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142話:換魂のエルフ

「魂が、別人…………?」


 急いでもやしを飲み込んだ僕は、コーニッシュの謎発言を聞き直す。


「あぁ、我が友には見えないのか。体はエルフ。中身が人間に変えられているよ」

「え? え? それってどういうこと? それが普通ってわけじゃないんだよね?」

「無理矢理だろう。歪みが酷くて見てわかる。これは命に関わるね」


 コーニッシュの淡々とした言葉に、みんなの視線がブラウウェルを糾弾していた取り巻きに集まる。


 最初に動いたエルフ王は、僕たちに近づき鋭い目を向けて来た。


「悪魔どの、どの者だ?」

「うん? そこの四人と後ろのほうに三人くらいかな」


 コーニッシュがそう言った途端、指摘されたエルフたちは弾かれたように動く。


「逃がすな!」


 エルフ王の怒号に、兵が槍を構えて取り巻きに向かった。


「誰が逃げるか!」


 取り巻きは下種な笑みを浮かべると、滑るように身を低くして、兵を倒し剣を奪う。

 中にはあえてエルフに紛れ込んで被害を増やすあくどい真似をする者さえ出た。

 そして混乱を大きくするとエルフ王を狙って襲いかかる。


 僕は角で一人の剣を折って、魂が別人らしいエルフを睨んだ。


「この動き知ってる。流浪の民だ」

「なんとそう来たか。存外引き出しの多い者たちよな」

「グライフ、感心しないで」


 たぶんすごい悪いことしてるんだから。


「流浪の民よ、我が臣民へ害なす所業はエルフへの宣戦布告と見なす!」


 鷹揚だったエルフ王は怒りを顔に浮かべて大きく腕を振った。

 どうやら逆鱗に触れたようだ。

 手振りで命令を察したエルフが、エルフ王に弓と矢筒を渡す。


「ふん、エルフの身を使おうとも所詮は小物。どうした、もっと俺を楽しませろ」

「殺しちゃ駄目だからグライフは下がっててよ」

「む…………。貴様はどうするのだ、仔馬」

「角や足使わなきゃいいから、魔法かな」


 と思ったら、僕の側を矢が飛ぶ。

 矢は流浪の民の魂入ったエルフの袖を過たず縫い止め、振り下ろそうとした剣を止めた。


「スヴァルト、すごいね。歴戦の猛者ってやつなのかな?」

「う、上を抑える。フォーレンくんは武器破壊に専念してくれ」


 スヴァルトは照れたように視線を逸らすと、フックショットのようなもので柱の上へと移動した。

 きっと森でもこうして動いてるんだろうなぁ。


「そうか、上から見れば動きも掴みやすいよね。グライフも暇なら行って」

「ならば貴様も来い、道楽悪魔。敵の居場所を指示せよ」


 どうやらコーニッシュにも変なあだ名をつけたグライフ。

 嫌がるコーニッシュを背中に投げ上げ、大広間の高い天井に舞い上がる。


「僕はまず、流浪の民が変な毒を使うみたいだから、これかな?」


 魔法で水を出して角を突き入れ、周辺に撒いた。

 以前アルフがしていたことを真似してみたんだけど、アルフのように均等には撒けなかった。どうやら水の動きを制御する必要があったみたいだ。

 まぁいいか。剣に毒を仕込もうとしてた流浪の民は失敗したみたいだし。


「ユニコーンめ! 邪魔をするな!」

「乗り込んできて言うことがそれって間違ってない?」


 襲ってくる流浪の民に、僕は風の魔法で速度を上げて後ろを取る。

 剣を折って背中を角の横で打つと、服の下に何か着込んでいたようで思ったよりダメージにならなかった。


「この程度! 食らえ、火蛇焼罰バーン・パニッシュメント!」


 火の魔法らしく、火でできた蛇が噛みつこうと襲ってくる。


「じゃ、こっちも魔法を使うよ」


 僕は角に電流を纏いつかせて振った。

 すると紫電は火の蛇を貫いて、曲がる。

 電流の走る先には流浪の民がいた。


「なんだ今の魔法は。仔馬、いつの間に雷などという高尚な魔法を覚えた」

「グライフ、雷って高尚なの? 森にいた巨人に教えてもらったよ」


 追尾したのは最初の殴打でマーキングしたから。

 人狼相手に使ってみて、直接触る以外に当てる方法を考えてこうなったんだ。


「なるほど。まだサイクロプスは森にいるのか」


 楽々と連射して流浪の民らしきエルフを牽制するエルフ王は感慨深そうに呟いた。

 サイクロプスは五千年前からいるそうだし、エルフが森にいた時にもいたはずだよね。


 そのエルフ王は矢に魔法を込めて放ち、逃げるエルフに紛れようとする敵を引きずり出してる。

 矢から伸びた蔦が流浪の民らしいエルフの足を止めていた。


「非戦闘員は逃げろ! 陛下のお邪魔になる!」


 大臣や文官たちは大広間から逃げる。

 そこに紛れようとする敵を兵が阻んで大騒ぎだ。


「ブラウウェルくんも! ここにいては邪魔になるだけです!」

「しかし先生! 助けなければ! 私の友です!」


 ユウェルに引っ張られるブラウウェルは、乗っ取りエルフを心配していた。

 さっき盛大に裏切られたのに、そこは流浪の民だからノーカンなのかな?


「正気に戻れ! 自分が何をしているのかわかっているのか!?」


 逃げるエルフに紛れようとする敵に、ブラウウェルは掴みかかった。

 すると敵は素手のブラウウェルを容赦なく切りつける。


「ほざけ。怠惰に耽る脆弱なエルフなど今頃死んでいる!」

「な、な…………友を愚弄するな! 今頃とはどういうことだ!? 何処にいる!?」


 ブラウウェルは怒りに任せて魔法を乱射するけれど、大した抵抗にもならずまた剣を受けて尻もちをついた。

 僕から見ても戦闘経験の差が顕著だ。


「お前はもう用済みだ。大して役にも立たなかったな」


 そう言ってブラウウェルの友人の顔をした敵が剣を振り下ろそうとした。

 瞬間、横から敵の腕に掌底が見舞われる。

 狙いすました一撃で隙を作られ、敵は腕を掴まれた途端に地面へ叩きつけられた。

 倒れた敵も側のブラウウェルも何が起きたのかわからないみたい。

 距離のあった僕には、投げ飛ばしたユウェルの動きははっきり見えていた。


「許せません…………」


 眼鏡を外してブラウウェルに投げ渡したユウェルは、硬く拳を握り締める。


「眼鏡、割れないようお願いします」

「は、はい」


 ユウェルはさらに近くの敵に掴みかかった。


「学者風情が!」

「えぇ、学者ですよ」


 答えたユウェルは流れるように一本背負いを見舞う。


「魔物や盗賊の中、道なき道を切り開く学者ですから。これくらいできなくてどうします?」


 そう答えたユウェルは、また素早く接敵すると構えさせる前に技をかける。

 武器を持っていても関係なしに、間合いを詰めていった。


「相変わらず二足歩行相手には使える下僕よ」

「グライフ、ユウェルって…………。あぁ、あれだけの腕があるのに、技の効かないグリフォンに見つかったのが不運だったんだね」


 ユウェルが参戦したお蔭で、殺さないよう攻めあぐねていたエルフの兵が盛り返す。

 塀はユウェルが投げた敵を次々に無力化していった。


「コーニッシュ、これで全部?」

「ここにいたのはね」


 自殺防止に猿轡として蔦を噛まされた敵が何か言ってるけど今は無視。

 身ぐるみを剥ぐのはエルフに任せておけば良さそうだ。


「悪魔どの、聞かせてほしい」


 エルフ王が弓を臣下に預けて真剣な表情で言った。


「この者たちの魂を戻せるだろうか?」

「難しい。ほぼできないね」


 予想していたらしいエルフ王は驚きはしないものの、苦渋の表情を浮かべる。

 けれど恐れ知らずのブラウウェルは、コーニッシュに対して怒った。


「悪魔だろう! 魂の扱いは慣れているはずだ! 難しいならできないわけではないのだろう!? こんな時に言葉遊びなどするな!」

「死んで魂が冥府に降りていたら追えないよ」


 コーニッシュはブラウウェルの怒りなんて全く気にせずただ事実だけを伝えるように言った。


「…………そんな、だって、…………いつから?」


 茫然と意味のない言葉を漏らすブラウウェルを、ユウェルは眼鏡をかけ直して慰めるように肩を抱いた。

 どうやらコーニッシュ曰く、無理して体を乗っ取っているから、流浪の民自身もヤバい状態だそうだ。


「ねぇ、この七人なの?」

「そうだよ、我が友」

「七人だったよね?」


 僕はコーニッシュに続いて妖精に聞く。

 伝言を持ってきた妖精は元気に肯定の返事をしてくれた。


「何か気になることがあるのだろうか?」


 エルフ王は考えを切り替えるように表情を冷静なものにする。


「うん、エルフらしい七人、一応生きてるって」

「何!? 嘘ではないだろうな!」

「落ち着け、ブラウウェル。説明を、願えるか」


 食いつくブラウウェルを片手で止めて、エルフ王が詳細を求めた。

 僕を詰問したいブラウウェルを、ユウェルが物理的に抑え込む。


 どうやらこのブラウウェル、お坊ちゃんらしいのに猪突猛進な性格だったようだ。


毎日更新

次回:理不尽な戦力

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― 新着の感想 ―
[一言] > スヴァルトは照れたように視線を逸らすと、フックショットのようなもので柱の上へと移動した。  きっと森でもこうして動いてるんだろうなぁ。 そのエルフという種族の外見も相まって、最早その姿…
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