138話:僕は仲間を呼んだ
「なんか寂しい独居老人みたいだね」
「うぅ、うるさーい!」
どうやら図星だったようで怒鳴られた。
洞窟のナーガというこのヴァラ、暇潰しに人質まで取って足止めして、要求が歌い踊れって。
「うーん、よし。賑やかに歌い踊って、君がもういいって言うまでやればいいんだね?」
「そ、そうだ!」
ヴァラは頷く動きに合わせて捕まえてるエルフも上下に振る。
本当に洞窟が体の一部らしい。
「何をする気だ、仔馬?」
「ちょうどいいもの持ってるから、これでいいかなって」
僕はエルフの国に入る前から腰に下げていた物を取り上げた。
「角笛ですか?」
これを手に入れた経緯を知らないユウェルは眼鏡を押し上げて眺める。
「あ、でも僕こんなの吹いたことないから音出せるかな?」
「どれ貸して見ろ」
グライフは慣れた様子で角笛を構えた。
なんか乱暴者で横暴なことも良くするけど、グライフって芸達者なところあるよね。
世界を回った経験値なのかな?
「ふふん、わしの耳は肥えておるぞ」
偉そうなヴァラは鑑賞の体勢なのか、洞窟を動かして岩に肘をつく。
ヴァラの煽りなど気にせず、グライフはためらいなく角笛を吹いた。
ふすーっと。
「ぶっはー!? 自信満々で、ふすーって、ふすーって!」
あまりに間抜けな状況に、ヴァラは大うけ。
もちろんグライフは笑ってなんかいない。
どころか力任せに角笛を叩きつける。
「…………やはり一撃で殺す」
「グライフ駄目だよ! 向こうは気に入ったみたいだから結果は成功だって!」
「我が友。これは専用装備だろう」
コーニッシュはグライフが投げ捨てた角笛をひっくり返して確かめながら言った。
硬い地面へ叩きつけたのに、角笛には傷一つついていない。
「今の吹き方は完璧。角笛に穴も開いてない。鳴らない理由は持ち主じゃないからだ」
「え、僕が吹かなきゃいけないの?」
仕方なく、僕はグライフに吹き方を教えられる。
ヴァラは明らかに僕も失敗しろという顔をしてみていた。
「よーし」
「む、口はもっとすぼめろ」
グライフにそう言われたけど、すでに息を吹き始めていた。
もちろん息がきちんと入らなかったんだけど、ちょっと息を入れただけで大音量で角笛が鳴る。
まるで僕の息があればそれだけで音を立てられる魔法と言わんばかりに。
「うるさ…………!?」
自分で吹いて驚くほどの音が鳴った。
コーニッシュ以外はみんな耳を押さえて呻く。
そう言えば見晴らしのいい山の斜面で吹いて音が響き渡っていたんだ。
予想しておくべきだった。
「くそ…………明らかに失敗する吹き方であの音か」
「グライフ、耳塞いだまま喋らないで」
「く、くらくらします…………」
ユウェルは音のせいで目が回っているらしい。
その横で、平気な顔をしたコーニッシュが頷いた。
「ナーガもやられてるね。もう帰ろうか」
「く、そこまで大きな音になるとは…………迂闊じゃった」
体の自由が効かないエルフはもうぐったりしてる。
今ならこっそり逃げたら怒られない気がしてしまう。
「し、しかし演奏にもなっていないそんなものでは満足せぬぞ!」
ヴァラは何故か勝ち誇ったように言って僕を指差した。
「あ、これ呼ぶだけだから。ちゃんと本職くるから大丈夫だよ」
「本職じゃと?」
僕の言葉でヴァラは何かに気づく。
「なんだこの騒々しい気配? む、入って来た、こ、こやつらは!?」
あ、早いね。もう来たんだ?
そう言えばケンタウロスの所でも待たずに来たし、そういう道具なんだなぁ。
僕が呆れて角笛を眺めていると、ヴァラは焦り始めた。
「そなた、ユニコーン! 何というものを呼んでくれたのだ!?」
「僕はちゃんと確認したでしょう? 賑やかに歌い踊って、君がもういいって言うまでやればいいんだねって」
「な、なんと、なんという…………!」
ヴァラが絶句していると、状況のわからないユウェルが困った様子で聞いて来た。
「あの、フォーレンさんはいったい何を? あの角笛は楽師でも呼び出す召喚道具だったんですか?」
「楽師なんて呼べるようなお上品な感じじゃないけどね」
余裕のなくなったヴァラを愉快そうに眺めるグライフに気づいて、ユウェルは一歩下がる。
どうやらグライフと一緒にいた経験から、そうとう碌でもないことが起こることがわかったみたい。
うん、ヴァラもね碌でもない要求して来たから、いいかと思うんだ。
君が根を上げるまで騒がしくするぞー。
僕の無言の脅しが聞こえたみたいに、ヴァラは震えあがった。
「なんと邪悪な性根!? おなごと見紛う清廉な容姿をしておいて!? は! だから悪魔なぞと仲良く食材調達などしておるのか!?」
「邪推が酷いなぁ。あと僕の見た目は関係ないから。次言ったら洞窟の壁に穴あくまで角で突くよ。…………あ、来たみたいだね」
騒がしい声と音楽が通路いっぱいに反響して近づいてくる。
うん、相変わらずパラリラ聞こえる。
「な、何が来たんですか?」
「ユウェルはグライフから離れないでね」
「友よ、妖精の中でもウザいことで有名なの呼び出したね」
そうなの? 悪魔が言うほどって相当だね。
「フー! 呼んだか兄弟!?」
「兄弟になった覚えはない」
「あ、はい」
冷たく返すとかしこまるサテュロス。
一つしかない洞窟の奥の出入り口に押し寄せてくる。
「ひぇー、サテュロスの群れですか?」
「山を越える前に仔馬を襲った阿呆どもだ」
「命知らずだね」
「あ、グリフォンさんも、チーッス。その節はどうも、うーっす」
サテュロスは馬鹿にしてるのか下手に出てるのかわからない態度だ。
「して、どのようなご用件で?」
「ちょっと、このヴァラがもういいって言うまで歌って踊ってほしいんだ」
「そんなことですかい! お安い御用で!」
僕の要望を聞いた途端に、かしこまる風だったサテュロスたちは元気になる。
「行くぜ野郎ども!」
「ひゃっはー!」
「や、やめろー!」
ヴァラはすでに両手で耳を押さえて嫌がっている。
暴れるように踊るサテュロスは、大声で歌もがなり立てた。
洞窟だって言うのに笛は吹き鳴らすし、打楽器も力いっぱい打つし。
けど何より酷いのは下ネタ満載の歌だった。
即興っぽいけどサテュロスたちは楽器も踊りも息ぴったり。
「なんたる低俗! なんたる不快!」
ヴァラはいっそ苦しむように叫ぶ。
僕はそんなヴァラに水をかけて解毒する。
毒吐くくらい辛いみたいだ。
「腰を振り出したね」
「コーニッシュ、しぃ。女の人もいるんだから」
ユウェルはまたグライフの背中に隠れて顔を覆っている。
尖った耳は真っ赤で、グライフも今度は引き剥がしたりしない。
「見てて気持ちのいいものじゃないね」
「酔っ払いがたまにやる裸踊りというんだ、我が友」
あ、こっちにもそういうのあるんだ?
っていうか、悪魔の前で裸踊りした人いるの?
「うぅ…………や、やめろぉ…………」
「ナーガよ、さっさと降参しろ。付き合わされる俺も不快だ」
グライフが真剣に諭した。
人化してても残るグリフォンの尻尾は、不愉快そうに揺れ続けている。
「うぅ…………わかった! もういい! もういいから帰ってくれ!」
「サテュロス、もういいよー」
「えー? これからって時に」
「これ以上まだひどくなるの? ともかくもういいよ。ありがとう。助かった」
「へへ、そうですか? では、またのご用命を。野郎どもずらかるぜー!」
思ったより素直に帰ってくれた。
僕たちは泣くヴァラに気絶したエルフ運ばせて、洞窟の入り口に戻る。
サテュロスの群れ見送ってた外のグリフォンたちは鳥の顔なのにドン引きしてるのが良くわかる表情をしていた。
「さて、帰ろう。じゃあね、ヴァラ」
「もう来るなー」
ヴァラに見送られて、僕たちは洞窟を離れた。
「フォーレンさん、この近くですよ。人間の集落」
「あ、そうか。忘れてた」
ユウェルに言われなきゃ忘れてたけど、そこも偵察するつもりで来たんだった。
ちょうどお目付け役気絶してるし、休ませる名目でそっちへ行ってみよう。
「…………ヴェラットそっちは駄目だ!」
僕たちが足を緩めると、誰かが目の前に飛び出してきた。
「え、きゃー…………!」
飛び出したのは濃い肌の色をした女の子で、後から男の子が追い駆けてきて庇う。
「あ…………、やべ」
そしてさらにその後ろから顔を出したサテュロスが、僕たちを見て愛想笑いを浮かべた。
すごい下心満載な笑顔で追いかけてたみたいだけど、帰り際に何してるの?
「君たち大丈夫?」
睨んでサテュロスを止め声をかけると、男の子と女の子はよく似た顔を上げた。
双子かな?
「ひぃ…………!?」
「ト、トラウウェン!」
男の子が硬直すると、女の子が手を引いて逃げだす。
え、すっごい怯えられた…………。
あの二人は一体誰だろう?
人化して角を消した僕に怯えるなんて、つまり知ってるってことだよね?
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