137話:洞窟のナーガ
その後も大ムカデや化け物ガエルなんていうモンスターが何匹も出て来た。
「ひぃ、わさわさしてますー! わ、私こういうの駄目でぇ…………!」
節足に戦くユウェルはグライフの腰にしがみついて大ムカデを見ないようにしてる。
グライフ羽根があるから盾には便利だよね。
そしてそんなモンスターを倒すのは僕一人。
ユウェルはともかく、グライフとコーニッシュは自分が襲われない限り手を出さない。
「うわ!? 何か吐いた!」
「うむ、どう見ても毒液だな」
「食べるなら毒抜きに一カ月かけなきゃ無理だね」
他人ごとなグライフも酷いけど、食べることを考えるコーニッシュもどうかと思う。
ムカデやカエルは料理されても食べたくないよ。
「ねぇ、ここ毒持ち多くない?」
毒爪を持つ蝙蝠を倒して、僕は腕についた引っ掻き傷の具合を確かめる。
森から離れるとシュティフィーの加護が届かなくて怪我をするみたいだ。
洞窟という狭い中では避けるのも難しい。
「ここの主が毒を持ってるんだよ、我が友」
「なるほど。ここにある毒の元を食している故にここにいる者どもは毒を溜めているのか」
グライフは背中からユウェルを引きはがしながらそんなことを言った。
僕を先頭にさらに歩くと、目の前を横切るモンスターがまた湧く。
地面を這う姿と不定形という特徴からスライムだと思ったんだけど。
「またスライム…………じゃないね。何これ?」
スライムみたいにゲル状じゃない。
あと透けてもいないぶよぶよの塊。その上、すごい数の目がついてる。
立ち止まった僕の後ろから、グライフがわざわざ頭を抑えつけるようにして覗き込んで来た。
「どうした、仔馬? …………それはタイサイか!」
「ま、まずいですよ!」
「あー、見られちゃった」
タイサイというモンスターの小さな無数の目が、確かに僕たちを見ているみたいだ。
みんな知ってるみたいだけど、タイサイって何?
考えるとアルフの知識が開いた。
タイサイとは肉塊の魔物で、会うと不幸になるスライムとは別系統の厄介な生き物らしい。
「埋め戻せってアルフの知識にあるけど?」
「最初から地中というか洞窟の中だよ」
「無意味であろうな」
「呪いみたいなものなので、然る所でお祓いをしなければいけないんです」
そう言えば不幸って、反対は幸運だよね? それって確か妖精がどうにかできたんじゃなかった?
(アルフ、タイサイに会ったんだけどどうにかできない?)
(マジか。任せろ)
言ってみたらすごく軽く引き受けられた。
「アルフがどうにかしてくれるらしいよ。ちょっと触るね」
僕はアルフの指示に従って三人の肩に触れる。
すると僕の手は妖精みたいに光って、その光が三人にも伝播した。
「あぁ、妖精は幸運も不運も運ぶからか」
「フォーレンさん、なんでもありですね」
「仔馬、それでそこの不幸の元凶に触って見よ。愉快な物が見られるかもしれん」
「やだよ。見るからに肉塊じゃないか。これがスライムみたいに溶けるのもやだけど、弾け飛んだらどうするの?」
「む…………? よし、触るな」
「触らないって」
僕たちはモンスターを駆除しつつ奥へと進んだ。
コーニッシュの案内で辿り着いたのは、耕したように柔らかな土のある場所。
「あ、鼠だ。コーニッシュ、もしかして種を運ぶ小動物って」
「あれがこの辺りの土を耕して豆を埋めるんだ」
「どうして?」
「食料として隠す。ただし食べずにいた物が発芽する」
「すでに芽が出ているな。あの白いのであろう?」
「あれ、芽なんですか? 言い方は悪いですが、ゴミみたいですね」
グライフとユウェルが見る先には、白い茎に黄色い豆のようなものがついた、もやしがあった。
…………うん、もやしだ。
「これがなかなかいい味が出る。ゴミなどと言ったことを後悔するといい」
コーニッシュは元気にもやしを収穫していく。
鼠は僕たちが現われた時点で逃げ出していて、邪魔をする者はいなかった。
「危険って言われた割りに肩透かしだったね」
「フォーレンさん、ここの主が出てこなかったからですよ」
「結局主とはなんだったのだ、下僕」
「わしだ」
突然の声に、僕たちは身構えて振り返る。
いつの間にか、来た道に誰かがいた。
「ここは我が体内。わしは洞窟のナーガ、ヴァラ」
上半身は人間、下半身は蛇だけど岩壁に同化してる幻象種が名乗る。
「もしかして、この洞窟自体がナーガっていう幻象種なの?」
「なるほど厄介だが、倒せぬほどでもないな」
「言うのう。聞いていたぞ。そなたらユニコーンとグリフォンなのだろう?」
どうやら僕たちの正体をわかってて姿を現したようだ。
「例えそなたらでも我が岩の皮膚を貫くことはでき」
「「ふん」」
「あぎゃー!?」
僕は手近な岩を角で攻撃した。
グラフも無造作に爪で削る。
「あ、硬い! 角を削るのにちょうどいい硬さだ!」
「えぇい! なんたる狂気のユニコーンか!?」
「仔馬、今後俺にドラゴンを襲うなと言うまいな?」
「そ、それは別だよ」
けど気持ちはわかった。綺麗に削れると気分がいい。
でも敵でもない相手の嫌がることはやめよう。
「フォーレンさんこのナーガは苦しめると猛毒を吐くんです!」
ユウェルの忠告にヴァラを見ると、叫んだ口からなんか出てる。
洞窟という閉鎖空間で攻撃すると猛毒を吐くとか確かに厄介だね。
僕じゃなければ。
「えーと、水ー」
魔法でヴァラに水かけると、僕は水たまりに角を刺す。
「うん、解毒できたみたい。毒が水に溶けてくれて良かった」
「な、なな…………!?」
「本当に我が友は、役に立つ。これからも自分の食材調達に協力しないか?」
硬く手を握り締めてくるコーニッシュ。
もちろん丁重にお断りさせてもらった。
「碌な説明もなく連れてくるんだもん。今回は対処できるけど次はわからないでしょ」
「君ならできると思ったからこそだ、我が友よ」
「わしを舐めるなー!」
無視されたヴァラは、体をくねらせごろごろと洞窟を動かす。
「埋める気かな」
「それはちょっと困るね」
「どうしましょー!?」
「よし、一撃で殺してやろう」
グライフが乱暴なことを言う。
だけど今はそれがいいかな。
「ま、待てー! 違う! 早とちりめ! それは最後の手段だ! まだ次の手があるのにいきなり息の根を止めに来るな!」
ヴァラは大慌てで両手を前に突き出して止めた。
「いいか、ちょっと待て! 埋めはせんから! よし、そのまま、そのまま。よーし、これを見ろ!」
待ってあげると入り口の岩から何かを取り出した。
「あ、エルフだ。僕たちと一緒に来た人だよね?」
「なんだ洞窟に入ったのか。グリフォンどもはどうした?」
「外で大人しくしていればいいのに、生き急ぐものだね」
「目付け役が人質になるなんてどうなんでしょう?」
「違ーう!」
僕たちの非難に、エルフはヴァラに拘束されたまま全力で否定した。
「誰が入るかこんな危ない所! 入り口にいたら飲み込まれたのだ!」
「結局人質になって足引っ張ってるのは変わらないよね?」
「黙れ! さっさと助けろ!」
人質が居丈高だ。
ヴァラも呆れてるみたいだけど止めない。
「何を考えている仔馬?」
「僕たち以外見ていないし、ヴァラを倒した時に巻き添えにして黙らせれば助ける必要もないよねって」
「ぎゃー! 人でなしー!」
「なんたる冷血!?」
エルフとヴァラに責められた。
僕ユニコーンだから人じゃないし、血が冷たくなるの蛇のそっちでしょ。
「思っただけでしないよ」
「び、びっくりしました」
「自分は収穫を終えたから早く帰りたいな」
コーニッシュは自由だなぁ。
と思ったら顔が渋い。
違うなこれ。唯一の趣味の料理を邪魔されてイラついてるみたいだ。
「ヴァラ、どうしたらそこ通してくれる?」
僕が聞いたらようやくほっと息を吐く。
どうやら最初から殺す気はないみたいだった。
そう言えば気づいてない僕たちに向こうから声かけて来たし、名乗ったし。ちょっと僕たちのほうが短絡的過ぎたな。
「わしは有閑を持て余しておる」
「暇を感じることも失くしてやれるぞ。息の根を止めて」
「グライフちょっと黙って」
グライフを止めると、ヴァラは僕を話し相手に認定ようだ。
「ごめんね、続けて。それで?」
「うむ、わしを満足させよ」
「あ?」
時間がかかりそうな雰囲気に、コーニッシュが怒りの籠った声を漏らす。
「何か条件だしてよ。あんまり抽象的だとコーニッシュが力尽くで出ちゃうよ」
「に、賑やかにせよ! 歌い踊れ! わしを楽しませよ!」
身の危険を感じたヴァラは、自棄のようにそう叫んだ。
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