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16話:魔王石のダイヤモンド

「さすがに不自然だ。いったい王都に何がある?」


 グライフは鉤爪の前足でアルフを押さえつけてそう言った。


「国王の悪逆に革命までは良かろう。そこから革命の指導者が殺され、王政が復古した途端にまた殺され、次の王が立てば他国が攻めてくる。なんだこの呪われた連鎖は」

「えーと、うーんと…………助けてフォーレン」

「さすがに調子に乗って盗賊崩れに裸踊りさせるのはどうかと思うよ?」

「仔馬、よく覚えておけ。妖精共はとかく頭が緩い。しかも流されやすく、善悪の境を簡単に飛び越える。純粋とも言えるが、純粋に悪を成すこともできる種族だ」


 言いながら、グライフはアルフを解放する。


「否定はしないけど、言い換えれば俺たち妖精は鏡みたいなもんだよ。相手が善であるなら善を成す。その者に相応しい対応ってのをしてんの」

「妖精の言い分などどうでも良いわ。さっさと王都への目的を吐け」


 グライフの詰問に、アルフは妖精王のダイヤモンドが奪われたことを伝えた。

 途端にグライフは半眼になる。


「いい加減、お前たちのくだらない争いで被害ばかりを広げる悪行を改めろ」

「こっちは被害者だー」

「なんのためにダイヤを託された? 振られた役割一つ満足にこなせんのか。お前たち神に従う者たちがどう翻弄されようと知ったことではないが、その他の生きる者を蹂躙するような横暴を許しはせんぞ」


 なんか、グライフが本気で怒ってるっぽい。しかも、その相手はアルフだ。


 神に従う者って、宗教的なこと? グリフォンって、別の宗教なの? けど、神さまっているんだよね?

 なんて考えていると、幻象種の文化という知識の項目が開いた。

 どうやら幻象種はアニミズム的な考えらしい。多神教っていうか、祖霊崇拝が近いのかな? アルフとか人間たちが崇拝する神は唯一神で、一神教なんだって。


 で、なんでか魔王の項目も開いた。

 どうやら、魔王は宗教思想としては一神教で、五百年前魔王が治めてたこの辺りも一神教を敷いたせいで幻象種たちは生きにくい環境になったらしい。

 だから幻象種は五百年前の魔王戦にはほとんどが不参加。個人的に参加した幻象種もいたけど、一族で関わったのはエルフとドワーフくらいらしい。


 なんて知識を読み込んで行こうとしたら、グライフに首を突かれた。

 地味に痛いんだってば。


「仔馬の分際で俺の話を流すとはいい度胸だ。わかっているのか? 魔王石とは力を引き出す代償に、魔王の呪いに侵され、死と諍い、災厄と怨恨を振りまく存在へと変貌する危険性があるのだ。何故貴様もこんなことに手を貸す」

「そういうつもりじゃなくて…………あれ? えーと、魔王石って何?」


 僕の質問に、グライフが今度はアルフを突こうと動く。けど、アルフは予想してたらしく避けた。


「貴様はもはや害悪でしかあるまい。何も知らぬ仔馬を使って何をしようとしている?」

「いや、その、ちょっと説明する機会を逸しただけで、別にフォーレン騙そうとかは」

「ねぇ、魔王石の知識引き出したんだけど、何これ? 魔王の呪いがかけられた二十二の宝石? 一つ手元にあるだけでも超人的な能力を手に入れられるけど、代償として凄惨な事件が起きてきたって」


 魔王石は元々、魔王の作った宝冠に収められていた魔法の宝石で、どうやら魔王と人間の争いはこの宝冠の所有権が発端らしい。


 魔王の軍は強大で、最初人間たちは次々に滅ぼされて行った。

 けれどただではやられない人間たちは、宝冠につけられた宝石二十二個をバラバラにして隠し、時には宝石の力を使って魔王を撃退したそうだ。

 この時、宝石はまだ呪われていなかったらしい。


「魔王は人間たちを倒して回って、十九個の宝石を回収。残り三つは…………エルフ、ドワーフ、妖精に託された?」

「そ、まぁ、当時の妖精女王は宝冠制作時から助言したりしてたから、こうなったら魔王の暴走を止めようってなってさ」

「二十二の宝石は宝冠の台座に戻されたけど、その台座には魔王の呪いがかかってた?」

「あー、うん。そう…………」


 僕がアルフの知識を口にするほど、当のアルフは気まずげに顔を背けて行く。


「宝冠を争って戦争を起こされるのは困るから、結局宝石はもう一度取り外されて、各種族の代表が管理封印をしてる?」

「そう、なってるな」


 魔王が倒された後、二十二の宝石は各種族が責任を持って封印することになった。


「新たな妖精女王と妖精王にも一部の宝石の管理が委ねられ、妖精王が封印してるのは…………ダイヤモンド?」

「…………うん」

「うんじゃないよ! アルフが盗まれたダイヤって、この魔王石じゃん!」

「やっとわかったか。どれほどの黄金で飾られていようと、幻象種に魔王石など宝とする者はおらん。…………いや、愚かな竜がいたな」


 ようやく話に追いついた僕に、グライフはとあるドラゴンの話をしてくれた。


「念のために前置きをしておくが、以前貴様を襲った蜥蜴は幻象種だが、今から話す竜は怪物に類する者だ」

「同じドラゴンじゃないの? 種類の問題?」

「幻象種のドラゴンは物質体に近いんだよ。で、こいつの言う竜ってのは精神体に近い。姿形は似てるからどっちもドラゴンって呼ばれてるけど、発生の経緯が全く違うんだ」


 アルフはついていない土を払う仕草をしながらそう教えてくれた。


「宝を収集するという性質も同じであるため、混同する者もいるが、こちらからすれば全くの別ものだ」


 そうグライフが念を押して話し出したのは、ドワーフから宝をもぎ取ったドラゴンの話だった。


「魔王石を正しく封印できていなかったドワーフは、欲に駆られて次々と宝と呼べる逸品を作り上げた。その過程でどれだけの横暴を成したかは、別の話だ。だが、そのことで竜がドワーフに目をつけた」


 以前もドラゴンと争ったことのあるドワーフは、かつての遺恨もあり簡単に宝を取り合う戦争をドラゴンと始めた。

 が、ドワーフの中にも学ぶ者がいる。


「元の力が竜とドワーフでは違いすぎるのだ。負けるのは目に見えている。魔王がいた時分には戦いを仕組まれ、徹底抗戦を行い国が半分に削られたと聞く」

「ドラゴンってすごいんだね。それとも、怪物のドラゴンがすごいだけ?」

「怪物のほうが厄介って点じゃ強いな。倒し方が決まってるんだよ。弱点以外の攻撃は跳ね返されるんだ」


 どうやら、ドワーフとドラゴンの争いについてはアルフも知っているらしかった。


「負けを予見したドワーフの中の賢者が、争いの元凶である魔王石を、竜に奪われるだろう宝の中に忍び込ませたのだ。宝を巣に持ち帰った竜は、魔王石を発見するが破壊できず、ドワーフに突き返そうとしたが拒否された」

「で、しょうがなくドラゴンは自分で魔王石を封印したんだが、力の大半を持っていかれたらしい。その上、巣の周辺をドワーフが封じたせいで、さすがのドラゴンもそこから動けなくなっちまったって話だ」


 ドラゴンが力任せに暴れないのは、巣が山中にあるため、せっかく集めた宝が山の崩落に巻き込まれて壊れるのを嫌がったためらしい。

 欲深さが敗因ってことのようだ。


「竜さえ巻き込む負の力を擁した魔王石など、望んで近づく物ではない。ましてや、みすみす奪われて被害を広げるしかなかった愚鈍な妖精に手を貸す必要などない」

「この場合さ、欲深にまだ魔王石求める人間非難してもいいと思うんだけどなー?」


 アルフは唇を尖らせて、小さな声で抗議する。


「人間には最初から魔王石など荷が勝ちすぎるのはわかっていたことであろう。今も魔王石を争って戦いが絶えぬではないか」

「あ、西のほうってまだそれで戦争してんの?」

「俺がいたころにはしていたな。こっちは神殿のある国が防波堤代わりになっているが、あそこも信用ならん」

「ヘイリンペリアムな。まぁ、神殿に安置したはずの魔王石、一つ行方不明だしなぁ」


 なんか、思ったよりも魔王石ってとんでもないみたい?

 二十二個もあるらしいけど、大丈夫なのかな?


「っていうか、封印もせずに所有を争って戦争って、人間の管理って雑?」

「ふん、それ以前の問題よ。使いこなせない道具など、重石でしかないというのに。そんな道理も理解できずに命を使い潰す」

「グライフって、人間嫌い?」

「俺が侮蔑するのは、己の分を知らぬ愚か者だ」


 えっと、なんで僕とアルフを横目に睨むのかな?

 思わずアルフと顔を見合わせると、グライフに盛大な溜め息を吐かれた。


「貴様らが魔王石を回収したとして、まともな管理ができるとも思えぬが…………。人間が所持しているよりは幾分ましか」

「まぁ、危険性なら忘れっぽい人間よりかはわかってるつもりだぜ。なんせ、魔王復活の可能性すらあるんだ。少なくとも、森に隠してる間は人間が全ての魔王石を揃えることなんてできないだろ?」


 えー、魔王石って呪われたアイテムより危なくない?

 全部集めたら魔王復活って…………。

 いや、魔王がどんなものかよくわかってないけど。少なくとも、争いの種まきそうだなってことくらい?

 魔王関係なく、アルフが魔王石取り戻したいっていうから手伝うだけだけど。


 僕は精神的な部分は人間に近いとは思ってるんだけど、あんまり現状に心動かないことがちょっと驚いた。

 なんていうか、同情とか心配っていう感情が、動かない。すっごく他人ごと。

 これって、ユニコーン的なものの感じ方なのかな。


「ふむ、噂では聞いていたが本当に魔王の復活はあり得るのか?」

「可能性としてだけな。…………何? 東の覇者が復活するかもしれないって聞いて、怖気づいた? もうついて来るのやめる?」

「減らず口を。安い挑発だな。…………が、乗ってやろう」


 数日一緒にいる内に、この二人も仲良くなってるよなぁ。

 僕と話すより、お互いが気を遣わずずけずけ物言ってる感じに。


「魔王石を直に見るのも一興だ」

「よーし、言ったな? じゃ、ちょっと手伝え。フォーレンを王都に入れるために人化の術使いたいんだけど、どうも上手くいかなくてさ」


 アルフは同じ幻象種のグライフなら、僕が上手く人化できない理由がわかるかもしれないと考えたみたい。

 そんな話をしながら、僕たちは裸で踊っている盗賊崩れを放置して、王都近くの林へと向かうことにした。



毎日更新

次回:世界の広さ

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[一言] まるでフランスみたいだあ(直喩)
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