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162話:若返りの秘薬

 僕は重い足取りで小妖精姿のアルフと森を出る。

 目立たないように人化したんだけど、今日はメディサたちと一緒に姫騎士まで面白がって僕を飾り立てた。

 着せ替え遊びがしたいならクローテリアとしたらいいのに。


「何が一番気が重いって、絶対グライフが怒ることだよ」

「だからばれなきゃ平気だって。帰ってくる前に終わらせるぜ」


 僕たちと一緒にいるのは金羊毛の四人。

 そして若く黒髪の美しい女性が一人。


「体が軽い。目も良く見える。心に重く暗い蓋を被せられていたような抑圧からの解放を感じる…………」


 喜びを謳う女性は、僕とは対照的に浮かれていた。


「エン婆、本当に美人だったんっすね」


 口に出して言ったのはエルマーだけど、金羊毛は全員同じ思いだと顔に書いてある。

 若い女性はエノメナで、あまりに森から出たくないと言うのでアルフが策を講じてこうなった。


「若返りの薬なんて本当にあったのか。物語の中だけの話だと思ってたぜ」

「やっぱり森には眠ったままのお宝があるのね」

「いったいいくらの価値になるか…………」


 金羊毛は欲に目がくらんでる。


「人間って本当に懲りないね」


 思わず呟くと金羊毛がこっちを見るから、僕はアルフに消してもらってる角を触ってみせる。

 欲に駆られてユニコーン狩りをしたことを思い出したのか、金羊毛は愛想笑いで僕から目を逸らした。


「せっかくこうして森を離れられたのに、欲で身を亡ぼすつもり?」

「い、いや、ちょっとした好奇心でして、別に森を荒そうなんて、まさか」

「それにエノメナの若返りは館で働いたお礼含むんだよ」

「あ、だったらこうしてエフェンデルラント案内する俺らにはないんすか?」

「ルイユがなんで何も言わずに国に戻ったと思ってるの?」


 エックハルトに続いてエルマーに笑いかける。

 するとエルマーも空気を読んだのか笑顔で頭を下げた。

 そんな金羊毛たちにアルフは他人ごとのように笑う。


「森に残った悪魔たちはな、ほいほい人間が誘惑に引っかかるから飽きたと言ってたぜ」

「…………それって僕を気に入ったのは」

「引っかからない割りに好奇心強いからだろうな」


 嬉しくないし笑えないよ。

 あとコーニッシュが館に居ついたのは別の理由な気がする。


「えっと、妖精王さまと話してらっしゃる?」

「そう言えば姿を消したアルフの声は聞こえないんだっけ」


 ウラが窺ってくる来るのに答えると、ジモンもぼそりと続けた。


「ユニコーン…………、さまの言葉もわからない…………」

「フォーレンって呼んで。一応エルフ扱いで押し通すつもりだし」

「呼び捨てはさすがに、身をもって恐ろしさを知ってると、なぁ?」

「年齢はどう高めに見積もっても十代前半かい? ならフォーレンちゃん?」

「エルフならどう見積もっても年上…………」

「やっぱりフォーレンさまじゃないっすか?」


 あれ、これってもしかして…………。


「フォーレン男だぞ」


 わざわざ聞こえるように言うアルフ。

 なんでエノメナまでそんな目で僕を見るの?

 もうどうにでもなれって、投げやりに笑いかけると目を逸らされた。


「無言の威圧…………やっぱりフォーレンさまじゃねぇか?」

「せめてもう少し砕けて欲しいんだよ」

「じゃ、フォーさんでどうっすか?」

「馴れ馴れしすぎるわよ!」

「別にいいよ」

「いいのか。懐が広い…………」


 ウラの突っ込みと同時に了承しちゃったら、なんかジモンに褒められた?


 そんな話をしながら、僕は金羊毛たちと人里伝いに移動を続ける。

 僕はエルフって明言しない限り耳を隠す方向で。

 本当はこの目立つ顔を隠したいけど角が邪魔でフード被れないんだよね。

 まぁ、今回は見るからに美人なエノメナいるから僕に向く視線が半減してる気はする。


「あ、金羊毛!?」


 三日かけてエフェンデルラントの王都に着くと、防壁の上が騒がしくなった。


「人間だとこの距離でこんなにかかるんだね」

「フォーさん、しぃ」


 人間じゃないとばらしてしまう言葉に、ウラから注意が飛ぶ。

 僕が口を手で塞ぐと、エックハルトに向かって兵が駆け寄って来た。


「生きていたのか!? おーい、金羊毛が戻って来たぞ!」


 発言からしてたぶん蛇作戦を知ってる。そしてニュアンスから全滅も知ってるようだ。


「お前らどうやって生き残ったんだ? なんかの魔法か?」

「いや、森には心得があったから獣人の国の範囲外に逃げた。獣人に追われ続けたが、そこでこの方に保護された」

「うわ、本物のエルフ!? ど、どうして」


 僕の顔に驚くのはいいけど、赤くならないでよ。

 妖精王謹製の美少女顔なのは知っててもイラッとしちゃうんだよ。アルフにも。


「ちょうど買い物したいからって同行したの。それにこのエルフの方も問題を抱えていてね」


 ウラが声を潜めると、兵の上役が来たらしく王都の門にある詰め所に移動させられた。


 驚くほどすいすい進む。

 エルフの国でのことを思い出すと、それだけ金羊毛が信用されている証拠なんだろう。


「まずはよく帰って来た。本当にお前たちだけでも戻ってきてくれて良かった」


 僕は口の軽いエルマーに聞いてみる。


「ずいぶん仲良しだね」

「冒険者ってそういう人いるとやりやすいんっすよ」


 どうやら伝手を持ってる人のいる門を選んできたらしい。抜け目がないなぁ。

 そう言えばオイセンでも重要な場所に配置されていた。本当に腕がいいんだろう。


「それでそちらのエルフとお嬢さんは?」


 お嬢さん呼びにエノメナは照れる。

 僕は気位の高いエルフ役だから喋らないよう口を引き結んだ。


 っていうか僕の会ったエルフは半分が控えめな気がするんだけど。

 スヴァルトは自責の念で自己卑下してたし、ユウェルはグライフに折られてたとして…………エルフ王は王さまとしての気品かな?

 あれ? 普通のエルフってどんなだろう?


「実はこのエノメナの嬢ちゃん俺らと同郷でな」


 この辺りの言い訳は金羊毛に任せる。もちろん若返りは秘密だけどね。

 若返りに浮かれてるエノメナは、外見相応のお嬢さんって感じになってるしばれない気もする。


「森にユニコーンがいたって言っただろ? 親が死んで身寄りがないからってそれの生贄にされたんだよ」

「それは…………惨いことを。オイセンは血も涙もないな」


 エックハルトの話を疑う様子もなく、兵の上役は憤慨した。


「そんなこの子もこちらの方に保護されたんだけど、人間不信になってしまってオイセンには帰りたくないと言って困っていたそうなの」


 ウラが同情を滲ませてエノメナを見る。嘘が苦手なのか、エノメナは困ったように顔を伏せた。

 その仕草が本当っぽくてさらに兵の上役は同情的に頷く。


(こいつら役割分担上手いなぁ。アーディが手を焼くはずだぜ)


 暇になったアルフが声を出さずに話す。


(それアーディに言ったら絶対怒られるよ。同意はするけどね)

(そう言えばエフェンデルラントには仲間がもう一人いるんだったな)

(一番若いって言ってたね。エルマーより若いなら外見上は僕と同じか少し上かな)

(フォーレンが金羊毛を使おうと思わなかったら今頃一人だったな。可哀想に)

(言い方が悪い。僕が金羊毛を殺すみたいじゃないか)


 冷徹なのか同情してるのか、アルフはわかりにくいなぁ。

 …………いっそ両方だったりして?


「なるほど、そういうことなら入国の手続きは任せておけ」

「助かる。もちろん手間賃は払うから」

「あーあー、私が困っている時どうやっても礼を受け取らなかったんだ。これでようやく貸しを返せる。連絡は入れておくから冒険者組合のほうで仮の身分証発行してもらえ」


 何やら借りがあるらしい兵の上役は笑顔で引き受ける。

 どうやら僕とエノメナは王都に問題なく入れるらしい。


 エルフの国に行くまでの旅で知ったことだけど、入国にはお金がいる。

 身分証なんてないから、知り合いに身元保証してもらって入ることもあるらしい。

 けど基本はばれなきゃお金はかからない。

 森の周辺には国境は関係ないと、ダークエルフとして何処の国にも所属しないスヴァルトは言っていた。


「ただ、軍からの呼び出しもすぐあるだろう。お前たちが出てから連絡は回すがな」

「だよなぁ。ありがとよ」

「ところで、生存はやっぱり…………?」

「お前たちだけだ。躯も戻っていない」

「さもありなん…………」

「俺らも正直死んだと思いましたもん」


 金羊毛が疲れた溜め息を吐くと兵の上役は同情的に見ていた。

 本当に仲がいいなぁ。


「軍に呼ばれると何があるの?」


 僕が誰ともなしに聞いてみるとエックハルトが口だけで笑顔を作る。


「まず生きて帰ったことで獣人との内通疑われるんだよ」

「なるほど。君たちも大変だね」


 言った途端、金羊毛に揃って頷かれる。


「けど、あそこから生きて帰れたと思えば、ははは」


 乾いた笑いを漏らすエックハルトが言うあそこは、果たして獣人の国なのか、なんでもいる妖精王の住処なのか。

 金羊毛たちが乾いた笑いをそれぞれに浮かべた後、重い溜め息を吐いたのが印象的だった。


毎日更新

次回:冒険者の酒場

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― 新着の感想 ―
[一言] 次回は『冒険者の酒場』とやらへ行くのか…………い、いや流石にこの状況で転移・転生者大好き冒険者登録をする訳が無いよねするつもりも無いよねやる訳ゃないかwwwwwwwwww …一応名の通ってる…
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