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17話:世界の広さ

「仔馬、羽虫はこう言っているが、人化したいのか?」

「羽虫ー!? 誰のこと言ってるんだ、おーん!?」


 いきりたつアルフを羽根の一振りで飛ばして、グライフは僕に答えを求める。


「人間には襲われるみたいだから、保身のために人間のふりできたらいいなって」

「保身だと? 戦え、阿呆」

「僕は草食なの。肉食のグライフと同じ戦法なんてできないよ」


 体としても敵に襲いかかるより走って逃げるほうが合ってるんだし。

 何より、僕は前世を思い出して人間の体の使いやすさを知ってる。

 四足で移動するには不満はないんだけど、指がないってちょいちょい不便なんだよね。


「…………僕も指で簡単に物掴みたい」

「え、そんな理由?」


 アルフが翅を羽ばたかせて戻って来る。


「うん。アルフの指が便利だとは思ってたんだけど、グライフも前足で色々掴めるし」


 アルフとグライフはそれぞれ自分の指を動かして見る。

 僕に至っては動かす指さえないからね!


「口で咥えれば良かろう」

「顔動かさずに、ひょいっと持ち上げるほうがなんかいい」

「あー、このグリフォン案外前足器用だもんな」

「そういうものか?」


 グライフは僕の言い分に納得できないみたいだけど、アルフは頷いてくれた。


「…………仔馬が己の意志で望むのなら手伝ってやらんこともない」

「本当? ありがとう」


 人化できたらいいなと思って答えたら、グライフが鳩豆的な顔してた。

 鳥も表情って案外あるんだね。


「お前は、本当にユニコーンか?」

「今さら、まだ疑ってるの?」

「先天的か後天的かは知らないが、どうやら特殊個体であることは確かだろうな」


 特殊個体って、うーん、まぁ人間だと思ってるユニコーンなんて僕しかいないか。


 王都近くということで林は人間の手が入っていたけど、ぱっと見つからない辺りに僕たちは腰を落ち着けた。

 林の中にあるせせらぎが削っただろう土の露出した木の根元で、魔法のおさらいをする。


「魔素を魔力に変換することに問題はないのか?」

「ないな。ちょっとした魔法なら発動できるのは確認してる。使い方が下手なのは時間が解決するだろ」


 この世界には魔素と呼ばれるものが世界に満ちているんだって。

 誰かが見たとか、検出したとかじゃなくて、魔素と概念的に呼ばれる何かが空気中にあると認識されているらしい。

 前世でも原子という概念を生み出したのは科学ではなく哲学が最初だった。こっちでも実証はできないけどなんかあるという認識なんだろう。


 で、この魔素を呼吸で取り込むと、体を通して魔力という使用可能なエネルギーに代えられるそうだ。


「そう言えば、呼吸の必要がない精神体はどうなるの、アルフ?」

「全身から常に魔素取り込んでるぜ。っていうか、幻象種も同じはずだけど?」

「肉体はあるが、その構成に精神体部分も複合されているのが幻象種だ。妖精や悪魔ほどではないが、呼吸するよりも多くの魔素を取り込むことができる」


 魔法が得意な妖精は、見た目の大きさに内包できる魔力量が比例しないってことが強みらしい。

 人間も、肉体がある幻象種も、その体の大きさに見合った魔力しか作れないそうだ。

 そして人間と幻象種の魔法適性の際たる隔たりは、記憶力なんだとか。


「魔法を放つには術を自分の中で構成して魔力を通す必要があるんだ。人間はこの術を構成するために呪文や魔法陣、杖なんかを必要とする。頭の中のイメージだけじゃ魔法を構成できないんだよ」

「だが、その呪文を覚える記憶力には限りがあり、魔法陣を描くには技術が必要で、杖という道具に対しての相性もばらつきがある。なんとも矮小な存在が人間よ」


 どうやらグライフは人間という種族を相当下に見ているようだ。

 まぁ、傷を負わせた僕に対しても結局は上から目線変わらないし、そういう性格なんだろうな。さすが傲慢の化身。


 で、人間にとってネックとなるのが、記憶力と想像力。

 これを幻象種は生まれつき持っているそうだ。

 怪我さえしなければ千年くらい普通に生きるのが幻象種という生き物だから、記憶力は人間よりもいいんだって。

 ってことは、僕もユニコーンの姿で千年生きるかもしれないのか。やっぱり人化は修得しておきたいな。


「人間が呪文や技術で補う想像力を、幻象種は世界を理解する力で代用できるって聞いてる。そこのところってどうなんだ? ユニコーンやグリフォンに違いはないのか?」

「飛ぼうと思うなら、飛ぶべき時があり、飛べる準備がすでに己にできているものよ。幻象種にとって魔法とは、求めるところにあるものだからな」

「ごめん、グライフ。わからない」

「俺も、その幻象種の感覚だけで魔法使う上に絶対失敗しないのはすごいとは思うけど、理解できるかって言われると、わからん。ただ、人間の魔法使いも自信家のほうが大成するイメージあるな」


 たぶん、幻象種って魔法は使えて当たり前のもので、人化も飛行もやろうと心から思えばできて当たり前のものって感じなんだろうな。

 残念ながら僕にはわからないけど。


「こちらからすれば、お前たち神に従う者の魔法の使い方が特殊なのだ」

「あー、そう言えばエルフなんかの魔法って、体系化してみたら人間の魔法とはだいぶ違ったって聞いたことあるな。だから、エルフの魔法は秘法って呼ぶって」

「え、じゃあ僕、感覚で掴むしか魔法使えないの?」

「いや? 森に人魚住んでるけど、あいつら妖精と一緒に魔法使えるから。別に幻象種は、秘法に限らず魔素を魔力にして放出するってことはできるんだと思うぜ」


 あれ、そう言えば森に人魚? 人魚って海に住むものじゃないの?

 って考えたら、お馴染み知識が開いた。


 どうやら人魚にも種類がいて、半人半魚もいれば、人面魚も半魚人もいるのが人魚という幻象種だそうだ。

 住む場所も、海から川、湖まで大きさや深さのある水辺には大抵住んでるらしい。

 そして勝手に縄張りへ入り込んだ船は容赦なく沈めるから、前世のように恐れられ、人間と水場争いもする魔物扱いなんだって。


「人化は放出よりも循環であろう? 魔力の生成に問題がないなら、術の構成が不得手であると考えるべきだ」

「うーん、やっぱり術の構成は俺が担って、フォーレンはひたすら魔力作ることに集中してもらうか」


 僕が人魚の知識を閲覧している間に、アルフとグライフが人化の術について話し合っている。

 人化の術より人魚への好奇心が勝るけど、さすがに任せっきりで別の話題をぶっこむほど、僕も空気の読めないユニコーンじゃない。

 なんせ元日本人だからね。と思ったものの、思考が逸れてるのはアルフに筒抜けだった。


「フォーレン、今度は何に興味引かれてんだよ?」

「あ、ばれた? 人魚ってどんなかなと思って。グライフが世界を回った中で、見たことあるのかなとか」

「全く、ユニコーンのくせに他の種に興味を持つとは」


 孤高のユニコーンは、同じ幻象種相手にもほぼ無関心らしい。

 僕は魔素を吸収して魔力に変えるという練習をさせられながら、話を聞くことができた。


「この辺りで有名な人魚と言えば、こやつの森の人魚と、平原を横断する大河の一部に住まう人魚だな」

「森の人魚は手足あるけど、大河の一族は足ないって聞いてるぜ」


 森の人魚は半魚人型らしいけど、顔は人間に近いんだとか。

 ただ、二足歩行で魚顔の人魚もいる所にはいるそうだ。


「ここから西の海にも人魚は住んでいたが、人間が大型の船を増やしたせいで諍いが起き、ほとんどの人魚は追いやられたと聞く」

「そうそう。沿岸国では、唯一人魚を迫害しなかったジッテルライヒっていう国の周辺にしか、海の人魚はいないぜ」


 美談っていうことではないようで、ジッテルライヒには大きな港を作れる沿岸部がなかった結果だそうだ。

 けれど、そのジッテルライヒは人魚を足掛かりに、幻象種と友好関係を築き、幻象種由来の貴重なマジックアイテムを得たり、作ったりできる魔法の大家になっているとか。


「魔術学園? え、学校? 魔法使いの学校?」

「なんかすごく食いついたな。フォーレン、学校が気になるのか?」

「え、うーん、子供が集まって、生活するところなんでしょ? 楽しそうかなって思って」

「おい、羽虫。ユニコーンにあるまじきこの発言は、確実に能天気な貴様の影響だろう」

「う、うーん、否定できない。妖精って集まって楽しいことするの好きだし」


 あ、なんか前世知識の某魔法学校思い浮かべてテンション上げたら、アルフが責められるみたいになっちゃった。


「別に悪い影響でもないんだし、アルフが気にする必要ないよ。楽しいことは多いほうがいいじゃないか」


 って言ったら、さらにグライフがアルフの頬に嘴押しつけて睨み始めてしまった。


「ユニコーンが、ここまで頭が緩くなるのかと、俺は驚きを禁じ得ぬ」

「…………同意する」

「あれ? アルフが責められてるんじゃなくて、僕が馬鹿にされてる?」

「両方だ、阿呆。これで愉快な行動をしそうだという期待がなければ、さっさとその喉笛食いちぎっているぞ」

「…………僕に愉快さを期待するグライフも、変わり者な気がするんだけど」


 今度は羽根を広げて打って来た。これまた地味に痛い。羽根って案外硬いんだなぁ。


「仔馬、魔力への変換が遅くなっているぞ。集中しろ」

「集中乱したの誰だと思って」


 打つために羽根が縮められたので、僕はアルフに話を振る。


「エルフやドワーフって何処に住んでるの?」

「ドワーフは南にある山脈の中だ。地下まで続く地中の王国を作ってる」

「そこが昔、ドラゴンにやられたの?」

「いや、魔王との戦いで半分削られたのは西にある古い王国のほうだ。南のドワーフはエルフと協力して魔王からの侵攻を南端で防いだ一族だな。その功績で、魔王石二つを管理するよう取り決められたんだけど」


 力及ばず魔王石の一つを暴走させた末に、ドラゴンが封じる結果になったらしい。

 ちなみに南のエルフの国も新しい部類に入る国らしいけど、魔王の侵攻を防いだから、五百年以上の歴史がある国なんだとか。


「人間の国みたいに国名とかあるの?」

「あるぜ。南のドワーフの国はマ・オシェ。エルフの国は」

「ニーオストだな。王都は呆れるくらいに白いぞ。山脈を越える際には、ディルヴェティカという人間の小国を越えると一番近い。ディルヴェティカは手続きさえ踏めば、人間も幻象種も同じ条件で入国が可能になる」

「え、グライフ人間の国に手続き踏んで入ったの?」


 絶対上空を気ままに飛んで山脈とか超えそうなのに。

 アルフも意外そうな顔してたけど、思い直すように頷いた。


「ドラゴンでも超えるのに苦労する山脈だもんな」

「別段やろうと思えば越えられる。が、あの時は同行者がいた。それに、ディルヴェティカは蜥蜴の巣が近い。対空防衛の蓄積は平原の国が児戯に等しいレベルだったぞ」

「そっかぁ…………。僕も世界を見てみたいな」

「ふ、俺と来るか?」

「おい、フォーレンは俺の友達だぞ! まずは俺の許可を取れ! 黙って行かせないぞ」

「え、アルフは一緒に行かないの? 僕となら森離れても平気なんじゃないの?」


 アルフは僕に答えをくれないまま、黙ってしまう。

 俯いた表情は見えなかったけど、繋いだ精神から、行けないことを惜しむ気持ちだけは伝わって来ていた。


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次回:人化成功?

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