの雰囲気に別の狙いがあるように思える。

 もしかしたらコカトリス探索でどれだけ僕が役に立ったのかを知りたいとか?


「調達はできる。でも現状、深く関わるつもりはない」


 澄まし顔で答えると、サンデル=ファザスは苦笑を浮かべた。


「これはこれは、ぶしつけな質問で申し訳ない。そう警戒なさらず。純粋にコカトリスの解毒が可能かどうかが気になっただけのことなのです」


 僕が深入りしたくないと言ったことを汲んで、エックハルトはサンデル=ファザスの気をそらそうと声をかける。


「おい、ファザス。このフォーさんは俺らの恩人だ。いくらあんたでもフォーさんの機嫌を損ねてまで探りを入れる真似は見過ごせねぇな」

「エックハルト。君たちの腕は信用している。だがその礼儀知らずだけはいただけない。私の名はサンデル=ファザスだ。一度なら聞かないふりもするがね」


 どうやら名前に拘りがあるらしく、エックハルトもわかっていてあえてファザスと呼んだようだ。

 以前にもエックハルトはファザスと呼んでいたけれど、その時は機嫌が良く聞き流されていた。


 それにしてもサンデル=ファザスって今までに聞かない名前だなぁ。

 そんな僕の疑問を察したアルフは名前の解説をしてくれる。


「簡単に言うとサンデル地方のファザス家とかそういうのだ。同じ場所に他の地方のファザス家がいる場合に言い分けるんだよ。あ、けどもしかしたらサンデルさんの末裔のファザス家かもしれない」


 ちょっとあやふやなままアルフは続ける。


「けどこの辺りの地方でサンデルって聞いたことないしな。魔王以後に生まれた家だろ。国が新しく土地に名前つけたりすることあるし」


 そうアルフが笑うと、サンデル=ファザスは咳払いをして僕たちの視線を集めた。


「エルフどの、私の名はですね、西でも有名な美しく優美な湖水地方から来ているのです。白き名峰を湖水に映し込み、常緑の木々が彩るという」

「へーへー、聞き飽きたよ。フォーさんも真面目に聞く必要ねぇぜ。どうせ本人そこに行ったこともないんだから」


 サンデル=ファザスの名の由来をもう何度も聞いてるらしい金羊毛はみんな白けた顔をしている。

 でも僕は気になることがあった。

 僕に向けて説明をしていたサンデル=ファザスの、その目が僕の肩のほうに動いた気がしたのだ。


「…………西でもということは、古い家のようだね」

「あぁ、サルンディールか。こっち風に訛ってんだな。西のほうでも北に位置してて、鹿狩りなんかする奴らがいたぜ。まぁあそこもう埋められて畑になってるけどな」

「ごっふ…………!?」


 僕の返答に満足そうにカップを傾けていたサンデル=ファザスは、アルフがとんでもない現状を喋った途端に噴いた。


(アルフ、これって)

(おっし、試してみるか。フォーレン、ちょっとあいつの気を逸らしてくれ)


 咽ただけだと思っている金羊毛は、慌てて口を拭うサンデル=ファザスに笑いを堪えている。

 堪えきれず声を漏らしたウラは、表面上心配を取り繕って問いかけた。


「どうしたんですか? 拭く物持ってきましょうか」

「な、なんでも…………」

「サンデル=ファザス、争う相手は選ぶべきだ」


 僕の言葉にサンデル=ファザスは眉を上げる。


「コカトリス捜索を邪魔しようと追って来た人間がいた」

「…………そんな報告受けていませんが」


 金羊毛は睨まれ、エックハルトが僕に目配せをする。

 頷いて見せるとエックハルトは追って来た相手がどんなことになったかまで、サンデル=ファザスに全て話して聞かせた。


「くぅ…………、知っていたら今朝会った時に色々言えたものを。どうりで今日は大人しいと思った」


 あ、知ってたら嫌み言う気だったの?

 案外売られた喧嘩は買うほうなのかな?


 サンデル=ファザスは気を取り直してまた僕を探るように言葉を選んだ。


「しかし、エルフどのは妖精を使役なさるのですな。いったいどんな妖精をお使いになるのか、参考までにお聞かせ願えませんか?」


 サンデル=ファザスがそう言った瞬間、僕の肩からアルフが飛び立つ。

 手にはいつの間にか取りだした薬瓶を持って。


「…………ち、ちなみに使った薬はどのように手に入れられたので?」

「妖精が持っていた物なので知らない。ただし一滴で効果あったのは聞いたとおりだ」

「あれは酷かった…………」

「見るからにヤバい薬やったみたいになってたっすよね」

「下手な毒薬よりも惨い結果が起こるなんて、妖精って案外怖いと知りましたよ」


 短く実感の籠ったジモン、率直な感想を述べるエルマー、遠くを見て関わりたくないと言わんばかりのニコル。

 そんな三者三様の意見を聞いたサンデル=ファザスに、僕は一つ前の質問に答えた。


「妖精が何をして、誰が手を貸してくれるかは、妖精の気紛れに頼るしかない」


 言うと同時にサンデル=ファザスの頭上でアルフが手に持っていた薬を垂らす。


「どひぃ…………!?」

「は? おい、サンデル=ファザス、どうした?」


 突然ソファから跳び上がるサンデル=ファザスに、エックハルトが辺りに警戒の目を向ける。

 けれどアルフの見えない金羊毛に異変はわからず、不審者を見るような目をサンデル=ファザスに向けることになった。


「くっくっく、こいつどうやら俺が見えてるらしいぜ」


 アルフがそう声を発すると、金羊毛の目に浮かぶ感情が驚愕に変わる。

 僕の元に戻って来るアルフを、サンデル=ファザスは確かに目で追っていた。


「そ、それは、脅しのつもりかな?」


 サンデル=ファザスはソファに落ちた水滴を確かめ、アルフの手から消えた薬を探して視線を忙しく動かす。


「うーん、うん。よし、こんなので脅しになるなら君には協力してもらおう」


 僕はエルフロールプレイを投げ出してサンデル=ファザスに声をかけた。

 笑いかけると突然雰囲気を変えたことで警戒される。


「さっきアルフが言ったとおり、まずはこの国としての落としどころを聞きたいんだ」

「…………それを他種族に言うとでも?」

「オイセンの金羊毛を受け入れたのなら、僕が妖精王の代理をしていたことは知ってるよね?」

「さて、私の権限ではなんとお答えしていいものやら」

「そう。答えてくれないならそれでもいいよ。あとは城に連れて行ってもらえれば」

「はい?」


 目を白黒させるサンデル=ファザスに、アルフは僕の肩で大笑いしていた。


「教えてくれないなら自分で探るって言ってるんだ」

「ちょ、ちょっとお待ちを!」


 嘘偽りのない僕の言葉にサンデル=ファザスは一人慌てる。

 金羊毛は顔を突き合わせて相談中だ。

 ずっと静かなエノメナは、僕のやることに文句なんてないから傍観姿勢を貫いていた。


 話が決まったのかエックハルトが立ちあがる。


「サンデル=ファザスさんよ、諦めな。フォーさんはあの化け物揃いの森でも実力者だ」


 大袈裟だけど、加勢してくれるみたいだしここは黙っておこう。


「そうよ。信じてもらえないだろうから言わなかったけど、あたしたちは三将軍の銀牙に追われたの」


 ウラは報告していなかった事実をここで告げる。

 どうやらヴォルフィは人間に知られすぎていて、逆にその名前を出すと怪しまれるから秘密にしていたようだ。


「ぎ、銀牙だと!? どうしてそれで生きているんだ!?」

「この方が倒した…………」

「「は!?」」


 森にいなかったニコルも、サンデル=ファザスと一緒にジモンの言葉に驚いた。

 エルマーは悟り澄ましたような顔を取り繕って当時を語る。


「俺らも暗さと恐怖でうろ覚えなんすけどね。でも激怒してた銀牙が、このひとに骨折られてたのは知ってるっす」

「あれ? あの時気絶してなかったの?」

「骨の折れる鈍い音はさすがに耳に残るっすよ」


 それだけは全員に聞こえていたようで、森にいた金羊毛たちが頷く。

 危機管理的な冒険者として培った能力なのかな?


 そうしている間に、驚きを飲み込んだサンデル=ファザスの目の色が変わった。


毎日更新

次回:同じ轍を踏む

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