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147話:スター

「ごめんなさい! サファイアに傷つけちゃいました!」

「はぁ…………!?」


 僕はサファイアを差し出しながら頭を下げる。

 エルフ王は硬直し、飛竜のロベロが大声を上げてグライフに叱られた。


「うるさいぞ、蜥蜴」

「だ、おま、魔王石だぞ!?」

「ふん、この仔馬はダイヤもやった。サファイアに傷をつけたところで今さらよ」

「あれ、なんでグライフが知ってるの?」

「羽虫が大笑いしながら話していたぞ」


 アルフめ! やっぱりダイヤにつけた傷は消してもらったほうが良かったな。


 って、よく見たらサファイアにはだいぶ大きな十字の傷が入っていた。


「だ、大丈夫だ。魔力を流せば…………」


 気を取り直したエルフ王は、そう慰めながらサファイアを取ろうとしてやめる。


「これは…………なんと…………」

「傷、大きすぎる、よね。ごめんなさい…………」


 居た堪れない僕の後ろから、グライフもサファイアの傷を覗き込んだ。


「仔馬、これは傷ではないぞ」

「え?」


 驚く僕の手元を見て、ユウェルも声を上げた。


「うぇ!? これスターじゃないですか! え、スターサファイアになってますよ!?」


 そう言えば傷の割に、表面傷ついてない?

 どうやらそういう種類のサファイアらしい。


「僕が触ったから色が変わって模様がついたってこと?」

「これほどの青にスターまでつくとは、はは」


 エルフ王は諦めたように笑う。


「自らの信念を突き通そうとする万能感が生まれるはずが。変化はないのだろうか?」

「あるけど、今完全に僕だけスターって何かわかってなかったし。万能感とか根拠のない気持ちだなって思う」

「冷静なことだ」


 そんな会話をしながら、エルフ王は何故かサファイアを受け取ってくれない。


「仔馬、それは貴様の制御下にあるのか?」

「制御ってどうするの?」

「…………やってみるか」


 何か考える風に呟くと、グライフは無造作にサファイアに触る。

 瞬間、人化しても猛禽っぽさを残す目が、攻撃的に見開かれた。

 あ、なんか感じる。これは魔王石に触った時の僕と同じ状況なのかな?


「グライフ、そっちに行っちゃ駄目だよ」

「…………む」


 グライフが触ってから、サファイアは白っぽく濁っていた。

 そしてグライフに理性が戻ると、サファイアは赤みを帯びる。


「仔馬、やはり貴様特殊個体ユニークだな。これを忌避もなく持つとは」

「影響があるのはわかるけど、グライフでもそこまで言う物なんだね。あ、可愛い色になった」


 グライフが触れたサファイアは、桜色っぽい色になっていた。


「澄んだ蓮色…………ご主人さまらしいですね」


 ユウェルが言うには、珍しいけれど青が珍重されるサファイアでは意見が分かれる色だそうだ。

 珍品として価値を認めるか、青ではないと価値を下げるかは相手次第の色らしい。


「ふん」


 他人の評価を鼻で笑うようにグライフが手を放すと、またスターサファイアに戻る。


「魔王石など碌な物ではない。それを再確認できた」

「わかり切ってたことだろ」


 グライフにロベロが呆れたように言う。

 だから僕はちょっとした悪戯心でロベロに、サファイアをくっつけてみる。


「ぎゃ!?」

「あ、濁った」

「何をする!?」

「赤くなるかなって」


 やってみたら濁ったオレンジだった。残念。


「安い色だ。その上濁るとはな。ふははは」

「黙れ! この状況に苛立ちを覚えないはずがないだろう!?」


 つまり悪いこと考えてるとこのサファイアは濁るってこと?

 僕は思わずブラウウェルを見る。

 すると僕の視線に気づいてユウェルが動いた。

 止められるかと思ったら、ユウェルは動きを制限するようにブラウウェルの腕を取る。


「せ、先生!?」

「じっとしててください」


 ユウェルが頷いて来たから、僕は迷わずブラウウェルにサファイアをくっつけた。

 途端にブラウウェルは危ない感じに痙攣し出す。


「うわ、びっくりした…………! 色は…………うっすい青と黄色で、緑色っぽい?」


 けど色は澄んでる。本当に悪意もなくあんなことしたんだ。

 それはそれで大丈夫かな、このブラウウェル。


 そしてやっぱり離すとスターサファイアになる。

 ふと周りを見回すと、エルフたちから距離を取られた。

 大丈夫だよ。無闇にくっつけないよ。


「ふむ、来たな」


 エルフ王は宝物庫のほうを見て呟く。

 顔色の悪い文官がサファイアを入れる箱を持って来たようだ。

 スターサファイアのまま回収されたんだけど、いいの?


「被害状況の確認を優先せよ。敵への警戒を怠るな」

「宝物庫が…………宝物庫が…………」

「そ、れは、致し方ない犠牲だ」


 あ、ごめん。サファイアよりそっち謝るべきだったかな?

 エルフ王が指示を回しながら動くと、ブラウウェルはユウェルに確保されたまま移動を始める。ロベロも事情聴取のため同行を求められる。

 それからは慌ただしくなった。


 結果として流浪の民には逃げられた。

 後日、追ったサテュロスの報告を確認して、僕は改めてエルフ王に報告する。


「人間がドラゴンの山に行ったのか!?」

「うん。山に洞窟? 抜け道? みたいなものがあって、途中まで入ったけど気配に気づいたドラゴンに威嚇されたよ」


 流浪の民が逃げた先は、ドワーフと戦った怪物のドラゴンが埋められた山だった。

 手掘りの洞窟があり、その先はドラゴンの巣に続いていると思われる。

 グライフと一緒に行ってきたんだけど、ドラゴンの威嚇に案内のサテュロスが怯えたからドラゴンの姿は確認せずに帰って来た。


「流浪の民はあのドラゴンと結んでいると考えるべきか」


 そうエルフ王が険しい顔で言うと、エルフたちは恐怖を露わにしたり悔しさを滲ませたりする。

 エルフの国を荒した相手とはいえ、ドラゴンの縄張りを通るのでは深追いはできない。

 その上ヴァシリッサも逃亡中。姿を隠してる可能性を考えて捜索は継続されているけど飛んで行ったから追える痕跡がないらしい。


「難民を先に入れて、本命の流浪の民は後から入り込んでいた。他の拠点を持っている可能性もあり、こちらは手いっぱい。妖精王の代理どののご助力に感謝の念が尽きない」


 国内の洗い直しでやることの多いエルフ王は、そう言って頭を下げた。

 街の片づけは僕も手伝ったし、洞窟のナーガのヴァラに襲わせた村にも調査に行ってる。

 危険がありそうな場所から確実に帰ってくるとわかってる者を送り出せるだけ、気が楽らしいとスヴァルトからは聞いていた。


「ドラゴンの巣を通って北に戻ったなら、流浪の民は東の大地にいるんじゃない? 追う?」

「その可能性は高いだろうが、我々にその余裕はない」


 僕の提案にエルフ王は首を振る。


「でも、人間のエルフたちどうするの?」


 入れ替わりエルフを元に戻せそうなのは術を行った流浪の民。

 この質問にもエルフ王は首を振った。


 コーニッシュの見立てでは、肉体との繋がりは切れてないから戻れる可能性はあるらしい。

 ただし元の術がわからないと手出しはできない。


「村の破壊された魔法陣の修復には時間がかかるが、危険を冒すよりも確実だ」

「ユウェル頑張ってるみたいだけどね」

「悪魔の助言があればこそ、望みを繋げた」


 友である僕の意向でコーニッシュは今回無料でエルフたちに助言をした。

 悪魔ができると言うなら方法はあると、ユウェルが率先して入れ替わりに使われただろう魔法陣の修復に当たっている。


 ブラウウェルの取り巻きもユウェルに師事していたそうで、弟子のために頑張っているそうだ。

 様子が違うことに気づいていたのにと、ユウェルは後悔していた。


「ロベロはどうしてる?」

「今のところ連絡係として移民の村と往復してもらっている」


 聞けば、あまりいうこと聞かないようだ。ただ村には行くし、僕の言いつけがあるから逃げはしない。

 あと近くにいるヴァラと気が合ったらしい。

 なんか被害者の会とかグライフが言ってた気がする。


「今さらだが、我々の都合で妖精王の代理どのを引き留めすぎた。協力、感謝する」


 エルフ王の言葉に合わせて、その場にいるエルフたちが一斉に頭を下げた。


 なんだかんだ一月以上エルフの国にいることになっている。

 コーニッシュの食材調達にも何度か行ったし、スヴァルトとエルフ王と夜中に話し合いもした。

 アルフの知恵も借りて魔王石の封印強化をしたり、宝物庫の被害を申告したり。


「帰還前に、飛竜ロベロと交換する者を紹介しよう」


 エルフ王の指示で現われたのは、僕も知ったエルフだった。


毎日更新

次回:森送り

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