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163話:冒険者の酒場

 まず仮の身分証を作るために冒険者組合という建物を目指して王都を歩く。

 一国の王都だと言うことで、金羊毛が観光がてら周囲の建物や行く先の冒険者組合について説明してくれた。


「ところで、どうして冒険者組合で身分証を作るの?」

「まぁ、保証してくれる組合があれば商人組合でも石工組合でもなんでもいいんだが、冒険者組合の強みは即日発行できるところだな」

「それにあたしたちが既に登録してるから、金羊毛への加入登録で保証人になれるのよ」

「オイセンでの実績が加味される…………」

「国によって独自制限あったりするっすけどね。武器買う時には必須なんっす」


 国ごとに独自のルールがあるけど、冒険者の金羊毛としては冒険者組合での身分証作りがしやすいらしい。


「おいおい!? 金羊毛が生還したぞ!」


 冒険者組合に行くとそんな騒ぎに巻き込まれることになった。

 見た感じ酒場っぽいイスとテーブルが並んでいて、お酒の臭いがすごい。


「待て待て! やることあるからそっち済ましてからだ!」


 祝福するように取り囲む冒険者たちを掻き分け、僕たちは冒険者組合の奥へと向かった。

 そこには受付らしいカウンターがあって、受け付ける種別ごとに別けられているさまは役所を思い出す。

 ファンタジーとかゲームっぽいけど、なんか事務的な雰囲気のほうが強い。


「この二人を加入登録したい。身分証の発行手続きを」

「はい、報告はいただいております。パーティにおける役割はお決まりですか?」

「えーと、エンば、じゃなくてエノメナさんは戦闘無理だろうから非戦闘員でいいわよね」

「フォーさんは戦闘…………」

「エルフで非力とか通らないっすよねぇ」


 どうやら登録にはパーティにおける位置設定がいるようだ。

 イメージ的に戦闘員の冒険者は、前世での有段者のような扱いになるらしい。規制がある代わりに武器の購入や危険地域での活動を許される、と。

 他の基本情報は適当に出身地はニーオストで、年齢は数えてないって書いてもOKもらえた。


「戦闘員で、上級? それは強いってこと? エルフは幻象種でも非力なほうだと思ってたけど?」

「あー、すまんな。このお人は人間と関わらないままいたらしくてちょっと感覚ずれてんだ」


 僕の呟きに、エックハルトが受付にそんなことを言う。

 その間にウラが耳打ちをしてきた。


「フォーさん、あたしたちこれでも一般人より強いんだよ。その数倍上を行くあなたが非力とか舐められるだけですから」

「そういうもの? あ、この顔か」


 顰めてても僕の声が聞こえたらしい受付の人は苦笑いを浮かべた。


「戦闘員は必ずしも戦闘に加わる必要はないですが、一定以上の戦闘技能がある場合登録は必須となっております。少なくともエルフなら魔法は人間の魔法使いより上のはずですから」

「つまりわかりやすく強い人は区別したいんだね。ならそれでいいよ」

「参考までにどんな呪文、いえ、言語が違いますか。では、今までに討伐された中で最も強い相手をお教え願えますか? 上級戦闘員とは別に強さの数値が設定されます」


 あんまり目立つのは嫌だし、一番強い相手で思い浮かぶのはアシュトルだけど。

 アルフを見ると首を横に振られたし、金羊毛を見ても同じ反応。


 これは逆に倒した一番下を答えるべきだよね。


「なんだろう? えっと、人狼…………?」

「「「「ふぁ!?」」」」

「はい!?」


 あれ、金羊毛まで驚いちゃった。

 アルフからはエイアーナで出会ったワニやクモのイメージが送られて来る。うん、もっと早く教えて。

 えーと、もう言っちゃったしここは弱いアピールをしておこう。


「森を飛ぶグリフォンは一人じゃ無理だから、そこまで」

「ひぃ、一人じゃってことは複数なら行けるんですか!? いえ、それよりも人狼を単独討伐!?」


 あれ? 受付の人のこの反応、おかしいなぁ。

 僕たちの話を興味津々で聞いていた冒険者が声を上げた。


「森のグリフォンって最近戦場の上飛び回る奴か!? 矢を射たら逆に襲ってくる!」

「獣人相手にも襲いかかるって聞いたぜ! やべぇやつだって!」

「そう言えば五日くらい前に王都近くを飛んだらしいぞ」


 あ、グライフってエフェンデルラントにいるの?

 それって見つかったらまずいよね。


「ちょ、ちょっとお待ちください」


 受付の人は慌てた様子で奥に行くと、なんだか偉そうな人を連れて戻って来た。


「エルフのお方、森に詳しいようでしたら例のグリフォンについて情報をお売りいただけないでしょうか。こちらはこの値段でどんな情報でも買いましょう」


 僕はお金の価値がわからないから金羊毛を見る。

 頷かれたから悪い話じゃないらしい。


「そうだね、グリフォンは今森には不在。でも長く離れるわけじゃない…………あと、ドラゴンがグリフォンがいないから羽根を伸ばせると言っていた」

「ド、ドラゴン!? 森にドラゴンですか!?」


 森の戦力が舐められないようにと思って言ったんだけど、予想以上に驚かれちゃった。


 そしてクローテリアを知ってるエノメナは、相手の驚きっぷりに首を傾げてる。

 そんな反応に受付の人が僕に疑いの目を向けて来た。


「あー、いたな。あの黒いドラゴンか。生きてるドラゴンなんて初めて見たぜ」

「あたしたち人間じゃ何言ってるかわからなかったけどフォーさんは普通に話してたね」

「エルフならわかる、か…………」

「よく鳴いてたの喋ってたんっすね。いつ火を噴くかちょっと怖かったっす」


 金羊毛は僕がドラゴンの話を出した意図をわかってくれたみたいで、小さいことを言わず合わせてくれる。


「おい、金羊毛! そのドラゴンの素材取ってきてないのか?」

「馬鹿野郎! 獣人に追われて散々だったのに、ドラゴンに喧嘩売れるか!」


 酒を掲げる冒険者の野次に、エックハルトは怒鳴り返した。

 やいやい声をかけられた他の金羊毛も、鬱憤を叫ぶ。


「森の中にはケルベロスやゴーゴンもいたんだよ!? そんな余裕あるわけないでしょ!」

「森の奥は強者揃い…………」

「獣人でも歯が立たない相手ばっかで! ってよく考えたら俺らなんで生きて帰ってこれたんっすかね」

「フォーさまと妖精王さまのお蔭に決まってるでしょう」


 騒ぐ金羊毛の最後に、エノメナがちょっと誇らしげに言う。

 ユニコーンさま呼びがフォーって呼び方にも反映されたみたいだ。


「ケルベロスにゴーゴン? それで生きて帰れたなんてまさか、妖精王に会ったのか?」


 冒険者組合の上役がさらに聞き出そうとすると、アルフが待ったをかけた。


「フォーレン、さすがに喋りすぎだな。秘匿することで相手の情報を絞って手出ししにくくさせる戦法もあるもんだぜ」

「妖精について知りたいのなら、自らの足で尋ねるべき。妖精もそれを望んでいる」


 僕はアルフの助言に従って話を切った。


「で、ではドラゴンは何処にいるかだけでも。こちらも近づかぬよう注意喚起ができますので。あ、あとできればグリフォンも! もちろんお代は上乗せさせていただきます」

「…………妖精王の住処の側、とだけ」

「妖精王の、住処?」

「知らないの?」


 あれって人間が作ったはずだよね?

 僕が首を傾げると、エックハルトが困ったように声をかけて来た。


「フォーさん、それ俺らは森の遺跡って呼んでますし、そうとう奥にあるんで実際見た奴のほうが少ないです」

「遺跡…………」


 住んでたアルフががっくりしてる。けど確かにあれは遺跡だ。


 上役は笑ってみせると吟味するように沈黙する。

 冒険者組合全体に警戒の雰囲気が広がった。

 どうやら僕の言葉で少しは森への印象が変わったようだ。


(アルフ、ちなみにオパールの気配は?)

(ないな。通ってきた人里にもなかった)


 周りの変化を気にしない僕に、こそっとジモンが囁いて来た。


「以前ここで妖精王の代理を名乗るエルフの話をした…………」

「なるほど。じゃあ、隠す必要もないか。僕は妖精王側の立ち位置だ。妖精王は攻撃されない限りは人間を害さない」

「…………と申しますと?」


 上役は慎重なようで、僕から言質が取りたいようだ。


「この金羊毛は森を拓いて人魚を攻撃した。最終的に国との争いになったから個人の罪は問わないし、協力できる点があったから今回は助けた」


 アルフに助言してもらいながら答えると、予想どおりの返答が来た。


「協力できる点とはなんでしょう? 私どもも手をお貸しできることでしょうか?」

「買い物に来たんだよ、このエルフさま」


 エックハルトがはっきり言うと、僕たちのやり取りに息を詰めていた受付が気を抜く。


「このお金は買い物をしてこの街に還元する安心して」


 僕はそんな風に話を切り上げて、身分証作りに移った。

 なんだか安倍川もち作るような機械で金属をプレスして、名前や基本情報の入ったタグを貰う。


 ひと段落という雰囲気になった時、酒を飲む冒険者たちの中に身なりのいい人間が入って来た。

 明らかに冒険者組合に不似合いな恰好だ。


「金羊毛は何処だ? サンデル=ファザスさまのお屋敷に来い」

「来やがったぜ…………」


 また金羊毛が疲れたような顔をした。


毎日更新

次回:怪しい歓待

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